このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)

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第五章:それは追加契約になります(5)

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 チャールズがそっとやってきて「旦那様からお聞きしておりますので」と前置きをつけてから、今日は休んでもいいとのことだった。イリヤはその言葉に甘えることにした。

 この屋敷は、クライブ自身が人を寄せ付けない性格のためか、訪れる者も少ない。仮に人がやってきたとしても、たいていはチャールズがなんとかしてしまうそうだ。

 たまに、イリヤが呼ばれるときもあるが、それはファクト公爵夫人という肩書きが必要になるときだけ。

 部屋に戻り、少しだけ室内をうろうろとしてから結局ソファでうたた寝することにした。
 朝晩は冷え込むものの、日が当たるとぽかぽかする室内は、イリヤを微睡みの世界へと導く。重くなる瞼に抗うこともできずに、そのまま眠りへと落ちる――




 さわりと人の気配がして目を開ける。

「は?」

 目の前にクライブがいる。今はまだ、服を着ている。レースのついたシャツの上に、いつものテイルコートを羽織っていた。

「目が覚めたか? 迎えにきた」
「むはえ?」

 寝起きのためか、口が上手く回らない。

「昨夜の件。陛下、直々に話をしたいそうだ」
「今から!」

 イリヤの目がぱっと覚めた。今から登城するのであれば、着替えなければならない。

「着替える必要はない。マリアンヌもおいていく」

 あのエーヴァルトと会うというのに、マリアンヌを置いていってもいいものなのか。
 先ほどからクライブは、イリヤの心を呼んでいるかのように言葉を続けている。

「マリアンヌがいると、マリアンヌに気が取られてしまって、大事な話ができない。チャールズにもイリヤを王城へ連れていくことは伝えてある。もちろん、マリアンヌはおいていくことも。何かあれば、すぐに連絡がくるから」
「は、はい」

 急いでサマンサを呼び、乱れた髪を直してもらい、ドレスの上にショールを羽織ってから屋敷を出た。
 馬車の中では、クライブがいきさつを説明する。馬車の中であれば、御者にまで声は届かない。

「イリヤがマリアンヌの代役を引き受けてくれたと陛下に報告したのはよかったのだが。同じタイミングで、やはり聖女召喚をという話が大きくなってきたようでな。議会でも議題にあげるという話になった」

 それだけ魔物による被害が相次いでいるらしい。

「だから、形だけもう一度、聖女召喚の儀を行うということで、今、神官長と話をつめている」
「形だけ?」

 ああ、とクライブは頷く。

「聖女召喚の儀を行っても、聖女はマリアンヌであるからマリアンヌが召喚される」
「それってどういうことでしょう?」
「例えば、マリアンヌが屋敷にいたとしよう。王城で召喚の儀を行ったとしたら、マリアンヌが屋敷から王城へと移動するだけだ。なによりもマリアンヌは聖女だからな」
「はぁ……」

 それでは、マリアンヌが聖女であると公表するだけではないのだろうか。

「そもそも聖女召喚の儀は、神聖なる儀式であることから、不特定多数の立ち会いを認めていない。それもあって、前回はこっそりと行った」

 マリアンヌの正体がばれていないのもそのせいらしいし、昨日もそのようなことを言っていた。

「だが今回は、聖女を求めるやつらを別室に控えさせておく」
「ええ?」
「そして召喚の儀式で現れたイリヤを、聖女として紹介する」
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