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第9章 王都の冬
第230話 森の隠れ家?
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「なに…、これ…」
「キャー、素敵!私、一度こんなところで暮らしたいと思っていたの!」
呆然と立ち尽くすわたしの横ではミルトさんが少女のような歓声を上げている。
ここはシュケーさん達が新たに作った精霊の森、目の前には立派なお屋敷が建っている。
森の中にひっそりと建つシックなお屋敷、そんな雰囲気にミルトさんは魅せられたようだ。
しかし、私は声を大にして言いたい、これ隠れ家って大きさじゃないよね。
隠れ家的な建物を造ると聞いていたから山小屋風の建物かと思いきや、目の前に建つのは貴族のお屋敷もかくやという木造二階建の大邸宅だよ。これ、全部でいくつ部屋があるの?
いや、そもそも、どうやって三日でこんな豪邸を建てたの?
確かに半日で森を作れることを考えると出来ても不思議ではないかもしれないけど…。
ソールさんが新たに精霊の森を作ると言って出かけてから五日経った、一昨日帰ってきたソールさんが完成したから確認して欲しいと言う。
今は、森を作ることに許可を出してくれたミルトさんを連れて、新しい森に確認に来たところなの。
例によって、王宮の最奥にある精霊の泉からフェイさんが新しい森に作った泉に、『精霊の道』を潜って移動する。
そして、泉から出てきたわたし達の前にそびえていたのがこのお屋敷って訳なの。
「ターニャちゃん、そんなところで呆けていないで建物の中を見てください。」
ソールさんに促されて我に帰ったわたしはソールさんの案内で建物の中に足を踏み入れた。
正面エントランスを入ると吹き抜けの大きなホールとなっている。
この部分だけ三階分の高さがあって独立した三角屋根を持っているんだ。
三階部分の正面にはバラを描いた丸窓のステンドグラスがはめ込まれており、赤と緑を中心とした光の影を対面の壁に落としている。
「ねえ、ソールさん、あの豪華なステンドグラスはどうしたの?
さすがに精霊の力でもあれは出来ないよね。
精霊は力は凄いけどデザインは得意じゃないものね、人間的な感性を持っていないから。」
「ああ、あれですか。あれは魔導王国の遺物ですね。
我々精霊には不要なモノですが、ターニャちゃんのために何かの役に立つかもと保存しておいたのです。」
あ、やっぱり、王国で買い入れたにしてはデザインが緻密すぎると思ったんだ。
芸術的な面でも、二千年も前の魔導王国の方が、今の王国より進んでいたみたいだから。
建物はこのホールを中心に両翼を広げるようにシンメトリーな配置となっている。
ホールの正面は二階へ続く広い階段となっており、途中に踊り場を設けてステージとしても使えるようにしてあるようだ。
一階は、共用スペースでダイニングルームの他、パーティルームや浴室、さらにはダンスホールなどもあるらしい。…ダンスホール?誰が使うの?
寝室は全て二階に配置されおり、全部で二十室、全てリビングルーム付きの部屋になっている。
各部屋に配置された調度品は華美な物ではないが、意匠を凝らした上質な物が選ばれていた。
これも、魔導王国の王宮に残されていた物だよね、きっと。
こんなに居心地の良い部屋を作ったら、絶対に「ここに住む」と言い出す人がいるよ。
ミルトさんとか、ルーナちゃんとか…。
「どうですかターニャちゃん、これならお友達を招待できるでしょう?」
ソールさんが得意げに言うが、正直やりすぎだと思う。これじゃ、王族の別荘か、貴族の本宅だよ。
「ありがとう、ソールさん。とっても嬉しいよ。」
わたしは精一杯の感謝の気持ちを込めて言葉を返した。
豪華すぎるという不満は言わないよ、わたしのために作ってくれたのだもの。
一階の共用スペースを案内しながらソールさんは言う、この建物の目玉は書庫と浴室ですと。
その言葉通り書庫には凄い数の本が置かれていた。
「魔導王国の王宮図書館の蔵書の中から、ターニャちゃん、ミーナちゃん、ハンナちゃんが成人するまでに読んで欲しい本を選りすぐって、ここに持ってきました。
長期の休みにはここできちんと勉強してもらいますので覚悟してくださいね。」
ソールさんは常日頃言っていたんだ、王立学園で教える勉強は易し過ぎるって。
わたしを王立学園に送り出したのは人の社会を経験させることが一番の目的なので学園で教える内容には目を瞑るけど、追加で勉強させないといけないと。
それで、ここを作るついでに、ここを勉強の場にしたいらしい。
うううっ、やっぱり、ソールさんは厳しいよ…。
そして、もう一つの目玉、大浴場。
たしかに、ソールさんが自信満々に言うだけのことはあった。
大きな浴室には大人が優に十人以上は入れる大きな湯船があり、今もいっぱいにお湯が張られている。
この風呂は一日中いつでも入れるんだって。
どうやってお湯の温度とかお湯の量とかを一定に保っているのだろう?不思議だ?
「すごい、これがお風呂なの?
この辺りは蒸し風呂が主流で、お湯に浸かるお風呂って見ないの。
南部地方ではお湯を張ったお風呂に入る習慣の地域があって、私もポルトの別荘で初めて入ったのよ。
でも、こんな大きなお風呂は初めて見たわ。
お湯に浸かって体を伸ばすとホッとするのよね。
体の芯から疲れが抜けていく感じなの、これは良いわね。
ねえ、ちょっと浸かっていって良いかしら?」
止めてください、今日は見るだけだといったでしょう。早く帰らないと王様に怒られますよ。
今にも服を脱ぎだしそうなミルトさんを宥めて、わたし達はミルトさんを浴室から引きずり出した。
建物のおおよそを確認するのに優に一時間以上を要したわたし達は改めてその大きさに驚いた。
「子供達が使うには少し大きすぎる感じはしますけど、よろしいのではないでしょうか。
素晴らしい建物だと思いますよ、特にお風呂が。」
建物の確認を済ませたミルトさんがソールさんに感想を述べている。
ミルトさん自身はここへ来てお風呂に浸かる気満々のようだ。
大丈夫かな…、ここに入り浸って王様や皇太子様から叱られるんじゃ…。
「キャー、素敵!私、一度こんなところで暮らしたいと思っていたの!」
呆然と立ち尽くすわたしの横ではミルトさんが少女のような歓声を上げている。
ここはシュケーさん達が新たに作った精霊の森、目の前には立派なお屋敷が建っている。
森の中にひっそりと建つシックなお屋敷、そんな雰囲気にミルトさんは魅せられたようだ。
しかし、私は声を大にして言いたい、これ隠れ家って大きさじゃないよね。
隠れ家的な建物を造ると聞いていたから山小屋風の建物かと思いきや、目の前に建つのは貴族のお屋敷もかくやという木造二階建の大邸宅だよ。これ、全部でいくつ部屋があるの?
いや、そもそも、どうやって三日でこんな豪邸を建てたの?
確かに半日で森を作れることを考えると出来ても不思議ではないかもしれないけど…。
ソールさんが新たに精霊の森を作ると言って出かけてから五日経った、一昨日帰ってきたソールさんが完成したから確認して欲しいと言う。
今は、森を作ることに許可を出してくれたミルトさんを連れて、新しい森に確認に来たところなの。
例によって、王宮の最奥にある精霊の泉からフェイさんが新しい森に作った泉に、『精霊の道』を潜って移動する。
そして、泉から出てきたわたし達の前にそびえていたのがこのお屋敷って訳なの。
「ターニャちゃん、そんなところで呆けていないで建物の中を見てください。」
ソールさんに促されて我に帰ったわたしはソールさんの案内で建物の中に足を踏み入れた。
正面エントランスを入ると吹き抜けの大きなホールとなっている。
この部分だけ三階分の高さがあって独立した三角屋根を持っているんだ。
三階部分の正面にはバラを描いた丸窓のステンドグラスがはめ込まれており、赤と緑を中心とした光の影を対面の壁に落としている。
「ねえ、ソールさん、あの豪華なステンドグラスはどうしたの?
さすがに精霊の力でもあれは出来ないよね。
精霊は力は凄いけどデザインは得意じゃないものね、人間的な感性を持っていないから。」
「ああ、あれですか。あれは魔導王国の遺物ですね。
我々精霊には不要なモノですが、ターニャちゃんのために何かの役に立つかもと保存しておいたのです。」
あ、やっぱり、王国で買い入れたにしてはデザインが緻密すぎると思ったんだ。
芸術的な面でも、二千年も前の魔導王国の方が、今の王国より進んでいたみたいだから。
建物はこのホールを中心に両翼を広げるようにシンメトリーな配置となっている。
ホールの正面は二階へ続く広い階段となっており、途中に踊り場を設けてステージとしても使えるようにしてあるようだ。
一階は、共用スペースでダイニングルームの他、パーティルームや浴室、さらにはダンスホールなどもあるらしい。…ダンスホール?誰が使うの?
寝室は全て二階に配置されおり、全部で二十室、全てリビングルーム付きの部屋になっている。
各部屋に配置された調度品は華美な物ではないが、意匠を凝らした上質な物が選ばれていた。
これも、魔導王国の王宮に残されていた物だよね、きっと。
こんなに居心地の良い部屋を作ったら、絶対に「ここに住む」と言い出す人がいるよ。
ミルトさんとか、ルーナちゃんとか…。
「どうですかターニャちゃん、これならお友達を招待できるでしょう?」
ソールさんが得意げに言うが、正直やりすぎだと思う。これじゃ、王族の別荘か、貴族の本宅だよ。
「ありがとう、ソールさん。とっても嬉しいよ。」
わたしは精一杯の感謝の気持ちを込めて言葉を返した。
豪華すぎるという不満は言わないよ、わたしのために作ってくれたのだもの。
一階の共用スペースを案内しながらソールさんは言う、この建物の目玉は書庫と浴室ですと。
その言葉通り書庫には凄い数の本が置かれていた。
「魔導王国の王宮図書館の蔵書の中から、ターニャちゃん、ミーナちゃん、ハンナちゃんが成人するまでに読んで欲しい本を選りすぐって、ここに持ってきました。
長期の休みにはここできちんと勉強してもらいますので覚悟してくださいね。」
ソールさんは常日頃言っていたんだ、王立学園で教える勉強は易し過ぎるって。
わたしを王立学園に送り出したのは人の社会を経験させることが一番の目的なので学園で教える内容には目を瞑るけど、追加で勉強させないといけないと。
それで、ここを作るついでに、ここを勉強の場にしたいらしい。
うううっ、やっぱり、ソールさんは厳しいよ…。
そして、もう一つの目玉、大浴場。
たしかに、ソールさんが自信満々に言うだけのことはあった。
大きな浴室には大人が優に十人以上は入れる大きな湯船があり、今もいっぱいにお湯が張られている。
この風呂は一日中いつでも入れるんだって。
どうやってお湯の温度とかお湯の量とかを一定に保っているのだろう?不思議だ?
「すごい、これがお風呂なの?
この辺りは蒸し風呂が主流で、お湯に浸かるお風呂って見ないの。
南部地方ではお湯を張ったお風呂に入る習慣の地域があって、私もポルトの別荘で初めて入ったのよ。
でも、こんな大きなお風呂は初めて見たわ。
お湯に浸かって体を伸ばすとホッとするのよね。
体の芯から疲れが抜けていく感じなの、これは良いわね。
ねえ、ちょっと浸かっていって良いかしら?」
止めてください、今日は見るだけだといったでしょう。早く帰らないと王様に怒られますよ。
今にも服を脱ぎだしそうなミルトさんを宥めて、わたし達はミルトさんを浴室から引きずり出した。
建物のおおよそを確認するのに優に一時間以上を要したわたし達は改めてその大きさに驚いた。
「子供達が使うには少し大きすぎる感じはしますけど、よろしいのではないでしょうか。
素晴らしい建物だと思いますよ、特にお風呂が。」
建物の確認を済ませたミルトさんがソールさんに感想を述べている。
ミルトさん自身はここへ来てお風呂に浸かる気満々のようだ。
大丈夫かな…、ここに入り浸って王様や皇太子様から叱られるんじゃ…。
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