人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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悩み事

 真那から告白されて三日。
 学校が休みの今日、オレは繁華街へと繰り出していた。
 あと三ヶ月ほどすれば真那の誕生日で、そのプレゼントを探すために朝から来ているんだけど、そろそろネタが尽きてきてどうしようかと思ってるんだよな。いや、その為に早めに行動してるんだけど。
 去年はちょうどツアー中で、アンコールの時に志摩さんと風音さんがファンの子たちと一緒にバースデーソングを歌ってくれたんだっけ。終わったあとも誕生日会のような事をして貰ったみたいだし、今年はどうなる事やら。

「まぁ、当日には渡せないだろうなー」

 またツアーやるとは言ってたしな。
 ちなみに毎回申し込んではいるけど、近場の会場一つだけの応募じゃなかなか当選しなくて今だに生で見れていない。一次も二次も落選しまくっててどんだけ運がないんだって若干凹み気味。
 真那にチケット用意するよって言われたけど、それは反則だから絶対いつか自力で取るって約束したのに……いつになるだろう。

「それよりプレゼントだ」

 えーっと、確か去年はミニサボテンあげたんだっけ。アイドルだから目に見える物はって思ったけど、それくらいなら大丈夫って水島さんにも言って貰えたから癒し要員として選んだんだよな。
 今年は消耗品かそれとも置物か。ピアスやネックレスってのは目立ちやすいからな、うっかり外し忘れたら大変な事になるし。

「悩む……」
「何を?」
「え? ……!?」

 一人言に問い掛けが返ってきたから反射的に顔を上げればそこにいるはずのない人がいて、オレは驚きのあまり上がりそうになった声を両手で押さえて辺りを見回す。幸いな事に誰にも気付かれていないようでホッとした。
 それから声を抑えて逆に問い返す。

「ど、どうしてここにいるんですか? 志摩さん」
「次の仕事まで時間があったから、気分転換しに来たんだ」

 マスクと帽子と伊達メガネで変装している志摩さんはそう言ってにっこりと笑う。前も思ったけど、話し方とか雰囲気とか凄く優しい人だ。
 気分転換、確かに大事だよな。ただでさえ忙しいんだから、余裕ある時にしたい事しとかないといつ次の機会が訪れるか分かんないだろうし。

「それで、陽向くんは何に悩んでたの?」
「あ、真那の誕生日プレゼントを」
「ああ、確かにもうすぐ誕生日だね」
「小さい頃から毎年あげてるから、オレのレパートリーが枯渇寸前で」
「はは、それは確かに悩むなー」

 世の中にはこんなに物が溢れてるのに、何で贈り物ってなると一気に狭くなるんだろうな。アレか、オレが考えすぎなのか?

「俺でよければ協力しようか?」
「え?」
「さりげなく真那に、欲しい物とか気になってる物とか聞いといてあげるよ」
「いいんですか? うわ、それすっごく助かります!」
「任せといて。って事で、連絡先交換しない?」
「え……お、オレと志摩さんが、ですか?」

 超人気アイドルがそんな挨拶するみたいなテンションで交換とか言っていいのか? ちょっとは警戒した方がいいんじゃないか?
 オレが何よりも嫌なのは、【soar】が変な風にすっぱ抜かれて真那が落ち込む事だ。オレがここで志摩さんと連絡先を交換したとして、どこかで誰かが見てたらマズくないか?

「何かいろいろ考えてるみたいだけど、そこまで深刻にならなくても大丈夫だよ? 真那が大切にしてる陽向くんだからこう言ってるだけだし」
「オレはまだその信用には値しないと思うんですが…」
「そうかな。俺や風音は真那から陽向くんの事を良く聞いてるから、陽向くんがどれだけ真っ直ぐでいい子なのかを知ってるんだよね。会ったのは二回目だけど、陽向くんはちゃんと信用に値する子だよ」
「…………」
「それにもし真那から聞き出せた時、連絡先知らないと教えられないからやっぱりこれは必要な事だと思わない?」

 真那がどれだけオレの話をしていたのかは知らないけど、見上げる志摩さんの目は優しくて、真那の幼馴染みとしては受け入れられてるって感じはする。でも確かに教えて貰えないのは勿体ないから、オレはカバンからスマホを取り出すとメッセージアプリを起動した。

「コード読み取って貰ってもいいですか?」
「いいよ」

 QRコードを表示させて追加して貰うと「よろしく」と書かれた看板を持った【soar】ミニキャラスタンプが送られてきた。これ、オレも真那から貰ったけど真那ほんにんに送るのも違うと思って使えてないんだよな。
 でもこのミニキャラは可愛い。

「じゃあ聞けたら連絡するよ」
「はい、ありがとうございます。お願いします」
「今度は楽屋にでも遊びにおいでね」
「え」
「はは。じゃあね、陽向くん」

 楽屋とか、そんなとこお邪魔したら心臓壊れるかもしれない。だって楽屋ってスタジオだろ? スタジオって事は芸能人がいっぱいいるんだろ?
 うん、絶対緊張しまくる。
 爽やかに手を振って去っていく志摩さんに同じく手を振り返し、何だか胸がいっぱいになったオレは今日は帰る事にして来た道へと踵を返した。



 その日の夜、三日振りにうちに来た真那は出迎えたオレの顔を見るなり安心したように息を吐き肩に頭を乗せてきた。

「お疲れ、真那」
「ん。やっとヒナに会えた」
「家帰れてるか? 寝れてる?」
「何とか。……今日泊まってもいい?」
「別にいいけど。だったら枕持ってきた方がいいんじゃないか?」
「ヒナがいるからいらない」

 枕が変わると寝れないのに?
 グリグリと首筋に擦り寄せてくる真那の頭を撫でてから肩を押して身体を起こさせると、洗面所の方を指差し首を傾げる。

「なら先に風呂入ったら? その間にご飯作っとくし」
「そうする」
「着替えはいつものとこな」
「ん。……ヒナ」
「何……」

 少しだけ眠そうな真那が頷いて洗面所に向かったから、オレもキッチンに行こうと足を向けると静かな声で呼ばれて振り向く。瞬間ふっと影がかかり真那の顔がドアップになった。

「……真那」
「俺の頑張る力、なくなりかけだから」
「…まったく…」

 それ言えばいいと思ってるだろ。オレはお返しとばかりに軽く真那の腕を叩いて洗面所へ促すと、さっさとキッチンに向かって今日のリクエストである豚の角煮を温めるためコンロの火を点けた。
 帰って来てからずっと煮込んでたから、肉にも玉子にもしっかり味は染み込んでるはず。きっと真那も満足してくれるだろうな。


 ダイニングテーブルに出来上がった料理を並べ終えた頃、頭にタオルを被せた真那がリビングに入ってきた。
 じっとスマホを見てから壁に掛けられたカレンダーに視線を移すと、近付いて人差し指で次の日曜日をトントンしながら何かを考える。うちのカレンダー、予定も何も書き込んでないけどどうしたんだろう。

「ヒナ、ここ空いてる?」
「特に予定はないけど」
「じゃあ迎えに来るからそのまま空けといて」
「迎え?」
「当日のお楽しみ」

 カレンダーを見ているから無表情だけど、どこかワクワクした雰囲気を醸し出す真那に目を瞬きつつ、こういう時は教えてくれないって分かってるからそれ以上は聞かずに頭に入れておく。

「時間だけは教えといてな」
「うん。…いい匂い、美味しそう」
「今日は定食風にしてみた。全部食べられたらデザートな」
「……頑張る」

 嫌いな物が並んでる訳でもないのに頑張るとは一体。
 椅子に座り手を合わせる真那にお茶を出して頭をポンポンすれば、顔を上げてしばらくオレの事を見ていたのだが、何かを思い出したのか「あ」って顔をして立ち上がると自分の荷物の方へと向かう。
 カバンから真四角の箱を取り出すとオレにそれを差し出してきた。

「?」
「貰った。ヒナ、チョコ好きだから。あげる」
「真那だって好きじゃん」
「ナッツ入ってる」
「ああ、それは真那ダメなやつだな」

 アーモンドとかマカダミアとか、ナッツ類じゃなくても真那はチョコに何かが入ってるのが苦手だ。オレは歯応えがあって好きだけど、饅頭とかでも粒あんの粒が口の中に残るのがダメって人いるもんな。
 これはオレが有り難く頂こう。

「ありがとう」
「ん」
「よし、じゃあご飯食べよっか」

 リビングのテーブルに箱を置き、真那の手を引いてダイニングに戻ろうとしたオレの腕が逆に掴まれて引っ張られる。気付いた時には真那の腕の中にいて、その鮮やかさに目を瞬いた。

「真那?」
「明日お弁当作って欲しい」
「え? 別にいいけど…」

 それ言うために抱き締めたのか? そんな畏まって言わなくても、弁当くらいいくらでも作ってやるのに。

「真那、角煮冷めるぞ?」
「……ん、食べる」

 何か変な間があったけど、とりあえず腕を離してテーブルに向かってくれたしオレも椅子に座ろう。
 真那が何か言いたそうにしてるのは気付いてたけど、オレは敢えて知らない振りをして手を合わせ食事を開始した。言いにくい事は無理やり聞いたって意味がないから、真那が話したくなった時には聞くつもりだ。


 寝る前、身長的に同じベッドはキツいって言ってるのに頑として譲らない真那の為に床にダブルの布団を敷いたオレは、途端に機嫌の良くなった真那の隣に寝転び、真那の腕枕で眠りについた。

 こんな事、前から普通にやってたのに、今は少しだけ違って見えるのは気のせいだと思いたい。
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