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潮時
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僕と彼の出会いは、僕が高校2年生の時、彼が中学3年生の時だ。
15歳にして180超えの身長と人目を引く整った容姿。クールで、狼の群れの長のような鋭さを持つ彼にあるところを助けて貰った事がきっかけ。
あまりにもカッコ良くて一目惚れしてしまった僕は、それから彼を見付けては声をかけ自分を知って貰えるようたくさん話した。名前とか年齢とか趣味とか特技とか、聞かれてないのにたくさん。
最初は煩わしそうにしてたし、俺の顔を見るなり回れ右をされたりとマイナスの印象しか持たれなかったけど、僕が体調を崩して一週間ほど家から出られなくて久しぶりに会った時、彼の方から話し掛けてくれた。
『あんたの声が聞こえねぇと落ち着かねぇんだけど。どうしてくれんの?』
って。
眉根を寄せて傍から見たら怖い顔をしている彼自身が困惑してる事は分かったから、僕は思い切って「責任取るから付き合って」って返したんだ。
何言ってんだって目で見られたけどじっと待ってたら、彼は小さく息を吐き頷いてくれた。
こうして僕―小鳥遊 陽依と、彼―風峯 斗希くんは晴れて恋人になり、1年経った今でもお付き合いをしている。
高校3年に進学した春。
中学生だった斗希くんは高校生になり、僕が通う高校の最寄り駅より1つ手前にある公立高校に入学した。
少しでも一緒にいたかったから斗希くんが乗る時間に合わせたり、会話がなくてもいいから隣にいたりしたんだけど、そのうち斗希くんの周りには友達が増えて僕は遠目に眺めるしか出来なくなった。
梅雨に入る頃にはメンバーも固定になり、その中には1人女の子もいる。
斗希くんが学校でどんな風に過ごしてるのかは分からないけど、その子が腕に抱き着いたりするのも気にしていないから当たり前の光景なのかもしれない。
僕はそれを見るたびに胸がチクチクしてるのに。
でも、斗希くんは僕を〝執拗くて鬱陶しいから仕方なく付き合ってやった奴〟って思ってるだろうから僕に何かを言う権利はない。僕と恋人でいてくれるだけで充分なんだから、斗希くんのする事に口を出しちゃいけないんだ。
「斗希、これ見ろよ」
「あ?」
「昨日、さやかが隣のクラスの鳥羽と歩いてた」
「ふーん」
「ちょ、何でそんなの撮ってるのよ! 斗希、違うからね?」
「何がだよ」
賑やかな声がホームに響いてる。
僕が立っているところから少し離れた場所、同じ車両の後ろにあたるところに斗希くんと友達がいてわいわいしてた。
1人がスマホを斗希くんに見せて、女の子―さやかさん? が慌てたように斗希くんの腕を掴む。
友達同士の何気ないやり取りだけど、僕と明確な線引きがされてるみたいで寂しい。
少しだけでも顔が見たいと思いチラリと斗希くんへと視線を向けたらパチッと目が合い、びっくりしつつも周りにバレないように手を振ってみる。でもすぐに逸らされて、ダメだったかと落ち込むのもいつもの事。
肩を落として電車を待ってると不意にポケットに入れていたスマホが震えた。
取り出して確認すると斗希くんからのメッセージで、僕は急いで通知を開く。
『今日の予定、キャンセルで』
「あ⋯⋯」
今日は放課後デートしようって約束してたからその話かな、なんて思いながら文字を読み固まる。
またキャンセルされてしまった。リスケじゃないから、今度はいつ2人で会えるのかも分からない。
1ヶ月ぶりに出来た約束だったのに。
だけど、ここで我儘を言って別れを告げられるのは嫌だから、僕はぐっと唇を噛んで『分かった』とだけ返事を送った。
言い方はキツい時もあるけど優しい斗希くんは、背が高くてスタイルも良くてカッコいいから非常にモテる。クールで媚びを売らないところも女の子には堪らないらしく、他校の子から告白されてるのも何度か見た。
なかなか会えない斗希くんだけど、浮気はしないって断言してくれたからそこは安心してる。あの子だって、振り解かないとはいえ下心なんてないんだから。
ただ分かってはいてもモヤモヤはしちゃうんだよなぁ。
『2番線に〇〇行きの電車が参ります。危険ですので―――』
アナウンスが鳴り、軽快な音楽と共に電車が入ってきてゆっくりと停まる。扉が開いて乗り込んだ僕は反対側の扉の前まで行って背中を向けた。
前に持ち替えたリュックをぎゅっと抱き締め目を伏せる。
(⋯⋯1ヶ月か⋯)
最後にデートしたのは、梅雨入りする前の晴れた日だった。
少しだけじめっとして蒸し暑かったけど、僕は楽しくて斗希くんにたくさん話しかけた。
手は繋げなかったし、あんまり反応はなかったものの僕の行きたいところについてきてくれたりもして。その時も二週間ぶりとかだったから嬉しかったのに。
(僕はずっと大好きなんだけどな⋯)
当たり前だけど、斗希くんから好きって言われた事はない。
いつか好きになって貰えるかもって淡い希望を抱いてるけど、1年経っても変わってないからもう無理なんじゃないかって思い始めてる。
そもそも男同士だから、僕が良くても斗希くんはって感じなのかもしれないし。
(潮時なのかなぁ⋯)
本当はまだまだ恋人でいたいけど、斗希くんに僕への気持ちがないなら無理をさせる訳にはいかない。1年も僕に縛り付けて、逆に申し訳ない事しちゃった。
今度、話せる時に話してみようかな。
この先の、僕たちの事を。
15歳にして180超えの身長と人目を引く整った容姿。クールで、狼の群れの長のような鋭さを持つ彼にあるところを助けて貰った事がきっかけ。
あまりにもカッコ良くて一目惚れしてしまった僕は、それから彼を見付けては声をかけ自分を知って貰えるようたくさん話した。名前とか年齢とか趣味とか特技とか、聞かれてないのにたくさん。
最初は煩わしそうにしてたし、俺の顔を見るなり回れ右をされたりとマイナスの印象しか持たれなかったけど、僕が体調を崩して一週間ほど家から出られなくて久しぶりに会った時、彼の方から話し掛けてくれた。
『あんたの声が聞こえねぇと落ち着かねぇんだけど。どうしてくれんの?』
って。
眉根を寄せて傍から見たら怖い顔をしている彼自身が困惑してる事は分かったから、僕は思い切って「責任取るから付き合って」って返したんだ。
何言ってんだって目で見られたけどじっと待ってたら、彼は小さく息を吐き頷いてくれた。
こうして僕―小鳥遊 陽依と、彼―風峯 斗希くんは晴れて恋人になり、1年経った今でもお付き合いをしている。
高校3年に進学した春。
中学生だった斗希くんは高校生になり、僕が通う高校の最寄り駅より1つ手前にある公立高校に入学した。
少しでも一緒にいたかったから斗希くんが乗る時間に合わせたり、会話がなくてもいいから隣にいたりしたんだけど、そのうち斗希くんの周りには友達が増えて僕は遠目に眺めるしか出来なくなった。
梅雨に入る頃にはメンバーも固定になり、その中には1人女の子もいる。
斗希くんが学校でどんな風に過ごしてるのかは分からないけど、その子が腕に抱き着いたりするのも気にしていないから当たり前の光景なのかもしれない。
僕はそれを見るたびに胸がチクチクしてるのに。
でも、斗希くんは僕を〝執拗くて鬱陶しいから仕方なく付き合ってやった奴〟って思ってるだろうから僕に何かを言う権利はない。僕と恋人でいてくれるだけで充分なんだから、斗希くんのする事に口を出しちゃいけないんだ。
「斗希、これ見ろよ」
「あ?」
「昨日、さやかが隣のクラスの鳥羽と歩いてた」
「ふーん」
「ちょ、何でそんなの撮ってるのよ! 斗希、違うからね?」
「何がだよ」
賑やかな声がホームに響いてる。
僕が立っているところから少し離れた場所、同じ車両の後ろにあたるところに斗希くんと友達がいてわいわいしてた。
1人がスマホを斗希くんに見せて、女の子―さやかさん? が慌てたように斗希くんの腕を掴む。
友達同士の何気ないやり取りだけど、僕と明確な線引きがされてるみたいで寂しい。
少しだけでも顔が見たいと思いチラリと斗希くんへと視線を向けたらパチッと目が合い、びっくりしつつも周りにバレないように手を振ってみる。でもすぐに逸らされて、ダメだったかと落ち込むのもいつもの事。
肩を落として電車を待ってると不意にポケットに入れていたスマホが震えた。
取り出して確認すると斗希くんからのメッセージで、僕は急いで通知を開く。
『今日の予定、キャンセルで』
「あ⋯⋯」
今日は放課後デートしようって約束してたからその話かな、なんて思いながら文字を読み固まる。
またキャンセルされてしまった。リスケじゃないから、今度はいつ2人で会えるのかも分からない。
1ヶ月ぶりに出来た約束だったのに。
だけど、ここで我儘を言って別れを告げられるのは嫌だから、僕はぐっと唇を噛んで『分かった』とだけ返事を送った。
言い方はキツい時もあるけど優しい斗希くんは、背が高くてスタイルも良くてカッコいいから非常にモテる。クールで媚びを売らないところも女の子には堪らないらしく、他校の子から告白されてるのも何度か見た。
なかなか会えない斗希くんだけど、浮気はしないって断言してくれたからそこは安心してる。あの子だって、振り解かないとはいえ下心なんてないんだから。
ただ分かってはいてもモヤモヤはしちゃうんだよなぁ。
『2番線に〇〇行きの電車が参ります。危険ですので―――』
アナウンスが鳴り、軽快な音楽と共に電車が入ってきてゆっくりと停まる。扉が開いて乗り込んだ僕は反対側の扉の前まで行って背中を向けた。
前に持ち替えたリュックをぎゅっと抱き締め目を伏せる。
(⋯⋯1ヶ月か⋯)
最後にデートしたのは、梅雨入りする前の晴れた日だった。
少しだけじめっとして蒸し暑かったけど、僕は楽しくて斗希くんにたくさん話しかけた。
手は繋げなかったし、あんまり反応はなかったものの僕の行きたいところについてきてくれたりもして。その時も二週間ぶりとかだったから嬉しかったのに。
(僕はずっと大好きなんだけどな⋯)
当たり前だけど、斗希くんから好きって言われた事はない。
いつか好きになって貰えるかもって淡い希望を抱いてるけど、1年経っても変わってないからもう無理なんじゃないかって思い始めてる。
そもそも男同士だから、僕が良くても斗希くんはって感じなのかもしれないし。
(潮時なのかなぁ⋯)
本当はまだまだ恋人でいたいけど、斗希くんに僕への気持ちがないなら無理をさせる訳にはいかない。1年も僕に縛り付けて、逆に申し訳ない事しちゃった。
今度、話せる時に話してみようかな。
この先の、僕たちの事を。
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