悪魔な義理弟《ボディーガード》~ヤンキー校最凶犬男子の独占欲が強過ぎる~

Kore

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最強のボディーガード

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「あ、あの……。宇佐美さん好きです!付き合って下さい」

放課後の閑散とした校舎裏。
よく知らない隣クラスの男子に話したいことがあると声を掛けられ、とりあえず言われるがままに付いてきたところ。予想通りの展開となってしまい、私はどう返答しようか頭をフル回転させる。

「えっと……。気持ちはとても嬉しいんですけど、今はまだ誰とも付き合うつもりはないというか……。あなたを危険な目に遭わせたくないというか……」  

「え?ごめん。言っている意味がよく分からないんだけど。それって、つまり期待していいってことかな?」

ひとまず、やんわりと否定はしてみたけど、どうやらこの人はハッキリ言わないと通じないらしい。

誰かを傷付けることは極力言いたくないのだけど、こればっかりは仕方ない。

「あの。そうじゃなくて、私は……」

そして、慎重に言葉を選んでから、早くこの場を切り抜けようと口を開いた矢先。

「私は世界一可愛い弟の面倒で手一杯だから、お前みたいな虫ケラなんか眼中にねえって言ってんだよ」

どうやら、既に手遅れだったようで。
いつの間にやら、背後には鬼のような形相をした櫂理かいり君が立っていて、突然男子の胸ぐらを掴むと、空高く持ち上げてきた。

「櫂理君、投げちゃだめ!」

それから、今まさに彼がしようとしている事を瞬時に察知し、私は慌てて櫂理君の腕にしがみ付く。

「分かった。じゃあ締め殺す」

「そういう意味じゃないっ!」

必死で訴えるも虫の居所が相当悪いみたいで、櫂理君は私の制止を無視して、男子の胸ぐらを掴んでいる手にどんどんと力を込める。

そのうち男子の顔面は青白くなり、泡まで吹き始め、猛烈な危機感が襲ってきた。

「早く離さないと今日の夕飯は櫂理君だけカップラーメンにするからね!」

そして、ここは最終手段と。
彼に効きそうな脅しをかけてみたら、効果覿面だったようで。櫂理君は胸倉を掴んでいた手を離すと、怖気付いた男子は咳き込みながら一目散にこの場から逃げて行った。


「莉子は甘いんだよ。てか、莉子の背後に俺が居ることをまだ知らない奴がいたとはな」

「本当に、その言葉通りの意味でびっくりしたよ」

男の子に声を掛けられたのは、ほんの数分前の出来事だったのに、一体櫂理君はどうやってここが分かったのだろう。

毎度告白される度に、召喚されたみたいに的確なタイミングで現れてくるので、GPSでも仕掛けられているのではないかと疑ってしまう。

「俺を誰だと思ってるんだよ?莉子に関する情報は即報しろって指示してるんだから逃すわけないだろ」

そう自信満々に話す櫂理君の表情は頗る悪人顔をしていて、改めて感じた弟の凄さと恐ろしさに思わず身震いしてしまった。



確かに、櫂理君に逆らう人なんて、おそらくこの学校では誰一人としていないと思う。


だって、彼は校内だけに留まらず、この地域一帯で一番最強であり、最恐だから。


そして、そんな彼に今日も私は異常な程愛され、守られている。




__半年前。



「なあ。父さん、母さん。俺、莉子と結婚したいんだけど」


休日の昼間、特にやることがなくて一家団欒でテレビを観ていたところ、なんの前触れもなく放たれた櫂理君の爆弾発言によって、危うく飲んでいたココアを吹き出しそうになった。

「あー……うん。いいんじゃない?」

そして、何よりも驚いたことは、両親の反応があまりにもあっさりし過ぎていて、この人達の頭のネジは何処かへ吹っ飛んでしまったのではという不安に駆られた。

「いや、ちょっと待って!櫂理君突然何を言ってるの!?そして、お父さんもお母さんも何でそんなあっさりと状況を受け入れてるの!?」

「え?だって櫂理が莉子のこと本気で好きなの始めから気付いてたし、姉弟って言っても義理じゃん。別に法律上は問題ないから、好きにすればいいんじゃない?」

捲し立てるように突っ込んでみたら、今度は至極当然のような顔付きで聞き返されてしまい、私は一瞬呆気に取られる。

「今は恋愛が多様化している時代だしな。それに、どこぞの馬の骨よりかは櫂理の方が安心だし。ただし、二人が高校卒業するまでは、莉子に手を出さないっていう条件が守れたらだぞ」

「ああ、分かった」

それから、追い打ちをかけるようにお父さんが念押しすると、櫂理君は素直に頷き、このぶっ飛んだ会話はあっけなく終了してしまったのだ。



__そして、現在に至る。


「やっぱり、うちの家族可笑しいよね!?普通、義理といえども、もう少し反論したりしないの!?てか、何で櫂理君はあんなに堂々と出来るの!?」

「えー……。それ今更そんなこと言ってもどうしようもなくない?てか、莉子の両親の理解力凄すぎだわー」

昨日告白されたこともあり、櫂理君の監視の目が更に強くなったせいで我慢の限界を迎えた私。

そして、その不満を美南にぶつけたら至極まともな返答をされてしまい、言葉に詰まる。

「てか、あの超絶イケメンに愛されてるんだからいいじゃん。それに、偏差値70以上もあるのに、わざわざ莉子を追いかけてこのヤンキー校に入学してきたんでしょ?お陰であたしらは目の保養が出来て、毎日ハッピーだから結果オーライじゃん」 

「いや。なんか後半話の趣旨がズレてますけど?」

せっかく人が真剣に相談しているというのに。
まともに取り合おうとしない美南の態度に、若干苛立ち始める。

「ていうか、莉子は櫂理君のことどう思ってるの?あれだけ好きだって言われてるんだから少しはグラつかない?」

すると、急に的を射る質問が飛んできて、油断していた私は小さく肩が跳ねた。

「そ、それは意識しないこともないけど……。これまでずっと可愛い弟として見ていたから、急に男としてなんて見れないよ……」

そして、しどろもどろになりながら心境を打ち明けると、段々と恥ずかしくなってきて、美南から視線を逸らしてしまった。



始めは、仲の良い姉弟関係だったのに。


お母さんが七歳の時に亡くなって、その三年後にお父さんが再婚した時、櫂理君は当時九歳だった。

その頃から少し捻くれていたけど、人懐っこい性格だから直ぐに打ち解けられ、気付けばいつも私の後ろをくっついていた。

昔から美少年だった彼は、性格も含め全部が可愛くて、私も櫂理君のことを本当の弟のように大事にしていたけど……。

それが理由だからなのか。

気付けば段々と櫂理君とのスキンシップが増え、一緒に居る時は何故かいつも距離が近い。

その時は、かなりのお姉ちゃんっ子になっちゃったなって。

そんな安易な考えをしていたけど……。


それが一気に覆されたのが、半年前の櫂理君の結婚したい発言。

本当に、寝耳に水だった。

まさか、櫂理君にそんな目で見られていたなんて、あの時は夢にも思っていなかったから。

それから、櫂理君の遠慮がなくなった。

家族の前でも堂々とスキンシップをするようになったり、受験の時も勧められていた学校を全部蹴って、この学校に入学してきた。

櫂理君なら、もっとレベルの高い学校を目指せたのに。

頭の悪い私が入れる近場の県立校と言ったら、このヤンキー校しかなかったのでやむを得ないけど、櫂理君は違う。

進学校に行けば、もっと可能性が広がったはずなのに、私のボディーガードになると行ってここまで付いて来てくれた。

お陰で、今は安心安全な毎日を過ごせるようになったのは良いけど……。




「あ、宇佐美姉だ」

「姉さん、お疲れ様です!」

「荷物重そうっすね。手伝いますよ」


「……あ。えと、結構です」


ボディーガードどころか、何故か私はこの学校内の極妻的な存在となってしまい、廊下を歩くと、すれ違う不良グループ達に次々と頭を下げられる。

「いやあー、やっぱり莉子の隣に立つと気分いいわー。皆あたしの下僕って感じ?」

「私は恥ずかしくて死にそうなんだけど」

先生に頼まれた荷物を手に持ち、なるべく周囲と目を合わせないよう身を縮こませながら歩く私とは裏腹に。
意気揚々とした面持ちで、廊下の真ん中を堂々と歩く美南の度胸には相変わらず恐れ入る。


この学校は昔男子校だったということもあり、男女比率は7:3で女子が圧倒的に少ない。
そして、未だ女子がなかなか集まらない要因は、この学校は不良の溜まり場だから。

更に言えば、この地区の不良が全てここに集結しているのではないかと言うくらい、校内はかなり荒れている。


器物損壊、脅迫、暴力行為は日常茶飯事。
卒業生が乱入してくることもしばしば。
風紀も乱れに乱れ、見てはいけない場面に出くわしたことも何度かあった。
先生達は勿論お手上げ状態で、警察の人が来ることも珍しくない。

そんな怖い人達が溢れかえる中、美南は数少ないまともな生徒のうちの一人で、一年生からクラスが同じ親友。

ほんのり茶髪のストレートで、ピアスもしているから始めは少し怖かったけど、話してみたら中身はとても真面目で、そのギャップに萌えた。

その上度胸もあって、絡まれそうになった時は守ってくれたりもして、頼れる私のヒーローでもある。


でも、それは去年までの話で。

櫂理君が入学してからは彼の圧倒的な力と権力により校内に統制が出来て、今では私に絡む人は誰もいなくなった。

それが良いことなのか悪いことなのか、姉の立場としては何だかとても複雑な気持ちになる。



「宇佐美櫂理いるかぁ!?」

すると、廊下の曲がり角を曲がった途端、突如聞こえて来た男の人の怒鳴り声。

何事かと声のした方を振り返ると、そこには私服姿のこれまた柄の悪い男五人組が金属バットを振り回しながら通路を闊歩している。

見たところ卒業生か、はたまた全く関係ない一般人か。
年齢は五人とも二十前後ぐらいに見え、タバコを咥えながら道ゆく人に絡んでいた。

「おい。今直ぐ奴を連れて来い。あと、この前うちの島荒らした落とし前つけろって伝えろ」

「わ、分かりました」

そして、近くにいた男子生徒の胸倉を突然掴み上げ、今にも殴りかかりそうな勢いですごむ姿に、私は慌てて彼らの元へと駆け寄った。


「あ、あの!私は宇佐美櫂理の姉です!彼はもう家に帰ったので、ここにはいません!」

本当は今すぐにでも逃げ出したい。
けど、この大人数で攻められたら、流石の櫂理君でも太刀打ち出来ない気がして。

物凄く怖いけど、ここは姉として大事な弟を守らなければと。使命感に燃えた私は、足を震わせながら柄の悪い人達を睨み付けた。


「へー。お前が噂の……」

「莉子ー!あんた何やってんのよ!?」


それから、男が私に手を伸ばそうとした直後。
背後から美南が勢い良く走って来て、私の腕を思いっきり引っ張った。

「だから、そうやって後先考えずに飛び出すなってあれほど言ったでしょ!あの、すみませんがそういうことなんで、私達はこれで失礼します!」

そして、私を一喝した後、美南は慌てて男達に頭を下げ、この場から立ち去ろうとした時だった。


「きゃっ」

突然もう片方の手を男に掴まれ、力強く引き寄せられる。

「おい、逃げんなよ。それなら、あんたでいいや。身内の粗相はしっかり取ってもらわないとだろ?お姉さん」

どうやら、私の考えはかなり甘かったようで。
男は怪しくほくそ笑むと、下心を含んだ目を向けられ、背筋がぞくりと震えた。



「……うわー。あいつ、よりにもよって宇佐美姉に手を出してるじゃん」

「マジで知らないのかよ。よくここまで乗り込んできたよな」

「本当にご愁傷様ー」


すると、緊迫した状況下。
何やら周囲から笑い声とヒソヒソ話が聞こえだし、男は血相を変えて勢い良く声のした方へと振り向く。

「おい、今笑った奴は誰だ!?俺をバカにした奴はぶっ殺……」

そして、怒号を飛ばして手に持っていたバットを振りかざした瞬間。

突然脇から現れた櫂理君の飛び蹴りが炸裂し、男は一瞬にして吹っ飛ぶと、そのまま廊下の壁に頭を思いっきり打ちつけ、その場で気を失ってしまった。

「バカをバカ呼ばわりして何が悪いんだ?」

それから、既に意識が途絶えている男の体を力強く踏みつけ、ポケットに手を突っ込みながらニヒルな笑みを浮かべて男を見下ろす櫂理君。

「か、櫂理君!?暴力は……」

ダメ!と言おうとした矢先。
背後から別の男が櫂理君の頭をバットで殴ろうとしたところ、瞬時に反応した櫂理君はそれを片手で受け止め、あろうことか、そのままバットごと男を窓ガラスに向かって放り投げる。

窓ガラスの割れる音と共に、男の上半身はそのまま外に投げ出され、下半身が窓枠にぶら下がっていた。


「ぎゃあああああ!宇佐美君やめてぇぇ!なけなしの修繕費で直した窓なんだよぉぉ!これ以上は壊さないでぇぇー!!」

すると、窓ガラスの割れる音で勢い良く駆け出してきた教師は、顔を青ざめて絶叫しながら櫂理君を止めようとするも。勢い付いた彼をどうすることも出来ず。櫂理君は怖気付いて動けなくなった残党に、尚も殴り掛かろうとする。

「櫂理君!本当にこれ以上はやめ……」

これは姉として、このまま弟を暴れさせるわけにはいかないと。
無理矢理にでも割って入り、彼を止めようした直後。
誰かに後ろから腕を強く引っ張られ、突然視界が真っ暗になった。

「ダメだよ莉子さん。今の状態で飛び込んだら、あいつらと同じ病院送りにされちゃうよ」

そして、少し低めのとても落ち着いた声が私を制し、顔と肩を手で押さえ付けられているせいで身動きが出来ない。

それから、視界を奪われたまま男達の悲鳴と物が壊れる音だけが響いてきて、状況が分からない分どんどん不安が募っていく。



そして、一分も経たない内に視界は解放され、目の前に飛び込んで来たのは、ところかしこに血を流して気を失っている男達と、無傷でその中心に立つ櫂理君の姿。

私は視界を奪った人物を確認するため見上げると、そこには穏やかな笑みを浮かべている圭君が立っていた。

「暴力はダメだっていつも言ってるのに……」

今回は相手が襲い掛かって来たので、正当防衛と言われればそうなのかもしれないけど、それにしてはやり過ぎる。

つい先程、櫂理君がやられるのではと危惧していたのが、いかに浅はかだったと思い知らされるくらいに。


始めに襲い掛かってきた男は頭から流血してるし、床に転がっている男の腕は若干変な方向に曲がっているしで。

これは校内暴力で処罰されるのかと思いきや。
先生の様子を見る限りだと、負傷した男達よりも、どうやら壊れた窓ガラスと備品の方が大打撃らしい。

「ねえ、莉子さん。この弱肉強食な世界では、そんな道理なんて通用しないよ?」

すると、終始笑みを崩さず、落ち着いた様子で私を諭してくる圭君。

その言葉に反応した櫂理君はこちらの方を振り向くと、倒れた男達を平然と踏み潰して私の元へとゆっくりと歩み寄ってくる。

「ああ、そうだ。莉子に手を出す奴は、誰であろうとこの俺が潰す」

そして、先程の悪魔のような形相から一変して。
物騒な言動とは裏腹に、柔らかい笑顔を浮かべながら、私の頬に優しく手を添えてきたのだった。
 
 
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