35 / 57
第六章
6
「やはり、これはクズ石です」
「なんだって?」
腰を浮かしそうになったのはシオドリック。ヘイデンはこの結果を予想していたのだろう。どっしりと構え、腕を組んで難しい顔をしていた。
シオドリックは魔宝石を手にすると、空いている方の手でルーペを取り、先ほどのリューディアと同じようにそれを観察する。
「この魔宝石は形が整っておりません。魔力の方は充分とは言い難いですが、通常の八割程度は備えています。ですが、形が整っていない魔宝石は、魔力制御が不安定になります。この魔宝石では、この魔導回路を動かすための魔力を制御することができません」
「本当だ……。これ、正規の魔宝石じゃない……」
「シオ兄さま。実はお兄さまには以前から報告をしていたのですが、どうやらここのクズ石が盗まれているようなのです」
「え?」
そこでシオドリックは手にしていたルーペと魔宝石をテーブルの上に置いた。魔導具爆発事故の原因は、この魔導具に使用されている魔宝石で間違いない。だが、この魔宝石が正規品ではなくクズ石であった、ということは。
「シオドリック。この魔導具を売った商会から製造元を割り出すことはできるよな?」
「もちろん。商会と製造元には、別の人が調査に行っている。って、シェル兄だけどね」
「あのミシェルが? 本当か? てことは、魔宝石の入手ルートは割り出せるな」
ヘイデンの呟きに、シオドリックは頷く。それでも、リューディアの表情は暗い。
「ディア。どうかしたのか?」
「お兄さま、シオ兄さま。このシャルコの採掘現場では、いろいろなことが起こり過ぎているとは思いませんか?」
ヘイデンは眉根を寄せる。シオドリックは「どういうことだい?」と尋ねる。
「まず。わたくしがここでお仕事をするようになったきっかけですが、それは四月ほど前にこの採掘現場で崩落事故が起こったことです。その事故で何人かの魔導士たちが現場を離れております。ですが、調査を進めていくうちに、その崩落事故も意図的に起こされたことがわかりました」
「え?」
シオドリックにとっては先ほどから初耳の内容ばかりだろう。ヘイデンにとっては既にわかりきっていること。それをリューディアがまとめて今、口にしてくれているのだ。
「さらに、お兄さまがこちらに来ることになったきっかけ。このシャルコの採掘現場で採れる魔宝石の量が減ったということ。ですが、わたくしもこちらに来て二月程経ちますが、採掘量が変動するような要因が無いことに気付きました」
「ああ、そうだ。一時期、このシャルコからあがってくる魔宝石の採掘量が少しずつ減っていった。著しく減ったわけではない。少しずつ減っていくんだ。だが、それがある程度の期間続いたらどうなる? 少しずつであってもかなりの量になるはずだ」
シオドリックとリューディアの二人は頷いた。具体的な量は今、調査中であるが、ざっくり換算してもそれはかなりの量になることは間違いなかった。
「はい。初めに、魔宝石の虚偽の報告があり、お兄さまがこちらに来られてから意図的な崩落事故が発生。そして今回のクズ石の盗難という流れになります。さらに言うと、今日の事務所荒らし。その者が事務所内で探していた者は……」
「これだろうね」
ヘイデンが、鞄の中から書類を差し出した。それは昨日、エリックがエメレンスに手渡し、そこからヘイデンへと渡ったもの。
「恐らく敵の狙いはこれ。採掘師たちが保管していた過去の採掘量の記録の写し。これがあると、虚偽の報告の証拠になってしまうからね。シオドリック、できればこれを君に預けたい。あちらに戻るときに持っていて欲しい。だが、これが狙われているのは事実。肌身離さず持っているように」
「なかなか背筋が凍るような代物だね。ドキドキが止まらないよ。ああ、でもこれはシェル兄が好きそうな代物だ」
と言うシオドリックは、どこか楽しんでいる様子にも見える。
「まあ、ここまできたら。この現場は不正に溢れているってことだね」
「残念ながらそのようだな。だが、俺がここに来たことによって、それが今までのようにいかなくなった。と、同時にそれを暴かれそうになっている。相手としては焦るしかないだろう」
「それに、オレたち第一研究部まで現場にきちゃったからね。今頃、相当焦っているはずだよ」
シオドリックは楽しそうに笑う。
「もう少し相手を刺激するような行動をしてから戻った方がいいかな?」
「やめておけ。とばっちりを受けるのは俺たちだ。それに採掘師たちはこの件に巻き込みたくない」
「冗談だよ」
と言うのが冗談に聞こえないところが、このシオドリックの性格を表しているのかもしれない。
「ところでさ、ヘイ兄。この書類を狙っている人物、それからこの不正を企んでいるような人物に心当たりはあるのかい?」
「まあ、俺がここに来たことでその地位を追い出されたヤツ、もしくはそいつに脅されてるヤツ。とかかな?」
「ヘイ兄が来たことによってこの現場を離れるようになった魔導士って。採掘部隊所属の、確か名前は……」
「採掘部隊元シャルコ責任者、フニペロ・メイソン、だな」
「なんだって?」
腰を浮かしそうになったのはシオドリック。ヘイデンはこの結果を予想していたのだろう。どっしりと構え、腕を組んで難しい顔をしていた。
シオドリックは魔宝石を手にすると、空いている方の手でルーペを取り、先ほどのリューディアと同じようにそれを観察する。
「この魔宝石は形が整っておりません。魔力の方は充分とは言い難いですが、通常の八割程度は備えています。ですが、形が整っていない魔宝石は、魔力制御が不安定になります。この魔宝石では、この魔導回路を動かすための魔力を制御することができません」
「本当だ……。これ、正規の魔宝石じゃない……」
「シオ兄さま。実はお兄さまには以前から報告をしていたのですが、どうやらここのクズ石が盗まれているようなのです」
「え?」
そこでシオドリックは手にしていたルーペと魔宝石をテーブルの上に置いた。魔導具爆発事故の原因は、この魔導具に使用されている魔宝石で間違いない。だが、この魔宝石が正規品ではなくクズ石であった、ということは。
「シオドリック。この魔導具を売った商会から製造元を割り出すことはできるよな?」
「もちろん。商会と製造元には、別の人が調査に行っている。って、シェル兄だけどね」
「あのミシェルが? 本当か? てことは、魔宝石の入手ルートは割り出せるな」
ヘイデンの呟きに、シオドリックは頷く。それでも、リューディアの表情は暗い。
「ディア。どうかしたのか?」
「お兄さま、シオ兄さま。このシャルコの採掘現場では、いろいろなことが起こり過ぎているとは思いませんか?」
ヘイデンは眉根を寄せる。シオドリックは「どういうことだい?」と尋ねる。
「まず。わたくしがここでお仕事をするようになったきっかけですが、それは四月ほど前にこの採掘現場で崩落事故が起こったことです。その事故で何人かの魔導士たちが現場を離れております。ですが、調査を進めていくうちに、その崩落事故も意図的に起こされたことがわかりました」
「え?」
シオドリックにとっては先ほどから初耳の内容ばかりだろう。ヘイデンにとっては既にわかりきっていること。それをリューディアがまとめて今、口にしてくれているのだ。
「さらに、お兄さまがこちらに来ることになったきっかけ。このシャルコの採掘現場で採れる魔宝石の量が減ったということ。ですが、わたくしもこちらに来て二月程経ちますが、採掘量が変動するような要因が無いことに気付きました」
「ああ、そうだ。一時期、このシャルコからあがってくる魔宝石の採掘量が少しずつ減っていった。著しく減ったわけではない。少しずつ減っていくんだ。だが、それがある程度の期間続いたらどうなる? 少しずつであってもかなりの量になるはずだ」
シオドリックとリューディアの二人は頷いた。具体的な量は今、調査中であるが、ざっくり換算してもそれはかなりの量になることは間違いなかった。
「はい。初めに、魔宝石の虚偽の報告があり、お兄さまがこちらに来られてから意図的な崩落事故が発生。そして今回のクズ石の盗難という流れになります。さらに言うと、今日の事務所荒らし。その者が事務所内で探していた者は……」
「これだろうね」
ヘイデンが、鞄の中から書類を差し出した。それは昨日、エリックがエメレンスに手渡し、そこからヘイデンへと渡ったもの。
「恐らく敵の狙いはこれ。採掘師たちが保管していた過去の採掘量の記録の写し。これがあると、虚偽の報告の証拠になってしまうからね。シオドリック、できればこれを君に預けたい。あちらに戻るときに持っていて欲しい。だが、これが狙われているのは事実。肌身離さず持っているように」
「なかなか背筋が凍るような代物だね。ドキドキが止まらないよ。ああ、でもこれはシェル兄が好きそうな代物だ」
と言うシオドリックは、どこか楽しんでいる様子にも見える。
「まあ、ここまできたら。この現場は不正に溢れているってことだね」
「残念ながらそのようだな。だが、俺がここに来たことによって、それが今までのようにいかなくなった。と、同時にそれを暴かれそうになっている。相手としては焦るしかないだろう」
「それに、オレたち第一研究部まで現場にきちゃったからね。今頃、相当焦っているはずだよ」
シオドリックは楽しそうに笑う。
「もう少し相手を刺激するような行動をしてから戻った方がいいかな?」
「やめておけ。とばっちりを受けるのは俺たちだ。それに採掘師たちはこの件に巻き込みたくない」
「冗談だよ」
と言うのが冗談に聞こえないところが、このシオドリックの性格を表しているのかもしれない。
「ところでさ、ヘイ兄。この書類を狙っている人物、それからこの不正を企んでいるような人物に心当たりはあるのかい?」
「まあ、俺がここに来たことでその地位を追い出されたヤツ、もしくはそいつに脅されてるヤツ。とかかな?」
「ヘイ兄が来たことによってこの現場を離れるようになった魔導士って。採掘部隊所属の、確か名前は……」
「採掘部隊元シャルコ責任者、フニペロ・メイソン、だな」
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢、猛省中!!
***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」
――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。
処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。
今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!?
己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?!
襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、
誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、
誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。
今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!
【完結】婚約破棄に感謝します。貴方のおかげで今私は幸せです
コトミ
恋愛
もうほとんど結婚は決まっているようなものだった。これほど唐突な婚約破棄は中々ない。そのためアンナはその瞬間酷く困惑していた。婚約者であったエリックは優秀な人間であった。公爵家の次男で眉目秀麗。おまけに騎士団の次期団長を言い渡されるほど強い。そんな彼の隣には自分よりも胸が大きく、顔が整っている女性が座っている。一つ一つに品があり、瞬きをする瞬間に長い睫毛が揺れ動いた。勝てる気がしない上に、張り合う気も失せていた。エリックに何とここぞとばかりに罵られた。今まで募っていた鬱憤を晴らすように。そしてアンナは婚約者の取り合いという女の闘いから速やかにその場を退いた。その後エリックは意中の相手と結婚し侯爵となった。しかしながら次期騎士団団長という命は解かれた。アンナと婚約破棄をした途端に負け知らずだった剣の腕は衰え、誰にも勝てなくなった。
捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。
彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。
さて、どうなりますでしょうか……
別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。
突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか?
自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。
私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。
それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。
7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
王太子殿下が私を諦めない
風見ゆうみ
恋愛
公爵令嬢であるミア様の侍女である私、ルルア・ウィンスレットは伯爵家の次女として生まれた。父は姉だけをバカみたいに可愛がるし、姉は姉で私に婚約者が決まったと思ったら、婚約者に近付き、私から奪う事を繰り返していた。
今年でもう21歳。こうなったら、一生、ミア様の侍女として生きる、と決めたのに、幼なじみであり俺様系の王太子殿下、アーク・ミドラッドから結婚を申し込まれる。
きっぱりとお断りしたのに、アーク殿下はなぜか諦めてくれない。
どうせ、姉にとられるのだから、最初から姉に渡そうとしても、なぜか、アーク殿下は私以外に興味を示さない? 逆に自分に興味を示さない彼に姉が恋におちてしまい…。
※史実とは関係ない、異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
お前との婚約は、ここで破棄する!
もちもちほっぺ
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
妹の方がかわいいからと婚約破棄されましたが、あとで後悔しても知りませんよ?
志鷹 志紀
恋愛
「すまない、キミのことを愛することができなくなった」
第二王子は私を謁見の間に連れてきて、そう告げた。
「つまり、婚約破棄ということですね。一応、理由を聞いてもよろしいですか?」
「キミの妹こそが、僕の運命の相手だったんだよ」
「そうですわ、お姉様」
王子は私の妹を抱き、嫌な笑みを浮かべている。
「ええ、私は構いませんけれど……あとで後悔しても知りませんよ?」
私だけが知っている妹の秘密。
それを知らずに、妹に恋をするなんて……愚かな人ですね。