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恋人
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人生で初めての告白をされたけど、僕は信じられない気持ちでいっぱいだった。だって、こんなに素敵な人が僕に恋人になってなんて、そんな事あるはずないんだから。
でもお兄さんは、俯いて視線を彷徨わせる僕を気にもしないで手を取ると、各々で包装され大きなリボンで一纏めに留められた薔薇の花束を持たせて頭を撫でてきた。
「⋯⋯!」
「可愛い。遥斗くんのイメージはカスミ草なんだけど、どうしても意味があるものを贈りたかったんだ。⋯花は好き?」
「は、はい⋯好き、です⋯」
「それは良かった」
誰かに頭を撫でて貰うなんて何年ぶりだろう。
それこそ幼い頃はあったと思うんだけど、もう温もりも覚えていない。でも、今まで撫でてくれた人達の中で一番大きくて優しい手だ。
「それで⋯どうかな。俺の恋人にはなってくれるのかな」
「え、あの⋯えっと⋯⋯でも僕、恋人、いた事なくて⋯」
「なら、俺が初めての恋人になってもいい?」
「あ、あの、その、えっと⋯」
こういう事は初めてだから、どうやって返したらいいのか分からなくて僕はすごく困惑している。
何かを言わなきゃって思うのに上手く言葉が出てこない。
「遥人くん、俺の名前は宝条 鷹臣。年は二十五で近くにある会社に勤めている。いつも一生懸命に頑張っている君を可愛いなって見ているうちに好きになったんだ」
「で、でも僕⋯男、ですよ⋯?」
「もちろん知ってるよ。それでも君がいい」
「⋯⋯⋯⋯」
君がいいなんて初めて言われた。どうしよう、正直嬉しい。
僕だってお兄さんが来店してくれるのを楽しみにしていたんだ。それがお兄さんと同じ気持ちなのかって言われると分からないけど、それでも好きって言われて嫌な気持ちとかは全然ない。
でも、お兄さんと僕とじゃ天と地ほどの差があるよ。
「あ、の⋯⋯宝条、さん」
「鷹臣」
「え? あ、えっと、鷹臣⋯さん⋯」
「うん」
「僕、こんなんだし⋯人と目、合わせられないし⋯⋯鷹臣さんの恋人には⋯その⋯相応しくないと思います⋯」
こんなにカッコよくて素敵な人なんだもん、誰だって放っておかない。
僕は薔薇の花束をギュッと抱き締めて「だからごめんなさい」と続けようとした。でもそれより先にお兄さんの手が僕の頬に触れるから、声も出せないまま思わず固まってしまう。
「相応しいとか相応しくないとか、君の価値をそんな風に決めては駄目だよ。それに俺はここ二ヶ月、暇さえあればお店に行って君を見ていた。君が人付き合いが苦手な事も、視線を合わせる事が苦手な事も知ってる。それでも君は頑張って仕事をしてるじゃないか。俺はそんな君が可愛くて愛しくて仕方がないんだよ」
「⋯⋯⋯」
挨拶ばかりで世間話もした事ないのに、僕の駄目なところを知っててくれたんだ。
だったら僕は、この人とはちゃんと向き合わないと失礼だよね⋯⋯とは言ってもやっぱり目を合わせるって中々難しくて⋯。
僕は小さく深呼吸をした後、ゆっくりと視線を上げてみる。だけど途中で過去のクラスメイトの言葉が頭に響いて、怖くなってまた俯いてしまったら頬に触れたままだった手が優しく撫でてくれた。
「焦らなくていいよ。ただ、やっぱり他の虫がつくのは嫌だから、恋人にはなって欲しいかな」
「む、虫?」
「そう。君の周りをブンブン飛び回る、目障りな虫」
僕、もしかして虫が集るくらい臭いの?
思わず自分の袖の匂いを嗅ぐと、鷹臣さんがクスリと笑って今度は頭を撫でる。さっきからたくさん触られて、ちょっと恥ずかしい。
「遥斗くんが臭い訳じゃないよ。どちらかと言うと、遥人くんの甘い匂いに誘われて寄ってくる、が正解かな」
「甘い匂い⋯?」
「気を付けてね。俺以外に誘われても、ついて行ってはいけないよ。君はもう、俺のものだから」
「は、はい⋯」
「いい子」
なんだか鷹臣さんの声が凄く優しくて、甘やかされてる気分になるのはなんでだろう。
撫でてくれる手も温かくて、嫌じゃないからかな。
それよりも、今の言い方だと僕は本当に鷹臣さんの恋人になったって事になる⋯よね? 明確に頷いてはいないんだけど、俺のものって言われちゃったし。
「今から帰るところだよね? 送って行くよ」
「え、でも」
「もう少し一緒にいたいんだ」
「え⋯あ⋯じゃあ、お願いします」
「ん、任せといて」
まだ名前と年齢を知ったばかりなのにと思って断ろうとしたものの、ストレートな言葉に思わず真っ赤になってしまった僕は軽く頭を下げる。
この人、もしかして心臓に悪い人なのかもしれない。
これからもこんな風にドキドキさせられるのかと悶々としていた僕は、いきなり手を引かれて思わず見上げてしまった。
鷹臣さんは僕と目が合うと少しだけ驚いた顔をしていたけど、すぐに優しく微笑んでくれて⋯ハッとした僕はまた視線を逸らす。絶対耳まで赤くなってるよ。
「遥人くんは本当に可愛いね」
心臓がすごく早く動いてるのが分かる。
そのせいで、自分の家なのに曲がる場所を間違えたり遠回りをさせてしまった僕は、申し訳なさを感じながらもこのたくさんの薔薇をどうしようか考えていた。
でもお兄さんは、俯いて視線を彷徨わせる僕を気にもしないで手を取ると、各々で包装され大きなリボンで一纏めに留められた薔薇の花束を持たせて頭を撫でてきた。
「⋯⋯!」
「可愛い。遥斗くんのイメージはカスミ草なんだけど、どうしても意味があるものを贈りたかったんだ。⋯花は好き?」
「は、はい⋯好き、です⋯」
「それは良かった」
誰かに頭を撫でて貰うなんて何年ぶりだろう。
それこそ幼い頃はあったと思うんだけど、もう温もりも覚えていない。でも、今まで撫でてくれた人達の中で一番大きくて優しい手だ。
「それで⋯どうかな。俺の恋人にはなってくれるのかな」
「え、あの⋯えっと⋯⋯でも僕、恋人、いた事なくて⋯」
「なら、俺が初めての恋人になってもいい?」
「あ、あの、その、えっと⋯」
こういう事は初めてだから、どうやって返したらいいのか分からなくて僕はすごく困惑している。
何かを言わなきゃって思うのに上手く言葉が出てこない。
「遥人くん、俺の名前は宝条 鷹臣。年は二十五で近くにある会社に勤めている。いつも一生懸命に頑張っている君を可愛いなって見ているうちに好きになったんだ」
「で、でも僕⋯男、ですよ⋯?」
「もちろん知ってるよ。それでも君がいい」
「⋯⋯⋯⋯」
君がいいなんて初めて言われた。どうしよう、正直嬉しい。
僕だってお兄さんが来店してくれるのを楽しみにしていたんだ。それがお兄さんと同じ気持ちなのかって言われると分からないけど、それでも好きって言われて嫌な気持ちとかは全然ない。
でも、お兄さんと僕とじゃ天と地ほどの差があるよ。
「あ、の⋯⋯宝条、さん」
「鷹臣」
「え? あ、えっと、鷹臣⋯さん⋯」
「うん」
「僕、こんなんだし⋯人と目、合わせられないし⋯⋯鷹臣さんの恋人には⋯その⋯相応しくないと思います⋯」
こんなにカッコよくて素敵な人なんだもん、誰だって放っておかない。
僕は薔薇の花束をギュッと抱き締めて「だからごめんなさい」と続けようとした。でもそれより先にお兄さんの手が僕の頬に触れるから、声も出せないまま思わず固まってしまう。
「相応しいとか相応しくないとか、君の価値をそんな風に決めては駄目だよ。それに俺はここ二ヶ月、暇さえあればお店に行って君を見ていた。君が人付き合いが苦手な事も、視線を合わせる事が苦手な事も知ってる。それでも君は頑張って仕事をしてるじゃないか。俺はそんな君が可愛くて愛しくて仕方がないんだよ」
「⋯⋯⋯」
挨拶ばかりで世間話もした事ないのに、僕の駄目なところを知っててくれたんだ。
だったら僕は、この人とはちゃんと向き合わないと失礼だよね⋯⋯とは言ってもやっぱり目を合わせるって中々難しくて⋯。
僕は小さく深呼吸をした後、ゆっくりと視線を上げてみる。だけど途中で過去のクラスメイトの言葉が頭に響いて、怖くなってまた俯いてしまったら頬に触れたままだった手が優しく撫でてくれた。
「焦らなくていいよ。ただ、やっぱり他の虫がつくのは嫌だから、恋人にはなって欲しいかな」
「む、虫?」
「そう。君の周りをブンブン飛び回る、目障りな虫」
僕、もしかして虫が集るくらい臭いの?
思わず自分の袖の匂いを嗅ぐと、鷹臣さんがクスリと笑って今度は頭を撫でる。さっきからたくさん触られて、ちょっと恥ずかしい。
「遥斗くんが臭い訳じゃないよ。どちらかと言うと、遥人くんの甘い匂いに誘われて寄ってくる、が正解かな」
「甘い匂い⋯?」
「気を付けてね。俺以外に誘われても、ついて行ってはいけないよ。君はもう、俺のものだから」
「は、はい⋯」
「いい子」
なんだか鷹臣さんの声が凄く優しくて、甘やかされてる気分になるのはなんでだろう。
撫でてくれる手も温かくて、嫌じゃないからかな。
それよりも、今の言い方だと僕は本当に鷹臣さんの恋人になったって事になる⋯よね? 明確に頷いてはいないんだけど、俺のものって言われちゃったし。
「今から帰るところだよね? 送って行くよ」
「え、でも」
「もう少し一緒にいたいんだ」
「え⋯あ⋯じゃあ、お願いします」
「ん、任せといて」
まだ名前と年齢を知ったばかりなのにと思って断ろうとしたものの、ストレートな言葉に思わず真っ赤になってしまった僕は軽く頭を下げる。
この人、もしかして心臓に悪い人なのかもしれない。
これからもこんな風にドキドキさせられるのかと悶々としていた僕は、いきなり手を引かれて思わず見上げてしまった。
鷹臣さんは僕と目が合うと少しだけ驚いた顔をしていたけど、すぐに優しく微笑んでくれて⋯ハッとした僕はまた視線を逸らす。絶対耳まで赤くなってるよ。
「遥人くんは本当に可愛いね」
心臓がすごく早く動いてるのが分かる。
そのせいで、自分の家なのに曲がる場所を間違えたり遠回りをさせてしまった僕は、申し訳なさを感じながらもこのたくさんの薔薇をどうしようか考えていた。
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