このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)

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第四章:新しいお仕事ですか?(2)

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 お前だけには言われたくないわ、と心の中で呟くものの、顔だけはニッコリと笑みを浮かべてごまかす。

 むしろマリアンヌというよりは、イリヤを思い出していたのだ。心をわかり合いたいとよく言う彼女だが、どうやったら彼女と心がわかり合えるのかが、目下のところの悩みでもある。

「あまりそういうことを言いますと、明日、マリアンヌを連れてこなくていいと、イリヤに言いますが?」
「うわぁ、ごめんなさい。ごめんなさい。変態、エッチだなんてもう言いません」

 ――こいつ、やっぱり重症だな。

 そんな冷たい視線を送りつつ、クライブは金で縁取られた白磁のカップを手に取った。

 マリアンヌが召喚されてからというもの、エーヴァルトが酷い。これはそろそろトリシャに告げ口をすべきかと思いながらも、クライブとトリシャが犬猿の仲なのだ。

「それで、クライブとイリヤ嬢の仲はどうなのだ?」

 飲んでいた紅茶を噴き出しそうになった。エーヴァルトが真面目な口調で、イリヤとクライブの仲を問いただすとは。いったい何を考えているのか。

「オレとイリヤの仲がどうであれ、あなたには関係がないのでは? マリアンヌにしか興味がないと言っていたと記憶しておりますが?」
「だが、私は思ったのだよ。マリアンヌの両親の仲がよいほうが、マリアンヌにとっても幸せではないのかと。だから、マリアンヌのためにもクライブとイリヤ嬢の仲は良好であってもらいたい」

 クライブは黙って紅茶を飲み直した。

「それで、どうなのだ? イリヤ嬢との仲は。初夜のやり直しはできたのか? 卒業できたのか?」

 今度はとうとう紅茶を噴き出した。どうして人が飲んでいるところを狙って、話しかけてくるのか。確信犯としか思えない。

 侍従が慌ててかけつけて、濡れた箇所をいそいそと拭いてくれる。

「陛下のおっしゃっている意味が、私にはわかりかねます」
「うわ。白々しい。てことは、まだなんだな? マリアンヌにも弟か妹がいたほうがいいのではないか?」
「そうなりますと、マリアンヌだけのけ者……」
「にするわけがないだろう? 君たちが。君たちであれば実子もマリアンヌも、同じように愛してくれる。そう思ったから君たちに預けたのだ」

 うんうんと頷きながら、エーヴァルトは良いことを口にしたと自画自賛しているが「結婚する気がないなら子どもだけでもどうだ?」と彼が言い出したからマリアンヌを養女にしたはずだったと記憶している。それなのにエーヴァルトは勝手に美談にしようとしている。

「とにかく私は。結婚のけの字すら追い払うような男だった君が、なんだかんだとイリヤ嬢とうまくやっているのが、嬉しいのだよ。君にも私のようにね、幸せな結婚生活を送ってもらいたい」

 余計なお世話だ、と心の中で叫ぶクライブであるが、エーヴァルトに向かってその言葉を吐かないのは、自分自身もそれを頭の片隅のどこかで願っているからなのかもしれない。

 まずは、イリヤとの心をわかり合うのが先なのだが、これをどうしたらいいのかもさっぱりわからない。

 誰かに相談をと思っても、相談相手は目の前の彼しか思い浮かばないのも、頭が痛い問題である。

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