婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。

澤谷弥(さわたに わたる)

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第六章

「やはり、これはクズ石です」

「なんだって?」
 腰を浮かしそうになったのはシオドリック。ヘイデンはこの結果を予想していたのだろう。どっしりと構え、腕を組んで難しい顔をしていた。
 シオドリックは魔宝石を手にすると、空いている方の手でルーペを取り、先ほどのリューディアと同じようにそれを観察する。

「この魔宝石は形が整っておりません。魔力の方は充分とは言い難いですが、通常の八割程度は備えています。ですが、形が整っていない魔宝石は、魔力制御が不安定になります。この魔宝石では、この魔導回路を動かすための魔力を制御することができません」

「本当だ……。これ、正規の魔宝石じゃない……」

「シオ兄さま。実はお兄さまには以前から報告をしていたのですが、どうやらここのクズ石が盗まれているようなのです」

「え?」
 そこでシオドリックは手にしていたルーペと魔宝石をテーブルの上に置いた。魔導具爆発事故の原因は、この魔導具に使用されている魔宝石で間違いない。だが、この魔宝石が正規品ではなくクズ石であった、ということは。

「シオドリック。この魔導具を売った商会から製造元を割り出すことはできるよな?」

「もちろん。商会と製造元には、別の人が調査に行っている。って、シェル兄だけどね」

「あのミシェルが? 本当か? てことは、魔宝石の入手ルートは割り出せるな」
 ヘイデンの呟きに、シオドリックは頷く。それでも、リューディアの表情は暗い。

「ディア。どうかしたのか?」

「お兄さま、シオ兄さま。このシャルコの採掘現場では、いろいろなことが起こり過ぎているとは思いませんか?」
 ヘイデンは眉根を寄せる。シオドリックは「どういうことだい?」と尋ねる。
「まず。わたくしがここでお仕事をするようになったきっかけですが、それは四月よつきほど前にこの採掘現場で崩落事故が起こったことです。その事故で何人かの魔導士たちが現場を離れております。ですが、調査を進めていくうちに、その崩落事故も意図的に起こされたことがわかりました」

「え?」
 シオドリックにとっては先ほどから初耳の内容ばかりだろう。ヘイデンにとっては既にわかりきっていること。それをリューディアがまとめて今、口にしてくれているのだ。

「さらに、お兄さまがこちらに来ることになったきっかけ。このシャルコの採掘現場で採れる魔宝石の量が減ったということ。ですが、わたくしもこちらに来て二月ふたつき程経ちますが、採掘量が変動するような要因が無いことに気付きました」

「ああ、そうだ。一時期、このシャルコからあがってくる魔宝石の採掘量が少しずつ減っていった。著しく減ったわけではない。少しずつ減っていくんだ。だが、それがある程度の期間続いたらどうなる? 少しずつであってもかなりの量になるはずだ」

 シオドリックとリューディアの二人は頷いた。具体的な量は今、調査中であるが、ざっくり換算してもそれはかなりの量になることは間違いなかった。

「はい。初めに、魔宝石の虚偽の報告があり、お兄さまがこちらに来られてから意図的な崩落事故が発生。そして今回のクズ石の盗難という流れになります。さらに言うと、今日の事務所荒らし。その者が事務所内で探していた者は……」

「これだろうね」
 ヘイデンが、鞄の中から書類を差し出した。それは昨日、エリックがエメレンスに手渡し、そこからヘイデンへと渡ったもの。
「恐らく敵の狙いはこれ。採掘師たちが保管していた過去の採掘量の記録の写し。これがあると、虚偽の報告の証拠になってしまうからね。シオドリック、できればこれを君に預けたい。あちらに戻るときに持っていて欲しい。だが、これが狙われているのは事実。肌身離さず持っているように」

「なかなか背筋が凍るような代物だね。ドキドキが止まらないよ。ああ、でもこれはシェル兄が好きそうな代物だ」
 と言うシオドリックは、どこか楽しんでいる様子にも見える。
「まあ、ここまできたら。この現場は不正に溢れているってことだね」

「残念ながらそのようだな。だが、俺がここに来たことによって、それが今までのようにいかなくなった。と、同時にそれを暴かれそうになっている。相手としては焦るしかないだろう」

「それに、オレたち第一研究部まで現場にきちゃったからね。今頃、相当焦っているはずだよ」
 シオドリックは楽しそうに笑う。
「もう少し相手を刺激するような行動をしてから戻った方がいいかな?」

「やめておけ。とばっちりを受けるのは俺たちだ。それに採掘師たちはこの件に巻き込みたくない」

「冗談だよ」
 と言うのが冗談に聞こえないところが、このシオドリックの性格を表しているのかもしれない。

「ところでさ、ヘイ兄。この書類を狙っている人物、それからこの不正を企んでいるような人物に心当たりはあるのかい?」

「まあ、俺がここに来たことでその地位を追い出されたヤツ、もしくはそいつに脅されてるヤツ。とかかな?」

「ヘイ兄が来たことによってこの現場を離れるようになった魔導士って。採掘部隊所属の、確か名前は……」

「採掘部隊元シャルコ責任者、フニペロ・メイソン、だな」
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