魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います

高井うしお

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3話 カモミールとエルダーフラワー

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 がらがら、と揺れる馬車に私は乗っている。救護班と一緒になって邪竜討伐軍の列に加わって王城を目指していた。

「ルベルニア王国の領土は広大で国力も強いのですが、あちこちに時折魔獣が出るのです。今回は特別凶暴な邪竜が出たので王国軍が派遣されたのですよ」

 先程から親切に説明してくれるのは救護班の回復術師ザールさんだ。彼は茶色の髪を緩くひとつに纏め、明るい緑の瞳が優しげで親しみのある風貌だ。

「軍を率いているのは第二王子フレデリック様です。剣技に優れ、自ら魔獣の前に躍り出る勇敢な方です。今回の魔獣にとどめをさしたのも殿下だとか」
「へぇ……」
「あの竜は命の危険を感じると毒を吐く竜だったみたいですね。完全に油断した兵士達の大部分があのような事態になった時にあなたが来てくれるだなんて……まるで神の恵みのようだ……」
「そそそ、そんな。大袈裟ですっ」

 ――天国の父さん、母さん。真白です。私は今異世界にいます。異世界で唐突に大量の兵士を救ってしまい、住む所も仕事もないので王城にお世話になる事になりました。何を言ってるか分からないって? 私も分かりません。

「真白さん……あなたが救った兵士達があなたをなんと呼んでいるかご存じで?」
「それって……」
「そう『救国の聖女』様ですよ。確かにあの邪竜を倒せなければ国中の人々が危ないところでした」
「あああああ……」

 私は顔を真っ赤にして耳を塞いだ。なにそれ! なにそれっ!? 小っ恥ずかしい!

「……真白さんは照れ屋さんなんですねっ」
「ははは……」
「それにしても大変ですね。記憶がないなんて……ご家族も心配してるかもしれませんね」
「はい……」

 父さん、母さんごめんなさい。私は盛大に嘘を吐きました。だってしかたなかったんです……。私は手元の本をぎゅうっと握りしめた。 

「あっ、王都の門が見えて来ました!」

 ザールさんが興奮気味に指を指す。そこには高い壁と堅牢な石造りの門がそびえ立っている。討伐軍が街に入ると、街の人々がわっと歓声を上げた。

「ありがとう! ありがとう!」
「ルベルニアの英雄、万歳!」

 どこからか沢山の花びらが舞って私達を歓迎してくれる。そうか、この人達からしたら自分達を守ってくれた英雄なのか。

「フレデリック殿下ーっ!」

 ここから先頭のフレデリック殿下の様子は見えないが、黄色い歓声がここまで響いてくる。そりゃね、あんなイケメンが鎧着て馬で軍の先頭にいたらそうなるよね。

 そんな大騒ぎの街を抜けて今度はお城の中に入った。ラッパが高らかに鳴って討伐軍の帰還を知らせる。

「帰ってきた……」

 ザールさんはほっとしたように首をたれた。お疲れ様……。その後私は城の離れの棟にある一室に通された。

「この部屋をご自由にお使いくださいとの事です。わたくしはクラリスと申します。真白様の侍女を務めさせていただきます」
「……侍女?」
「はい!」

 部屋に案内してくれた赤毛にそばかすの可愛らしい女の子はにっこりとそう言って笑った。

「侍女……とか私には必要ないと思うんですが」
「お言葉ですが、身の回りの世話をせよと命じられていますので……」
「でも」

 こちとらドのつく庶民なのだ。いきなり侍女と言われても困る。

「大丈夫、なんとかするから!」
「……そうですか。まぁ何かあったらこのベルを鳴らしてください」

 クラリスはベルを小机の上に置くと下がっていった。これでようやく一人になれる。

「ふう……」
『やっと人気がなくなった』
「わっ」

 そうか、リベリオが居た。リベリオは気が付くと人型をとっていた。

『これでのたれ死には回避できたな』
「人ごとみたいに……それで帰り方は分かったの?」
『昨日の今日で分かるものか!!』
「しかたないわね……しばらくここで暮らすのか……って私のアパートより数段立派だけど!」

 一人なので小さな部屋でいいと確か伝えたと思う。だけどこの部屋はまるでホテルのスイートルームみたいだった。泊まった事ないけど。

 燦々と陽光を取り込む南向きの大きな硝子窓には蔦模様のカーテン。キャビネットとソファ、そして文机。

「それから……これ」

 私は私が三人は眠れそうな大きなベッドに寝転がった。天蓋付きベッドだなんて嘘みたい。

『……随分気に入ったみたいじゃないか』
「はっ!」

 リベリオはベッドを転げ回る私をちょっと引いた顔で見ていた。

「現実逃避よ、現実逃避! あーっ、仕事クビになったらどうしよう」
『真白は仕事仕事ばかりだな』
「しかたないでしょ、五年前に両親を事故でいっぺんに亡くしてそれから働きづめだったんだから」

 そう言うと、リベリオはふっと笑った。

『ではこう考えたらいい。この度の事は休暇だと。ゆっくり過ごせばいいさ』
「あんたはなんでそんな他人事なのよ!」

 リベリオにはそう言ったけど確かにそう考えた方がいいかもしれない。こんな非現実的な事、二度とないだろうし。もしかしたら起きたら図書館かもしれないし。

「くよくよしてても仕方ないか」
『そうだぞ』

 私は同調したリベリオの耳を引っ張った。リベリオは盛大に悲鳴をあげる。

『いたたたた!』

 もう、大袈裟なんだから。さぁ、腹をくくったら急に自分の現実が襲いかかってきた。

「はあ、やっぱりボロボロ……」

 私はキャビネットの横の姿見をのぞきこんでため息をついた。私達が居たのは岩がゴロゴロした崖の近くだった。風も強くて埃っぽい。そこから強行軍で王城まで来たのだ当然、髪はキシキシするし顔はべたべただ。

「お風呂入りたい……」

 私はさっそくお風呂の場所を聞こうとベルに手を伸ばした。その手を掴んだのはリベリオだった。

『これ……風呂に入れるといい』
「カモミールとエルダーフラワーのドライハーブ……ありがとう」

 どちらも美容やリラックスにいいものだ。リベリオはリベリオなりに責任を感じて気遣ってくれてるみたいだ。

『では、ゆっくりするといい』

 そう言ってリベリオは本の姿に戻った。私がベルを鳴らすとすぐにクラリスがやってきた。

「御用でしょうか」
「あの……お風呂はどこかしら……」 
「はい、すでに用意できております」

 私はクラリスの手際の良さに驚きながら続きの部屋に通された。お風呂というか巨大な桶に湯が満たされている。

「ではお流します」
「いいです! 自分でやります」
「でも……」
「いいから!」

 私はなんとかクラリスを追い出した。温かいお湯にハンカチに包んだドライハーブを入れて浸かる。

「ふう……気持ち良い……」

 昨日から色々とあってささくれていた気持ちが解きほぐされていった。
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