人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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いつもと違う姿

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 次の週の日曜日。
 前日に真那から「九時に迎えに行く」とメッセージが来てその時間に外で待っていると、水島さんの車が現れてすーっと家の前に停まった。後部座席の窓が下がって顔を出した真那が手招きする。
 近付けばドアが開けられたから乗り込むとすぐに真那の腕が身体に回ってきた。

「おはようございます、水島さん」
「おはよう、陽向くん。真那が無理言ったみたいですまないね」
「無理…と言うか、オレ何にも知らないんですけど、本当に良いんですか?」

 水島さんがいるという事はどう考えても仕事関係だろうに、真那に誘われたとはいえ部外者のオレがいてもいいんだろうか。
 眉尻を下げて尋ねると、水島さんはバックミラー越しに笑って頷き車を発進させる。

「大丈夫だ。今回は真那の雑誌撮影だけだし、どうやら真那はそれを見て欲しいらしいよ」
「雑誌撮影を?」
「いつも言ってたよ、陽向くんに撮影してる姿を見て欲しいって。普段は平日だったから、撮影日が今日だって分かってチャンスだと思ったんだろうな」
「え、何でオレに?」
「好きになって貰いたくて」

 その言葉に驚いたのはオレだけじゃなくて、水島さんも「え?」って声を上げてた。
 す、好きになって貰いたくて?

「何言って……」
「言ったよね、ゆっくりでいいから俺の事好きになってって」
「……言った」
「モデルやってる俺見たら、ヒナがときめいてくれるんじゃないかと思って」

 雑誌に載ってる真那を見るだけでも充分ときめいてるのに、撮影してるところなんて見たらヤバいんじゃなかろうか。そもそも真那は綺麗過ぎるから、目で見てなくてもときめきはするんだよ。
 しかもオレ、今は真那に口説かれてるところだし。
 ちゃんと応えるって決めたから真正面から受けるつもりではいるけど、真那の顔面がチート過ぎて、プロに仕上げられたら直視は出来ない気がする。

 今だオレを抱き締めているいつもの真那をじーっと見上げると、僅かに目元を染めて瞠目しふいっと顔を逸らした。

「え? 何で顔逸らすんだよ」
「ヒナが見つめてくるから」
「真那だってオレの顔見てくるだろ」
「それとこれとは別」
「そういうの、理不尽って言うんだぞ」

 自分は良くて人はダメなんて、それは自分勝手というものだ。オレは手を伸ばして真那の頬を摘むと軽く引っ張った。美形なままだけど、顔の皮膚が伸びてちょっとだけ面白い。

「ヒナ」
「真那のほっぺた良く伸びるなー。あ」
「ヒナのほっぺたも良く伸びるよ」
「オレのはただの皮だから」

 お互いに頬をひっぱり合う姿は傍から見ればおかしな光景だろうし、水島さんもクスクス笑ってる。パッと手を離して真那の肩を押すと眉根が寄って膨れっ面に変わった。

「いい加減離せ」
「やだ」
「何でた。ホントに真那は小さい頃からスキンシップ多いよなー」
「ヒナとくつっついてるの好きだから」

 物心ついた時から真那はすぐ傍にいて、それこそ小さい頃は抱っこされたりほっぺにちゅーされたりなんてしょっちゅうだった。それは中学生になっても高校生になっても変わらなくて、幼馴染みにしたって距離近いよなとは思ってたんだけど……真那の気持ちを知った今それに意味があるんだって分かってちょっとだけ意識してしまう。
 ただされるがままになってるこの状況って、真那にとっていい事なんだろうか。

「俺は、ヒナに少しでも意識して貰えるなら何でもするつもりだよ」
「何でもって言葉は使わない方がいいぞ。悪用されるから」
「ヒナならいいよ」
「じゃあオレが、真那が嫌いなオクラ食べてるとこ見たらドキドキするって言ったら食べるのか?」
「そのシチュエーションには疑問を抱くけど、ヒナがドキドキしてくれるなら食べる」
「マジか」
「ははっ。真那は本当に陽向くんが好きだな」
「うん。俺の一番大事な子だからね」
「……」

 ああ、居た堪れない。
 今まで女の子を好きにはなれど、「真那くんが好きだから」って振られる事早うん年。引くほどモテ街道まっしぐらだった真那から恋愛的な意味で好かれてるって聞いて、ちゃんと考えるとは言ったもののどこから手を付けたらいいか正直分からないんだよな。
 好きは好きだけど、幼馴染みと恋愛感情の境界線が見えない。

「真那」
「何、ヒナ」
「真那にこういう事されるの当たり前過ぎて感覚麻痺してんだけど、普通は兄弟でもしないよな?」
「しない人の方が多いだろうね」
「だよな。……他の人にされてみたら分かるのかな」

 相手が真那だから嫌じゃないのか、それともスキンシップ自体が嫌じゃないのかが分からなくて、試しに誰かに抱き着いてみようかと考えているといきなり車内の温度が低くなった。
 冷房でもつけたのかと思っていると、真那のひっくーい声がオレの名前を呼ぶから顔を上げたら……あれ、真那の目が据わってる。

「え?」
「俺以外の誰とこんな事するつもり?」
「……もしかして声に出てたか?」
「出てた。俺だけのヒナでいてって言ったよね?」
「いや、だって真那とばっかじゃ分かんないから……」
「駄目だよ、絶対駄目。ヒナとくっついていいのは俺だけだから」
「だから」
「絶対誰にも触らせないで」
「ぐぇ」

 これは確かめる為に必要なんだ、そう話そうにも口を挟むスキを与えてくれない真那がオレの身体に回した腕の力を込める。圧迫されて苦しくて蛙が潰れたみたいな声が出たけど、ダメダメ言ってる真那は離してくれそうにない。

 結局、撮影スタジオに着くまでぎゅうぎゅうに抱き締められて、絶対しないと鬼気迫る真那に約束させられたオレは、自分の発言には気を付けようと心に決めたのだった。


 セット前で、王子様度が爆上がりした真那がカメラの前でポーズを取ってる。フラッシュが炊かれるたび違う立ち姿、表情に変わって真那が芸能人なんだって改めて実感した。
 いつも見ている、無気力感漂う幼馴染みとは違う様相を見せる真那に少しだけ不安になる。オレが知ってる真那じゃないみたいだ。

「どう?」

 スタッフさんの邪魔にならないよう壁際に立ってぼーっと見てると、隣に立った水島さんに声を潜めてそう聞かれる。

「素直に凄いなって思います。雑誌では見てたけど、実際に撮影してるところを見ると全然違いますね」
「真那、いつもより気合い入ってるしね」
「そうなんですか?」
「ああ。何と言っても、陽向くんが見てるからな。…っと、すまない、電話だ」
「あ、はい。行ってらっしゃいです」

 目を細めて真那を見ていた水島さんが、スーツの胸ポケットからスマホを取り出し片手を上げて去って行くのを見送る。
 気合いが入ってるかどうかは初めて見るから分からないけど、真那がオレを気にしてるなってのは時々かち合う視線で気付いた。メイク直しの時もまるで確認するように見てくるから、ここにいるぞって意味を込めて微笑むと真那も僅かに表情を緩める。
 ああいうとこはいつもの真那だな。

「君、真那くんの幼馴染みなんだって?」
「え? は、はい、そうですけど」

 ここに来てから知らない人に囲まれて、真那さえも違う人に見えたから今の顔を見てようやくホッと出来たのも束の間、カメラマンさんに話し掛けられてビクリと肩を跳ね上げる。

「今までたくさん【soar】メンバーの写真撮って来たけど、真那くんのあんな表情は初めて見たよ」
「はぁ…」
「そこで折り入ってお願いがあります」
「?」
「真那くんの隣に立って、彼の色んな表情を引き出してくれないかな?」
「……はい?」

 お願い、と言われて身構えていると予想外も予想外な内容でオレは面食らってしまった。隣に立つって、つまりカメラの前に立てって事だよな? いや、無理だろ。オレは何の経験もない一般人だぞ。
 呆然とするオレに手を合わせたカメラマンさんは、再度「お願い!」と言ってスタッフさんと話している真那をチラリと見やり苦笑する。

「僕もプロだから、出来れば自分の力で撮りたいとは思ってるんだけどどうにも真那くんは手強くて……」
「真那は表情筋死んでますからね」
「でも君には笑ったりするんだろう?」
「まぁ、幼馴染みですし」

 一番気を許して貰えてるってのは自覚してる。たぶん真那のご両親よりもオレの方が真那の笑った顔とか見てるだろうし。

「君が隣にいればさっきみたいに穏やかな表情をしてくれるんじゃないかと思って。雑誌に載せる写真は真那くんに選んで貰うけど、その中の一枚だけでも違う表情が撮ってみたいんだ。駄目かな?」
「うーん……」

 ぶっちゃけ写りたくない、というのが本音だ。知ってる人が見ればオレだって分かるだろうし、真那との事で悪目立ちしたくないんだよな。
 でもここにいる人たちには、真那がいつもお世話になってるらしいから……めちゃくちゃ嫌だけど、不安でしかないけど。

「分かりました、今回だけ。でも顔が映らないようにして欲しいです」
「もちろんだよ! ありがとう! じゃあさっそく準備して貰おうかな」
「準備?」
「真那くんをびっくりさせるんだよ」

 カメラマンさんが含んだ笑みを浮かべてウィンクする。
 あ、何だか凄く嫌な予感。
 オレ、判断を誤ったかもしれない。
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