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突然の告白
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「茅ヶ崎 遥斗くん。俺の恋人になってくれませんか?」
目の前で、バイト先に良く来てくれるかっこいいお兄さんが、そう言って僕に薔薇の花束を差し出してきた。
(ど、どうして⋯?)
喫茶【小鳥の休憩所】。
大通りから少し外れた場所にあるこじんまりとした洋風のお店で、優しいマスターと二人の従業員がのんびりとした空気の中働いているカフェだ。
僕、茅ヶ崎遥斗はそのお店の従業員の一人で、週に五日、平日と土曜日でシフトに入っている。勤務年数二年、すっかり仕事にも慣れて一人でも任される事が増えたこの頃、気になる人が出来た。
二ヶ月前からお店に来てくれるようになった、背が高くてスーツの似合うとっても素敵な男性。名前も年齢も職業も知らない人だけど、そのカッコ良さに僕はいつもドキドキしてた。
スマートな大人ってこういう人の事を言うんだろうなって、憧れにも似た気持ちを勝手に抱いてる。オーダーを取った時も、運んだ時も、レジ対応の時も、いつも微笑んで「ありがとう」って言ってくれて⋯本当に素敵な人だなって思ってた。
逆に僕は人付き合いが下手で、人と目を合わせることが苦手だ。
元々外で遊ぶよりも家の中で本を読むのが好きなインドアで、学校でも俯きがちだったから浮いてた存在だし今だって友達はいない。
小学生の時、その性格が原因で〝根暗で鬱陶しい〟とイジメられてしまい、今でもそれがトラウマになっていて人に馴染めないままだ。
自分が人からどう思われてるか、どう思われるか、嫌でも自覚してるから余計に俯いてしまう。
でも、このお店のマスターや一緒に働いている岡野 愁くんはそんな僕を受け入れて色々フォローしてくれるから、ここで働くのはすごく楽しいし少しだけ前を向けてた。
アットホームな雰囲気のお店は常連さんばかりで僕にも優しくて、ここにいる間だけは不思議と笑って会話が出来る。そんな風に、みんな知り合いみたいな中に来店してくれるようになったお兄さんは、見た目も相俟って噂の的になってた。
近所のおじさんとおばさんしか来ないお店に、若くてあんなにもカッコイイ人が来ればそれはもう注目されるに決まってる。
僕だって、あの人が来るたびに緊張しちゃうから。
きっと凄くモテるんだろうなぁ。
そんな日々を過ごすうち、時々感じてた視線をお店の中でも感じるようになり「あれ?」と思うようになった。見てる人が違うのか、外にいる時はゾワッとするものなのにお店ではどうしてか温かく感じる。
だから誰が見てるんだろうって気になって見たらそこにはお兄さんがいて、目が合うと柔らかく微笑まれた。
その日は慌てて視線を逸らしたんだけど⋯⋯それ以来、お店限定で見られてるなって思う時はいつもお兄さんが僕を見ているから、頭の中がハテナでいっぱいになってた。
どうしてあんなに優しい目で見るんだろうってずっと不思議で、見られてるって分かると顔が赤くなってどうしたらいいか分からなくなる。
初めての感覚に僕はずっと戸惑いっぱなしだ。
(あれ、今日は来ないのかな)
お兄さんからの視線にドキマギし始めて数週間、いつもは来店する曜日のいつもの時間になってもお兄さんは来なかった。
毎回スーツ姿だし、お仕事の合間とかに来てくれてたんだったら今日は忙しいのかもしれない。少し残念だけれど、僕はそう自分を納得させてバイトに集中する事にした。
きっとまたひょっこり来てくれる、そう信じて。
だけど、それから数日経ってもお兄さんは来なくて、僕は思っていた以上にお兄さんの来店を心待ちにしていたらしく、普段はしないようなミスをいくつかしてしまいマスターと岡野くんにも心配されてしまった。
「しっかりしなきゃ」
だだでさえ鈍臭くて約立たずなんだ。
二人にもお客さんにも迷惑かけないようにしないと。
そんなこんなでどうにかその日のバイトを終えた僕は、二人にお疲れ様ですと挨拶をしてお店の裏口から外に出た。時間的には夕方なのに、ほんのり薄暗い。
ちょっとずつ冬が近付いてるから風もヒンヤリしてて、少しだけ肌寒さを感じて首を竦めた。
今日は温かいものでも買って食べようかな、そう思って帰る方に身体を向けると街灯の下に人が立っていて身構える。
だけどすぐにそれが誰か分かってハッとした。
(いつも来てくれるお兄さん⋯?)
思わず固まった僕に気付いたお兄さんは長い足を使って一気に距離を縮めると、抱えていた薔薇の花束をどうしてか差し出して来た。
というか、一応ひとつに纏めてあるから〝花束〟ではあるんだけど本数がバラバラで包装されてて、一本だけとか三本だけとか、一番多くても十本ちょっと⋯とはいえ全部合わせた数は凄いことになってる。
意味が分からなくて受け取る事も何かを言う事も出来ない僕に、お兄さんはクスリと笑って口を開いた。
「茅ヶ崎遥斗くん。俺の恋人になってくれませんか?」
「⋯⋯⋯え?」
〝こいびと〟って⋯あの〝恋人〟? な、なんで?
まったくもって予想もしていなかった言葉を告げられ、僕は自分の耳がおかしくなったのかと思った。
目の前で、バイト先に良く来てくれるかっこいいお兄さんが、そう言って僕に薔薇の花束を差し出してきた。
(ど、どうして⋯?)
喫茶【小鳥の休憩所】。
大通りから少し外れた場所にあるこじんまりとした洋風のお店で、優しいマスターと二人の従業員がのんびりとした空気の中働いているカフェだ。
僕、茅ヶ崎遥斗はそのお店の従業員の一人で、週に五日、平日と土曜日でシフトに入っている。勤務年数二年、すっかり仕事にも慣れて一人でも任される事が増えたこの頃、気になる人が出来た。
二ヶ月前からお店に来てくれるようになった、背が高くてスーツの似合うとっても素敵な男性。名前も年齢も職業も知らない人だけど、そのカッコ良さに僕はいつもドキドキしてた。
スマートな大人ってこういう人の事を言うんだろうなって、憧れにも似た気持ちを勝手に抱いてる。オーダーを取った時も、運んだ時も、レジ対応の時も、いつも微笑んで「ありがとう」って言ってくれて⋯本当に素敵な人だなって思ってた。
逆に僕は人付き合いが下手で、人と目を合わせることが苦手だ。
元々外で遊ぶよりも家の中で本を読むのが好きなインドアで、学校でも俯きがちだったから浮いてた存在だし今だって友達はいない。
小学生の時、その性格が原因で〝根暗で鬱陶しい〟とイジメられてしまい、今でもそれがトラウマになっていて人に馴染めないままだ。
自分が人からどう思われてるか、どう思われるか、嫌でも自覚してるから余計に俯いてしまう。
でも、このお店のマスターや一緒に働いている岡野 愁くんはそんな僕を受け入れて色々フォローしてくれるから、ここで働くのはすごく楽しいし少しだけ前を向けてた。
アットホームな雰囲気のお店は常連さんばかりで僕にも優しくて、ここにいる間だけは不思議と笑って会話が出来る。そんな風に、みんな知り合いみたいな中に来店してくれるようになったお兄さんは、見た目も相俟って噂の的になってた。
近所のおじさんとおばさんしか来ないお店に、若くてあんなにもカッコイイ人が来ればそれはもう注目されるに決まってる。
僕だって、あの人が来るたびに緊張しちゃうから。
きっと凄くモテるんだろうなぁ。
そんな日々を過ごすうち、時々感じてた視線をお店の中でも感じるようになり「あれ?」と思うようになった。見てる人が違うのか、外にいる時はゾワッとするものなのにお店ではどうしてか温かく感じる。
だから誰が見てるんだろうって気になって見たらそこにはお兄さんがいて、目が合うと柔らかく微笑まれた。
その日は慌てて視線を逸らしたんだけど⋯⋯それ以来、お店限定で見られてるなって思う時はいつもお兄さんが僕を見ているから、頭の中がハテナでいっぱいになってた。
どうしてあんなに優しい目で見るんだろうってずっと不思議で、見られてるって分かると顔が赤くなってどうしたらいいか分からなくなる。
初めての感覚に僕はずっと戸惑いっぱなしだ。
(あれ、今日は来ないのかな)
お兄さんからの視線にドキマギし始めて数週間、いつもは来店する曜日のいつもの時間になってもお兄さんは来なかった。
毎回スーツ姿だし、お仕事の合間とかに来てくれてたんだったら今日は忙しいのかもしれない。少し残念だけれど、僕はそう自分を納得させてバイトに集中する事にした。
きっとまたひょっこり来てくれる、そう信じて。
だけど、それから数日経ってもお兄さんは来なくて、僕は思っていた以上にお兄さんの来店を心待ちにしていたらしく、普段はしないようなミスをいくつかしてしまいマスターと岡野くんにも心配されてしまった。
「しっかりしなきゃ」
だだでさえ鈍臭くて約立たずなんだ。
二人にもお客さんにも迷惑かけないようにしないと。
そんなこんなでどうにかその日のバイトを終えた僕は、二人にお疲れ様ですと挨拶をしてお店の裏口から外に出た。時間的には夕方なのに、ほんのり薄暗い。
ちょっとずつ冬が近付いてるから風もヒンヤリしてて、少しだけ肌寒さを感じて首を竦めた。
今日は温かいものでも買って食べようかな、そう思って帰る方に身体を向けると街灯の下に人が立っていて身構える。
だけどすぐにそれが誰か分かってハッとした。
(いつも来てくれるお兄さん⋯?)
思わず固まった僕に気付いたお兄さんは長い足を使って一気に距離を縮めると、抱えていた薔薇の花束をどうしてか差し出して来た。
というか、一応ひとつに纏めてあるから〝花束〟ではあるんだけど本数がバラバラで包装されてて、一本だけとか三本だけとか、一番多くても十本ちょっと⋯とはいえ全部合わせた数は凄いことになってる。
意味が分からなくて受け取る事も何かを言う事も出来ない僕に、お兄さんはクスリと笑って口を開いた。
「茅ヶ崎遥斗くん。俺の恋人になってくれませんか?」
「⋯⋯⋯え?」
〝こいびと〟って⋯あの〝恋人〟? な、なんで?
まったくもって予想もしていなかった言葉を告げられ、僕は自分の耳がおかしくなったのかと思った。
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