精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
89 / 508
第5章 冬休み、南部地方への旅

第88話 屋台でお昼を食べてたら…

しおりを挟む
 フライスィヒ領からポルトの別荘に戻った翌日、ミルトさんは貴族組三人を伴って公爵夫人主催のお茶会に出かけてしまった。
 近くの領主夫人を招待しているので、ヴィクトーリアさんを紹介するそうだ。
ポルトから東の領地はフライスィヒ領を始めとして穀倉地帯が多いから、食料の確保を円滑にしたいヴィクトーリアさんには願っても無い機会のようだった。


 四人が出かけてしまい残されたわたし達平民組三人はポルトの港町巡りをすることにした。
前回はテーテュスさんに会ったために、途中で切り上げちゃったからね。

  ちなみに、ミルトさんからわたし達もお茶会に連れて行きたいといわれたが、全力でお断りしたよ。
貴族のご婦人方のお茶会なんか行ったら気疲れするだけじゃん、ミーナちゃんなんか思いっきり首を横に振っていたよ。


 貴族組もいないことだし今日のお昼は屋台で食べようということになり、昼前に別荘を出て港町に向かう。前回同様に精霊神殿の前庭に魔導車を置かせてもらい、そこから徒歩で港を目指す。

 お昼時でもあり、どの屋台もお客さんで賑わっている。
 魚介類を炭火で焼いたものにイシリのような調味料をかけたものが、香ばしい匂いを漂わせていてつい引き付けられてしまう。

 イカを丸ごと一匹串に刺して炭火焼きしたものを買った。
焦げて香ばしい匂いを漂わせている調味料は何かと尋ねたら、ギョショウだと言われた。
南部地方には、たくさんの種類のギョショウがあり、それぞれ名前も風味も違うらしい。
あまりに種類が多いので、まとめてギョショウと呼んでいるらしい。
魚介類に塩を加えて発酵させたもの全体を指す呼び名みたいだ。
 学園祭で北部地方の子達が焼いた大きな貝に垂らしていたイシリもギョショウの一つらしい。


 他に貝、エビ、イカにたくさんの野菜を加えたスープに、米粉の麵を加えたものや海鮮と野菜を小麦粉を溶いたものと混ぜて焼いたパンケーキみたいなものも買ってみた。


 屋台が集まる周辺には、テーブルと椅子が置かれており自由に座って食べることが出来るようになっていた。
 わたし達もテーブルを一つ確保して、早速食事にありつくことにする。

「やっぱり、屋台で買って食べるものは気を使わなくていいですね。
 珍しいものが多くて目移りしちゃいました。どれも美味しそうな香りを立てているんだもの。」

 ミーナちゃんは屋台で食事をするときは、いつでも本当に嬉しそうだ。
貴族の料理はマナーとかに気を使って、食事を楽しめないといつもぼやいているからね。


「お姉ちゃん、これ凄く美味しいよ!」

 海鮮を野菜と一緒に溶いた小麦粉に混ぜて焼いたものを食べたハンナちゃんが満面の笑顔で言った。
 上にかけられているトロミのある甘辛いたれがミーナちゃんの気に入ったようだ。
 確かに美味しい、ハンナちゃんは味のはっきりしたものが好みのようだった。


 山海の幸がたっぷり入ったスープに米粉の麺を入れたモノ、あっさりとした塩味だったけど魚介と野菜の旨味がとっても効いていて凄く美味しかった。
 透明な麺はプルンとする食感でスープがよく絡んでとても良い組み合わせだった。


 ミーナちゃんも、細かい作法に気を使わずに美味しい物が食べられて満足そうだ。
ハンナちゃんは、ご飯の後はいつでも幸せそうだね。貴族組と一緒でも全然気にしてないし。


 今度は何かデザートでも買って来ようということになり、わたしとミーナちゃんは再び屋台に向かった。
 ハンナちゃん?屋台の人ごみが増えてきたのでテーブルで待ってもらっているよ。
迷子になるといけないから。
 ソールさんたちは、ハンナちゃんに付いて貰っている。誘拐でもされたらいけないからね。


 ミーナちゃんと手を繋いで屋台を見て回る。はぐれるといけないので絶対に手は離さないよ。

「あ、ライスシュタットで食べたナハトシッフがあります。
 わたし、またあれが食べたいです。」

 ミーナちゃんが珍しく自己主張をする。
あー、あれは美味しかったねあっさりとした甘味が癖になる味だよね。
 ミーナちゃんの希望をかなえることにしてナハトシッフの屋台に向かう。


 そのとき突然目の前が暗くなった、というより何も見えない。
焦っていたら、一瞬遅れて足が地面から離れ、横倒しになってお腹に何かが当たる。


「やったぜ!とっととずらかるぞ!」

 耳の近くでそんな声が聞こえた。
 どうやら、ズタ袋のようなものに押し込められ、荷物のように肩に担がれたらしい。

 しまった、油断した!
 どうやら誘拐に気を付けないといけなかったのは、わたし達も同じらしい。
 大人から見れば、八歳児も五歳児もたいした差は無いもんね。
 のんきにそんな事を考えていたら、誘拐犯はわたしを肩に担いだまま走り出した。

 やめて、走られるのはマジできついです…。
 お腹いっぱい食べた後だよ、肩に担がれて走られると揺れでお腹の中身がシェイクされる。
 も、もどす…。


 *臨時で1話投稿します。
  いつも通り20時にも投稿します。
しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...