このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)

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第四章:新しいお仕事ですか?(6)

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「エーヴァルトって、変なところもあるけれども、やるときはきちんとやるし、幼い頃から私にとっては特別な存在だったの。まぁ、王子というのもあって最初は憧れていたんだけど、それでもやっぱり近くにいればいいところに目がいって、惹かれていくのよね」

 憧れが好きに変わった。そういうことにちがいない。

「だから余計にクライブが邪魔だったというか、まぁ、そんな感じよね」

 なんとなくその状況が予想できて、イリヤは苦笑する。

「だけど、エーヴァルトは私とクライブにも仲良くしてもらいたかったみたいで」

 その話を聞くと、あの国王は今よりも子ども時代のほうがしっかりしているように思える。

「それで私もね、クライブと仲良くしようと思ったの。普通に女の子同士がやるようにね、遊べば仲良くなれるんじゃないかなって」

 ふっとトリシャの目尻が困ったように下がった。

「あの頃、女の子同士はね。着ているドレスを取り替えっこする遊びが流行っていたのよ」

 トリシャが言うあの頃は、イリヤの知っているあの頃とは違う。少なくとも、そういった遊びが流行ったという記憶がイリヤにはないのだ。これが五つの年の差によるものか。

「クライブはドレスなんか着てなかったんだけど。だからこそ余計に服の取り替えっこをしたくなってね」

 先ほどの困ったような笑みとは異なる、にやりとした何かを企むようにトリシャは口元をゆがめた。

「それをね、もちろんクライブが嫌がって。私が無理矢理ひん剥いたの」

 イリヤの頭の中にそのときの光景がぱっと浮かんだ。けして目撃したわけでもないのに、なぜか容易にそれが想像できたのだ。

「それでね、そのときにクライブが男の子だってわかったんだけど。せっかく服を脱いだのならって、私のドレスを無理矢理着せてみたの。そうしたらね、もう、エーヴァルトが……」

 くくくくと思い出し笑いをしたトリシャは、その先の言葉を続けることができないようだ。ひとしきり笑ったあと、ふぅと息を吐いて紅茶を一口飲む。

「とにかく。クライブは顔がいいのよ。女の私がうらやましいと思うくらいにね。それにドレスが似合う」

 その言葉で眼鏡を外したクライブの顔を思い浮かべる。顔がいいのは認める。

「まぁ、そういうことがあって。私とクライブの仲はこじれちゃって。さらに、女性嫌いというか女は敵だみたいな、そんな感じになっちゃって。そういうわけで、今まで独身、婚約者なしだったわけ」

 つまり、クライブの女性に対する毒吐きはトリシャが原因だった。

「そんなクライブに聖女様の養父が務まるとは思えないでしょう?」

 その言葉には同意する。出会った当初の彼は、それはもう、酷かった。マリアンヌはクライブの顔を見ると、眼鏡外し攻撃ばかりしていたし、クライブが抱っこしようとすると変な顔をして暴れ出す。
 今では一緒に風呂に入る仲になったが、マリアンヌにどんな心境の変化があったのかなんて、イリヤにはわからない。

「だけど、イリヤが一緒になってくれてよかったわ」
「ですが、私と閣下の結婚は契約結婚です。マリアンヌが結婚しましたら、離婚する予定です」

 そうなの? とトリシャは首を傾げる。
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