冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ

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喜んでほしくて

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 もうすぐ斗希くんの誕生日がくる。
 去年は教えて貰えたのが過ぎてからで、遅ればせながら渡したら一応受け取っては貰えたから今年は何にしようか悩む。
 あのお店で、斗希くんに似合う服を店長さんに見繕って貰うのもありかな。



 週末の午後、お昼ご飯も食べずに夏生くんと待ち合わせた僕は、約束していたケーキバイキングに来ていた。
 たくさん食べられるようにか、ケーキ屋さんで売ってるサイズよりは小さくて、初めて見るようなケーキもあってどれもこれも美味しそう。
 僕はお皿に5種類ほどのケーキを乗せてテーブルについたんだけど、あとから戻ってきた夏生くんは2つお皿を持ってて、どっちにも縁ギリギリまでケーキが盛られてた。

「そんなに食べられる?」
「余裕。朝ご飯も抜いてきたんだから」
「やる気満々だね」
「もち」

 抜いた方が食べられないような気もするけど、嬉しそうな夏生くんに水を差すような真似はしたくないから笑顔を返す。
 飲み物も紅茶やコーヒー、緑茶とかもあって味変には困らなさそう。
 フォークを持ち、ケーキに刺して1口分掬って食べると生クリームの甘さが口の中いっぱいに広がる。たまに食べる甘味って格別だよね。

「ねぇ、陽依」
「うん?」
「前に、ホームで会った人って誰?」

 次の日もその次の日も何も言われなかったから流してくれたのかと思ったら、不意に聞かれて危うくむせそうになった。
 紙ナフキンで口元を拭きつつ夏生くんを見るとキョトンとしてる。

「名前、呼んでたから知り合いなんでしょ?」
「あー⋯うん、まぁ⋯」
「制服違ってたし、中学の時の友達とか?」
「⋯⋯⋯」

 違うんだけど、どう説明しようか悩む。
 斗希くんの事を考えたら付き合ってるなんて言わない方がいいだろうし、かと言って友達に嘘はつきたくないんだけど⋯⋯⋯あ、そうだ。

「えっと、1年前にね、酔っ払いに絡まれてたところを助けてくれたの。それから駅で会うたび話すようになってて」
「へぇ。結構怖そうな人だったけど、優しいところあるんだね」
「う、うん、そうだね」

 そう、間違ってはいない。間違ってはないんだけど、本当の事を話せないのはやっぱり心苦しい。
 でも納得してくれたらしい夏生くんは、斗希くんの話にはもう触れず山盛りのケーキを味わい始めた。1枚目のお皿、もう半分を切ってる。
 斗希くんの事、あまり深堀りされなくて良かったよ。

 その後、時間いっぱい使って食べた僕は満たされたお腹を撫でながらお店を出て、これから用事があるという夏生くんと別れて例のお店に向かう事にした。
 これからは寒くなる時期だし、長袖とか羽織れる物の方がいいかな。
 腹拵えでゆっくりと歩きつつ、いつもは斗希くんを追う事に夢中で見れていなかった周りへと視線を向ける。ここは服屋さんが多いのか、ショーウィンドウにコーディネートされたマネキンがいたり、入り口にセール品を着せられたトルソーがあったりとなかなかにカラフルだ。
 たまには気分転換に1人でこうして歩くのもいいのかも。
 歩みが遅いせいかお店に着く頃には夕方に差し掛かってて、ドキドキしながら扉を開けたらちょうど棚を整理していた店長さんと目が合った。

「あれ、君」
「こ、こんにちは」
「はいこんにちは。あのTシャツ買いに来た?」

 〝あの〟と言われて、斗希くんに否定された事を思い出して首を振る。
 オシャレな斗希くんがやめとけって言うんだから、僕には似合わないんだろうし。

「えっと⋯店長さんにお願いがあって⋯」
「俺にお願い?」
「はい。あの、もうすぐ斗希くんが誕生日で⋯彼に似合う服を選んで欲しいんです」
「あー、そういえばそっか。でも、君が選んだ方が斗希は喜ばない?」
「僕はセンスないから⋯」

 選べるなら選びたいけど、あんなに素敵な人に僕の絶望的センスを宛てがう訳にはいかない。もしかしたら斗希くんなら着こなしてくれるかもと思いつつも、さすがに僕が耐えられないから。
 そう答えれば、店長さんは目を瞬いたあと「そんな事ないと思うけどなぁ」と言って服を見始めた。

「そうだな⋯ここら辺は斗希の好みだけど⋯」
「確かに⋯斗希くんがよく着てるような服ですね」
「予算的にはどう?」
「あ、2着なら買えます」
「なら、これとアクセサリーにする? うちのピアスとかリングとかも斗希は好きだから」

 店長さんが視線を移し僕もつられて見ると上の方にアクセサリーが陳列されていて、目に付いた物を手の平に掬ってみる。
 トップに小ぶりなスティックがついたものや2連リングのネックレスなどいろいろあって、中でもシルバーのチェーンだけのネックレスは僕が貰った物にちょっと似ててドキッとした。
 ここで買ったのかな。
 あれ、だとしたらこれってブランド物⋯。

「どう?」
「! あ、えっと、その服に合うのってどれですか?」

 今も腕に着いてるブレスレットを見てたら店長さんが覗き込んできて、慌てて選んでくれた服を指差して聞くとクスリと笑って探してくれる。
 もしかしたら、店長さんが包装してくれたかもしれないって思うと恥ずかしい。

「そうだな⋯⋯この組み合わせなら間違いなく斗希は気に入るよ」
「本当ですか? ならそれにします!」
「オッケー。ラッピングもしとく?」
「お願いします」
「じゃあちょっと待っててね」

 商品を持ってレジの方へと行く店長さんを見送りしばらく待つ事に。
 幸い他にお客さんがいなかったからすぐにラッピングを終えてくれて、支払いを済ませたら「良かったら」ってメッセージカードもくれた。
 お礼を言って頭を下げ、お店から出てプレゼントを見下ろす。喜んでくれるといいな。

「よし、帰ろう」

 去年よりも断然満足のいくプレゼントが用意出来て、僕はほくほくとした気持ちで帰路へとつく。
 メッセージカード、せっかく貰ったけど書かないだろうな。
 でもいいんだ、気に入って貰えるならそれだけで充分だから。
 いつかデートで着てるところが見られたりするかななんて、ゼロにも近い期待を抱きながら、僕は斗希くんの綺麗な顔を思い浮かべた。
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