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24話 殿下をご招待
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「真白さん、こっちの方の傷を洗っているのでそちらの方の打撲にポーションを使ってください」
「はいっ」
そしてまた騎士団での仕事がはじまる。ブライアンさんも戻って来たから怪我人がまたぐっと増えた。ザールさんが外傷のある兵士さんの対応をしている間に私は別の兵士の対応をする。
「はーっ、良く効きますね! 真白さんがいるから怪我も怖くないです」
「駄目ですよ、怪我しないのが一番なんですから」
「はーい」
嵐のような朝の鍛錬の後の手当を終えて、ようやく私達も一息つける時間が訪れる。
「賑やかでしたね」
「いいのか悪いのか……」
ザールさんは苦笑しながら答えた。ここ数日、お互い休憩中も派遣された騎士団の事が心配でそわそわしていたからこういう時間は久し振りだ。
「さーてそろそろ飲み頃ですね」
私は冷蔵庫を開けた。中には硝子のポット。緑の液体がそこには入っている。水出しの緑茶だ。そうしてちょっと一工夫。グラスに刻んだミントとレモンを添えてそこに冷たい緑茶を注ぐ。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます。……うん、爽やかで美味しい」
「リフレッシュできますね」
患者がこない時間はこうやってゆっくりできるし……救護棟はホワイト職場なのでは、なーんて。
近頃は暑さも日差しも増してきてこういうさっぱり系のドリンクがおいしく感じられる。
「あの、ザールさん。今は夏なんですかね」
「ええ、これから三ヶ月くらいは夏ですかね。これからもっと暑くなります」
帽子を買っておいて良かった。白い帽子はお出かけの時にして、麦わら帽子を普段使いにしよう。
「そうだ、これを買ったんです……」
私がザールさんに城下で買ったバッグを披露しようとした時だった。救護棟の扉がノックされる。どうぞと声をかけると入って来たのはフレデリック殿下だった。
「何かありましたか!?」
私が慌てて立ち上がると、殿下は笑いながら首をふった。
「何も。ただ様子を見に来ただけだ」
「そうですか……」
「それはなんだ?」
殿下は鞄を抱えたままの私を見て不思議そうな顔をした。
「あ、昨日ブライアンさんとの買い物で買った仕事用の鞄です」
「そうか……ブライアンと……」
「すみません、隊長さんを休日に連れ回したりなんかして」
「いや……それは別に……。で、その鞄を買ったのか」
「はい。本を入れる鞄が欲しくて」
辞典がいないと私はポーションなどが作れない。それに辞典は私と元の世界を繋いでいる鍵なのだ。
「それは魔法の本だったな。大事にしているのだね」
「はい。大きさもちょうどよくて、ほら……ここに焼き印で模様をつけてくれたんですよ。お気に入りになりました」
革だから使っていくうちに馴染んでもっといい感じになるだろうと思うと楽しみだ。
「買い物は楽しめたようだな」
「はい。食材も買って夕食は私が作りました……あ! そうだ、殿下をお誘いしてましたよね。今度の休日はいかがですか?」
「え……あ、大丈夫だが……」
「そうですか、じゃあ腕を振るいますね」
私がそう言うと、フレデリック殿下は目を丸くしていた。……ちょっと強引だったかしら。
「真白は料理もするのか……」
「しますよ。私の周りはそれが普通だったから今の方が変な感じです」
「そうか……私も真白のいた世界の話が聞いてみたいな」
「ええ、いいですよ」
また週末の楽しみが出来た。どちらかというと以前は平日に人疲れして休日は一人の時間を愛しているくらいだったのにな。
「ああ、そうだ。殿下こっちに来て下さい」
「ん?」
私は救護棟の外に出て、薬草畑にした場所をフレデリック殿下に見せた。
「殿下のローズマリーも多分根付きましたよ。あとひと月くらいしたら安心できると思います」
「おお……」
フレデリック殿下はそっとローズマリーに触れた。
「不思議だな」
「切った所から根が出て殖やすことが出来るんです。もっと大きくなったらまた同じ様に殖やすこともできます。それまでにザールさんに加工や利用方法などを伝えておきます。そしたら私が帰っても少しだけみんなの手助けができます」
「真白……」
「ふふ、ちょっとは殿下のお役にたってますかね」
そう言ってフレデリック殿下を見上げると、殿下は口を覆って何か堪えるような顔をしていた。
「……どうしました?」
「真白、真白はもう十分役に立ってくれてる」
「でも、住む所も仕事もお世話になりましたし……あと……」
「あと?」
「私、殿下の事尊敬しているんです。私には分からないような重圧があるんだろうなって。でも殿下は戦場で拾った私の事まで気に掛けてくれますし」
そう。私はそれがとても嬉しい。はじめにフレデリック殿下にこの世界に放り出された時の不安から救って貰った。それから殿下の優しさや気遣いに触れる度に私は温かい気持ちになる。
「尊敬……か……」
「はい、とっても尊敬してます。フレデリック殿下」
私がそう言うと、フレデリック殿下の耳が赤くなった。
「真っ正面に言われるとちょっと恥ずかしいな」
「自信もってください! 殿下は尊敬に値する人ですよ。私だけじゃなくてみんなそうですよ!」
「こらこら、からかうな。……ま、とにかく次の休日だな。真白のとこに訪問する事にしよう」
「はい!」
ふふ。初めてのお客さんがフレデリック殿下か……。私は手を振りながら訓練に戻って行く殿下の姿を見送った。そして部屋の中に戻ろうとして振り返るとザールさんがドアの向こうからこちらを覗いていた。
「ようやくちゃんと殿下をお誘いできました。何作ろうかな……」
「真白さん……」
「ん?」
「真白さんはなんというか……あ、なんでもありません」
「なんですか! はっきり言ってくださいよ」
「何か、言っても無駄な気がしますんで」
何よ、なんでそこで言葉を濁すの? ザールさん!
「はいっ」
そしてまた騎士団での仕事がはじまる。ブライアンさんも戻って来たから怪我人がまたぐっと増えた。ザールさんが外傷のある兵士さんの対応をしている間に私は別の兵士の対応をする。
「はーっ、良く効きますね! 真白さんがいるから怪我も怖くないです」
「駄目ですよ、怪我しないのが一番なんですから」
「はーい」
嵐のような朝の鍛錬の後の手当を終えて、ようやく私達も一息つける時間が訪れる。
「賑やかでしたね」
「いいのか悪いのか……」
ザールさんは苦笑しながら答えた。ここ数日、お互い休憩中も派遣された騎士団の事が心配でそわそわしていたからこういう時間は久し振りだ。
「さーてそろそろ飲み頃ですね」
私は冷蔵庫を開けた。中には硝子のポット。緑の液体がそこには入っている。水出しの緑茶だ。そうしてちょっと一工夫。グラスに刻んだミントとレモンを添えてそこに冷たい緑茶を注ぐ。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます。……うん、爽やかで美味しい」
「リフレッシュできますね」
患者がこない時間はこうやってゆっくりできるし……救護棟はホワイト職場なのでは、なーんて。
近頃は暑さも日差しも増してきてこういうさっぱり系のドリンクがおいしく感じられる。
「あの、ザールさん。今は夏なんですかね」
「ええ、これから三ヶ月くらいは夏ですかね。これからもっと暑くなります」
帽子を買っておいて良かった。白い帽子はお出かけの時にして、麦わら帽子を普段使いにしよう。
「そうだ、これを買ったんです……」
私がザールさんに城下で買ったバッグを披露しようとした時だった。救護棟の扉がノックされる。どうぞと声をかけると入って来たのはフレデリック殿下だった。
「何かありましたか!?」
私が慌てて立ち上がると、殿下は笑いながら首をふった。
「何も。ただ様子を見に来ただけだ」
「そうですか……」
「それはなんだ?」
殿下は鞄を抱えたままの私を見て不思議そうな顔をした。
「あ、昨日ブライアンさんとの買い物で買った仕事用の鞄です」
「そうか……ブライアンと……」
「すみません、隊長さんを休日に連れ回したりなんかして」
「いや……それは別に……。で、その鞄を買ったのか」
「はい。本を入れる鞄が欲しくて」
辞典がいないと私はポーションなどが作れない。それに辞典は私と元の世界を繋いでいる鍵なのだ。
「それは魔法の本だったな。大事にしているのだね」
「はい。大きさもちょうどよくて、ほら……ここに焼き印で模様をつけてくれたんですよ。お気に入りになりました」
革だから使っていくうちに馴染んでもっといい感じになるだろうと思うと楽しみだ。
「買い物は楽しめたようだな」
「はい。食材も買って夕食は私が作りました……あ! そうだ、殿下をお誘いしてましたよね。今度の休日はいかがですか?」
「え……あ、大丈夫だが……」
「そうですか、じゃあ腕を振るいますね」
私がそう言うと、フレデリック殿下は目を丸くしていた。……ちょっと強引だったかしら。
「真白は料理もするのか……」
「しますよ。私の周りはそれが普通だったから今の方が変な感じです」
「そうか……私も真白のいた世界の話が聞いてみたいな」
「ええ、いいですよ」
また週末の楽しみが出来た。どちらかというと以前は平日に人疲れして休日は一人の時間を愛しているくらいだったのにな。
「ああ、そうだ。殿下こっちに来て下さい」
「ん?」
私は救護棟の外に出て、薬草畑にした場所をフレデリック殿下に見せた。
「殿下のローズマリーも多分根付きましたよ。あとひと月くらいしたら安心できると思います」
「おお……」
フレデリック殿下はそっとローズマリーに触れた。
「不思議だな」
「切った所から根が出て殖やすことが出来るんです。もっと大きくなったらまた同じ様に殖やすこともできます。それまでにザールさんに加工や利用方法などを伝えておきます。そしたら私が帰っても少しだけみんなの手助けができます」
「真白……」
「ふふ、ちょっとは殿下のお役にたってますかね」
そう言ってフレデリック殿下を見上げると、殿下は口を覆って何か堪えるような顔をしていた。
「……どうしました?」
「真白、真白はもう十分役に立ってくれてる」
「でも、住む所も仕事もお世話になりましたし……あと……」
「あと?」
「私、殿下の事尊敬しているんです。私には分からないような重圧があるんだろうなって。でも殿下は戦場で拾った私の事まで気に掛けてくれますし」
そう。私はそれがとても嬉しい。はじめにフレデリック殿下にこの世界に放り出された時の不安から救って貰った。それから殿下の優しさや気遣いに触れる度に私は温かい気持ちになる。
「尊敬……か……」
「はい、とっても尊敬してます。フレデリック殿下」
私がそう言うと、フレデリック殿下の耳が赤くなった。
「真っ正面に言われるとちょっと恥ずかしいな」
「自信もってください! 殿下は尊敬に値する人ですよ。私だけじゃなくてみんなそうですよ!」
「こらこら、からかうな。……ま、とにかく次の休日だな。真白のとこに訪問する事にしよう」
「はい!」
ふふ。初めてのお客さんがフレデリック殿下か……。私は手を振りながら訓練に戻って行く殿下の姿を見送った。そして部屋の中に戻ろうとして振り返るとザールさんがドアの向こうからこちらを覗いていた。
「ようやくちゃんと殿下をお誘いできました。何作ろうかな……」
「真白さん……」
「ん?」
「真白さんはなんというか……あ、なんでもありません」
「なんですか! はっきり言ってくださいよ」
「何か、言っても無駄な気がしますんで」
何よ、なんでそこで言葉を濁すの? ザールさん!
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