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番外編
唯一無二(斗希視点)※
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大学生活は思ったよりも順調で、楽しいまではいかなくともそれなりに充実はしてた。
ただ1つの不満を除いては。
「陽依に会いてぇな⋯」
こっちに来ておよそ2ヶ月、顔さえ見れてねぇからそろそろ限界かもしんねぇ。
メッセージや電話は出来るだけ毎日してっけど、当然そんなんで足りる訳がねぇし。テレビ電話はよけい会いたくなるからしねぇっつってるけど、いい加減顔も見てぇし触りたい。もっと言うなら抱きたい。
一緒にいる時は、少しでもムラついたら手ぇ出してたからな。
「まーた言ってるよ」
「風峯はほんと、恋人好きだよな」
スマホを開き陽依の隠し撮りを眺めてたら、大学に入ってから仲良くなった2人が呆れたように言いながら両隣に座ってきた。
初対面でいきなり「合コン興味ある?」とか聞いてきたこいつらは、即否定した俺に恋人がいると分かるや否やシフトチェンジして陽依の事を聞いてくるようになった。
名前はポロッたからまぁ別として、それ以外は一切無視してるけど。
覗き込まれそうになった画面を閉じて伏せ、頬杖をつく俺に2人は肩を竦めた。
「こんなイケメンをここまで惚れさせるとか、どんだけ美人なんだか」
「ぜってーおっぱいデカい」
どんな偏見だよ。
胸どころか同じもんついてるけど、こいつらの心の内はまだ分かんねぇし言う必要はねぇだろ。別に引かれようが気にはしねぇが、陽依が知ったら落ち込むからな。
講義が始まるまであと5分。スマホをポケットに入れようとしたらブルっと震えて何かを受信した。見ると陽依からのメッセージで、内容を読んだ俺は片眉を跳ね上げる。
『斗希くん、今大学? 最寄り駅にいるんだけど、何時頃に会えるかな』
陽依が大学の最寄り駅にいる? 何で? 仕事は?
いや、それよりも重要なのは、陽依が今1人でいるって事だ。知り合いもいない不慣れな場所で俺が大学終わんの待つって、危な過ぎるだろ。
俺はスマホを握りカバンを手に立ち上がると、目を瞬く2人に代返を頼み講義室を飛び出した。
「なんで急に?」
「さぁ⋯?」
日々の行動の中で急ぐ、走るって俺は基本的にしねぇんだけど、陽依が関わるとなるとまた別だったりする。陽依に別れを思わせるようなメッセージを送られた時も、今も、汗垂らして息を荒くすんのも相手が陽依だからだ。
駅前で足を止め、息を整えながら額に浮いた汗を拭い陽依の姿を探す。
そんなに人は多くねぇから改札前の柱に寄りかかりスマホを見下ろしている陽依をすぐに見つけられたけど、その横顔が寂しそうで胸が痛んだ。
やっぱ電話ん時は強がってたんだな。
「陽依」
「⋯! 斗希くん!」
近付いて声をかけると弾かれたように顔を上げ、泣きそうな表情で飛び付いてきた。
何か、怖ぇ夢見て起きた時と似てんな。
「わざわざこっちまで来て、どうした?」
「⋯会いたかったから」
「次の休みじゃ駄目だったのか?」
「⋯⋯ん⋯」
声に元気がねぇし、服を掴む手の力も強ぇし、向こうで何かあったのか? 職場は高校ん時から働いてるところだし、人間関係は良好だっつってたからそういうんじゃなさそうだけど。
もしかして、盛大なミスでもやらかしたとか。
顎に手をかけ上向かせた俺は、陽依の目の下にクマが出来てるのに気付いた。
「寝れてねぇの?」
「夢見が悪くて⋯⋯」
あー、そっち系か。一緒に住んでる時は隣にいたからすぐ抱き締めてやれたもんな。
目尻を撫で、額に口付けるともっとってねだるみてぇに擦り寄ってくる。
マズイ、久し振り過ぎて陽依の匂いだけでムラムラしてきた。
「斗希くん⋯」
「うち行くか?」
「うん」
切ない声に陽依も同じなんだと気付きそう聞けば、陽依は頷いて肩へと頭を寄りかからせてきた。軽く背中を叩いて促し、電車に乗るべく改札へと向かう。
今日帰してやれねぇかもな。
1人暮らしに選んだ部屋は、8階建ての5階角部屋ロフト付き1DK。当然ロフト部分を寝室にしてんだけど、こういう時は失敗したって思ったな。まだ梯子じゃなく階段状になってんのが救いか。
玄関に入るなり抱き上げて口を塞ぎ、舌を絡ませ合うキスをしながら部屋へと連れていった俺は、階段を上がり陽依をベッドへと組み敷いた。
唇を触れ合わせつつ服を脱がせ、身体中に舌を這わせ、久し振りだからと念入りに解してたら陽依が涙声で俺の頭を押さえてきた。
「や、ぁ⋯も、それや⋯っ」
「もうちょい我慢しろ」
「あぅ⋯っ」
口で陽依の中心を刺激し、指で後ろを拡げイタズラに前立腺を押すと陽依の身体が面白いくらい跳ねる。
後ろがヒクつき始めたから、もうイきそうなんだろうな。
「ひ、ぁ⋯あ⋯⋯や、だ⋯は、離して⋯っ」
「いいから、このまま出せ」
「あ、ぁ⋯も、だめ⋯っ⋯ゃ、ん、んん⋯――⋯!」
咥え込んだ陽依のが脈打ち、ねっとりとしたものが放出される。青臭くて決して美味いもんじゃねぇけど、これだって陽依のだから出来る事だ。
軽く吸って口を離し、親指で唇を拭ったら陽依が手を伸ばしてきた。
「⋯斗希、くん⋯」
「ん?」
「早く⋯⋯斗希くんの、欲しい⋯」
「⋯はいはい」
付き合いも3年を超えると陽依も多少は大胆になり、こうやってねだる事も増えてきてた。焦らしてる訳じゃねぇんだけど、後ろを触るとわりとすぐ欲しがるようになって、痛くしたくない俺は毎回宥めるのに苦労してる。
そりゃ俺だって早く陽依ん中入りてぇけど、切れたり裂けたりしたらどうすんだか。
俺はズボンの前を寛げて張り詰めた自身を引っ張り出し、ゴムを着けて入口へと宛てがう。ゆっくりと押し込めていけば陽依が背をしならせた。
「んん⋯っ」
「っは、キツ⋯」
「ぁ⋯ぅ、ん⋯っ⋯⋯斗希く⋯」
軽く揺すると、それだけで甘えた声を上げる姿に喉が鳴る。
俺の服を掴む手を取って指を絡めて握り、緩めに腰を打ち付けながら涙の滲んだ目に口付ければ、陽依は空いている方の腕を俺の首に回してきた。
「斗希くん⋯⋯斗希くん⋯」
「ん」
「⋯好き⋯大好き⋯」
俺と違って素直な陽依はこうして気持ちを真っ直ぐ口にする。それに俺はいつも頷くだけでめったに言わないのに、陽依は求めないし同じ気持ちだって信じてくれてた。
それは、こうして離れてても変わんねぇ。
熱に浮かされたように何度も「好き」だと言ってくれる陽依に微笑み、俺は触れるだけのキスをする。
「⋯俺も好きだよ」
お前だけが俺をどうにだって出来る。お前になら、この命だって差し出せる。
お前は俺のただ1人で、俺にとってのすべてなんだから。
「で、何があった?」
コトが終わったあと、陽依の身体を綺麗にしてからベッドで休んでる時、気になってた事を聞いたら陽依はウトウトしながら小さく唸った。
「⋯悪夢をね、見るの」
「悪夢?」
「うん。斗希くんが僕じゃない他の人を好きになったり、僕に何も言わずにどこかに行っちゃったり、急に僕に冷たくなったり⋯⋯別れを示唆するような夢を良く見るんだ。そのせいで途中で目が覚めて、そのあと寝るの怖くて起きてたりしてたから最近寝不足になってる⋯」
夢は深層心理の現れとか聞くけど、陽依本人も気付いてねぇ不安がどっかにあったのかもな。そんな事絶対起こんねぇって分かってっけど、夢に見たのと、寝不足も重なって自分でも訳分かんなくなったんだろう。
情緒の不安定さも若干ありそうだし。
今にも寝そうな陽依を抱き寄せ髪を撫でれば、その手を握り自分の頬へと押し当てる。
「だから、どうしても斗希くんに会いたかった⋯⋯顔が見たかったんだ⋯」
「夢はどうにも出来ねぇけど、俺はお前を離す気はねぇよ。っつか、お前じゃねぇと一緒にいる意味ねぇからな」
「⋯うん」
「プロポーズも受けたろ? もうちょい自信持て」
「⋯⋯うん。ありがとう、斗希くん」
陰っていた表情にようやく安堵の色が見え、微笑んだ陽依に俺もホッとする。
瞬きが増えてきたからもう寝かせてやろうと目蓋に口付け、親指で目尻を撫でてやれば少しして寝息を立て始めた。寝顔はまだまだあどけなさが抜けねぇんだよな。
すやすやと眠る陽依を眺めてるうちに俺にも眠気が押し寄せ、気付いたら寝落ちてた。
起きた時には外は真っ暗で、帰んねぇでいいのか聞いたら寝不足で立ち眩みを起こしたから強制的に休みにされたそうだ。
それを先に言えって怒ったけど、陽依は言わねぇよな。
次の日、午前中だけ大学へ行き、デートがしたいという陽依が大学まで迎えに来たんだが⋯あの2人もちょうど帰るところで鉢合わせになった。
「風峯、帰んの?」
「暇なら遊ばん? ⋯⋯あれ? その子⋯」
しかも陽依が抱き着いてきたタイミングで見られて、何となく気まずい雰囲気が流れる。陽依は陽依で固まったあと慌てて離れるし。
もういいやと敢えて見せつけるように抱き寄せたら、2人は目を瞬いたあとニヤリと笑った。
「なるほど。だからめちゃくちゃな美人に言い寄られても靡かなかったのか」
「思ってたのと正反対なタイプだな」
「え、でも可愛いじゃん」
じろじろと見られてたじろぐ陽依の顔の前に手を出して2人の視線を遮り、睨み付けるとクスクスと笑われる。
「ごめんごめん」
「俺らはもう退散するって。じゃあな」
「バイバーイ」
「⋯⋯⋯」
「⋯ば、バイバイ」
そう言って2人は手を振り去って行ったけど⋯ずいぶんあっさりしてたな。陽依は細身だけど女には見えねぇから、同性と付き合ってるって分かったはずだけど。
まぁでも、意外と、理解のある奴らだったんだな。
何気なく陽依を見ると俺の方を向いてて、眉を跳ね上げ頭を撫でたらふわりと微笑んだ。
「行こ、斗希くん」
「ん」
明日にはいろいろ聞かれるんだろうけど、今度はちゃんと答えてやってもいいのかもな。
俺にとっての唯一は、今までもこれからも、陽依しかいねぇんだって。
FIN.
ただ1つの不満を除いては。
「陽依に会いてぇな⋯」
こっちに来ておよそ2ヶ月、顔さえ見れてねぇからそろそろ限界かもしんねぇ。
メッセージや電話は出来るだけ毎日してっけど、当然そんなんで足りる訳がねぇし。テレビ電話はよけい会いたくなるからしねぇっつってるけど、いい加減顔も見てぇし触りたい。もっと言うなら抱きたい。
一緒にいる時は、少しでもムラついたら手ぇ出してたからな。
「まーた言ってるよ」
「風峯はほんと、恋人好きだよな」
スマホを開き陽依の隠し撮りを眺めてたら、大学に入ってから仲良くなった2人が呆れたように言いながら両隣に座ってきた。
初対面でいきなり「合コン興味ある?」とか聞いてきたこいつらは、即否定した俺に恋人がいると分かるや否やシフトチェンジして陽依の事を聞いてくるようになった。
名前はポロッたからまぁ別として、それ以外は一切無視してるけど。
覗き込まれそうになった画面を閉じて伏せ、頬杖をつく俺に2人は肩を竦めた。
「こんなイケメンをここまで惚れさせるとか、どんだけ美人なんだか」
「ぜってーおっぱいデカい」
どんな偏見だよ。
胸どころか同じもんついてるけど、こいつらの心の内はまだ分かんねぇし言う必要はねぇだろ。別に引かれようが気にはしねぇが、陽依が知ったら落ち込むからな。
講義が始まるまであと5分。スマホをポケットに入れようとしたらブルっと震えて何かを受信した。見ると陽依からのメッセージで、内容を読んだ俺は片眉を跳ね上げる。
『斗希くん、今大学? 最寄り駅にいるんだけど、何時頃に会えるかな』
陽依が大学の最寄り駅にいる? 何で? 仕事は?
いや、それよりも重要なのは、陽依が今1人でいるって事だ。知り合いもいない不慣れな場所で俺が大学終わんの待つって、危な過ぎるだろ。
俺はスマホを握りカバンを手に立ち上がると、目を瞬く2人に代返を頼み講義室を飛び出した。
「なんで急に?」
「さぁ⋯?」
日々の行動の中で急ぐ、走るって俺は基本的にしねぇんだけど、陽依が関わるとなるとまた別だったりする。陽依に別れを思わせるようなメッセージを送られた時も、今も、汗垂らして息を荒くすんのも相手が陽依だからだ。
駅前で足を止め、息を整えながら額に浮いた汗を拭い陽依の姿を探す。
そんなに人は多くねぇから改札前の柱に寄りかかりスマホを見下ろしている陽依をすぐに見つけられたけど、その横顔が寂しそうで胸が痛んだ。
やっぱ電話ん時は強がってたんだな。
「陽依」
「⋯! 斗希くん!」
近付いて声をかけると弾かれたように顔を上げ、泣きそうな表情で飛び付いてきた。
何か、怖ぇ夢見て起きた時と似てんな。
「わざわざこっちまで来て、どうした?」
「⋯会いたかったから」
「次の休みじゃ駄目だったのか?」
「⋯⋯ん⋯」
声に元気がねぇし、服を掴む手の力も強ぇし、向こうで何かあったのか? 職場は高校ん時から働いてるところだし、人間関係は良好だっつってたからそういうんじゃなさそうだけど。
もしかして、盛大なミスでもやらかしたとか。
顎に手をかけ上向かせた俺は、陽依の目の下にクマが出来てるのに気付いた。
「寝れてねぇの?」
「夢見が悪くて⋯⋯」
あー、そっち系か。一緒に住んでる時は隣にいたからすぐ抱き締めてやれたもんな。
目尻を撫で、額に口付けるともっとってねだるみてぇに擦り寄ってくる。
マズイ、久し振り過ぎて陽依の匂いだけでムラムラしてきた。
「斗希くん⋯」
「うち行くか?」
「うん」
切ない声に陽依も同じなんだと気付きそう聞けば、陽依は頷いて肩へと頭を寄りかからせてきた。軽く背中を叩いて促し、電車に乗るべく改札へと向かう。
今日帰してやれねぇかもな。
1人暮らしに選んだ部屋は、8階建ての5階角部屋ロフト付き1DK。当然ロフト部分を寝室にしてんだけど、こういう時は失敗したって思ったな。まだ梯子じゃなく階段状になってんのが救いか。
玄関に入るなり抱き上げて口を塞ぎ、舌を絡ませ合うキスをしながら部屋へと連れていった俺は、階段を上がり陽依をベッドへと組み敷いた。
唇を触れ合わせつつ服を脱がせ、身体中に舌を這わせ、久し振りだからと念入りに解してたら陽依が涙声で俺の頭を押さえてきた。
「や、ぁ⋯も、それや⋯っ」
「もうちょい我慢しろ」
「あぅ⋯っ」
口で陽依の中心を刺激し、指で後ろを拡げイタズラに前立腺を押すと陽依の身体が面白いくらい跳ねる。
後ろがヒクつき始めたから、もうイきそうなんだろうな。
「ひ、ぁ⋯あ⋯⋯や、だ⋯は、離して⋯っ」
「いいから、このまま出せ」
「あ、ぁ⋯も、だめ⋯っ⋯ゃ、ん、んん⋯――⋯!」
咥え込んだ陽依のが脈打ち、ねっとりとしたものが放出される。青臭くて決して美味いもんじゃねぇけど、これだって陽依のだから出来る事だ。
軽く吸って口を離し、親指で唇を拭ったら陽依が手を伸ばしてきた。
「⋯斗希、くん⋯」
「ん?」
「早く⋯⋯斗希くんの、欲しい⋯」
「⋯はいはい」
付き合いも3年を超えると陽依も多少は大胆になり、こうやってねだる事も増えてきてた。焦らしてる訳じゃねぇんだけど、後ろを触るとわりとすぐ欲しがるようになって、痛くしたくない俺は毎回宥めるのに苦労してる。
そりゃ俺だって早く陽依ん中入りてぇけど、切れたり裂けたりしたらどうすんだか。
俺はズボンの前を寛げて張り詰めた自身を引っ張り出し、ゴムを着けて入口へと宛てがう。ゆっくりと押し込めていけば陽依が背をしならせた。
「んん⋯っ」
「っは、キツ⋯」
「ぁ⋯ぅ、ん⋯っ⋯⋯斗希く⋯」
軽く揺すると、それだけで甘えた声を上げる姿に喉が鳴る。
俺の服を掴む手を取って指を絡めて握り、緩めに腰を打ち付けながら涙の滲んだ目に口付ければ、陽依は空いている方の腕を俺の首に回してきた。
「斗希くん⋯⋯斗希くん⋯」
「ん」
「⋯好き⋯大好き⋯」
俺と違って素直な陽依はこうして気持ちを真っ直ぐ口にする。それに俺はいつも頷くだけでめったに言わないのに、陽依は求めないし同じ気持ちだって信じてくれてた。
それは、こうして離れてても変わんねぇ。
熱に浮かされたように何度も「好き」だと言ってくれる陽依に微笑み、俺は触れるだけのキスをする。
「⋯俺も好きだよ」
お前だけが俺をどうにだって出来る。お前になら、この命だって差し出せる。
お前は俺のただ1人で、俺にとってのすべてなんだから。
「で、何があった?」
コトが終わったあと、陽依の身体を綺麗にしてからベッドで休んでる時、気になってた事を聞いたら陽依はウトウトしながら小さく唸った。
「⋯悪夢をね、見るの」
「悪夢?」
「うん。斗希くんが僕じゃない他の人を好きになったり、僕に何も言わずにどこかに行っちゃったり、急に僕に冷たくなったり⋯⋯別れを示唆するような夢を良く見るんだ。そのせいで途中で目が覚めて、そのあと寝るの怖くて起きてたりしてたから最近寝不足になってる⋯」
夢は深層心理の現れとか聞くけど、陽依本人も気付いてねぇ不安がどっかにあったのかもな。そんな事絶対起こんねぇって分かってっけど、夢に見たのと、寝不足も重なって自分でも訳分かんなくなったんだろう。
情緒の不安定さも若干ありそうだし。
今にも寝そうな陽依を抱き寄せ髪を撫でれば、その手を握り自分の頬へと押し当てる。
「だから、どうしても斗希くんに会いたかった⋯⋯顔が見たかったんだ⋯」
「夢はどうにも出来ねぇけど、俺はお前を離す気はねぇよ。っつか、お前じゃねぇと一緒にいる意味ねぇからな」
「⋯うん」
「プロポーズも受けたろ? もうちょい自信持て」
「⋯⋯うん。ありがとう、斗希くん」
陰っていた表情にようやく安堵の色が見え、微笑んだ陽依に俺もホッとする。
瞬きが増えてきたからもう寝かせてやろうと目蓋に口付け、親指で目尻を撫でてやれば少しして寝息を立て始めた。寝顔はまだまだあどけなさが抜けねぇんだよな。
すやすやと眠る陽依を眺めてるうちに俺にも眠気が押し寄せ、気付いたら寝落ちてた。
起きた時には外は真っ暗で、帰んねぇでいいのか聞いたら寝不足で立ち眩みを起こしたから強制的に休みにされたそうだ。
それを先に言えって怒ったけど、陽依は言わねぇよな。
次の日、午前中だけ大学へ行き、デートがしたいという陽依が大学まで迎えに来たんだが⋯あの2人もちょうど帰るところで鉢合わせになった。
「風峯、帰んの?」
「暇なら遊ばん? ⋯⋯あれ? その子⋯」
しかも陽依が抱き着いてきたタイミングで見られて、何となく気まずい雰囲気が流れる。陽依は陽依で固まったあと慌てて離れるし。
もういいやと敢えて見せつけるように抱き寄せたら、2人は目を瞬いたあとニヤリと笑った。
「なるほど。だからめちゃくちゃな美人に言い寄られても靡かなかったのか」
「思ってたのと正反対なタイプだな」
「え、でも可愛いじゃん」
じろじろと見られてたじろぐ陽依の顔の前に手を出して2人の視線を遮り、睨み付けるとクスクスと笑われる。
「ごめんごめん」
「俺らはもう退散するって。じゃあな」
「バイバーイ」
「⋯⋯⋯」
「⋯ば、バイバイ」
そう言って2人は手を振り去って行ったけど⋯ずいぶんあっさりしてたな。陽依は細身だけど女には見えねぇから、同性と付き合ってるって分かったはずだけど。
まぁでも、意外と、理解のある奴らだったんだな。
何気なく陽依を見ると俺の方を向いてて、眉を跳ね上げ頭を撫でたらふわりと微笑んだ。
「行こ、斗希くん」
「ん」
明日にはいろいろ聞かれるんだろうけど、今度はちゃんと答えてやってもいいのかもな。
俺にとっての唯一は、今までもこれからも、陽依しかいねぇんだって。
FIN.
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