人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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てんやわんや

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 どうやって説明しようか。玄関扉を開けるまでに考えていたオレは結局ストレートに言うしかないとノブに手を掛け押し開けた。

「待たせてごめんな」
「こちらこそ急にごめんなさい……あら?」
「三枝先輩、こんにちは」
「こんにちは。いらしてたんですね」

 オレの後ろを見て挨拶する二人にえ? と思って振り向くと真那がいて驚いた。いつからついて来てたんだ?

「二人とも、こんにちは」
「じゃあこれだけ渡しておくわね」
「?」
「中間や期末に使えるテスト対策ノート。学校にいる間だけだと時間足りないと思って」
「え、嘘。わざわざ作ってくれたのか? ありがとう!」
「私の復習にもなるから」

 そう、もうすぐテストがある為オレは今学校で二人に勉強を教えて貰ってる。放課後は自力で頑張ってるけど、授業で分からなかったところとかを休み時間に聞いたりしてるんだ。
 それを気にしてくれて、こんな綺麗なノートまで作ってくれるとか何て優しいんだこの子は。

「ってか上がって、お礼させてよ」
「でもお邪魔でしょう?」
「そんな事ないって。ちょっと驚く事はあるかもしれないけど」
「驚く事?」
「とりあえず上がりなよ。二人ならいいから」

 意外にも真那は二人には寛容でムスッとはならないらしい。
 千里はともかく、円香は卒倒しそうでちょっと心配だ。スリッパを並べて招き入れると、二人は不思議そうにしながらも「お邪魔します」と言って靴を揃えて脱ぎスリッパに足を入れた。
 さて、リビングに行くまでに話しておいた方がいいよな。

「あのさ、二人とも。今リビングに……」
「悪い、陽向。トイレ借りていいか?」
「こら風音。さっきゆっくりって言われたばかりだろ」

 少しでも緩衝材になればと話し始めたところでリビングの扉が開き、風音さんと志摩さんがタイミング悪く出て来た。
 あ、と思った時には風音さんが千里や円香を見てにこっと笑い「どうも」と挨拶してて……一瞬の静寂のあと、ボッて音がしそうなくらい一気に真っ赤になった円香は口を押さえて千里の後ろに隠れる。

「え? え? これは夢? 夢……そうだよね、夢じゃなきゃ風音くんが目の前にいるなんて有り得ない。何て幸せな夢なの。こんなに幸せな夢、起きるのは勿体ないけど覚悟を決めて起きなきゃ。ここで寝れば目が覚めるかな。よし、寝よう。おやすみ私!」
「夢じゃない、夢じゃないよ円香!」

 めちゃくちゃ早口で喋った挙句廊下で寝転んだ円香に慌てて駆け寄り肩を揺さぶる。パチッと目を開けた円香は涙目でオレを見上げると勢い良く首を振って否定した。

「これが夢じゃないなら何なの? まさか……天国!? 私いつの間に死んじゃったの!? ああでも、風音くんのいる天国ならいいかも…いいえ、むしろバンザイ大歓迎! 最高!」
「良くない! 良くないから戻って来て! ちゃんと現実だから!」
「やっば…この子面白い…っ」
「ってか千里? さっきから何も喋らないけど大丈夫か?」
「……陽向くん」
「何?」
「目が潰れそう」
「え! そりゃ志摩さんは確かにキラキラしてるけど、太陽とかじゃないから!」
「今なら死んでもいいわ」
「生きて!?」

 何で二人してそう物騒な思考に走るんだ。
 思った以上にパニックになっている二人に右往左往してるオレと、爆笑してる風音さん。苦笑しきりの志摩さんに、我関せずでオレの傍にいる真那。
 何この訳の分からない状況。

「えっと、円香ちゃん…だっけ? 寝るならリビングの方がいいぞ」
「風音さん!」
「お、推しに名前を呼ばれた…!? そ、そうですよね! ここだと通行の邪魔ですもんね! 陽向くん、リビングの床、貸してね!」
「せめてソファじゃないか!?」
「ふは…っ」

 円香、風音さんに遊ばれてる。いそいそとリビングに向かう円香を追おうにも千里を置いてはいけないし、かと言って女の子を無理やり引っ張ってなんてしたくない。

「やっべ、笑い過ぎて漏れる。トイレ借りるな」
「あ、はい。突き当たり左です」
「おー」

 腹を抱えて笑っていた風音さんは当初の目的を思い出したのか、廊下の奥へと進みオレが教えた場所にあるトイレに入って行った。

「とりあえず、あの子も行っちゃったしリビングに移動しようか」
「そ、そうですね。千里、動けそう?」
「ええ、大丈夫よ」

 おお、さすが千里だな。って思ってたら、物凄くぎくしゃくした動きで歩き出した。いつもは背筋がビシッとしてて立ち姿まで綺麗な千里が、関節が錆びたロボットみたいになってる。

「大丈夫?」
「!? だ、だだ、大丈夫、です!」

 ヤバい、こんな千里初めて見るからオレ、キュンキュンしてる。反応が可愛すぎるよ、二人とも。
 でもこれって、オレが早く話さなかったからこうなってんだよな。ほんっと申し訳ない。そりゃいきなり推しが目の前に予告なく現れたらテンパるよ。
 先にリビングに入った志摩さんと千里が固まってるから何かと思ったら、リビングの隅で仰向けになり腹の上で手を組んで目を閉じている円香がいて、オレは思わず頭を抱えてしまった。



「大変お見苦しいところをお見せしてしまいまして、誠に申し訳御座いません」

 ちゃんと現実だと理解した円香が正座して深々と頭を下げる。土下座までして堅苦しく謝る姿に真那以外苦笑しか出なくて、千里が肩を支えて起こして隣に座らせてた。

「円香は悪くないよ。オレが言うタイミング逃しただけで」
「そもそも、風音がいきなりこの子の前に出るからだろ? ゆっくりって言われてたのに」
「トイレは仕方なくね? それにしても……ふっ」
「こら」

 テンパりまくった円香を思い出したのか吹き出す風音さんに円香は真っ赤になる。いや、でもあれは仕方ないし、円香は何も悪くないからなぁ。

「いや、別に揶揄うとかそんなつもりはないんだけど…ごめんな?」
「い、いえ、とんでもないです」
「でも笑っちゃったし、気ぃ悪くしたよな。何かお詫び出来ねーかな」
「や、ホントに全然大丈夫なので…!」

 ここで、「じゃあサイン下さい」ってならないのが円香のいいところだよな。
 律儀な風音さんは何かしたいみたいだけど。

「ホント、風音がごめんね」
「い、いえ。謝る事なんて何も」
「まだ二回しか来てないのに、俺も風音も、陽向くんの家だとどうも気が抜けるみたいなんだ。普通に友達の家に来てるみたいな。だから、【soar】としてじゃなく自分らしくいられるせいか、風音の距離感も近くなるみたいで」

 何か凄く嬉しい事を言われているような。
 今オレは黙って成り行きを見守ってるんだけど、円香は依然恐縮しきりだし顔を上げられてないし、耳まで真っ赤にしながらもどうにか受け答えしてる感じだ。千里も志摩さんから距離を取って会話してるし…推しとの距離ってやっぱり大事なんだな。
 オレの推しはいつもゼロ距離で、今だって後ろからオレを抱き込んでるけど。

「そうだ。甘いもん好きか?」
「え? はい、好きです…けど…」
「じゃあ今度、陽向に渡しとくから貰ってな」
「え? そんな、え?」
「拒否権ねーからな?」

 首を傾げ、ニヤッと笑った風音さんに円香がはわはわして両手で顔を覆い何度も頷く。うーん、さすがアイドル。
 志摩さんも風音さんもイケメンだから、目の前であんなのされたら男のオレでさえ赤くなるだろうな。

「風音、俺たちはそろそろ帰ろうか」
「そうだな」
「「え?」」
「俺たちがいると気を遣わせちゃうからね」

 志摩さんがそう促して風音さんが頷いて立ち上がる。それに声を上げたのは円香と千里で、何故か慌てたようにソファから腰を上げた。

「あ、あの、私たちはいつでも陽向くんに会えますから、お二人が帰られる事はないと思います」
「そうですよ。せっかく遊びにいらしたのに」
「むしろ私たちが帰ります!」
「いやいや、それこそおかしいだろ」
「君たちはここにいていいんだよ?」
「いいえ、お二人がいて下さい!」
「お忙しいんですから、遠慮なさらなくていいんです」

 何か、譲り合い合戦が始まったぞ。真那は我関せずでオレの髪に鼻先を埋めてスンスンしてるけど、家主であるオレは立ったままどーぞどーぞと言い合う四人をどうしたもんかと眺める。

「ヒナ」
「何?」
「今日は一緒にお風呂入ろう」
「…何もしないなら」
「裸の可愛いヒナがいて、何もしないなんて出来ると思う?」

 嘘でもしないからって言うもんじゃないのか、そこは。正直な真那に溜め息をつき今だに何かを話している四人を見上げると、話題がいつの間にかオレの家の事に変わってた。
 どんな流れがあってそうなったんだ?

「そうなんだよ。初めて来た時にも物凄く落ち着くなって思ったくらい」
「陽向の雰囲気なんかなー」
「分かります。陽向くんの傍にいると肩の力が抜けるんですよね」
「一緒にいるとのんびり出来るというか」
「やっぱり陽向くん効果かな」

 何を言ってるんだ、この人たちは。なんか、このままじゃ更に話が二転三転しそうだしもういっそオレが纏めてしまうか。
 そう決めたオレはパンっと手を合わせると、一気にこっちに向いた四人ににこっと笑いかける。

「みんなで夕飯食べてから帰ろう。はい、決まり。異論は認めません」
「「「「………」」」」
「ヒナ、カッコイイ」

 終わらないなら終わらせてしまえばいい。そうキッパリ言い切ると四人はポカンとしたあと同じタイミングで苦笑し頷いた。

「陽向くんには敵わないな」
「ふふ、そうですね」
「こういう時ビシッと言えんのが凄ぇわ」
「言う時は言うんですよね、陽向くんって」

 しかもなんか普通に話せてるし。千里も円香も、俺みたいに人見知りする方じゃないし、志摩さんも風音さんも、自分は芸能人だからって気取ったりしないいい人だから打ち解けられれば案外仲良く出来そう?
 いや、でも千里も円香もまだ顔赤いしちょっとぎこちないな。

「じゃあお邪魔してる俺と風音が出すから、ちょっと贅沢しちゃおうか」
「え? や、オレ作るつもりで…」
「いいじゃん。ちょっとした飲み会みたいで楽しいし」
「俺と風音以外未成年だけどね」
「ヒナのは俺が出す」
「金出されるのも嫌ってか」
「だからオレが…」
「私と円香も、ですか?」
「もちろん。好きなもの教えて」
「お、推しと食事…っ」

 あれ、誰もオレの話を聞いてくれない? 真那なんかは早々にスマホでデリバリーアプリを開いてオレに持たせるし、四人は四人でアレがいいコレがいいと盛り上がってる。

「ヒナ、好きなの選んで」

 ぎゅうっと抱き締められオレの頭に頬擦りしてくる真那がスマホを指差して軽くスクロールさせる。
 もうみんなその気っぽいし、せっかくだから選んでみるか。

「じゃあハンバーガー」
「店いっぱいあるよ」
「え」

 一番有名なところ以外はぼんやりとしか知らないし、滅多に食べないから違いが良く分からないオレは、最終的には真那のお勧めの店で注文して貰いホッと息を吐いた。
 デリバリーって思った以上に高いんだな。


 その日の夕飯は久し振りに賑やかで笑いの絶えない食卓で、普段一人で摂ってる食事が如何に味気ないかを知った。やっぱり大勢でワイワイしながら食べるって楽しい。

 目の前で繰り広げられる他愛ない会話を眺めながら、またこうやってみんなで集まって食べられたらいいなと思った夜だった。
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