魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います

高井うしお

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38話 瘴気酔い

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「こちらです」

 診療所の個室には、一人の男性が横たわっていた。顔色は悪く、ぐったりとしている。

「症状は?」
「全身の倦怠感、頭痛、吐き気を訴えています。彼は黒の騎士団の兵士でこちらに伝令の為に来たのですが……疲労からというにはあまりに……」
「回復魔術はかけたんですよね」
「はい、もちろん。しかし症状は一向に改善しません」

 私は彼をじっと見た。聞いた限り風邪とか胃腸炎とかみたいだけれど……。ラベンダーとペパーミント、エキナセアあたりで免疫と頭痛や胃痛を治せないだろうか。

「こちらのポーションを飲ませてみてください」

 とりあえず症状が緩和しそうなハーブのポーションを出してみる。

「……うう」
「駄目みたいです……」

 苦しそうにしている兵士さんはなんとかポーションを飲み込んだけれど、まったく良くならなかった。おかしい。こんな事ははじめてだ。私の中で動揺が広がる。
 すると、兵士さんがうっすらと目を開いてこちらを見た。

「邪竜討伐の時にお会いした『救国の聖女様』ですね……。お会いできるなんて……」
「あまり無理をしてしゃべらないで。……他のポーションを試してみますから」
「……てくだ……」
「え?」
「手を握って下さいませんか……とても寒い……」

 彼は震える手を必死に私の方に伸ばしてきた。私は思わずその手をつかんだ。

「ごめんなさい。苦しいですよね。ええと……エルダーフラワーのチンキを試してみましょう」

 私はそのひんやりとした手を握って、慰めた。万能ハーブと言われるエルダーフラワーならこれもなんとかなるかもしれない。辞典からそれをとりだそうと彼の手をいったん離そうとした時だった。ぐっと思いも寄らない強さで手が握りかえされる。

「あ……他のポーションを試してみるので、手を……」
「少し……気分が……どうかこのまま……」
「え?」

 手を握っただけだよ? 『救国の聖女』ったってそれは兵士さん達が自分たちのピンチを助けた私につけているあだ名みたいなもので……。私にザールさんのような回復魔法で癒す能力はないはず……。

「あ、呼吸も顔色も正常になっていきます」

 じっとその様子を見ていた診療所の人はびっくりした顔で私を見た。私何もしていないのだけど、と戸惑ったけれど確かに兵士さんの具合は劇的に良くなった。

「もう大丈夫です。ありがとう聖女さま」
「あ、はい?!」

 とうとうむっくりと兵士さんは起き上がってしまった。私には何が何だかわからない。

「すごいですわ。触れただけで直してしまうなんて!」

 と、唐突に後ろからマーガレットの声がした。

「え、いつからいたの?」
「ずっと横にいましたけど……」

 不思議そうに首を傾げるマーガレット。ああ、原因不明の病気と聞いてこの人の存在を忘れていた……。

「さすが真白お姉様!」
「ははは……。ごめんなさい、ちょっとお手洗い……」

 私はみんなの視線を浴びながら、後ずさりして部屋を出た。そして向かいの空き部屋に入ると鍵をかけた。

「リベリオ! なんなのアレ!」
『大声を出すな』

 耳を塞いで迷惑そうな顔をして出てきたリベリオ。

『珍しい症状だが、あれは瘴気酔い・・・・だ』
「瘴気……」
『強い魔力に晒されて、体に不調をきたした状態だ。魔力だまりにいた影響だろう。だから薬草は効かん』
「それって……悪くなるとどうなるの?」
『そりゃ、ほかの動物と変わりないさ。魔力を受け止められずに死ぬか魔物になる』

 死ぬか……魔物に……。私はさっきまで兵士さんが掴んでいた右手を見つめた。

「……治療法は?」
『魔力だまりから離れて静養して体から瘴気が抜けるのを待つ』
「じゃあどうして……彼は私の手を握っただけでよくなったのかしら」
『真白、それはお前がこちらの人間ではないからかもしれない』

 私の疑問に、リベリオは顎に手をやって考えながら答えた。

『普通の人間は魔力があって普段貯めている量とその許容量がそれぞれ違う。それを超えて魔力が貯まって起こるのが瘴気酔いだが……』
「私は別、ってこと?」
『ああ。多分な。触れた所を通じて魔力が真白に流れ込んだのだろうが……』

 リベリオはじっと私を見た。

「私は許容量が大きい……?」
『ああ、魔力が少ない分な』
「あ……」

 そこで私はマーガレットの事を思い出した。彼女は生まれつき魔力が少ないのだと嘆いていた。そして彼女は……樹さんの子孫だ。

「なるほど……」
『感心している場合じゃないぞ、真白。あの兵士があのような症状になったという事は現場は今も魔力だまりから瘴気が噴出している可能性が高い』
「ってことは……」
『向かった騎士団は瘴気で倒れる。その場を離れなくては症状は悪化して、そして……』

 ――死。その考えが浮かんで、私の背中はひやりとした。

「行かなくちゃ……」
『真白?』
「みんなのところに行って助けないと! リベリオ!」
『ああ。ついでに魔力だまりに僕を放り投げれば万事解決だ。行こう』

 私は辞典を持って部屋を飛び出した。あ……っと、お手洗いに行くって言ってたんだっけ。

「あの! 具合良くなったみたいなので私失礼します!」
「え、あ。はい……?」

 びっくりしている顔をした三人を置いて私は家に戻った。

「目立たないように、深夜に出るしかないわね」

 現場まで騎士団は三日の行程を組んでいた。私一人ならもう少し早く行けるかもしれない。私はカバンに最低限の荷物や軍資金を詰め込んだ。ほかに何か持っていくべきものがないかと引き出しを開けた時である。フレデリック殿下のくれたブローチが目に入った。

「お守りに……」

 そう言ってこれをくれたっけ。フレデリック殿下、あなたのいる場所に向かうまで私を守って下さい……。私はそう思いながらブローチを身につけた。
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