冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ

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【最終話】いつまでも

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 大好きな人が隣にいなくても、無性に寂しくて涙を流しす日があっても、時間は誰にも等しく当たり前のように過ぎていく。
 あの頃あんな事があったね、こんな事したねって思い出話を語らえるくらい、僕と斗希くんは一緒にいた。離れていた期間は長かったけど、節目には会ったし短い時間でもたくさん触れ合ったから、不安になるほどの寂しさは感じなかったな。
 それでもお互いに忙しい時期が重なって、擦れ違って電話に出られない日もあった。会う約束を別日にってする事もあった。その時ばかりは、上手く出来ない自分に腹が立ったり落ち込んだりもしたなぁ。
 そういえば、どうしても人恋しくなって、斗希くんの服が欲しいって我儘言った事もあったっけ。斗希くんはすぐに送ってくれたけど、自分が使ってる香水のミニボトルまでくれるとは思わなかった。
 あれがどれだけ嬉しかったか、斗希くんは知る由もないだろうな。
 離れていても深い愛情と優しさで包んでくれる斗希くんを想う気持ちは、どれだけ経っても少しも変わらなかった。
 斗希くんを好きになった日よりももっともっと好きになってる。
 斗希くんも、同じ気持ちだといいな。




 ――5年後。

「病める時も健やかなる時も、互いを慈しみ、愛し、共にある事を誓いますか?」
「誓います」
「はい、誓います」

 青く晴れ渡った空から柔らかな日差しが降り注ぐ中、僕と斗希くんは結婚式を挙げた。
 プロポーズはしたものの式までは考えてなかったんだけど、僕の両親と冬香さん、夏生くんと宮下くん、斗希くんの友達が望んでくれて挙げる事にしたんだ。
 結婚指輪は斗希くんが用意してくれて、挙式だけで披露宴はなし。ウェディングフォトと最後にみんなで写真を撮って式は終わりなんだけど、そのあとは冬香さんがお祝いにって予約してくれた料亭でご飯を食べる事になってた。
 2人で揃いの白いタキシードに身を包み、誓いの言葉を交わし口付ける。
 みんなに見られてるからちょっと恥ずかしかったけど、父さんと母さんが泣いて喜んでくれたから挙げる事を選んで良かったって思った。一生の思い出にもなったし。
 本当に、人生で1番素敵な日だった。

「疲れたか?」

 みんなとの食事を終え、帰宅して先にお風呂に入りぼーっとしてた僕に、今しがた上がってきた斗希くんがそう声をかけてきた。
 ソファの後ろから覗き込まれ、視線を上げて首を振る。

「余韻に浸ってただけだから大丈夫」
「濃い1日だったからな」

 僕の頭をポンポンと撫でて斗希くんは隣に座り、肩へと腕を回して抱き寄せてくれる。
 お風呂上がりの体温がちょうど良くて気を抜けば目を閉じそうになるけど、今日が終わってしまうのがもったいなくて僕は斗希くんに抱き着いた。

「にしても、自分が結婚式を挙げる日が来るとは思わなかったな」
「そうだね。みんなが言ってくれなかったら、挙げなかったかもしれないもんね」
「お前といれりゃ、それで良かったからな」

 肩を抱く手に力が込められ額に薄い唇が触れる。
 斗希くんの言う通り、2人でいられるなら何も特別な事をしなくてもいいって思ってた。いつも通りがあって、一緒に笑い合えて、当たり前のように手を繋げる日常があればいいって。
 でも、ああしてみんなにお祝いして貰えたのは本当に嬉しくて、もっと早く結婚式の事を考えれば良かったって思ったくらいだ。

「⋯⋯陽依」
「うん?」
「⋯⋯⋯」
「斗希くん?」

 呼ばれて返事をしたものの斗希くんは口を閉じてしまい、特に用事はなかったのかなって首を傾げたんだけど、顎に指が触れて上向かされるとおもむろに唇が塞がれた。
 驚きつつも目を閉じて受け入れたら、数回啄まれたあとゆっくりと離れる。
 頬が撫でられまたキスされるかもって待ってたんだけど、触れたのは唇じゃなく目元を覆う手だった。

「斗希く⋯⋯」
「ちょっと黙ってろ」
「⋯⋯⋯」

 どうして目を隠すのか、何がしたいのか分からなくて困惑する僕を制し息を吐いた斗希くんは、耳元へと唇を寄せ少しだけ掠れた声で囁いた。
 その言葉は僕でさえ恥ずかしくて今だに素直に言えないのに、〝好き〟さえも口にする事が苦手な斗希くんが言ってくれるなんて⋯。しかも、結婚式の余韻がまだ残ってる状態で。
 僕は目頭が熱くなるのを感じて斗希くんの手を下ろすと、腕を伸ばして彼の首へと抱き着いた。

「⋯僕も、愛してる⋯」

 誰よりも、何よりもかけがえのない人。
 斗希くんがいなかったら、僕はこんなにも幸せにはなれなかった。
 相当頑張って言ってくれたんだろうなって嬉しくなった僕は、唇を軽く触れ合わせ斗希くんの頬を撫でる。

「⋯斗希くん、疲れてる?」
「いや⋯何で?」
「あの⋯⋯えっと⋯」
「?」

 今日は結婚式で、斗希くんの為に何かしたいって思った僕は普段ならして貰ってばかりの事を自分でしようとお風呂でやってみた。慣れてなさ過ぎてなかなか苦戦したものの、自分なりにまあまあ出来たとは思う。
 ただ、している時は必死だったから頭にもなかったけど、いざそれを伝えるとなると物凄く恥ずかしいんだって今気付いた。
 口を開いては閉じてを繰り返してたら、斗希くんが宥めるように背中を撫でてくれる。

「無理すんな」
「無理って言うか⋯その⋯⋯ひ、引かない?」
「お前に引く事なんざねぇよ」
「そ、そっか⋯じゃあ、言います」
「何で敬語」

 そう言い切ってくれるならと覚悟を決めた僕は、斗希くんの服を指先で弄りながら思い切って口を開いた。

「⋯う、後ろ⋯⋯準備してあるって言ったら⋯⋯どうする⋯?」
「⋯⋯⋯⋯は?」
「い、いつも斗希くんがしてくれるから⋯たまには、自分でしようかなって⋯今日はほら、結婚式だったし⋯⋯⋯うぅ⋯や、やっぱり何でもな⋯っ」

 零してくうちに恥ずかしさが増して、なかった事にしようと慌てて離れようとしたら不意に斗希くんに抱き上げられた。
 目を瞬きながら斗希くんを見ると、唐突に深いキスをされ身体が震える。

「んんっ」
「⋯お前、今日は覚悟しとけよ」
「ぇ⋯」
「朝まで寝かせねぇから」

 熱のこもった目に間近で見つめられドキッとする。
 朝までって⋯明日は僕、確実にベッドから起き上がれないんだろうな。でもきっと斗希くんがお世話してくれると思うし、今日は斗希くんが満足するまで身を委ねよう。
 言葉が少なくてぶっきらぼうだけど、僕だけに優しくて甘やかしてくれる斗希くんの首に腕を回し薄い唇へと口付けた。


 何も気付かなくて、気付こうともしなくて、お互いにたくさん悩んで擦れ違ったあの日が遙か遠くに感じる。
 傷付いて、苦しんで、涙を流した日もあったけど、今はそれもいい思い出だ。
 これからは幸せしか待っていないから、安心して歩いて行ける。
 大好きな斗希くんと一緒に、いつまでも手を繋いで。





FIN.


✧• ───────────────────── •✧

『冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました』、本編完結でございます!
楽しんで頂けましたでしょうか?
少しでも気に入ったお話があれば嬉しいです☺️

斗希は本当に〝可愛い〟も〝好き〟もほとんど口にしませんでしたが、内心ではめちゃくちゃ思ってて自分が自覚してる以上に惚れ込んでます(笑)
愛妻家ならぬ愛夫家ですね😁
陽依は言わずもがな、斗希一番ですが😆

番外編はいくつか公開予定ですので、最後までお付き合い頂けたら幸いです✨
本編よりも糖度マシマシに出来るよう頑張ります💪
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感想 16

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