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第十六話 学ぶという行動で、理解するという喜びを
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私はまずウィルと向かい合い、目を見てゆっくりと話しかける。
「ウィル、これから君には魔法を使ってもらう。私がこれから言う言葉を、頭の中で丁寧に唱えてくれ」
そこまで説明した私は、左手をウィルの後ろに回って頭の上に置いてから、一言一句を大切に声に出す。言語表現の限界を超える情報は魔法によってウィルの脳に伝える。言葉によって伝達した情報で描いた輪郭を、魔法によって伝達した情報で鮮明にしていくのだ。
「文字を書くのではなく、線を引く。線を引くのではなく、点を打つ。点を打つのではなく、穴を開ける」
私はウィルの右手を掴み、続ける。
「人差し指の先で、小さな穴を開ける。目の前に広がっている触れられない空間に、一つ、小さな穴を開けるだけ」
ウィルの人差し指の先の空間が、不自然に白く色付く。どうやら、上手く魔法を現出させることができたらしい。ここまでできてしまえば後は簡単だ。
「開けた穴の中に人差し指を指をかけ、ゆっくりと引き伸ばす」
小さかった白い穴がウィルの人差し指にによって引き伸ばされ、一本の白線となったのを確認した私は、ウィルの右手を離す。
「これを繰り返せば文字が書ける。お疲れ様、これにて魔法体験は終了だ」
そう言ってウィルの頭から手を離すと、空間に書かれていた白線が静かに消えた。
私がウィルに行ったのは、魔法という現象を現出させる過程を限りなく簡略的に理解させるための方法だ。
具体的に言うと、『魔導書』に書かれているような難解な言葉を使うことなく、魔法を用いた『超言語』のコミュニケーションで、平易な言葉が定義する広い概念を限定することにより、魔法を現出させるための存在定義を正しく理解させる、というものだ。
これは、あまり良い方法ではない。教えられたことを何も考えず行動に移すだけでは、奴隷とやっていることが変わらないからだ。だが、魔法は特別な人間にしか使えない、という固定概念を崩しておかなければ、魔法を真剣に学ぼうという気にならないだろうから、この方法を用いることで、自分が魔法を現出させられる能力を持っていると自覚して欲しかったのだ。
思っていた以上にウィルの呑み込みが早く、すんなりと魔法を現出させられた。おそらく、幼さゆえに固定概念が脆かったことが功を奏したのだろう。かつて貴族の老人共に教えた時は、こうも簡単にはいかなかった。
「初めて魔法を使った感想はどうかね?」
私は、力の抜けた表情で先ほどまで白線があった場所を見つめているウィルに話しかける。
「……なんだか、魔法を使ったって感じがしないです」
ウィルは、不思議そうに呟いた。
私からすれば、初めて使った魔法に対して違和感を覚えていることの方が不思議なのだが、ウィルが感じているような違和感を抱く者は多い。ウィルはまだ若いから良いが、身分だけ無駄に高い年寄り貴族がこうなっていると手が付けられない。
「君が魔法の事をどんな風に思っているのかは知らないが、魔法とは、別に特別な力ではないのだよ。自分の意志で自分の体が動くのが特別ではないように」
不可視な過程の上に立つ結果に対し、あらぬ偏見を持ってしまうのは仕方がないのかもしれないが、根拠なき主観を盲信した挙句、それがあたかも真実であるかのように他人に語るようなことがあってはならない。それは自身の愚かしさを誇っているのと同じなのだから……と、どこか他人事のように考えていたが、私自身がそうなっている可能性もあることに気付き、内省する。
「それが知るって感覚よ。不思議だって感じていた事柄が、本当は不思議じゃないんだって感じられたの。これからもっと勉強していくと、その知るって感覚がはっきりとしてくるのよ。どう?面白そうでしょ」
私が無言で内心と向き合っていたところ、透明になって一連の魔法現出過程を見守っていたアイラがスッと出てきて、ウィルが抱いている感覚に対し、私とは異なった見解を語る。
ここでどちらの意見が的を得ているのか、などという議論をする意味はない。なぜなら、答えはウィルの頭の中にしかなく、ウィル本人は先ほどの経験を言語化できるほど抽象的に認識できていないからだ。
よって、ウィルがアイラの言葉に対し頷いたことが、この場における結論を示している。
「その感覚を、これからもっと経験することになる。楽しみにしておくといい」
-------------------
造語解説
『魔導書』:魔法の存在定義を文字によって記述している書物全般。内容を出来る限り厳密に定義するため非常に難解な文章によって書かれており、読解することが困難。しかし、正確に読解しなければ魔法を現出させることができない。
また、複雑な魔法について記述している魔導書の中には、魔導書の著作者自体が文字の意味を間違えて使用している場合もあり、そのために後世へと受け継がれなかった魔法も多い。
『超言語』:言語で伝えられる限界を超えた情報。また、それを伝える手段。
「ウィル、これから君には魔法を使ってもらう。私がこれから言う言葉を、頭の中で丁寧に唱えてくれ」
そこまで説明した私は、左手をウィルの後ろに回って頭の上に置いてから、一言一句を大切に声に出す。言語表現の限界を超える情報は魔法によってウィルの脳に伝える。言葉によって伝達した情報で描いた輪郭を、魔法によって伝達した情報で鮮明にしていくのだ。
「文字を書くのではなく、線を引く。線を引くのではなく、点を打つ。点を打つのではなく、穴を開ける」
私はウィルの右手を掴み、続ける。
「人差し指の先で、小さな穴を開ける。目の前に広がっている触れられない空間に、一つ、小さな穴を開けるだけ」
ウィルの人差し指の先の空間が、不自然に白く色付く。どうやら、上手く魔法を現出させることができたらしい。ここまでできてしまえば後は簡単だ。
「開けた穴の中に人差し指を指をかけ、ゆっくりと引き伸ばす」
小さかった白い穴がウィルの人差し指にによって引き伸ばされ、一本の白線となったのを確認した私は、ウィルの右手を離す。
「これを繰り返せば文字が書ける。お疲れ様、これにて魔法体験は終了だ」
そう言ってウィルの頭から手を離すと、空間に書かれていた白線が静かに消えた。
私がウィルに行ったのは、魔法という現象を現出させる過程を限りなく簡略的に理解させるための方法だ。
具体的に言うと、『魔導書』に書かれているような難解な言葉を使うことなく、魔法を用いた『超言語』のコミュニケーションで、平易な言葉が定義する広い概念を限定することにより、魔法を現出させるための存在定義を正しく理解させる、というものだ。
これは、あまり良い方法ではない。教えられたことを何も考えず行動に移すだけでは、奴隷とやっていることが変わらないからだ。だが、魔法は特別な人間にしか使えない、という固定概念を崩しておかなければ、魔法を真剣に学ぼうという気にならないだろうから、この方法を用いることで、自分が魔法を現出させられる能力を持っていると自覚して欲しかったのだ。
思っていた以上にウィルの呑み込みが早く、すんなりと魔法を現出させられた。おそらく、幼さゆえに固定概念が脆かったことが功を奏したのだろう。かつて貴族の老人共に教えた時は、こうも簡単にはいかなかった。
「初めて魔法を使った感想はどうかね?」
私は、力の抜けた表情で先ほどまで白線があった場所を見つめているウィルに話しかける。
「……なんだか、魔法を使ったって感じがしないです」
ウィルは、不思議そうに呟いた。
私からすれば、初めて使った魔法に対して違和感を覚えていることの方が不思議なのだが、ウィルが感じているような違和感を抱く者は多い。ウィルはまだ若いから良いが、身分だけ無駄に高い年寄り貴族がこうなっていると手が付けられない。
「君が魔法の事をどんな風に思っているのかは知らないが、魔法とは、別に特別な力ではないのだよ。自分の意志で自分の体が動くのが特別ではないように」
不可視な過程の上に立つ結果に対し、あらぬ偏見を持ってしまうのは仕方がないのかもしれないが、根拠なき主観を盲信した挙句、それがあたかも真実であるかのように他人に語るようなことがあってはならない。それは自身の愚かしさを誇っているのと同じなのだから……と、どこか他人事のように考えていたが、私自身がそうなっている可能性もあることに気付き、内省する。
「それが知るって感覚よ。不思議だって感じていた事柄が、本当は不思議じゃないんだって感じられたの。これからもっと勉強していくと、その知るって感覚がはっきりとしてくるのよ。どう?面白そうでしょ」
私が無言で内心と向き合っていたところ、透明になって一連の魔法現出過程を見守っていたアイラがスッと出てきて、ウィルが抱いている感覚に対し、私とは異なった見解を語る。
ここでどちらの意見が的を得ているのか、などという議論をする意味はない。なぜなら、答えはウィルの頭の中にしかなく、ウィル本人は先ほどの経験を言語化できるほど抽象的に認識できていないからだ。
よって、ウィルがアイラの言葉に対し頷いたことが、この場における結論を示している。
「その感覚を、これからもっと経験することになる。楽しみにしておくといい」
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造語解説
『魔導書』:魔法の存在定義を文字によって記述している書物全般。内容を出来る限り厳密に定義するため非常に難解な文章によって書かれており、読解することが困難。しかし、正確に読解しなければ魔法を現出させることができない。
また、複雑な魔法について記述している魔導書の中には、魔導書の著作者自体が文字の意味を間違えて使用している場合もあり、そのために後世へと受け継がれなかった魔法も多い。
『超言語』:言語で伝えられる限界を超えた情報。また、それを伝える手段。
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