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第七章
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モーゼフは定期的に孤児院の慰問を行っていた。これに同行していたのは、いつもであれば婚約者であったリューディアという女性。彼女は子供が好きなのか、いつも楽しそうに笑顔を振りまきながら、子供たちと接していた。モーゼフとしては、その姿を見ても胸が締め付けられるように苦しくなることが多々あった。それが、子供たちに対する嫉妬心であるということにすら、本人は気付いていない。モーゼフにとっては、彼女は自分を苦しめる存在である、と同時に、自分の心に幸福感も満たしてくれる存在であると、そう思っていた。
しかし今は隣に彼女はいない。誰もいない。結婚しましょうと口にしているフリートさえもいない。たった一人での慰問。
リューディアとの婚約を解消したからという理由で、慰問を辞めようとは思わなかった。今まで行っていた物を急遽取りやめるということは物事の変化を示す。そしてその変化を敏感に感じ取るのは子供たちなのだ。だからだろうか。モーゼフが一人でここに来たことでさえ、子供たちは敏感に反応した。
「リューディアさまは?」
と無邪気に尋ねてくる子供たち。にこやかに微笑んで、誤魔化していたモーゼフだが、モーゼフ自身、なぜ彼女がここにいないのだろう、という疑問に支配されていく。
なぜ、自分は彼女にあのようなことを口走ってしまったのか。押し寄せてくるのは後悔と、そして謝罪の気持ち。彼女の悲しそうな笑みが、頭にこびりついて離れない。そして、それを打ち消すかのように、なぜかあのフリートの妖艶な笑みが、頭の中に浮かんできた。
苦しい。なぜ、こんなにも胸が痛むのか。
◇◆◇◆
シャルコの採掘現場の視察を終えた第一研究部の魔導士たちは、慌ただしく王都へと戻っていった。ここの魔宝石の品質の劣化や選鉱の技術不足を疑われたようだが、その疑いは晴れた。つまり表向きは、魔導具爆発事故は魔宝石のせいではなかった、ということになっている。つまり原因不明、詳細は調査中。それが、第一研究部がこの現場に来て出した答えだった。
しかし、一部の人間は知っている。爆発事故の原因は魔導具に使用されていた魔宝石がクズ石であったことを。シオドリックはそれを上に報告するつもりでいた。もちろん、こっそりとミシェルにも報告するつもり。このような面白いことを放っておくようなミシェルではないから。それに、あの兄の調査能力は恐ろしい。普段はぼんやりとして、影が薄いにも関わらず。
「やっと第一研究部の人たちが戻りましたね」
エリックはうぅんと両手をあげて伸びをしている。やはり部外者がいるということは、普段と違うということもあって緊張するのだろう。
「でも、この現場に原因が無いことがわかって、よかったです」
「そうですね」
リューディアもニッコリと微笑んだ。第一研究部たちは朝一でこの現場を訪れ、王都に戻るという報告をしてここを発った。だから、エリックの気持ちもわからないではないのだが。
しかし今は隣に彼女はいない。誰もいない。結婚しましょうと口にしているフリートさえもいない。たった一人での慰問。
リューディアとの婚約を解消したからという理由で、慰問を辞めようとは思わなかった。今まで行っていた物を急遽取りやめるということは物事の変化を示す。そしてその変化を敏感に感じ取るのは子供たちなのだ。だからだろうか。モーゼフが一人でここに来たことでさえ、子供たちは敏感に反応した。
「リューディアさまは?」
と無邪気に尋ねてくる子供たち。にこやかに微笑んで、誤魔化していたモーゼフだが、モーゼフ自身、なぜ彼女がここにいないのだろう、という疑問に支配されていく。
なぜ、自分は彼女にあのようなことを口走ってしまったのか。押し寄せてくるのは後悔と、そして謝罪の気持ち。彼女の悲しそうな笑みが、頭にこびりついて離れない。そして、それを打ち消すかのように、なぜかあのフリートの妖艶な笑みが、頭の中に浮かんできた。
苦しい。なぜ、こんなにも胸が痛むのか。
◇◆◇◆
シャルコの採掘現場の視察を終えた第一研究部の魔導士たちは、慌ただしく王都へと戻っていった。ここの魔宝石の品質の劣化や選鉱の技術不足を疑われたようだが、その疑いは晴れた。つまり表向きは、魔導具爆発事故は魔宝石のせいではなかった、ということになっている。つまり原因不明、詳細は調査中。それが、第一研究部がこの現場に来て出した答えだった。
しかし、一部の人間は知っている。爆発事故の原因は魔導具に使用されていた魔宝石がクズ石であったことを。シオドリックはそれを上に報告するつもりでいた。もちろん、こっそりとミシェルにも報告するつもり。このような面白いことを放っておくようなミシェルではないから。それに、あの兄の調査能力は恐ろしい。普段はぼんやりとして、影が薄いにも関わらず。
「やっと第一研究部の人たちが戻りましたね」
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「でも、この現場に原因が無いことがわかって、よかったです」
「そうですね」
リューディアもニッコリと微笑んだ。第一研究部たちは朝一でこの現場を訪れ、王都に戻るという報告をしてここを発った。だから、エリックの気持ちもわからないではないのだが。
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