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第9章 王都の冬
第229話 憂鬱な冬の過ごし方
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「ねえ、ルーナちゃん、いつもわたし達の部屋にいるけど大丈夫なの?
主に勉強とか、もうすぐ進級試験だよ。」
ここのところ、当たり前のようにリビングにルーナちゃんがいる。
いつも一緒にいるエルフリーデちゃんのグループがみんな親御さんのもとに行ってしまったので、わたし達以外に遊び相手がいないようだ。
「勉強なんか楽勝だよ、貴族同士の付き合いに比べたら勉強の方がずっと簡単だもの。
ボクには礼儀作法とか貴族特有の言葉遣いとかの方が勉強よりずっと難しいよ。」
日頃の言動からはとてもそうは思えないけど、これでいてルーナちゃんは勉強が得意なのだそうだ。
どのくらい得意なのかを深くは追求しないが、特別クラスから落伍していないのだからそこそこの成績なんだろう。
よくわからないけど、北部地方最果ての領地に住むルーナちゃん一家は王都の貴族とはかなり趣の違う生活をしているようだ。
ルーナちゃんの家族は礼儀作法とか言葉遣いにあまり頓着しないみたい。
だって、ルーナちゃんのお父さん、自分のことを『俺』って言ってたよ、あんな荒い言葉遣いの貴族って初めて見たよ。わたしは親しみが持てていいと思うけどね。
「そうですか、ルーナちゃんは昨年の冬休みはどう過ごされていたのですか?
昨年は私達も留守にしていたし、ずっと一人ぼっちだったのでしょう?」
ミーナちゃんの問い掛けにルーナちゃんはあっけらかんと答えた。
「去年?去年はみんなと一緒だったよ。
ボクが貴族の付き合いが面倒だから寮に残るって言ったら、みんなも同調しちゃって寮に残ったの。
両親のもとに行ったのは王都に屋敷を持っているエルフリーデちゃんとマイヤーちゃんだけだよ。
寮にいれば食事は出るし薪も使い放題なので、他の貴族の眼を気にしながらホテルで生活するより自由で良いって。
でも、夏に領地へ帰ったときに、みんな両親に叱られたみたいで今年は両親の滞在するホテルへ行くって…。」
昨年は毎日誰か一人の部屋に集まって、夜遅くまでお喋りして、そのまま一つの部屋で雑魚寝したそうだ。貴族のお嬢様のすることじゃないね…。
昼間の間に食堂からお菓子を貰ってきておいて、夜みんなでお菓子を食べながらお喋りしたんだって。楽しそうではあるね、みんなやりたい放題だったんだね。
**********
それじゃ一人ぼっちは寂しかろう、わたし達の部屋に入り浸る気持ちもわかる。
でも困ったことが一つ、わたし達三人はこんなに雪深い冬は初めてだから気が滅入るんだよ。
去年も雪に閉じ込められることに慣れていない南部出身の生徒が心を病んだみたいだしね。
だから、部屋に閉じこもっているのがイヤになったら王家の森に行って気分転換を図ることで冬を乗り切る予定だったの。
でも、ルーナちゃんが毎日遊びに来るものだから王家の森に行けないんだ、だってルーナちゃんだけをおいてけぼりにする訳にはいかないし…。
ストレスが溜まるといけないから、ハンナちゃんだけは毎日フェイさんに王家の森に連れて行ってもらっているの。
さて、どうしたものかと考えていると、ソールさんがわたしの思っていることを言い当てた。
「ルーナさんが遊びに来るから王家の森に行くことが出来なくて困っているのでしょう。
いっそのこと、みなさんを精霊の森にご招待したらいかがですか?」
「えっ?そんな事をして良いの?
でも、王家の森は王様ですら入れないんだよ、これ以上他の人を入れたら拙いと思うよ。
それに、わたしが育った精霊の森はもっと拙い、あそこには知られたくないモノがたくさんあるよ。
魔導航空機とか…。」
ソールさんの意外な提案にわたしの方がネガティブな意見を述べる。
「ですから、新しい精霊の森を作ればよいのですよ。
帝国の辺境で実際に作ったでは有りませんか。
新しい森で、ターニャちゃん達の同伴者のみ立ち入るを許すよう、精霊達にお願いするのです。」
その辺はソールさんが上手くやってくれるそうだ。
うん、それ、凄く良い!
暑い時や寒い時にみんなを誘って逃げ込める場所、そんなところがあったら素敵だ。
「ターニャちゃん達も学園の皆さんとだいぶ打ち解けてきたみたいですし、皆さんをご招待する施設があっても良いかなとは思っていたのです。
ターニャちゃんの同伴を条件にすれば、中で悪さを働くことはないでしょうし、そもそもそんな人とターニャちゃんが懇意にするわけ有りませんから、大丈夫でしょう。」
ソールさん達はそんな事考えていてくれたんだ、凄くうれしいよ。
とはいえ、勝手に森を作ることはできないとソールさんは言い、ちょっと許可を取ってくると行って出かけてしまった。
小一時間ほどして戻って来たソールさんは言う。
「ミルトさんに相談して森を作る許可を取ってきました。
西部地方に領主のいない荒地が何ヶ所もあるそうで、その地図を貰ってきました。
その中であればどこにいくつ作っても問題ないそうです。
ただし、作ったら必ず場所を教えて欲しいと言ってました。
知らないで、他の人に開発の許可を出してしまったら拙いからと。
それと、それを作ったらミルトさんも利用できるようにして欲しいって言ってました。
隠れ家みたいでワクワクすると言ってましたよ。」
どこに行ったのかと思ったらミルトさんに許可を貰いに行っていたのか。
さすがソールさん、根回しは完璧だね。
しかし、ミルトさん、隠れ家みたいでワクワクするって、そんな子供みたいな…。
「じゃあ、ターニャちゃん、少し留守にします。
滞在できる施設を作るので数日かかると思います。
ミツハとホアカリを残しますので、ちゃんと二人の言う事を聞いて大人しくしているのですよ。」
そう言って、ソールさんはフェイさんとシュケーさんを連れて出掛けて行った。
半日もかからずに森を作ってしまう三人が数日留守にするって?
いったい何を作るつもりなの?
主に勉強とか、もうすぐ進級試験だよ。」
ここのところ、当たり前のようにリビングにルーナちゃんがいる。
いつも一緒にいるエルフリーデちゃんのグループがみんな親御さんのもとに行ってしまったので、わたし達以外に遊び相手がいないようだ。
「勉強なんか楽勝だよ、貴族同士の付き合いに比べたら勉強の方がずっと簡単だもの。
ボクには礼儀作法とか貴族特有の言葉遣いとかの方が勉強よりずっと難しいよ。」
日頃の言動からはとてもそうは思えないけど、これでいてルーナちゃんは勉強が得意なのだそうだ。
どのくらい得意なのかを深くは追求しないが、特別クラスから落伍していないのだからそこそこの成績なんだろう。
よくわからないけど、北部地方最果ての領地に住むルーナちゃん一家は王都の貴族とはかなり趣の違う生活をしているようだ。
ルーナちゃんの家族は礼儀作法とか言葉遣いにあまり頓着しないみたい。
だって、ルーナちゃんのお父さん、自分のことを『俺』って言ってたよ、あんな荒い言葉遣いの貴族って初めて見たよ。わたしは親しみが持てていいと思うけどね。
「そうですか、ルーナちゃんは昨年の冬休みはどう過ごされていたのですか?
昨年は私達も留守にしていたし、ずっと一人ぼっちだったのでしょう?」
ミーナちゃんの問い掛けにルーナちゃんはあっけらかんと答えた。
「去年?去年はみんなと一緒だったよ。
ボクが貴族の付き合いが面倒だから寮に残るって言ったら、みんなも同調しちゃって寮に残ったの。
両親のもとに行ったのは王都に屋敷を持っているエルフリーデちゃんとマイヤーちゃんだけだよ。
寮にいれば食事は出るし薪も使い放題なので、他の貴族の眼を気にしながらホテルで生活するより自由で良いって。
でも、夏に領地へ帰ったときに、みんな両親に叱られたみたいで今年は両親の滞在するホテルへ行くって…。」
昨年は毎日誰か一人の部屋に集まって、夜遅くまでお喋りして、そのまま一つの部屋で雑魚寝したそうだ。貴族のお嬢様のすることじゃないね…。
昼間の間に食堂からお菓子を貰ってきておいて、夜みんなでお菓子を食べながらお喋りしたんだって。楽しそうではあるね、みんなやりたい放題だったんだね。
**********
それじゃ一人ぼっちは寂しかろう、わたし達の部屋に入り浸る気持ちもわかる。
でも困ったことが一つ、わたし達三人はこんなに雪深い冬は初めてだから気が滅入るんだよ。
去年も雪に閉じ込められることに慣れていない南部出身の生徒が心を病んだみたいだしね。
だから、部屋に閉じこもっているのがイヤになったら王家の森に行って気分転換を図ることで冬を乗り切る予定だったの。
でも、ルーナちゃんが毎日遊びに来るものだから王家の森に行けないんだ、だってルーナちゃんだけをおいてけぼりにする訳にはいかないし…。
ストレスが溜まるといけないから、ハンナちゃんだけは毎日フェイさんに王家の森に連れて行ってもらっているの。
さて、どうしたものかと考えていると、ソールさんがわたしの思っていることを言い当てた。
「ルーナさんが遊びに来るから王家の森に行くことが出来なくて困っているのでしょう。
いっそのこと、みなさんを精霊の森にご招待したらいかがですか?」
「えっ?そんな事をして良いの?
でも、王家の森は王様ですら入れないんだよ、これ以上他の人を入れたら拙いと思うよ。
それに、わたしが育った精霊の森はもっと拙い、あそこには知られたくないモノがたくさんあるよ。
魔導航空機とか…。」
ソールさんの意外な提案にわたしの方がネガティブな意見を述べる。
「ですから、新しい精霊の森を作ればよいのですよ。
帝国の辺境で実際に作ったでは有りませんか。
新しい森で、ターニャちゃん達の同伴者のみ立ち入るを許すよう、精霊達にお願いするのです。」
その辺はソールさんが上手くやってくれるそうだ。
うん、それ、凄く良い!
暑い時や寒い時にみんなを誘って逃げ込める場所、そんなところがあったら素敵だ。
「ターニャちゃん達も学園の皆さんとだいぶ打ち解けてきたみたいですし、皆さんをご招待する施設があっても良いかなとは思っていたのです。
ターニャちゃんの同伴を条件にすれば、中で悪さを働くことはないでしょうし、そもそもそんな人とターニャちゃんが懇意にするわけ有りませんから、大丈夫でしょう。」
ソールさん達はそんな事考えていてくれたんだ、凄くうれしいよ。
とはいえ、勝手に森を作ることはできないとソールさんは言い、ちょっと許可を取ってくると行って出かけてしまった。
小一時間ほどして戻って来たソールさんは言う。
「ミルトさんに相談して森を作る許可を取ってきました。
西部地方に領主のいない荒地が何ヶ所もあるそうで、その地図を貰ってきました。
その中であればどこにいくつ作っても問題ないそうです。
ただし、作ったら必ず場所を教えて欲しいと言ってました。
知らないで、他の人に開発の許可を出してしまったら拙いからと。
それと、それを作ったらミルトさんも利用できるようにして欲しいって言ってました。
隠れ家みたいでワクワクすると言ってましたよ。」
どこに行ったのかと思ったらミルトさんに許可を貰いに行っていたのか。
さすがソールさん、根回しは完璧だね。
しかし、ミルトさん、隠れ家みたいでワクワクするって、そんな子供みたいな…。
「じゃあ、ターニャちゃん、少し留守にします。
滞在できる施設を作るので数日かかると思います。
ミツハとホアカリを残しますので、ちゃんと二人の言う事を聞いて大人しくしているのですよ。」
そう言って、ソールさんはフェイさんとシュケーさんを連れて出掛けて行った。
半日もかからずに森を作ってしまう三人が数日留守にするって?
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