精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第13章 何も知らない子供に救いの手を

第351話【閑話】得体の知れない化け物がいた

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 目を覚ますと俺は薄暗い部屋にいた。どうやら手足を拘束されて椅子に座らせられているようだ。
 部屋暗さに目が慣れてくると目の前には鉄格子があり、石造りの部屋であることがわかった。
 どうも牢獄の中らしい、しかも、俺は鉄製の手枷、足枷で椅子に固定されている。

 俺の魔法ではどうやっても、手枷足枷を破壊するのは無理なようで、お手上げである。
 それにしても、末席とはいえ『黒の使徒』の幹部に名を連ねる俺を牢に繋ぐとは、何たる無礼だ。

 すると、周囲がいきなり明るくなった。

「魔法の光?」

 俺が呟きをもらしたときのこと。

「目は覚めた?」

 鉄格子の向こうから声が掛かった。
 目を凝らすといつの間にか鉄格子の向こうに、俺の部下から『白い悪魔』と呼ばれた少女がいた。

「おじさんが、ザイヒト王子誘拐計画の指揮官役なんでしょう。先に他の人を尋問して聞いたわ。」

 どうやら、この娘は、俺をこの計画の責任者と知って、俺が目を覚ますのを待っていたようだ。

「貴様ら、『黒の使徒』の幹部である俺をこんな目にあわせて、どうなるか解っているのだろうな。」

 俺が凄んで見せると娘は臆すことなく言う。

「どうにもならないでしょう。
 だって、おじさん達が囚われたことを『黒の使徒』の連中が知ることはないのだから。
 おじさんたちの仲間は一人残さず捕らえたのよ、誰が本部に報告するの。
 そして、おじさん達は誰一人として生きて帝国の土を踏むことは無いの。
 ついでに、おじさんたちの船三隻とその中の物も全て接収したから、捕らえ損ねた人がいたとしても帝国まで帰れないでしょう。」

 全員捕らえられた?やはり、王都へ送った者も全て囚われていたのか。

「所詮は子供の浅知恵、俺達が戻らなければ『黒の使徒』から調査の者が来ておまえ等に囚われたことなど直ぐに分かるわ。
 その時になって後悔するなよ。」

「別にそんなことどうでも良いんだ、何か仕掛けてきたら今までどおり返り討ちにするだけだもの。
 場合によってはルーイヒハーフェンの時みたいに、盛大に報復するかもしれないけど。」

 やはり、娘は臆することなく淡々と言い返してきた。
 うん……今、何て言った?

「貴様、我々がルーイヒハーフェンの拠点を失うことになったことに何か関与しているのか!」

 俺が娘に問うと、娘は淡々と話し始めた。
 どうやら、あの町の『黒の使徒』の者がスラムの孤児を使ってこの娘の暗殺をしようとしたことが、この娘の癇に障ったらしい。

 この娘はどうやら、あの町の拠点に対し嫌がらせをしただけみたいだが、それが切欠となり民衆を巻き込んだ暴動に発展したようだ。その結果、我々はルーイヒハーフェンを失うことになったのだ。
 なんていうことだ、たかがスラムの孤児一人に対する仕打ちに腹を立てて、我々の拠点を潰したと言うのか。
 この娘は、帝国の真の支配者である『黒の使徒』のことを孤児以下位にしか考えていないのか。
 俺がはらわたが煮えくり返るような思いをしていると、娘は言ったのだ。

「おじさん、気付いてないようだから教えてあげる。
 今日おじさん達はわたし達におびき出されたんだよ。
 今日、警備が手薄になるという情報を流して孤児院を襲うように誘導したの。
 あの孤児院の子供達はルーイヒハーフェンのスラムから保護してきたの。
 あの子達、おじさんの仲間に酷い目にあったせいで、今でも夜眠れない子やうなされる子がいるの。
 だから、おじさん達は取るに足らない存在で怖くないって、分かってもらおうと思ったんだ。
 効果は抜群だった、みんな、もう『黒の使徒』なんか怖くないって言っていたよ。」

 するとなにか、この娘は俺達をスラムのガキ共のトラウマ払拭の為のダシに使ったというのか。
 この娘、俺達をどこまでコケにすれば気が済むのだ。


     **********


 俺がこの娘を怒鳴りつけようと思ったときだ。

「で、おじさん、わたしはこんな話をしに来た訳ではないの。
 わたしは『黒の使徒』に対する排斥運動をおおよそ把握しているんだけど、それが『黒の使徒』にとってどの程度の打撃なのかが分からないの。
 だから、教えてもらおうかと思ってね。」

 目の前の娘は生意気にもそんなことを言い出した。こんな小娘が『黒の使徒』の何を知っていると言うのだ。
 そう思っていぶかしんでいると、この娘は言ったんだ、「プッペンがこの国の貴族に渡していた賄賂が金貨……」と。
 プッペンが賄賂に使っていた金を皮切りに、製材所に投資した金額、リストがこの国に投資していた金額と次々に我々が最近被った損害が娘の口から発せられる。
 この国の中で被った損害が終ったかと思ったら、唐突に幾つかの地名が出てきた。
 ルーイヒハーフェンから始まる地名、最初は何かと思ったがよくよく考えてみれば全て『黒の使徒』に絶縁状を送りつけてきた町の名であった。

 地名が九つほど出てきたところで、娘は言った。

「あっ、いけない。おじさんがどこの港からやってきたのか知らないけど、最後の三つはここ一月のことだからおじさんが知る訳ないか。」

 ああ、確かに最初の六つは我々から離反した領地で間違いない。ということは、俺達がポルトへ向けて出発した後で三つも『黒の使徒』に離反した領地が出たのか。

 いやまて、何でこんな小娘がそんなことを知っているのだ。
 そもそも、離反したのがこの一月のことだって?何をどうやったらポルトでその情報が手に入るのだ。最後の三つの町はどんなに急いでも二月は掛かる距離にあるのだぞ。

 俺が混乱しているとこの娘は信じられないことを言った。

 この娘は、ルーイヒハーフェンの出来事を町の交易商達に立ち寄る港ごとになるべく正確に流すように協力を仰いだそうだ。
 海路での情報伝達速度は速くて、陸路の何倍もの速さで情報が伝わる。
 ルーイヒハーフェンで『黒の使徒』の排除に成功したという情報が流れると他の港町でも『黒の使徒』の排斥運動が始まると予想していたようだ。
 この娘は、『黒の使徒』が随分と商人に恨みを買っているとふんだのだ。
 『黒の使徒』の排斥に成功する町があれば、その情報も正確に流れるように交易商に協力を頼んでおいたという。
 そして、その情報は全てポルトに最速で着くように情報網を構築したと言うのだ。

「少なくても港町で『黒の使徒』に起こっていることは、あなた達よりも早く把握しているわ。」

 最後にそう言い切ったこの娘を俺は年相応の小娘には見ることができなかった、何か得体の知れない化け物、そう部下が言っていた『白い悪魔』に見えたのだ。

 

 

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