婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
28 / 57
第五章

しおりを挟む
 二人は採掘場の東の第六区へと移動した。ここは以前、崩落を起こした現場。人手不足の採鉱担当に、リューディアとエメレンスが来て、なんとかここの安全確認が済んだところ。
「現場の確認をしたときも思ったけれど、ここの崩落の仕方は酷いよね」
 フードを深くかぶったエメレンスが言う。

「はい、あそこにもまだ崩れたままの岩盤がありますからね」
 同じようにフードを深くかぶっているリューディア。一度崩落が起きた場所でもあるため、頭上から何が落ちてくるかはわからないから、気を引き締めていけと、ヘイデンからは言われている。その際は、すかさず防御魔法を使いますと口にしたエメレンスであるが、その咄嗟の判断ができるかどうかというものは別物。

「ここの崩れ方が酷いね」
 崩れた場所に手を触れながらエメレンスが言う。
「まずは、崩れた箇所を記録していった方がいいですよね」

「そうだね」

 ファイルを手にしているリューディアが、崩落の起こった場所を丁寧に記録していく。エメレンスは見て、触れて、崩落の規模を確認する。これを全て確認するためには、十日程の時間が必要となりそうだ。それは他の仕事もあるため。

「ん?」
 崩落した法面に手を触れたエメレンスが顔を曇らせる。
「レン、どうかしましたか?」

「ちょっと。ここなんだけど……」
 エメレンスの言うにリューディアも手で触れる。

「ディアなら感じるでしょう? 残留魔力を」

 エメレンスの問いにリューディアは頷いた。崩れた箇所に手を触れた時、そこから魔力を感じたからだ。それは何かしら魔法が発動した証で、こうやって発動後も残っている魔力のことを残留魔力と呼ぶ。これを検知できる魔導士の数は多くは無い、魔力の強い上級魔導士のみ。

「つまり、誰かが意図的にこの現場の崩落を引き起こしたということですか?」

 リューディアは驚いてエメレンスを見上げる。

「そういうことになるだろうね」

「何のために?」
 リューディアは首を傾げる。

「それは、これを引き起こした人間に聞かないとわからないけれど、恐らく、この採掘を面白くないと思っている人がいるんだろうね」

「レンには心当たりがあるのですか? そういった人物に」

「あると言えばあるし、ないと言えばないし。あまり不確かな情報でディアを混乱させたくはないけれど、君は賢いから心配はないかな」
 そこでエメレンスがにっこりと微笑んだため、リューディアはもう一度首を傾げた。

「なぜ、ヘイデンがこの現場に派遣されて、ここで仕事をしているのか。ディアはわかってる?」

 首を横に振る。なぜ兄がここに来ているのか。それは、魔宝石を採掘するためだと思っている。だからそれ以上の深い理由は知らない。

「一時期、この現場で採掘できる魔宝石の量が減ったんだ」

「ですが、減るような要因はありませんよね。それは今も同じだと思うのですが」

「そう。実際の採掘量は減っていない。だけど、報告にあがってくる採掘量が減っている。それがどういうことを意味しているのか、わかるかい?」

「ええと。虚偽の報告。実際の量を少なく見せることで、差し引いた分を手元に残しておく、とかですか?」

「その通り」

「それが過去、行われていたということですか?」

「まだ、はっきりと断定はできないけれど。そうである、とボクは思っているし。恐らくヘイデンもそうだと思う」

 リューディアは唇を噛みしめる。採掘師たちが危険と隣り合わせの現場で掘った魔宝石を横流ししていた人物がいた、ということが許せない。

「恐らくヘイデンは過去の帳簿なども確認して、それが行われた証拠を探しているはずだ。だけど、相手だってわざわざ証拠を残すようなことはしないだろう。どこかに隠しているか、燃やしたか、もしくは持って帰ったか……」

「過去、採掘師たちが採掘した記録があればいいのですよね。それがこの現場でなくても、採掘師たちの誰かが持っていたとしたら、どうでしょう」

「それが正しい数値であるなら証拠になるだろうね。報告にあげる前の下書きの資料でも欲しいと思っている」

「まずは、お兄さまにこの残留魔力の件を相談しましょう。過去の不正を暴くのはそれからですね」

「そうだね。今日、調べるべきところは調べてしまおう。やることをやってから、次の作戦だ」

 エメレンスの明るい声が、リューディアの背中を押した。
 崩落が起きた現場の調査をすすめるうちに、どうやらこの崩落は意図的に起こされたものであることを二人は確信した。間違いない。
 至る所で感じる残留魔力。そして、その崩落で現場を離れてしまった魔導士たち。屈強な採掘師たちはここに残って採掘を続けてくれているが、彼らだって常に危険と隣り合わせだ。それを少しでも低減させるために、リューディアたちが奔走しているためか、今のところ、リューディアがこちらに来てからは誰一人怪我をしていない。ただ、働き者のガイルがたまに倒れてしまうくらいで。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』

鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」 婚約破棄をきっかけに、 貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。 彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく―― 働かないという選択。 爵位と領地、屋敷を手放し、 領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、 彼女はひっそりと姿を消す。 山の奥で始まるのは、 誰にも評価されず、誰にも感謝せず、 それでも不自由のない、静かな日々。 陰謀も、追手も、劇的な再会もない。 あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、 「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。 働かない。 争わない。 名を残さない。 それでも―― 自分の人生を、自分のために選び切る。 これは、 頑張らないことを肯定する物語。 静かに失踪した元貴族令嬢が、 誰にも縛られず生きるまでを描いた、 “何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。

裏で国を支えていた令嬢「不純物だ」と追放されるも、強面辺境伯と共に辺境を改革する ~戻ってきてと嘆願されましたが、それに対する答えは……~、

水上
恋愛
「君のような地味な不純物は不要だ」と婚約破棄され追放されたルチア。失意の彼女を拾ったのは、皆から恐れられる辺境伯レオンハルトだった。だが彼には意外な一面があって!? ルチアはレオンハルトと共に、自らの知識や技術で領地を改革し始める。 一方、ルチアを追放した王国は、彼女の不在によって崩壊の危機に陥る。 今更戻ってきてほしいと嘆願されましたが、それに対する答えは……。

【完結】婚約破棄と言われても個人の意思では出来ません

狸田 真 (たぬきだ まこと)
恋愛
【あらすじ】  第一王子ヴィルヘルムに婚約破棄を宣言された公爵令嬢クリスチナ。しかし、2人の婚約は国のため、人民のためにする政略結婚を目的としたもの。  個人の意思で婚約破棄は出来ませんよ? 【楽しみ方】  笑い有り、ラブロマンス有りの勘違いコメディ作品です。ボケキャラが多数登場しますので、是非、突っ込みを入れながらお楽しみ下さい。感想欄でもお待ちしております! 突っ込み以外の真面目な感想や一言感想などもお気軽にお寄せ下さい。 【注意事項】  安心安全健全をモットーに、子供でも読める作品を目指しておりますが、物語の後半で、大人のロマンスが描写される予定です。直接的な表現は省き、詩的な表現に変換しておりますが、苦手な方はご注意頂ければと思います。  また、愛の伝道師・狸田真は、感想欄のお返事が初対面でも親友みたいな馴れ馴れしいコメントになる事がございます。ご容赦頂けると幸いです。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

わたくし、何の取り柄もない悪役令嬢ですが。

小梅りこ
恋愛
「お前には華がない! 婚約を破棄する!」 公爵令嬢ヴェールは、夜会の中心でアシュレイ王子から断罪を突きつけられる。しかし、悲しむ暇はなかった。なぜなら、王子の冤罪がいかにもガバガバで、聖女リリアンの言動があまりに支離滅裂だったから。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

処理中です...