あやかし夫(予定)の溺愛~真夏の雪

澤谷弥(さわたに わたる)

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 ハラスメント防止法とか言われているけれど、チクチクとやってくる嫌味を、その制度で訴えるのは面倒くさいというのが本音である。

 小さなことでいちいち目くじらを立てていると、キリがない。

 あれは嫉妬だ嫉妬、ジェラシーだ。そう思いながらも、健太郎さんには愚痴をこぼしていた。
 私たちはまだ、婚約の段階。結婚はしていない。その結婚すら秒読みの段階ではあるけれど。

 籍を入れていないのにも、理由はあって。それはまだ、健太郎さんが私の両親と顔を合わせていないから。私は、ここから飛行機で一時間くらいかかる場所の出身であるため、おいそれと簡単に戻ることはできない。しかもこの体調だし。

 ちょうど安定期に入る夏季休暇に合わせて、新幹線でのんびりと向かおうと予定を組んでいたところなのだ。

*~*~*~*

「おい。珠美」

 そろそろ梅雨が明けようとしている頃、まだ太陽が沈み切る前。
 外にいるだけでもじっとりと汗ばんでくるような気温の中、会社を出た私に声をかけてきたのは、元カレの夏哉だった。

「なに? もう、あんたの彼女でもなんでもないんだから、呼び捨てにするの、やめてくれない?」
「お前、結婚したのか? そこに子ども、いんだろ?」
「は? なんであんたにそんなことを教えなきゃならないわけ?」

 ちっ、と夏哉は舌打ちをする。

「あんたにとって、私は重い女なんでしょ? 私と正反対の、軽い女と付き合ってんじゃなかったの?」

 噂によると、彼は営業部の海外マーケティングの英語ペラペラ才女の美人さんと付き合っているとか。だからといって、彼女が軽い女性というわけではないのだが、言葉の駆け引き。

「お前さ。誰でもいいんだろ? ヤらせてもらえれば」

 は? 何、言ってんの、こいつ――。

 だだでさえ暑くてくらくらしているのに、こいつの言葉を聞いているだけで、余計にくらくらしてくる。

「しかも、妊娠してるなら、孕む心配もないよな?」

 私の怒りが沸点に達しそうになっていた。

 付き合っていたときから、ちょっとなところはあったけれど、そういうのは片目をつぶれ、とよく言うから、片目と半分くらいつぶっていた。

 もう、彼とは付き合っていない。だから今、両目をきっちりと開く。

「あのね。私とあんたは、もう終わったの。誰でもいいわけではないから。用がないなら、帰るから」

 くるりと元カレに背中を向けた。

 本当に、こんな会社の目の前でやめて欲しい。同じフロアの人間はいなくても、他部署の定時で帰る人たちは、ばっちりと私たちのやり取りを見られている。

 だからって、誰かが助けてくれるわけでもない。遠目から、パンダでも見るような視線を投げかけてくるだけ。
 本当にいろんなことに頭にきた。

 健太郎さんじゃないけれど、「辞めてもいいかな」と思えるほどに。

「おい、待てよ」

 元カレに肩を掴まれた瞬間、世界が一変した。
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