精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第5章 冬休み、南部地方への旅

第89話 この人(?)を怒らせてはいけない。

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     **********

 どのくらいの時間担がれていたのだろう、降ろされたときには酸っぱいものが込み上げて涙目だった。
 狭い袋に詰められているせいでここがどんな場所かわからない。
 ご丁寧に袋の口が紐で縛ってあるので抜け出せないんだよ。
 背中の感触が硬いので無造作に床に置かれているみたいだ、投げ下ろされなくてよかった。

 わたしの他にもう一つ何か置かれた音がしたので、ミーナちゃんじゃないかと思う。


「やったぁ、俺達にもツキが回ってきたぜ!
 こいつら二人がうまい具合に他の連中から離れてくれるとは何て運がいいんだ。」

「凄いですぜ、船長!腕の良い治癒術師が二人も手に入りやしたぜ!」

「ああ、これでこんなみすぼらしい船ともおさらばだ。
 国に帰ってらこいつらでたんまり稼いで隣の船みたいなでっかい船を買うぜ。
 奴隷として売り払うか、俺達が金持ちから治療費を搾り取るかどっちが良いか迷うところだぜ。」

「苦労してこの大陸まで来たのに船の修理費で赤字だなんてシャレにならないと思ってたんですよ。
 しかし、こんな金の卵が手に入るなんて、やっぱり苦労して渡って来た甲斐がありましたね。」


 どうやら、ここは交易船の中のようだ。聞く限りでは、テーテュスさんの船の隣に停泊しているのかな?
 やっぱり、ミーナちゃんも捕まったんだ。
 この人達は、最初からわたし達を誘拐しようと狙っていたんだね。
 この人たちの話では、わたし達は奴隷として売られるか、この人たちに奴隷のようにこき使われるかのようだ。
 まあ、南の大陸には治癒術師はいないそうだから高く売れるのだろうけど。


 さて、どうしようか?
 わたし一人ならどうとでも乗り切れそうだけど、ミーナちゃんが冷静に動けるかが心配だ。
ミーナちゃんを盾に取られたら、思うように動けなくなる。


(おチビちゃん、誰でもいいからソールさん達にわたし達がいる場所を知らせてきて。)

 これでおチビちゃんがソールさんたちを連れてきてくれるだろう、ミーナちゃんとも打ち合わせしなきゃ。

(おチビちゃん、ミーナちゃんに今は大人しくしているように伝えて、迂闊に動かないようにって。)

 暗く狭いけどミーナちゃんにも少しの間辛抱してもらおう。


 外の様子を窺っているとバタバタと走る音が聞こえ、新たな人が入ってきたようだ。

「船長、出航の準備のことで相談があるんですが。」

「なんだ?出航を急がせろって言っただろう。できればすぐにでも碇を上げたいんだ。」

「いや、それは無理ですよ。まだ、水と食料の積み込みが終わっていないんですから。
 できる限り急がせますんで日没前には出航できると思いやすが。
 それで、港の利用料を船長に出してもらわないといけないんですよ。」

「そうだったな。おい、おまえら、きちんと見張っていろよ。金の卵を逃がすんじゃないぞ。」


 船長は、今来た人と出て行ったようだ。あと何人残っているのだろう?
わたしは、おチビちゃんに部屋に何人残っているか聞いてみた。
部屋の中には男が二人、廊下や近くに人はいないようだ。
おチビちゃん達がいるから周囲の様子は筒抜けだ、狭い袋の中じゃ身動きが取れないけどね。


(光のおチビちゃんお願い、そこの二人を眠らせて。)

 そうお願いすると少しの間をおいて何かが倒れこむような音が二つした。
光のおチビちゃんがうまくできたとわたしのマナごほうび強請ねだってきた。

 後はこの袋をどうにかしないといけないね。
わたしは、風のおチビちゃんにこの狭苦しい布袋を内側から切り裂くようにお願いした。
風のおチビちゃんがうまいこと布袋をズタボロに切り裂いてくれたので、すんなり袋から抜け出すことができた。


 袋から抜け出したわたしは、隣にころがされている布袋からミーナちゃんを助け出した。

「ターニャちゃん!無事でよかった!暗くて怖かったよ!」

 ミーナちゃんは涙目だった。そうだね、狭くて暗いところは怖いよね。
とりあえず、床で寝ていている二人は縛っておこう。ちょうど良い具合に紐は有るし。


 さてどうしよう。ミーナちゃんが人質に取られる心配がなくなったのでどうにでもなるけど。
やっぱり、光のおチビちゃん達に眠らせてもらうのが一番穏便に済むかな。

 その時、木の板を斧でかち割るような音が響いた。

「一体なんだってんだ!幾ら大船主だからと言って零細な船主に暴力を揮って良い道理はねえぞ!」

 船長が誰かに向かって叫んでいる。

誰かが足早に歩いてくる足音がする。

その直後、いきなりわたし達がいる船室のドアが斧でかち割られた。

「おう、お嬢ちゃん達、酷いことはされてないかい?」

 テーテュスさんだった。何も斧で扉を壊さなくてもいいのに、鍵掛かってなかったよ。

「おまえら、あたしの知り合いをどうするつもりだったんだい。こんな狭い船室に連れ込んで。」

 テーテュスさんに引き摺られてきた船長さんらしき男の顔色は真っ青だ。

「何で、テーテュスさんがここに?」

「何言ってるんだ、いきなり大量の精霊の気配が近づいてきたかと思えば、隣の船に入っていくじゃないか。
 あの数の精霊を引き連れているなんてターニャかハンナしかいないだろう。
 おまえ達がこんな船に用があるとは思えないので、大方こいつらがおまえ達を拉致ったんじゃないかと当たりを付けて来たんだ。
 案の定、途中であったチビがおまえらが捕まっているって言うから乗り込んできた。
 まあ、その様子じゃ、私の助けは要らなかったかも知れないがな。」

 助けに来てくれたのは嬉しいので素直に感謝しておこう。

「テーテュスさん、救出に来ていただき有り難うございした。本当に助かりました。」

 ただ、わたしが対処するよりも大事になっているけどね。
船はそこいらじゅう壊されているし、怪我人がいっぱいいるみたいだよ。

 ほどなくして、ソールさんが衛兵さんを連れてやってきた。
この船の船員は、状況を把握した衛兵さんに捕縛され連行されていった。

「ああいう短絡的な思考をする馬鹿がいるから船乗り全体の評判が悪くなるんだ。困ったものだ。」

 テーテュスさんは忌々しげにそう言った。

でもね、テーテュスさんのとった行動もよっぽどだと思うよ…。


 別荘に戻ったわたしとミーナちゃんは、ソールさんから「油断しすぎだ。」とこってり絞られた。



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