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第四章:新しいお仕事ですか?(5)
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「ちちうえ、ぼくだってマリーとあそびたいのです」
マリアンヌをめぐって、親子喧嘩が勃発しそうな勢いである。その間に入っているクライブは、アルベルトを宥めエーヴァルトに怒鳴っている。
「本当に相変わらずね、あの人たち」
どこか遠くを見つめるかのようなトリシャの瞳は、過去の記憶を探っているようにも見えた。
「あそこはクライブにまかせて、私たちは私たちで」
片目を瞑ったトリシャを見ると、親近感が沸いてくる。
イリヤはマリアンヌを囲っている人たちのことは放っておいて、彼女とティータイムを楽しむことにした。
室内の日当たりのいい場所にある一人がけのソファと小さな白いテーブル。そこにはすでに、二人分のお茶が準備してあり、テーブルを挟んで向かい合って座る。
「トリシャ様とクライブ様は、幼い頃からのお知り合いであると聞いたのですが……」
それは、クライブがエーヴァルトの愚痴を言い始めたのがきっかけである。マリアンヌを連れていく前日は、エーヴァルトがいろんな意味で重症らしい。なんとか政務はこなしてくれるものの、クライブのストレスがたまると言っていた。
がつんとトリシャから一言、言ってもらえばいいのでは? と提案したイリヤだが、クライブはその答えを濁した。むしろ、イリヤからトリシャに頼んでほしいとまで言う始末である。
「ですが、珍しく。トリシャ様は閣下の苦手な人物のようなんですよね」
少しでもクライブの弱みを握っておきたいという気持ちが、イリヤの中にふつふつと沸き起こっていた。
「ああ、それね」
トリシャはイリヤの言葉に心当たりがあるのだろう。含みを持たせて微笑むと、喉を潤すかのように紅茶を飲む。
「前にも言ったかと思うけれど、私とエーヴァルト、クライブは幼馴染みのような関係でね」
トリシャも元は公爵令嬢、そしてクライブも公爵子息であった。父親が王城に出入りできるような官職に就いており、同い年のエーヴァルトもいたことから、彼に引き合わされたらしい。
「エーヴァルトって昔からあんな感じなの。誰かが見張ってないと勉強もしなくて。それで私やクライブが一緒に勉強する羽目になったのよ。ほんと、いい迷惑」
トリシャはフォークにケーキをひとかけらのせると、それを上品に口元にまで運ぶ。いい迷惑と言っているトリシャではあるが、心ではそうは思っていないのも伝わってくる。
「だけど、私ね。クライブのことをずっと女の子だと思っていたの」
「え?」
「エーヴァルトとクライブはもっと前から知り合いだったらしいけれど、私が二人と会ったのは六歳くらいのときだったかしら……」
かれこれ二十年近くの付き合いになるようだ。
「本当にクライブったら、かわいらしかったのよ。でも、今思えば、髪も短かったしね。それでも彼のことを女の子だと思って勝手にライバル視していたのよね」
ライバル視というくらいなのだから、何かを競い合おうとしたのだろうか。
「クライブに会うたびに、絶対にエーヴァルトは渡さない。エーヴァルトと結婚するのは私、とか言っていて」
他の人から見たら、クライブとトリシャがエーヴァルトを取り合っている形に見えた。
マリアンヌをめぐって、親子喧嘩が勃発しそうな勢いである。その間に入っているクライブは、アルベルトを宥めエーヴァルトに怒鳴っている。
「本当に相変わらずね、あの人たち」
どこか遠くを見つめるかのようなトリシャの瞳は、過去の記憶を探っているようにも見えた。
「あそこはクライブにまかせて、私たちは私たちで」
片目を瞑ったトリシャを見ると、親近感が沸いてくる。
イリヤはマリアンヌを囲っている人たちのことは放っておいて、彼女とティータイムを楽しむことにした。
室内の日当たりのいい場所にある一人がけのソファと小さな白いテーブル。そこにはすでに、二人分のお茶が準備してあり、テーブルを挟んで向かい合って座る。
「トリシャ様とクライブ様は、幼い頃からのお知り合いであると聞いたのですが……」
それは、クライブがエーヴァルトの愚痴を言い始めたのがきっかけである。マリアンヌを連れていく前日は、エーヴァルトがいろんな意味で重症らしい。なんとか政務はこなしてくれるものの、クライブのストレスがたまると言っていた。
がつんとトリシャから一言、言ってもらえばいいのでは? と提案したイリヤだが、クライブはその答えを濁した。むしろ、イリヤからトリシャに頼んでほしいとまで言う始末である。
「ですが、珍しく。トリシャ様は閣下の苦手な人物のようなんですよね」
少しでもクライブの弱みを握っておきたいという気持ちが、イリヤの中にふつふつと沸き起こっていた。
「ああ、それね」
トリシャはイリヤの言葉に心当たりがあるのだろう。含みを持たせて微笑むと、喉を潤すかのように紅茶を飲む。
「前にも言ったかと思うけれど、私とエーヴァルト、クライブは幼馴染みのような関係でね」
トリシャも元は公爵令嬢、そしてクライブも公爵子息であった。父親が王城に出入りできるような官職に就いており、同い年のエーヴァルトもいたことから、彼に引き合わされたらしい。
「エーヴァルトって昔からあんな感じなの。誰かが見張ってないと勉強もしなくて。それで私やクライブが一緒に勉強する羽目になったのよ。ほんと、いい迷惑」
トリシャはフォークにケーキをひとかけらのせると、それを上品に口元にまで運ぶ。いい迷惑と言っているトリシャではあるが、心ではそうは思っていないのも伝わってくる。
「だけど、私ね。クライブのことをずっと女の子だと思っていたの」
「え?」
「エーヴァルトとクライブはもっと前から知り合いだったらしいけれど、私が二人と会ったのは六歳くらいのときだったかしら……」
かれこれ二十年近くの付き合いになるようだ。
「本当にクライブったら、かわいらしかったのよ。でも、今思えば、髪も短かったしね。それでも彼のことを女の子だと思って勝手にライバル視していたのよね」
ライバル視というくらいなのだから、何かを競い合おうとしたのだろうか。
「クライブに会うたびに、絶対にエーヴァルトは渡さない。エーヴァルトと結婚するのは私、とか言っていて」
他の人から見たら、クライブとトリシャがエーヴァルトを取り合っている形に見えた。
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