魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います

高井うしお

文字の大きさ
23 / 43

23話 ネギと三つ葉

しおりを挟む
 という訳でエプロンを着けて台所へ。この間のようにまずはお米を研いで吸水させる。その間にまな板の上にドン、と鯛を一匹のっけた。

「立派な鯛ねー……」

 こんな大きな鯛をさばくのは初めてだ。包丁でなんとか鱗をひいて頭を落として骨から身をはがしていく。鯛のあらは避けておいて塩を振る。

「こんなもんかな……」

 食べやすい大きさに切ったところでこれは置いておく。そして海老の殻も剥いてわたを取る。そして一口大に切る。ここでネギの出番。これも一口大に切って海老と一緒にボウルにいれて小麦粉をふっておく。そろそろご飯も炊き始めよう。

「まだまだ行くよ!」

 私は避けておいた鯛のあらを手にした。湧かした湯でそれを下ゆでして血合いを取る。そして別の鍋であらを煮ていく。本当は日本酒で臭みを取るのだけどないから試しに白ワインを入れてみた。

「そして……はぁ……いい匂い」

 瑞々しく柔らかな三つ葉をざくざく切っていく。これであらかた準備は完了。
 ご飯を炊く横で、鯛に衣をつけて揚げる。海老とネギはまとめてかきあげに。

「はい、できあがり!」

 それを皿に盛って、すぐに鯛のあら汁を塩で味を調えて完成させ、ぱらりと三つ葉をのせる。丁度ご飯もいい感じに炊きあがった。

「皆さん夕食ができましたよー!」

 私の声にクラリスとコックさんとメイドさんが二名集まった。

「私の国のご飯、天ぷらです。さ、冷めないうちに食べて!」

 私は食堂のテーブルの椅子を引いて皆を座らせて天ぷらを勧めた。天つゆはないからシンプルに塩だけで。サクッと鯛の天ぷらにかぶりつくと中からふわっとした白身が現れる。鯛独特の甘みと旨味が美味しい。

「この衣は……?」

 コックさんが私に聞いてきた。

「冷水と小麦粉だけよ」
「どの料理も見た事がない。真白様は外国の方なんですか……?」

 おっと……これ以上はいけない。けど誤魔化し続けてもボロが出る。いっそ外国だと思ってくれていた方が都合がいいだろうな。

「ええ……なんとなく思い出して来たのだけど……。私の国の調理法はシンプルなのが多いわね」

 次はかきあげ。サクサクの衣の食感とぷりっとした海老の食感。そして油を吸ったネギの風味。これはたまらない。ごはんが進むわ。

「真白様……大変美味しいのですけど、やっぱり使用人とこんな風に席を囲むのは良くないですよ」

 クラリスはしっかり天ぷらを平らげながらそう言った。

「いいじゃない。私はここの風習はよく知らないし、たまになら。私にとって料理はストレス発散になるのよ。そうそう、他にも思い出すかもしれないし……」
「私は美味しいものが食べられるならなんでもいいですー」
「こらっ」

 クラリスは年若いメイドの発言をしかった。しかし、次の瞬間あら汁を一口飲んで言葉を失った。

「なんです……これ……すごい……」
「いい出汁が出るのよね、鯛って」

 あらは安く手に入るから私はよく色々工夫して調理していた。その中でも鯛は抜群に美味しいと思う。コクのしみ出た汁に三つ葉の爽やかな香り。ううん……幸せ。

「ま、とにかくまた何か思い出したらこうやって作るからみんな食べてね」

 私はいつも私のお世話をしてくれるみんなの顔を眺めながらあら汁の最後の一口を飲み干した。

「リベリオー」

 そして部屋に戻った私は早速リベリオを呼ぶ。

『はいはい』
「リベリオにも今日の料理もってきたよ」
『ほう……ではご相伴にあずかろうか』
「天ぷらが冷めちゃったから、これをこうして……はい。ネギと海老のかきあげの天茶漬け」

 私はご飯のせたかきあげの上から熱い緑茶を注いだ。

『うむ……うまい』
「でしょう? 揚げたても美味しいけどこれもたまらないよね。私はもうお腹いっぱいで入らないけど。ネギは他にも焼いても煮ても美味しいのよ」
『そうか』

 リベリオは一気に天茶漬けをかき込んで、ふうと息を吐いた。

『そのネギの出所だがな』
「ん? ネギがどうしたの?」
『忘れたのか? 僕は真白の居た世界のハーブを取り出せる本だぞ』

 リベリオはちょっと呆れたような顔をした。

「あ、ああ……そうね」
『まったく……。思ったのだがその時には真白の居た世界と通じているはずなんだ。ただ、僕が出来るのは一方通行に取り出すのみだ』

 そこまで言うとリベリオの顔がちょっと曇った。

『何度か取り出したものを戻してみようとしたがうまくいかない。もし……僕が真白をハーブと同じ様にこちらに連れてきてしまったのだとしたら……真白はもう……』
「リベリオ……」

 私はリベリオの小さな肩を引き寄せた。

「……あっちとこっちが確かに繋がっているのなら、他に行き来する方法があるかもしれないじゃない」
『真白……。うん、調べてみるな』

 リベリオはちょっとだけ微笑んで頷くと姿を消した。

「あっちの世界……かぁ……」

 私はそう呟きながらベッドに倒れ込んだ。なんだろう、この気持ち。前は一刻も早く返してくれって思っていたはずなのに……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。 「あなたこそが聖女です」 「あなたは俺の領地で保護します」 「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」 こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。 やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】転生社畜聖女は、前世の記憶と規格外魔力で隣国を再建します

よどら文鳥
恋愛
 社畜生活で死んでしまったものの、二度目の人生を、憧れの異世界で送ることになったヴィレーナ。  ヴィレーナは神様からの任務で聖女の力を授かる。モンスターが生まれないようにするための結界を作り維持することが使命だ。  しかし、転生先では今までと変わらずに社畜聖女として過ごすことになってしまう。  ついには聖なる力など偽りだと言われ、今までの給金分はタダ働きで仕事をする羽目になる。  執事長や侍女たちからの仕打ちもエスカレートし、ついに二度目の過労死を迎えようとしたが、間一髪で神様に助けられる。  神様のミスということで、そのお詫びに魔力と体力を授かったヴィレーナ。  二度目の転生先は隣国のメビルス王国。  そこでは今までヴィレーナが経験したことのないような優しい国で、今まで以上に聖なる力の結界やその他の仕事にも精力的になる。  その実力は、実は規格外のものだった。徐々に周りから崇められてしまうヴィレーナ。  ついにはキーファウス王太子までもがヴィレーナに跪くようになってしまう。  褒められたり崇められたりすることなど皆無だったヴィレーナは、やめてもらうよう必死にお願いする。  だが、チートすぎる魔力と聖なる力のせいで……?  キーファウス王太子は、謙虚で遠慮深い者を接することが少なかったため、ヴィレーナのことが気になっていくのだが、恋愛経験ゼロのヴィレーナはその気持ちに気がつくことはない。  いっぽう、ヴィレーナを雑に扱ってきたブブルル王国では、聖なる力による結界がなくなり、モンスターの出現が頻繁になってきて……。 ※【完結】を入れたら文字数オーバーしちゃったので、サブタイトルは消しました。

処理中です...