隠居賢者の子育て余生

具体的な幽霊 

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第二十四話 知識の倉庫にて、子供達と語らう

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 書庫へ戻った私は、透明になって子供達の様子をしばらく観察することにする。私がいては見ることが出来ない子供達の本音に、少々興味があったからだ。
 子供達は、本を読んでいた。てっきり読書に飽きて何か別の事をしていると思っていたから意外だ。でも、よく見てみると、ちゃんと本を読んでいるのはラルーチェだけで、ウィルはラルーチェが本を読んでいるから、自分も本を読もうと努力しているって感じだった。
 ウィルが引っ張って、ラルーチェはそれに従うって関係性に見えたのだけれど、違うのかもしれない。心強き騎士ナイトと、物静かな王女様クイーンって関係が近いのかも。
 王女様ラルーチェは、熱心な読書家だった。初めて本を読むときってのは、大抵集中力が続かなくて目線が文字から外れるものなのだけれど、彼女は本から一切視線を外すことなく一心に本に向かっていた。貪るように読んでるって感じだ。
 三十分後、散々子供達を観察した私は、一度書庫から出て、姿を現してから再び書庫に入っていく。突然近くから私が現れたら、子供達を驚かせてしまうだろうから。
 音を立てず階段を下りる私に、ウィルはすぐに気付いてこっちを向いた。感覚の鋭い子だ。それに対してラルーチェは、私が目の前まで来ても全く気付く様子が無かった。
 
 「どうその本、面白い?」

 突然かけられた声に驚いてビクッとなったラルーチェは、私の方を見て小さく頷いた。可愛らしい仕草だ。
 
 「どの辺が面白いのか、お姉さんに教えてくれませんか?」
 
 私はラルーチェの正面で前かがみになって、八割方読み終えている本の感想を尋ねてみる。
 
 「えーっと、何ていうか、不思議な感じがして。不思議じゃないことが不思議に思えるようになったっていうか、普通だと思っていたことが普通じゃないって思えるようになったっていうか。そういうのが面白いなって」

 いかにも哲学の初歩って感じの感覚を抱いてくれたようでなによりだ。この本の読んで、変な事を考える人もいるんだなぁ程度にしか思わない人と、こういう考え方もあるのかと思う人とで、この本を読む価値は大きく変わってしまうから。
 現に、今のラルーチェの言葉を聞いていたウィルの表情は芳しくない。
 
 「不思議とか、普通とかっていうのは、人が勝手に思ってるだけだからね。皆が普通だって思っていても、それが実は普通じゃかったなんてよくあることよ」

 正確に言えば、普通のことを疑い、不思議な事を正しく理解する人々が、一般的な普通や不思議を創り出している。活版印刷によって本の価値が大幅に下がったとはいえ、まだまだ一般人が大量の情報に触れる機会は少ない。だから、ある時代の大衆が信仰する正義が、今の大衆が断罪する悪になってたりする。
 ま、こんなこと、まだ普通という感覚を培っている真っ最中のこの子達に言ってもよく分からないだろう。
 
 「じゃあ、ウィルにも訊いてみていいかな。その本、読んでみてどう?」
 
 ラルーチェにだけ訊くのもなんなので、まだ三分の一程度しか読み進めていないウィルに、ラルーチェよりも漠然とした質問を投げかけてみる。
 
 「……俺達が使ってた本より、紙が綺麗だった」

 初めこそ、ズル賢い回答だなと微笑ましく思ったのだけれど、すぐに違和感に気付いた。

 「ウィルは、本を読んだことがあるの?」

 「商人からいろんな事を教えられていたときに使っていたんです。計算とか、正しい言葉づかいとか」

 つまり、この子達は奴隷であるにもかかわらず、教科書を用いた教育を受けていたということだ。
 そのせいで本に対して悪いイメージを持っていないか心配になったけれど、ラルーチェの様子を見る限りは大丈夫そうなので良かった。
 少なくとも数年前までは、賢い奴隷は反乱の原因になりかねないから高値が付かなくなるというのが奴隷市場の常識で、指示を伝達しやすくするために文字を教えるということはあっても、それ以上の知識を与える事は無かったはずなのだけれど、最近はそうじゃないのかも。
 
 「具体的にどんなことを教わったのか、教えてくれない?」

 興味が湧いた私は、ウィルに教わった内容を教えてもらうことにした。
 その結果、この子達は平文字どころか比較的簡単な貴文字程度なら読むことが出来、基本的な四則演算を行うことも出来るということが分かった。これだけの知識があれば、書類整理や売上金の計算をすることが可能だろう。もしかすると、奴隷を肉体労働以外の用途で使おうと考えている人がいるのかも。
 
 「ありがとう、大体わかったわ。そろそろ食事が出来る頃だから、リビングに戻りましょう」
 
 ま、今は食事の方が先決だ。レキムが待っている。
 
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