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37話 待つ身の辛さ
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「……」
みんなの姿が見えなくなって、私はとりあえず救護棟に行って見た。ザールさんがいないだけで随分とがらんとしているように感じる。
「……なーんて待ってても患者もだれもこないんだけどね」
しばらく診察室の椅子に腰掛けてみてから独り言を言った。そうだ、ローズマリーに水をやらないと。
「……もうちょっと大きくなったら刈取ってクッキーにしようね」
殿下手ずから植えたローズマリーはもうしっかり根を張っていた。バターをたっぷりいれてさっくりほろほろのクッキーでお茶会をしよう。ザールさんとブライアンさんも呼んで。
『真白』
「リベリオ……?」
『なに黄昏れているんだ。早いところ出立するぞ』
救護棟からとことことリベリオが出てきた。
「大丈夫なの? 出てきて」
リベリオはいつも人目をさけて人型をとっていた。
『今は誰もいないから問題無い。それよりぼやぼやしている時間がもったいないぞ』
「それなんだけど……行けないわ。リベリオ」
私は魔力だまりを探しに行こうとしきりに促すリベリオにそう答えた。
『なんでだ』
「みんなが戦いに行くのにそんなことできない。私はみんなを待ってないと」
『そんなこと言ってたらいつまでたっても帰れないぞ』
「……また機会はあるわよ」
せめて、殿下とザールさんにはキチンと理由を話して。そしてリベリオと二人で魔力だまりを探しに行ってもいい。
「とにかく今回は駄目だよ」
『そうか、そこまで言うなら』
リベリオは少し不服そうな顔をしながら姿を消した。
「帰ろっかな」
クラリスもやきもきしながら待っているに違いない。私は辞典をカバンにしまい直すと家へと戻った。
「ただいま」
「……おかえりなさいませ、真白様」
玄関を開けると、そこにはどんよりとした顔のクラリスが立っていた。こんなにやつれるくらい彼女も心労を感じているのだろうか。
「お客様がいらっしゃっています、真白様」
「お客……? 私に……?」
「応接間に通しておりますので」
「はい……」
私が内心で首を傾げながら応接間のドアを開くと、途端に銀色の弾丸が飛んできた。
「お姉様―!!」
「マ、マーガレット!」
首に縋り付いてきたマーガレットを私は必死で剥がした。
「一体なにしに……」
ハンガリアンウォーターなら一ヶ月は持つくらい渡したはずだけど。
「ご先祖様の日記を返してもらいに参りました」
「あ……ああ」
樹さんの日記。そういえば借りっぱなしだった。私は応接間のドアを開けて顔を覗かせてクラリスに日記を持ってくるようにお願いした。
「はい、これ。どうもありがとう」
今日はとてもじゃないけどマーガレットの相手をする気分ではないので、私はさっさと日記を渡して帰って貰おうとした。しかしマーガレットは動かない。
「日記に書いてあったご先祖様の事を聞かせて下さい」
「そ、そうですね……」
彼女の要求はいちいちもっともだった。理由もなく来て居座っている訳ではないので私も無碍にはできない。クラリスもきっとそうだったのだろう。
「えーっとですね……」
私は転移と帰還の方法のあたりを濁して日記の内容をマーガレットに伝えた。
「……という感じの内容でした」
「まああ……」
マーガレットは感無量、といった雰囲気で胸の前で両手を合わせた。
「争いの日々から逃れ、流れ着いたこの国で王女様と恋に落ちたなんてなんて素敵……」
「その何代も後の子孫がマーガレット、ってことね」
「回復術師を束ねる一族として誇りを持て、と……お父様が言う訳が分かりました」
私がそう言うと、マーガレットはそう言ってなぜだかため息をついた。
「……どうしたの?」
「そんな家の出なのに、私……回復魔術が使えないので」
マーガレットは首をすくめてそう答えた。
「元々、魔力が極端に少ないらしいです。オハラ家にはときどきそういう人間が生まれるから気にするな、と常々言われて育ちましたが」
そういうマーガレットは気にしていないようには見えなかった。救護棟に侵入したのもそれが根本にあるのかしら。
「フレデリック殿下は……」
「え?」
心の内でマーガレットの本心を探っていた私は、突然マーガレットから飛び出したフレデリック殿下の名前にどきりとした。
「小さい頃は体も弱くて、木登りも乗馬も私の方がずっと上手でした」
「そうだったんですか」
「いつの間にか丈夫になって、あんな……騎士団を率いて魔物退治だなんて……わたくしからしたら信じられません」
マーガレットは気の強そうな瞳を伏せた。
「魔力もないわたくしは置いて行かれてばかり」
「……私も今回置いて行かれましたよ。危ないからって」
しょんぼりと元気をなくしたマーガレットに私はそう言った。
「あー! 待つ身はつらいですわね」
「そうね」
大袈裟に嘆くマーガレットを見て私は苦笑した。彼女がここに来た時はどうしようかと思ったけれど……よかった。ちょっと愚痴を話せて。
「では、突然お邪魔して失礼しました」
マーガレットも同様だったのか、お喋りが一段落すると立ち上がった。
「いえ。……その、よかったらまた来てください」
「本当ですの!?」
私がそう声をかけると、マーガレットは私の手をつかんだ。
「は、はい……」
「うれしい!」
パッと彼女の顔が喜びに輝く。その時だった。応接間のドアが激しく叩かれた。
「申し訳ございません! 至急の知らせが来ました」
「どうしたの?」
部屋に飛び込んで来たクラリス。彼女に連れられて、外に出ると白衣の男性が真っ青な顔をして立っていた。
「ああ、真白さん!」
「えっと……たしか診療所の方ですね。何かあったんですか?」
「それが……どうにも原因がわからず寝込んだ患者がおりまして……お力をいただけないかと」
「……原因不明?」
私は首をひねった。でも、具合の悪い人がいるなら行かなくちゃ。私は辞典を手にすると、その彼について診療所に向かった。
みんなの姿が見えなくなって、私はとりあえず救護棟に行って見た。ザールさんがいないだけで随分とがらんとしているように感じる。
「……なーんて待ってても患者もだれもこないんだけどね」
しばらく診察室の椅子に腰掛けてみてから独り言を言った。そうだ、ローズマリーに水をやらないと。
「……もうちょっと大きくなったら刈取ってクッキーにしようね」
殿下手ずから植えたローズマリーはもうしっかり根を張っていた。バターをたっぷりいれてさっくりほろほろのクッキーでお茶会をしよう。ザールさんとブライアンさんも呼んで。
『真白』
「リベリオ……?」
『なに黄昏れているんだ。早いところ出立するぞ』
救護棟からとことことリベリオが出てきた。
「大丈夫なの? 出てきて」
リベリオはいつも人目をさけて人型をとっていた。
『今は誰もいないから問題無い。それよりぼやぼやしている時間がもったいないぞ』
「それなんだけど……行けないわ。リベリオ」
私は魔力だまりを探しに行こうとしきりに促すリベリオにそう答えた。
『なんでだ』
「みんなが戦いに行くのにそんなことできない。私はみんなを待ってないと」
『そんなこと言ってたらいつまでたっても帰れないぞ』
「……また機会はあるわよ」
せめて、殿下とザールさんにはキチンと理由を話して。そしてリベリオと二人で魔力だまりを探しに行ってもいい。
「とにかく今回は駄目だよ」
『そうか、そこまで言うなら』
リベリオは少し不服そうな顔をしながら姿を消した。
「帰ろっかな」
クラリスもやきもきしながら待っているに違いない。私は辞典をカバンにしまい直すと家へと戻った。
「ただいま」
「……おかえりなさいませ、真白様」
玄関を開けると、そこにはどんよりとした顔のクラリスが立っていた。こんなにやつれるくらい彼女も心労を感じているのだろうか。
「お客様がいらっしゃっています、真白様」
「お客……? 私に……?」
「応接間に通しておりますので」
「はい……」
私が内心で首を傾げながら応接間のドアを開くと、途端に銀色の弾丸が飛んできた。
「お姉様―!!」
「マ、マーガレット!」
首に縋り付いてきたマーガレットを私は必死で剥がした。
「一体なにしに……」
ハンガリアンウォーターなら一ヶ月は持つくらい渡したはずだけど。
「ご先祖様の日記を返してもらいに参りました」
「あ……ああ」
樹さんの日記。そういえば借りっぱなしだった。私は応接間のドアを開けて顔を覗かせてクラリスに日記を持ってくるようにお願いした。
「はい、これ。どうもありがとう」
今日はとてもじゃないけどマーガレットの相手をする気分ではないので、私はさっさと日記を渡して帰って貰おうとした。しかしマーガレットは動かない。
「日記に書いてあったご先祖様の事を聞かせて下さい」
「そ、そうですね……」
彼女の要求はいちいちもっともだった。理由もなく来て居座っている訳ではないので私も無碍にはできない。クラリスもきっとそうだったのだろう。
「えーっとですね……」
私は転移と帰還の方法のあたりを濁して日記の内容をマーガレットに伝えた。
「……という感じの内容でした」
「まああ……」
マーガレットは感無量、といった雰囲気で胸の前で両手を合わせた。
「争いの日々から逃れ、流れ着いたこの国で王女様と恋に落ちたなんてなんて素敵……」
「その何代も後の子孫がマーガレット、ってことね」
「回復術師を束ねる一族として誇りを持て、と……お父様が言う訳が分かりました」
私がそう言うと、マーガレットはそう言ってなぜだかため息をついた。
「……どうしたの?」
「そんな家の出なのに、私……回復魔術が使えないので」
マーガレットは首をすくめてそう答えた。
「元々、魔力が極端に少ないらしいです。オハラ家にはときどきそういう人間が生まれるから気にするな、と常々言われて育ちましたが」
そういうマーガレットは気にしていないようには見えなかった。救護棟に侵入したのもそれが根本にあるのかしら。
「フレデリック殿下は……」
「え?」
心の内でマーガレットの本心を探っていた私は、突然マーガレットから飛び出したフレデリック殿下の名前にどきりとした。
「小さい頃は体も弱くて、木登りも乗馬も私の方がずっと上手でした」
「そうだったんですか」
「いつの間にか丈夫になって、あんな……騎士団を率いて魔物退治だなんて……わたくしからしたら信じられません」
マーガレットは気の強そうな瞳を伏せた。
「魔力もないわたくしは置いて行かれてばかり」
「……私も今回置いて行かれましたよ。危ないからって」
しょんぼりと元気をなくしたマーガレットに私はそう言った。
「あー! 待つ身はつらいですわね」
「そうね」
大袈裟に嘆くマーガレットを見て私は苦笑した。彼女がここに来た時はどうしようかと思ったけれど……よかった。ちょっと愚痴を話せて。
「では、突然お邪魔して失礼しました」
マーガレットも同様だったのか、お喋りが一段落すると立ち上がった。
「いえ。……その、よかったらまた来てください」
「本当ですの!?」
私がそう声をかけると、マーガレットは私の手をつかんだ。
「は、はい……」
「うれしい!」
パッと彼女の顔が喜びに輝く。その時だった。応接間のドアが激しく叩かれた。
「申し訳ございません! 至急の知らせが来ました」
「どうしたの?」
部屋に飛び込んで来たクラリス。彼女に連れられて、外に出ると白衣の男性が真っ青な顔をして立っていた。
「ああ、真白さん!」
「えっと……たしか診療所の方ですね。何かあったんですか?」
「それが……どうにも原因がわからず寝込んだ患者がおりまして……お力をいただけないかと」
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