冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ

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曇天と雨音

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 朝、いつもの登校風景。
 階段に近い車両の前後に僕と斗希くんたちがいて、彼らは今日も賑やかに話してる。

「今年の斗希の誕生日どうする?」
「去年みたいに斗希ん家に集まるか」
「さんせー。じゃあオードブルとケーキ、予約しとくね」
「任せた」

 去年はともかく、今年は一緒に過ごせたらいいなって思ってたけど⋯やっぱりそうだよね。うん、予想はしてた。
 それにしても、みんなで集まって誕生日をお祝いするなんて、本当に仲がいいんだなぁ。
 しかも斗希くんの家なんて、羨ましい。

「斗希、欲しいもんある?」
「特にねぇ」
「そういえば、欲しいスニーカーあるって言ってなかった?」
「あー、あのめちゃ高いやつ」
「みんなで出せば買えるんじゃね?」
「いらねぇよ」

 めちゃ高なスニーカーってどんなのだろう。
 値段によってはあらかじめ知ってても用意は出来なかったと思うけど、斗希くんが欲しがってる物くらいは知りたかったな。
 でもファッション系だから、服だってハズレではないはず。

「ってかさー、さやかもたまには作れば?」
「ご馳走なんて無理に決まってるでしょ」
「やめとけ。さやかに包丁持たせると死人が出る」
「そこまでひどくないわよ!」
「黒焦げのチョコ思い出すわ」
「裕兄!」

 電車が入ってくるアナウンスやメロディにも負けないくらい盛り上がってるけど、話の中心人物である斗希くんは特に混ざる事なく気怠げに立ってる。
 風が吹いてホームに電車が滑り込んで来た時、ふと斗希くんが僕の方へと視線を向けパチッと目が合った。すぐに逸らされたから一瞬だったけど、いつもより穏やかに見えたのは気のせいかな。
 電車の扉が開き、待っていた人が雪崩込む。
 プレゼントは、誕生日辺りで少しでも時間が貰えたらその時に渡そう。デートしたいなんて贅沢は言わないから、せめて面と向かっておめでとうって言えたらいいな。



 斗希くんの誕生日当日は平日で、その週の日曜日にパーティをするらしい。
 全部ホームで話してるのを盗み聞いての内容だけど、その前にどこかで約束を取り付けなきゃ。出来れば斗希くんのバイトが休みの日がいいな。

『今週どこかで、夕方とかにちょっと会えたりする?』
『何で』
『渡したい物があって』

 週明け、なるべく早く聞こうと斗希くんに確認のメッセージを送ったら理由を聞かれ、確かに必要かと思いつつなるべく誕生日を意識させないよう返したら、そこから5分くらいして『金曜日なら』って返信がきた。
 金曜日って斗希くんの誕生日なのに、その日に会ってくれるの?
 僕はもともと何か出来たらなって思って休みにしてたけど⋯嬉しい。

『じゃあ金曜日の、斗希くんが空いてる時間が分かったら場所と一緒に教えて』

 これに対する返事はなかったけど、まさかの当日に渡せる事になって舞い上がった僕はプレゼントの入った紙袋を見て堪らず頬を緩ませた。
 まさかあんな事が起こるなんて、思いもせずに。


 それから約束の金曜日。
 朝から斗希くんの連絡を待ってた僕だけど、昼を過ぎても来なくて困惑してた。
 登校時は普段と変わらない様子で友達といたから学校にはいると思うのに、何時頃にどこに行けばいいのかは一向に送られて来ない。
 結局下校時間になっても通知が鳴る事はなくて、僕は考えた結果プレゼントを持って駅の前で待つ事にした。ここくらいしか斗希くんと会える場所を思いつかないから、待てるだけ待つつもり。
 それにしても、何だか空がどんよりしてきた気がする。

「雨降ったらどうしよう⋯」

 天気予報は学校に行く時しか確認しないし、今日は1日晴れ予報だったからもちろん傘なんて持ってきてない。
 最悪、プレゼントは服の中に突っ込んで雨から守ろう。
 道行く人を見ながら斗希くんが通らないか待ちつつ、スマホを何度も確認する。
 本当は同じ事をもう一度聞くべきなんだろうけど、あんまり繰り返されるの好きじゃなさそうだし、鬱陶しいって思われたくないから自力で頑張らないと。
 プレゼントを抱き締めるように立ち続けてどれくらい経っただろう。
 ふと上げた視界の先に見覚えのある横顔を見つけた僕は、来てくれたんだと安堵して走り出す。でもすぐにその足は止まり、震える息を吸い込んだ。

「ちょっと、斗希。もう少しゆっくり歩いてくれる?」
「てめぇの足が遅ぇんだろ」
「歩幅を考えなさいって言ってるの」
「知るか」
「ほんっとに口が悪いんだから」

 斗希くんの隣に、さやかさんじゃない知らない女の人がいる。髪が長くて綺麗な人だ。
 不貞腐れたように窘める女の人に苛立ったように返す斗希くんだったけど、前から歩いて来る人に女の人がぶつかりそうになりその肩を抱き寄せた。

(⋯⋯そっか⋯)

 ついに〝その時〟が来たのかもしれない。僕と斗希くんの、お付き合いが終わる日が。
 誕生日に一緒にいる人がただの友達な訳ない。きっとあの人は斗希くんの本命⋯好きな人なんだ。
 目が離せずにいる僕には気付かないまま2人はどこかへと歩いていき、そのうち後ろ姿さえ見えなくなってしまった。最後に見えたのは、女の人が斗希くんの腕に触れたところ。
 不意にポツリと頬に何かが落ちて、少しずつ強まり目の前が遮られていく。
 頑張ろうって積み上げたものが、ガラガラと崩れて雨と一緒に流れていく気がした。
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