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第十七話 身の内に宿る才の芽から、瑞々しい若葉が
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次はラルーチェの番だと思い、彼女の方へ視線を向けた私は、自分の目を疑った。
「それは……自分でやったのか?」
彼女は自身の名前を表す<ラルーチェ>という文字を、空中に書いていたのだ。誰に教わったでもなく、私の言語による説明を横で聴いていただけで。
稀に、本当に極稀にいるのだ。彼女のような魔法を自然に扱えてしまう人間が。
「え、は、はい。ダメでしたか」
駄目なはずがない。
人はその身の内にいくつもの蕾を宿しているが、それがいつ、どの分野で花開くのかは、様々なことに挑戦し無ければわからない。ゆえに、一輪の花すらも咲かせることができないまま、天寿を全うする人も少なくない。
だというのに、この子は今、魔法現出者としての潜在能力を十分過ぎるほどに開花させた。
「いや、いい。むしろよくやってくれた」
魔法を知らないにも関わらず、言葉を一度聴き、現出過程を二度見ただけで魔法を現出させることができてしまうような人間を、私は一人しか知らない。
「それでは、ラルーチェにはもう少し難しい魔法をやってもらおう」
私は、心の奥底から久々に湧き上がってきた興奮を悟られないよう、努めて柔らかな表情を作り、落ち着いた声でラルーチェに語りかける。
「君には、燃える水を生み出してもらう」
液体燃料を燃焼させると考えるのではなく、あくまでも水が燃えるという現象を魔法によって具現化してもらう。
水という物質は流動的で一定の形状を持たないので、現出させるのが難しい。その上、可燃性という特性を本来燃えるはずのない水に付与させることは、魔法学部を卒業した魔法現出者でも至難の業だ。
しかし、この子ならば出来てしまうかもしれない。
「先ほど空中に文字を描いたように、君の頭の中にある水のイメージをそのまま空中に描いてみてくれ」
先ほどのウィルとは違い、言葉だけで魔法の現出過程を説明していく。言語によって伝わってきた不鮮明な情報の継ぎ目を、彼女自身の想像力によって補うことで、正解への道筋を見つけ出してほしいからだ。
「必ずしも水を水と考える必要はない。灰色の雲から降ってくる小さな粒、川に流れている涼しげな液体、喉を潤すための冷たい飲み物、結果として生み出されるのが水であれば、考える現象は何でもいいんだ」
既存の魔法を魔導書通りに現出させるだけならば、そう遠く無い未来に魔法道具で代替可能になるだろう。それゆえ、この子達は『魔法使用者』としてではなく、魔法現出者としての能力を鍛える必要がある。
その能力の最たるものの一つが、水平思考だ。水平思考とは、特定の結果を先に立て、それを達成するための過程を多角的に検討する思考法で、魔法現出に必須である存在定義を創造するのに有効な手段の一つだ。この能力を体得するためには、求めている結果を導くための過程を数多く考え、その中から一番自分に合うと思われる過程を選択して実行する、という思考プロセスを踏む必要がある。
この水平思考を身に付けてもらうためにも、私は魔法の現出過程を1から10まで説明するのではなく、現象だけを詳しく説明し、現象に至る過程についてはラルーチェ自身に考えてほしいのだ。
これは、魔法を覚えたての人間に要求する技術としてはレベルが高い。
だが、私の目の前で静かに思考している少女の表情は、難題に立ち向かう挑戦者のそれでも無ければ、不可能を直感した敗北者のそれでも無い。それは、召喚したばかりの召喚獣に似た、人間らしからぬ無表情だった。
---------------------
造語解説
『魔法使用者』:かつては『魔法現出者』と一括して魔法使いと呼ばれていたのだが、魔法道具の登場により、誰にでも魔法が使えるようになったため、単に既存の魔法を使用する者を魔法使用者、独自の魔法を生み出す者を魔法現出者と区別するようになった。
「それは……自分でやったのか?」
彼女は自身の名前を表す<ラルーチェ>という文字を、空中に書いていたのだ。誰に教わったでもなく、私の言語による説明を横で聴いていただけで。
稀に、本当に極稀にいるのだ。彼女のような魔法を自然に扱えてしまう人間が。
「え、は、はい。ダメでしたか」
駄目なはずがない。
人はその身の内にいくつもの蕾を宿しているが、それがいつ、どの分野で花開くのかは、様々なことに挑戦し無ければわからない。ゆえに、一輪の花すらも咲かせることができないまま、天寿を全うする人も少なくない。
だというのに、この子は今、魔法現出者としての潜在能力を十分過ぎるほどに開花させた。
「いや、いい。むしろよくやってくれた」
魔法を知らないにも関わらず、言葉を一度聴き、現出過程を二度見ただけで魔法を現出させることができてしまうような人間を、私は一人しか知らない。
「それでは、ラルーチェにはもう少し難しい魔法をやってもらおう」
私は、心の奥底から久々に湧き上がってきた興奮を悟られないよう、努めて柔らかな表情を作り、落ち着いた声でラルーチェに語りかける。
「君には、燃える水を生み出してもらう」
液体燃料を燃焼させると考えるのではなく、あくまでも水が燃えるという現象を魔法によって具現化してもらう。
水という物質は流動的で一定の形状を持たないので、現出させるのが難しい。その上、可燃性という特性を本来燃えるはずのない水に付与させることは、魔法学部を卒業した魔法現出者でも至難の業だ。
しかし、この子ならば出来てしまうかもしれない。
「先ほど空中に文字を描いたように、君の頭の中にある水のイメージをそのまま空中に描いてみてくれ」
先ほどのウィルとは違い、言葉だけで魔法の現出過程を説明していく。言語によって伝わってきた不鮮明な情報の継ぎ目を、彼女自身の想像力によって補うことで、正解への道筋を見つけ出してほしいからだ。
「必ずしも水を水と考える必要はない。灰色の雲から降ってくる小さな粒、川に流れている涼しげな液体、喉を潤すための冷たい飲み物、結果として生み出されるのが水であれば、考える現象は何でもいいんだ」
既存の魔法を魔導書通りに現出させるだけならば、そう遠く無い未来に魔法道具で代替可能になるだろう。それゆえ、この子達は『魔法使用者』としてではなく、魔法現出者としての能力を鍛える必要がある。
その能力の最たるものの一つが、水平思考だ。水平思考とは、特定の結果を先に立て、それを達成するための過程を多角的に検討する思考法で、魔法現出に必須である存在定義を創造するのに有効な手段の一つだ。この能力を体得するためには、求めている結果を導くための過程を数多く考え、その中から一番自分に合うと思われる過程を選択して実行する、という思考プロセスを踏む必要がある。
この水平思考を身に付けてもらうためにも、私は魔法の現出過程を1から10まで説明するのではなく、現象だけを詳しく説明し、現象に至る過程についてはラルーチェ自身に考えてほしいのだ。
これは、魔法を覚えたての人間に要求する技術としてはレベルが高い。
だが、私の目の前で静かに思考している少女の表情は、難題に立ち向かう挑戦者のそれでも無ければ、不可能を直感した敗北者のそれでも無い。それは、召喚したばかりの召喚獣に似た、人間らしからぬ無表情だった。
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造語解説
『魔法使用者』:かつては『魔法現出者』と一括して魔法使いと呼ばれていたのだが、魔法道具の登場により、誰にでも魔法が使えるようになったため、単に既存の魔法を使用する者を魔法使用者、独自の魔法を生み出す者を魔法現出者と区別するようになった。
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