孤独な青年はひだまりの愛に包まれる

ミヅハ

文字の大きさ
2 / 54

恋人

しおりを挟む
 人生で初めての告白をされたけど、僕は信じられない気持ちでいっぱいだった。だって、こんなに素敵な人が僕に恋人になってなんて、そんな事あるはずないんだから。
 でもお兄さんは、俯いて視線を彷徨わせる僕を気にもしないで手を取ると、各々で包装され大きなリボンで一纏めに留められた薔薇の花束を持たせて頭を撫でてきた。

「⋯⋯!」
「可愛い。遥斗くんのイメージはカスミ草なんだけど、どうしてもを贈りたかったんだ。⋯花は好き?」
「は、はい⋯好き、です⋯」
「それは良かった」

 誰かに頭を撫でて貰うなんて何年ぶりだろう。
 それこそ幼い頃はあったと思うんだけど、もう温もりも覚えていない。でも、今まで撫でてくれた人達の中で一番大きくて優しい手だ。

「それで⋯どうかな。俺の恋人にはなってくれるのかな」
「え、あの⋯えっと⋯⋯でも僕、恋人、いた事なくて⋯」
「なら、俺が初めての恋人になってもいい?」
「あ、あの、その、えっと⋯」

 こういう事は初めてだから、どうやって返したらいいのか分からなくて僕はすごく困惑している。
 何かを言わなきゃって思うのに上手く言葉が出てこない。

「遥人くん、俺の名前は宝条 鷹臣ほうじょう たかおみ。年は二十五で近くにある会社に勤めている。いつも一生懸命に頑張っている君を可愛いなって見ているうちに好きになったんだ」
「で、でも僕⋯男、ですよ⋯?」
「もちろん知ってるよ。それでも君がいい」
「⋯⋯⋯⋯」

 君がいいなんて初めて言われた。どうしよう、正直嬉しい。
 僕だってお兄さんが来店してくれるのを楽しみにしていたんだ。それがお兄さんと同じ気持ちなのかって言われると分からないけど、それでも好きって言われて嫌な気持ちとかは全然ない。
 でも、お兄さんと僕とじゃ天と地ほどの差があるよ。

「あ、の⋯⋯宝条、さん」
「鷹臣」
「え? あ、えっと、鷹臣⋯さん⋯」
「うん」
「僕、こんなんだし⋯人と目、合わせられないし⋯⋯鷹臣さんの恋人には⋯その⋯相応しくないと思います⋯」

 こんなにカッコよくて素敵な人なんだもん、誰だって放っておかない。
 僕は薔薇の花束をギュッと抱き締めて「だからごめんなさい」と続けようとした。でもそれより先にお兄さんの手が僕の頬に触れるから、声も出せないまま思わず固まってしまう。

「相応しいとか相応しくないとか、君の価値をそんな風に決めては駄目だよ。それに俺はここ二ヶ月、暇さえあればお店に行って君を見ていた。君が人付き合いが苦手な事も、視線を合わせる事が苦手な事も知ってる。それでも君は頑張って仕事をしてるじゃないか。俺はそんな君が可愛くて愛しくて仕方がないんだよ」
「⋯⋯⋯」

 挨拶ばかりで世間話もした事ないのに、僕の駄目なところを知っててくれたんだ。
 だったら僕は、この人とはちゃんと向き合わないと失礼だよね⋯⋯とは言ってもやっぱり目を合わせるって中々難しくて⋯。
 僕は小さく深呼吸をした後、ゆっくりと視線を上げてみる。だけど途中で過去のクラスメイトの言葉が頭に響いて、怖くなってまた俯いてしまったら頬に触れたままだった手が優しく撫でてくれた。

「焦らなくていいよ。ただ、やっぱり他の虫がつくのは嫌だから、恋人にはなって欲しいかな」
「む、虫?」
「そう。君の周りをブンブン飛び回る、目障りな虫」

 僕、もしかして虫が集るくらい臭いの?
 思わず自分の袖の匂いを嗅ぐと、鷹臣さんがクスリと笑って今度は頭を撫でる。さっきからたくさん触られて、ちょっと恥ずかしい。

「遥斗くんが臭い訳じゃないよ。どちらかと言うと、遥人くんの甘い匂いに誘われて寄ってくる、が正解かな」
「甘い匂い⋯?」
「気を付けてね。俺以外に誘われても、ついて行ってはいけないよ。君はもう、俺のものだから」
「は、はい⋯」
「いい子」

 なんだか鷹臣さんの声が凄く優しくて、甘やかされてる気分になるのはなんでだろう。
 撫でてくれる手も温かくて、嫌じゃないからかな。
 それよりも、今の言い方だと僕は本当に鷹臣さんの恋人になったって事になる⋯よね?    明確に頷いてはいないんだけど、俺のものって言われちゃったし。

「今から帰るところだよね? 送って行くよ」
「え、でも」
「もう少し一緒にいたいんだ」
「え⋯あ⋯じゃあ、お願いします」
「ん、任せといて」

 まだ名前と年齢を知ったばかりなのにと思って断ろうとしたものの、ストレートな言葉に思わず真っ赤になってしまった僕は軽く頭を下げる。
 この人、もしかして心臓に悪い人なのかもしれない。
 これからもこんな風にドキドキさせられるのかと悶々としていた僕は、いきなり手を引かれて思わず見上げてしまった。
 鷹臣さんは僕と目が合うと少しだけ驚いた顔をしていたけど、すぐに優しく微笑んでくれて⋯ハッとした僕はまた視線を逸らす。絶対耳まで赤くなってるよ。

「遥人くんは本当に可愛いね」

 心臓がすごく早く動いてるのが分かる。
 そのせいで、自分の家なのに曲がる場所を間違えたり遠回りをさせてしまった僕は、申し訳なさを感じながらもこのたくさんの薔薇をどうしようか考えていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。 悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。 心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

吸血鬼公爵の籠の鳥

江多之折
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。 血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。 吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。

処理中です...