冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ

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サプライズ(斗希視点)

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 この時期、桜を見るのも当たり前になってきた今日この頃、俺はようやく高校を卒業した。つってもまだ式が終わったとこで、教室やグラウンドじゃ卒業生が写真撮ったり話に花を咲かせたりしてる。

「か、風峯先輩⋯っ」
「あ?」
「あの、だ、第2ボタン下さい⋯!」
「無理」
「⋯⋯!!」

 昇降口でダチを待ってるだけなのに、間が開けば下級生がこうして声をかけてくる。ボタンくらいって思わねぇでもねぇけど、1人にやると他の奴にもやんなきゃいけねぇしめんどいのと鬱陶しいのとでハナから断ってた。
 そもそも第2ボタンは陽依が欲しがってるし。

「最後の最後までモテモテだな、斗希」
「恋人いるって結構広まったと思ってたんだけど、下の子らまでは浸透してなかったか」
「⋯おせぇよ」
「ごめんって」

 第2ボタンくれくれうっせぇからもう取っとくかって力任せに引っ張ってたら、ようやくダチが降りて来てそう苦笑を漏らす。そのタイミングで糸が千切れ、俺はそれをポケットにしまいつつそいつらを睨んだ。
 どんだけ話し込んだらこんだけ待たせられんだよ。

「おばさんは?」
「仕事あるしさっさと帰らせた」
「写真撮った?」
「撮った」
「俺も写真撮って帰って貰おー」

 この時期が忙しいのは知ってっし、卒業式も無理に来る必要はなかったんだが、おふくろは俺の門出だからっつって仕事を後回しにして式の最初から写真を撮るまでいた。
 最後までいるって渋ってたけど。
 こういうのはどうしても照れくせぇし、あんま親といるところも見られたくねぇんだよな。嫌いじゃねぇし仲も悪くねぇけど、俺の母親だっつって変な注目浴びそうで何となく嫌だし鬱陶しい。
 現に写真撮ってる時チラチラ見られてたし。

「陽依さんも仕事だっけ?」
「平日だからな」
「でももうすぐ引っ越しだろ? 大丈夫なん?」

 昇降口を出て門へと向かいながら聞かれ俺は肩を竦める。
 正直、自分で選んだ道とはいえ陽依と離れんのはわりとくるもんがあった。
 俺が陽依に対しての我慢を取っ払ってからはずっと一緒にいたし、ほとんど同棲してたようなもんだったしな。俺の当たり前になってた事があと少しでなくなんのはぶっちゃけ辛い。
 陽依は寂しいって口にはしねぇけど、あからさまにひっついてくるようになったしセックスに対しても積極的で、ここ数日は俺が誘う前に陽依に誘われてた。
 どうしたらあいつを安心させてやれんのか、ずっと考えてっけど何も思い浮かばねぇ。
 泣かせんのだけは嫌だな。

「あれ? あそこにいるの、陽依さんじゃね?」

 引っ越しまでの間にちゃんと話さねぇとって思ってたら、1人がそう声を上げ門の方を指差した。
 まさかと見れば本当にスーツを着た陽依がいて、俺と目が合うなり笑顔で駆け寄ってくる。

「良かった、すれ違わなかった」
「お前、仕事は?」
「お休み貰った。今日は斗希くんの卒業式だし、どうしても伝えたい事があったから」
「伝えたい事?」

 陽依はめったに有給は取らない。融通の効く会社ではあるらしいけど、大事な時に取れなかったら意味がねぇからって遊んだ次の日でも仕事に行く。
 そんな陽依が休みを取ってまでここに来るって⋯よっぽどの事か?

「うん。でも、まずは卒業おめでとう」
「サンキュ」
「斗希くんの学ラン姿がもう見れないの、残念だな」
「着て欲しいなら着てやるよ」
「ほんと? 嬉しい」
「⋯⋯ああ、そうだ。これ」

 周りがザワついてる気がすっけど、構わずポケットに入れていた第2ボタンを陽依に差し出せばより騒ぎが大きくなった。
「嘘」とか「信じらんない」とか「あれ誰」とか聞こえる。
 陽依は両手で受け取るとそれを握り込み、嬉しそうにはにかんだ。

「ありがとう。宝物にするね」
「お前、俺がやるもん全部そう言うよな」
「だって本当にそうだから。僕にとって大事なものは、斗希くんがくれるもの全部なんだよ」

 そんな大したもんはやれてねぇのに、誕生日もクリスマスも記念日も、俺が選んだものならなんでも嬉しいって言う。そこら辺の石ころやってもそう言いそうだな。
 柔らかく微笑む頬に触れると、すぐに擦り寄せてくるのが堪んねぇ。

「斗希くんと出会わなければ、こんなに幸せを感じる事もなかった」
「大袈裟だろ」
「ううん。付き合って3年、毎日が幸せだったよ。斗希くんはいつだって僕を思い遣ってくれたし、いつも優しい言葉をくれた。もうすぐ離れ離れになるけど、斗希くんがたくさん気持ちをくれたから何の心配もしてないよ」
「⋯⋯⋯」
「だから、斗希くんにそれが少しでも伝わればいいなって、同じように感じてくれたらいいなって気持ちで⋯⋯〝ある物〟を用意しました」
「ある物?」

 最初の1年なんて冷たくした記憶しかねぇんだがな。
 でも陽依は本気でそう思ってるみてぇに笑うから、俺は何も言えなくなる。
 優しいっつーのは、お前みてぇな奴を言うんだよ。
 握り込んでた第2ボタンをハンカチで包みポケットにしまった陽依は、反対のポケットから手の平サイズの真四角の箱を取り出すと大きく深呼吸をした。
 それからその箱を俺に見せるみてぇに持ち上げ、蓋を開ける。

「この先も一緒って、斗希くんは証としてネックレスをくれた。でも僕の大事なものは斗希くんから貰ったものばかりだから、代わり⋯にはならないかもだけど、僕の全部をあげる」
「お前⋯」
「風峯斗希くん、僕と結婚して下さい」

 箱の中には何の飾り気もないシルバーの指輪が入ってて、いつの間にサイズを測ったのかとかこんなんいつから考えてたのかとか、驚いてるせいで今思う事じゃねぇだろってもんばっか頭に浮かぶ。
 つかマジか⋯俺がプロポーズされる側なのか。

「⋯⋯はぁ⋯⋯」
「え、あれ? そ、その反応は予想してなかった⋯」

 言葉が出なくて溜め息を零した俺に陽依はあからさまに肩を落とす。でもこれは陽依のせいじゃない、自分の甲斐性のなさから出たもんだ。
 俺はふっと笑うと、落ち込む陽依を抱き締め珍しくセットされた髪へと口付けた。

「俺のセリフだったのに」
「え?」
「先越された」

 大学行ったらバイトして金貯めて、俺からプロポーズしようと思ってたのにな。
 普段はおっとりしてんのに、こういう行動力があんのは素直にすげぇと思う。しかもこんな大勢の前で。
 でも相変わらず抜けてんだよな。お前は俺に全部くれるっつったけど、ハナから俺のもんなのにまだ自覚してねぇとか。髪の毛1本でさえ誰にも渡すつもりはねぇのに。
 そんだけの重い感情が自分に向けられてるなんて気付きもしねぇんだろうけど。
 にしても、まさか陽依にした卒業式のサプライズがこんな風に返ってくるなんてな。
 おふくろが聞いたら、年甲斐もなくはしゃいで喜びそうだ。
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