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第一章:お仕事募集中です(5)
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「これの、どこが求人票だ? もしかして、国王陛下の懐に入り込もうとしている娼婦か? 間諜か? ああ??」
門番の騎士は、一気に柄の悪い騎士になった。完全にイリヤは不審がられている。
だけど、求人票も紹介状も本物である。
「紹介状、確認してください。ケノン職業紹介所って書いてありますよね? 本物ですよ。疑うならケノン職業紹介所に確認してください」
「まぁ、紹介状は本物だと仮定してもだ。この求人票は許せないな」
「え? なんで?」
カミラは、求人は決まっていないと言っていたし、紹介所で管理している帳簿にも求人は載っていたはず。
「なんでじゃねぇよ。こんな白紙を見せつけて、求人募集で来ただなんて。もう少し、頭を使えってんだ!」
「は?」
白紙と言われるのがわからない。
「ちょっと、その求人、見せてください。どこが白紙なんですか!」
「お前の眼鏡、曇ってんじゃねえのか?」
柄の悪い門番騎士は、イリヤをとことんバカにしてくる。眼鏡をかけていないことくらい、見た目でわかるだろうに。
「私は裸眼です。見てわからないんですか? あなたのほうこそ、その目、節穴なんじゃないの?」
ばん、とイリヤは求人票を騎士に向けて見せつけた。
「これのどこが白紙なんです?『求む! 家庭教師。子どもの相手が得意な方。性別年齢国籍問わず。住み込み可。詳細は面接にて』って、大きくばっちり書いてあるじゃないですか。もしかして、目が節穴なのではなく、字が読めないとか?」
柄の悪い騎士の後ろでは、幾人かがこそこそと内緒話をしている。そして、結論が出たのか、柄の悪い騎士の耳元でこっそりと何かをささやいていた。
「……お前。噂のイリヤ・マーベルか?」
イリヤは目を細くして、相手を睨む。
「それが何か?」
「そこまでして、王城に入り込んで、男をたらしこみたいのか?」
「あなた方がどのような噂を耳にしているかわかりませんが、その噂は事実でしょうか? 噂に踊らされる人間は、噂によって身を滅ぼしますよ?」
この騎士たちがイリヤ・マーベルの名を知ってこのような態度を取っているのであれば、本当にいつものあの噂が広がっているのだろう。だったら悪い女らしく振る舞えばいい。
「イリヤ・マーベルだったら、なおさらこの門はくぐらせられねぇな。男を手玉にとる毒婦だろ? 俺様は温情に溢れる人間だからな、本来であればこれをこうやって破り捨ててやりたいところだが」
柄の悪い騎士はそう言って、イリヤに紹介状と求人票を突きつけた。
「これを持って、さっさと帰れ。そして二度と、ここに来るんじゃねぇ」
イリヤとしては、どうしてもこの仕事につきたい。そうしなければ、マーベル子爵かサブル侯爵の餌食になってしまう。それだけは勘弁願いたい。どちらも「どちらにしようかな、神様の言うとおり」にもしたくない相手である。
「求人が偽物だって、どうして決めつけるんですか!」
この騎士には何をどう言っても無駄かもしれない。だからって、ここで食い下がるわけにもいかない。
「偽物も何も……白紙だろうが。これ以上、騒げば、牢にいれるぞ。公務執行妨害だ」
門を守る騎士にとって、その仕事は公務である。それを邪魔したイリヤは公務執行妨害に該当するようだ。
だがいっそのこと、牢にぶち込まれたほうが、彼らの手に落ちなくて済むかもしれない。
そんなことまで考えてしまった。
一気に、イリヤの心の中の何かが、音を立てて崩れようとした。
「……先ほどから何を騒いでいる」
大きな門の脇にある通用門。そちらから颯爽と現れた黒い髪をすっきりと後ろになでつけている男。見るからに騎士ではない。
門番の騎士は、一気に柄の悪い騎士になった。完全にイリヤは不審がられている。
だけど、求人票も紹介状も本物である。
「紹介状、確認してください。ケノン職業紹介所って書いてありますよね? 本物ですよ。疑うならケノン職業紹介所に確認してください」
「まぁ、紹介状は本物だと仮定してもだ。この求人票は許せないな」
「え? なんで?」
カミラは、求人は決まっていないと言っていたし、紹介所で管理している帳簿にも求人は載っていたはず。
「なんでじゃねぇよ。こんな白紙を見せつけて、求人募集で来ただなんて。もう少し、頭を使えってんだ!」
「は?」
白紙と言われるのがわからない。
「ちょっと、その求人、見せてください。どこが白紙なんですか!」
「お前の眼鏡、曇ってんじゃねえのか?」
柄の悪い門番騎士は、イリヤをとことんバカにしてくる。眼鏡をかけていないことくらい、見た目でわかるだろうに。
「私は裸眼です。見てわからないんですか? あなたのほうこそ、その目、節穴なんじゃないの?」
ばん、とイリヤは求人票を騎士に向けて見せつけた。
「これのどこが白紙なんです?『求む! 家庭教師。子どもの相手が得意な方。性別年齢国籍問わず。住み込み可。詳細は面接にて』って、大きくばっちり書いてあるじゃないですか。もしかして、目が節穴なのではなく、字が読めないとか?」
柄の悪い騎士の後ろでは、幾人かがこそこそと内緒話をしている。そして、結論が出たのか、柄の悪い騎士の耳元でこっそりと何かをささやいていた。
「……お前。噂のイリヤ・マーベルか?」
イリヤは目を細くして、相手を睨む。
「それが何か?」
「そこまでして、王城に入り込んで、男をたらしこみたいのか?」
「あなた方がどのような噂を耳にしているかわかりませんが、その噂は事実でしょうか? 噂に踊らされる人間は、噂によって身を滅ぼしますよ?」
この騎士たちがイリヤ・マーベルの名を知ってこのような態度を取っているのであれば、本当にいつものあの噂が広がっているのだろう。だったら悪い女らしく振る舞えばいい。
「イリヤ・マーベルだったら、なおさらこの門はくぐらせられねぇな。男を手玉にとる毒婦だろ? 俺様は温情に溢れる人間だからな、本来であればこれをこうやって破り捨ててやりたいところだが」
柄の悪い騎士はそう言って、イリヤに紹介状と求人票を突きつけた。
「これを持って、さっさと帰れ。そして二度と、ここに来るんじゃねぇ」
イリヤとしては、どうしてもこの仕事につきたい。そうしなければ、マーベル子爵かサブル侯爵の餌食になってしまう。それだけは勘弁願いたい。どちらも「どちらにしようかな、神様の言うとおり」にもしたくない相手である。
「求人が偽物だって、どうして決めつけるんですか!」
この騎士には何をどう言っても無駄かもしれない。だからって、ここで食い下がるわけにもいかない。
「偽物も何も……白紙だろうが。これ以上、騒げば、牢にいれるぞ。公務執行妨害だ」
門を守る騎士にとって、その仕事は公務である。それを邪魔したイリヤは公務執行妨害に該当するようだ。
だがいっそのこと、牢にぶち込まれたほうが、彼らの手に落ちなくて済むかもしれない。
そんなことまで考えてしまった。
一気に、イリヤの心の中の何かが、音を立てて崩れようとした。
「……先ほどから何を騒いでいる」
大きな門の脇にある通用門。そちらから颯爽と現れた黒い髪をすっきりと後ろになでつけている男。見るからに騎士ではない。
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