召喚者は一家を支える。

RayRim

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第2部

84話

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 フェルナンドさんの奥方、フロリアーナさんを加えた事で事態が動き出す。
 アリスとフロリアーナさんで役所へ赴き、噴火は時間の問題であるという事を伝える。
 それを防ぐために聖域があると言われたが、何らかの理由で配置変更が行われ機能していないと〈魔国創士〉の書状を添付して伝えると、担当者は顔を青くして上司の上司、ドワーフの総統を連れて戻ってきたそうだ。

 〈鉱国総統エルンスト・ヴェルケ〉の名は職人なら誰もが知る名工。
 梓に匹敵する武具を毎年数セット生み出しては世間の注目を浴びている。ただ、オレとしては装飾性に寄り過ぎているという印象を特に近年は受けており、 トップに君臨し続ける故に実用性重視ではダメだという事なのかもしれないと思う事にしていた。
 やや華美な白閃装備もあまり好きじゃない遥香は、氏の作品は絶対に着けたくないと言っているくらいである。梓に対する義理立てもあるのだろうが。

 強面の総統に『あ?うちの島で難癖付けて好き勝手するとはええ度胸じゃのう?』と言われたとか言われてないとか。

「言われてないわよ。紳士的だったけど、調整の許可が降りなかったわ。なんでも、装置が壊れて動かないんですって。昔は掃除のために定期的に動かしていたって文献があるらしいのよ。」
「動かせないのは厳しいなぁ…」

 アクアと協力して用意した、上からの見取り図を見ながらバニラがぼやく。

「こことここの配置が明らかにおかしい。ここは向きが変だな。」

 描き直されると、およそ半数が正確ではない事が判明する。聖域はただの展示場に成り下がっていたようだ。

「あー…ショックだよー…きっと1000年前の私は胸を高鳴らせて奉納したのに…」

 テーブルに側頭部を着けて嘆く梓。
 気持ちは分かる。後世へ多くの期待を込めての奉納だったはずが、この有り様では浮かばれない。

「やはり、海底から掘り進めるしかないか。」
「やれるもんならやってみろと言われたし、やるしかないわね。」

 腕を組み、野心的な笑みを浮かべるアリス。やるのはオレだが。

「ちょっとわたしの方でやってみたいことがある。リリ、悠里、手伝ってもらうぞ。」
「ユーリちゃんもですか?」
「ん?アレクが良かったか。魔導具を作るからな。」

 図を見ながら言うバニラ。

「いえ、そうではなく、このように重大な事に子供の仕事は…」
「遥香が二つ名を得たのは13、4の時だ。それに、魔導具製作に関して二人は当時の遥香をとっくに越えてるよ。」

 そう言われ、視線を逸らす遥香。
 まあ、10歳で初めて魔法に触れたのと比べるのは酷だろう。

「今の遥香の話じゃないからな。今は職人見習い3年目くらいで通じると思う。」
「誉められてる気がしない…」
「素人扱いじゃないだけマシだろう?」

 納得いかない様子の遥香だが、戦闘に偏った経験の積み方をしているから仕方ない。

「リリは5年目くらいだが。」
「えっ!?」

 とんだ流れ弾にすっとんきょうな声を上げるリリ。あれだけ出来て見習い5年目は厳しい評価だ。

「お前は偏りすぎてる。木に発揮してる才能を金属にも発揮してくれ。」
「返す言葉もございません…」

 本人も分かっているようで、素直に認めた。

「姉上、僕にやらせてもらえますか?」

 名乗りを上げたのはアレックス。聖域を見て以来、魔導具に対する向き合い方が変わったようだ。

「ああ、構わないぞ。ただ、責任のある仕事だ。試したいという気持ちだけでならやめておいた方が良い。」
「そんな気持ちではやりません。」
「なら頼りにする。リリより信頼できそうだ。」

 納得いかない様子で何か言おうと思ったみたいだが、アリスがこっそり謝る姿を見せたのでその評価に対する文句は言わない。

「…良いでしょう。アレクより素晴らしい職人であると証明してみせますから。」
「期待してるぞ。」
「はい!」

 オレの言葉に気合いの入った返事をするリリ。
 出来に計画がされそうな気がするので、作成班には頑張ってもらいたい。

「あの、私は…」
「やる気があるなら手伝ってくれても良いぞ?」
「やります!アレクだけに任せられません!」

 自らやると言い出す悠里。
 悠里は近接戦闘以外ならだいたいこなせる。アレックスも悠里と似た傾向だが、興味が魔導具に向いているのでそちらに期待したい。
 マイペースなアレックスに対抗心を燃やす悠里。この関係が良いか悪いかは分からないが、向上心に繋がるなら良い事なのだろう。

「手が増えるのは大歓迎だ。早く終わればその分、テスト出来る時間も増えるからな。」

 笑顔で受け入れるバニラ。これは焚き付けたのかもしれない。

「じゃあ、私も手伝おうか?」
「いや、遥香は警備をしてくれ。もしかすると、妨害があるかもしれない。
 公にしたことで、計画が知られることになったからな。」
「噴火の警告だけじゃなく、聖域の再配置まで言及しちゃったからねー…
 保守的な人達には忌むべき対象になっちゃってるかもー…」

 大事に首を突っ込んだだけに、厄介な状況に陥った事は間違いない。
 
「まあ、『やれるものならやってみろ』は、やっても構わないという言質として受け取ったから後はあなた達次第よ。その後のゴタゴタを想像すると、久し振りに胃が痛くなる思いだわ…」

 10年ぶりのポーズに思わず子供達とケリー、タマモ以外が笑う。

「父さんのサポートも欲しいが、適任がいないのは困るな…」
「まあ、何とかしてみよう。遺書は準備しておいた方が良いか?」
「ちょっと」

 アリスが本気のトーンで咎めようとするが、バニラが遮る。

「遺産の扱いはしっかりしてくれ。本気で禍根になりそうだから。」
「それもそうだな。書いたらカトリーナに預けておく。」
「私ですか…」

 不服そうだが否定はしない。
 元は特殊な所に所属していたのは聞いているから、必要なことだと分かっているはずだ。

「分かりました。戻ってきたら、しっかりとご自分で破り捨てて下さいね。」
「そうするよ。」

 納得いかない様子のアリスだが、カトリーナが否定しなかったので追及はしないようだ。
 それはユキやジュリアも同様の様子。遥香に至っては何言ってるんだという表情をしている。

「オレも死ぬつもりは無いが、万に一つは起こるものだし、起きてからじゃ遅いこともある。
 それに、一家と協力してくれた人達との繋がりの為に、必要なことなんだと分かって欲しい。」
「…分からない。けど、お父さんがそう言うなら。」

 遥香を見て言ったので、遥香が返事をしてくれる。
 そのやり取りを見て、顔を青くしている悠里。自分の仕事に人の命が懸かっているという事をようやく理解したようだ。
 アレックスは全く動じていない。大物なのか、マイペースなだけなのか分からんな。

「後の事は準備が整ってからにしよう。解散で良いか?」
「…ええ。私はフロリアーナさんと話してくるわね。」
「私もついていくよ。」

 そう言って、アリスとジュリアが出ていった。

「製作班は荷物をまとめて作業所だ。しばらくは寝泊まりするぞ。」
『はい。』

 バニラが中心となる製作班も出ていく。

「おとーちゃん、私もしばらく向こうにいるね。もっと刀作りに打ち込みたいから。」
「分かった。」

 梓も見送ると、残ったのは遥香、柊、フィオナ、ソニア、ケリーとメイド達。

「ヒガン様、ままなりませんわね…」

 寂しそうに言うフィオナ。

「そういう表情は失敗してからにしてくれ。今から葬式みたいな空気は困る。」

 苦笑いしながら言うが、フィオナは首を横に振る。

「ヒガン様達と違い、私達には想像がつかないのです。噴火という現象がどれ程の事なのか、規模、予想される被害、何一つ想像が出来ません…」

 フィオナが現地組の率直な感想を述べる。近くに居るソニアも頷いていた。
 それはそうだろう。火山はここ一つしかなく、ここに来るまで地震とすら無縁の生活だった上に、残っている史料もドラゴンと火山を混同したものくらいなのだから。

「一家はこれから何と対峙し、何に打ち勝つのですか?ご教示下さいませ。」

 姿の見えないものと戦うのだ。不安になるし、不満に思うのも当然だろう。
 これからの為に、しっかりとその疑問には答えなくてはならない。

「この西の山を形成した自然そのものだ。
 オレたちはこれからその自然の力に抗う。
 と言えば大仰だが、地下には巨大なマグマ溜まりがあって、それを山の裏の海へと吐き出させるだけの事だよ。」
「勝算はあるのですか?」
「無ければとっとと南に向かってる。
 バニラ達の仕事はそれを確実にする為のものだよ。」
「そうですか…」

 納得いかない様子だが、動き出した以上は納得してもらわなくてはならない。
 そして、残った皆には伝えておきたい事もある。

「もしもの時は、何よりも子供達とここに残った者とフロリアーナさんの安全を優先して欲しい。」
「お姉様達は…?」

 不安そうな表情のソニア。

「ごねるなら置いていけ。まあ、なんとしても生きようという意志は持っているだろうが。」

 皆、我が子の成長を見ずに無駄に命を棄てる性格ではないはずだ。

「遥香にはなんとしてもバニラと梓を引っ張って行ってもらいたい。二人は影移動も出来ないしな。」
「…うん。」

 オレにとっての最悪な事態は一家の誰かを失う事だ。それだけはなんとしても阻止しないといけない。

「心配するな。バニラが大袈裟に言っただけで危険な作業はない。
 ただ山を新たに一つ作る。それだけの事だよ。」

 大したことのない事のように振る舞ってみせる。
 正直、どれ程の魔力、制御を求められるか分からない。
 上手くいったところで、逆に騒動を起こしたと責められるかもしれない。
 そう思うと、止めておく方が良いのかもしれないが…

「お父さん、迷ってる?」
「正直な。」

 ジッと見ている遥香には誤魔化しきれないようだ。

「…やめましょう。きっと上手くいっても騒動の責任を取らされますわ。今なら私たちの名声を傷付けなくて済みます。」
「名声か…」

 そんなものは物事を上手く捗らせる為の道具にしか考えてこなかったが、ここまで来るとそうも言っていられなくない物になってしまったのだろうか?

「エディアーナ商会は名声と利用価値があるから協力して下さっています。ですが、それを失えば、これまでのツケをまとめて払わせられる可能性もありますわ。」
「そんな事はしない。商会はそんな不義理は行わない。何事も契約に基づき行わせている。」

 隅に居たエディさんが声を上げる。
 普段は眺めているだけだが、商会の事となると声を出さずにいられないようだ。

「言葉を変えましょう。契約の更新を求められ、これまで通りの協力は得難くなるのではないでしょうか?
 今まで通りに融通をしてくれるとは限りませんわ。」
「それは…」

 そこまで言われるとエディさんも答えに窮する。
 動き安くする為に得た名声がこの一件で一気に崩れ、各地で得られた協力まで失う可能性は否定できない。

 「この行為が逆に一家と協力して下さった方々との亀裂にならなければと願います。」

 そう言って、フィオナも部屋を出ていく。
 賛否はある。理由も様々だ。
 だが、事態を知ってしまった以上は見て見ぬふりは出来ない。オレは、オレ達は進むしかなかった。

「お父さん、大丈夫。フィオナは分かっているから。でも、ちゃんとした理由、根拠、勝算が得られないから困惑してるんだと思う。
 でも、お姉ちゃん達の準備が終わればそれが明確になるんでしょう?」
「そうだな。方法もそこから更に詰めていく事になる。」
「その時になれば分かってくれるから、それまでにお父さんもちゃんと準備しようね?」

 生意気そうに遥香に指を突き付けながら言われる。残っている皆の表情からも困惑が薄れているのを感じられた。
 一家の空気が悪くならないようにとの配慮だったのだろう。遥香には感謝せねばなるまい。

「そうさせてもらうよ。」

 オレもこの場を後にし、自室に籠ることにする。

「そうだ。紹介がまだだったな。」

 影からタマモとレッドを引っ張り出してテーブルに置く。なんだそのピッタリサイズの湯飲みは。

「レッドだ。仲良くしてやってくれ。」
『改めまして、この地の守護者のレッドです。何卒よろしくお願いします。」

 気が抜けたのか、随分と軽い挨拶である。

「うん、よろしくね。」

 そう言って差し出した遥香の指を、レッドが握り返したの見届けてから、借りた自室へ戻る事にした。
 やるべき事はただ一つ。その日まで可能な限り魔力を蓄え、整える為に瞑想を繰り返すだけだ。
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