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22話 街を散策
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「嬉しそうだな」
「あ、ブライアンさん」
そうだ、外にブライアンさんを立たせたままだった。
「何を買ったんだ?」
「この本を入れるカバンです。ちょうどあつらえたみたいにぴったりで嬉しくなっちゃって」
「ふっ、良かったな。あとは?」
「はい! あと……ちょっと市場を見たいです」
私はこの間寄った市場に向かった。花に日曜雑貨に野菜に肉に……行き交う人々は日々の暮らしの用品を時には値段交渉に難儀しながら買っている。王都の日常の暮らしが詰まったここは先程のエリアとは違った賑わいを見せている。
「真白! 真白!」
「はーい、居ますよ」
「俺はこっちの方は不案内だ。あんまり先に行かないでくれ」
「あっ、ごめんなさい」
人目を引きまくるブライアンさんは人混みをかき分けて歩くのも大変そうだっだ。
「そうだ、ちょっとお腹空きましたね。あれ食べません?」
「ここに来て買い食いか……」
ブライアンさんはちょっとぶつぶつ言っていたが私が指差した屋台を見て口を閉ざした。その店の店頭からはなんともいえないいい香りがしている。
「二つください!」
「はいよ」
店のおかみさんは私の注文を聞いてから、チョコレートを生地にいれて丸めて油の中に投入した。チルチルと音をたてて黄金色にそれは揚がっていく。
「はいっ、どうぞ!」
揚げたてのそれに粉糖を振って渡された。私はそのうちひとつをブライアンさんに渡す。
「あ……ありがとう……」
「さ、こういうのは出来たてほやほやを味わうのが一番です」
私はそのチョコレート入りの揚げドーナツみたいなものに齧りついた。
「はふっ……」
「あつっ……うまいな」
うん、揚げたての生地はふわふわで中からとろけたチョコレートがしみ出してくる。甘くて香ばしくて、結論……カロリーは美味しい!
「ふふふ、ブライアンさんはこういうの好きだと思いました」
「え?」
「甘めに作ったドリンクもお代わりしてましたもんね」
「参ったな……」
あっというまにドーナツを平らげたブライアンさんは気まずそうに頭を掻いた。
「あ!」
「今度はなんだ!?」
「あれ、魚屋さんです! ちょっと見てきます」
「待てって」
私は差し向かいに魚屋を見つけて駆け寄った。
「へぇ……思ったより種類豊富……」
川魚が中心みたいだけど、鯛やイカや鰯もある。
「ここから一日で港町だ。そこから冷蔵馬車で運んだ魚だよ。ちょっと高いけどね、鮮度はいいよ」
「冷蔵馬車……」
なるほど、氷の魔石を使った馬車があるのね。その手間の分、割高だと……あ、海老もある。あれを作ろうかしら。
「そしたら鯛と海老をください!」
「はいよ」
私がにこにこしながら魚を包んでもらっているのをブライアンさんはあっけに取られて見ていた。
「さ、お買い物はおしまいです。魚が傷まないうちに帰りましょう!」
私がそう言って振り返るとブライアンさんは堪えきれなくなったのか吹きだした。
「ぶふっ……帽子の他に買ったものが……仕事カバンに魚か……」
「だ、駄目ですか……」
「いや……面白いな、真白は」
ブライアンさんはそう言いながら魚の包みを持って馬車まで私をエスコートしてくれた。私は馬車の中で辞典を入れたカバンを見ながら、今日はいい買い物ができたと満足だった。
私とブライアンさんを乗せた馬車が私の部屋のある離れに到着した。
「ブライアンさん、今日はありがとうございました」
「ああ……楽しかった。またな」
ブライアンさんはそう言い残して去って行った。後に残ったのは帽子とカバンと魚の包み。帽子の箱を抱えたクラリスが、もう見えないブライアンさんの去った方を見ながら私に聞いた。
「真白様、お買い物はいかがでした?」
「うん。いい気分転換になったわ」
「その油紙の包みは……?」
「あ、これ? 鯛と海老」
「……なぜ……?」
クラリスの顔に困惑の表情が広がる。
「ちょっと作りたいものがあって。あ、今日の夕飯は私が作るわ」
「え……めっそうもない」
「食べたいものがあるの。でもきっと一人じゃ食べきれないし」
私は魚の包みを台所に持って行ってもらってとりあえずいつものワンピースに着替えた。
「さて……リベリオ!」
『また何か企んでるな』
「人聞き悪いわね……『ネギ』と『三つ葉』をお願い」
『はい。何を作る気だ?』
私はリベリオから手渡されたネギと三つ葉を受け取って、にんまり笑った。
「うふふ……天ぷら定食を作ります!」
「あ、ブライアンさん」
そうだ、外にブライアンさんを立たせたままだった。
「何を買ったんだ?」
「この本を入れるカバンです。ちょうどあつらえたみたいにぴったりで嬉しくなっちゃって」
「ふっ、良かったな。あとは?」
「はい! あと……ちょっと市場を見たいです」
私はこの間寄った市場に向かった。花に日曜雑貨に野菜に肉に……行き交う人々は日々の暮らしの用品を時には値段交渉に難儀しながら買っている。王都の日常の暮らしが詰まったここは先程のエリアとは違った賑わいを見せている。
「真白! 真白!」
「はーい、居ますよ」
「俺はこっちの方は不案内だ。あんまり先に行かないでくれ」
「あっ、ごめんなさい」
人目を引きまくるブライアンさんは人混みをかき分けて歩くのも大変そうだっだ。
「そうだ、ちょっとお腹空きましたね。あれ食べません?」
「ここに来て買い食いか……」
ブライアンさんはちょっとぶつぶつ言っていたが私が指差した屋台を見て口を閉ざした。その店の店頭からはなんともいえないいい香りがしている。
「二つください!」
「はいよ」
店のおかみさんは私の注文を聞いてから、チョコレートを生地にいれて丸めて油の中に投入した。チルチルと音をたてて黄金色にそれは揚がっていく。
「はいっ、どうぞ!」
揚げたてのそれに粉糖を振って渡された。私はそのうちひとつをブライアンさんに渡す。
「あ……ありがとう……」
「さ、こういうのは出来たてほやほやを味わうのが一番です」
私はそのチョコレート入りの揚げドーナツみたいなものに齧りついた。
「はふっ……」
「あつっ……うまいな」
うん、揚げたての生地はふわふわで中からとろけたチョコレートがしみ出してくる。甘くて香ばしくて、結論……カロリーは美味しい!
「ふふふ、ブライアンさんはこういうの好きだと思いました」
「え?」
「甘めに作ったドリンクもお代わりしてましたもんね」
「参ったな……」
あっというまにドーナツを平らげたブライアンさんは気まずそうに頭を掻いた。
「あ!」
「今度はなんだ!?」
「あれ、魚屋さんです! ちょっと見てきます」
「待てって」
私は差し向かいに魚屋を見つけて駆け寄った。
「へぇ……思ったより種類豊富……」
川魚が中心みたいだけど、鯛やイカや鰯もある。
「ここから一日で港町だ。そこから冷蔵馬車で運んだ魚だよ。ちょっと高いけどね、鮮度はいいよ」
「冷蔵馬車……」
なるほど、氷の魔石を使った馬車があるのね。その手間の分、割高だと……あ、海老もある。あれを作ろうかしら。
「そしたら鯛と海老をください!」
「はいよ」
私がにこにこしながら魚を包んでもらっているのをブライアンさんはあっけに取られて見ていた。
「さ、お買い物はおしまいです。魚が傷まないうちに帰りましょう!」
私がそう言って振り返るとブライアンさんは堪えきれなくなったのか吹きだした。
「ぶふっ……帽子の他に買ったものが……仕事カバンに魚か……」
「だ、駄目ですか……」
「いや……面白いな、真白は」
ブライアンさんはそう言いながら魚の包みを持って馬車まで私をエスコートしてくれた。私は馬車の中で辞典を入れたカバンを見ながら、今日はいい買い物ができたと満足だった。
私とブライアンさんを乗せた馬車が私の部屋のある離れに到着した。
「ブライアンさん、今日はありがとうございました」
「ああ……楽しかった。またな」
ブライアンさんはそう言い残して去って行った。後に残ったのは帽子とカバンと魚の包み。帽子の箱を抱えたクラリスが、もう見えないブライアンさんの去った方を見ながら私に聞いた。
「真白様、お買い物はいかがでした?」
「うん。いい気分転換になったわ」
「その油紙の包みは……?」
「あ、これ? 鯛と海老」
「……なぜ……?」
クラリスの顔に困惑の表情が広がる。
「ちょっと作りたいものがあって。あ、今日の夕飯は私が作るわ」
「え……めっそうもない」
「食べたいものがあるの。でもきっと一人じゃ食べきれないし」
私は魚の包みを台所に持って行ってもらってとりあえずいつものワンピースに着替えた。
「さて……リベリオ!」
『また何か企んでるな』
「人聞き悪いわね……『ネギ』と『三つ葉』をお願い」
『はい。何を作る気だ?』
私はリベリオから手渡されたネギと三つ葉を受け取って、にんまり笑った。
「うふふ……天ぷら定食を作ります!」
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