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第六章:そのお仕事、お引き受けいたします(7)
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「とりあえずは、現状把握のために魔物討伐に同行するとか。そういったところがいいのでは?」
一人の魔法使いが声をあげる。すると、他の二人もうんうんと頷く。
「魔物討伐の同行ですか? まぁ、それくらいならできるかと思います。私も魔法は使えますので」
イリヤはチラリと横目でクライブの様子をうかがった。彼が文句を言い出すような、そんな気がしたからだ。
そんなクライブは眼鏡の下の目を鋭く細くしている。
「クライブ様?」
イリヤが呼ぶと、彼はくいっと眼鏡を押し上げる。
「イリヤを魔物討伐に同行させるというのであれば、マリアンヌを連れていってはどうだろうか?」
「クライブ様!」
マリアンヌは赤ん坊である。やっと高速ハイハイで動き、最近ではつかまり立ちができるようになった。つまり、一人では歩けないのだ。そんなマリアンヌを危険な魔物討伐へ連れていくと提案するとは、いったい彼は何を考えているのか。
「マリアンヌはイリヤに懐いている。イリヤが何日もマリアンヌと離れると、マリアンヌの世話をしている者にも迷惑がかかるし、もしかしたらまた、マリアンヌの世話を投げ出すかも知れない。むしろ、マリアンヌが暴れる……かもしれない」
なるほどと、目の前の彼らは一斉に頷いた。
マリアンヌが召喚されたばかりの頃を思い出しているのだろう。そのときのマリアンヌは酷かったと聞いているし、それがイリヤが王城にやってきた理由でもある。
「それに……ああ見えてもマリアンヌは聖女様だ。もしかしたら、何かこう、奇跡が起こるかもしれない」
まさかクライブの口から奇跡という言葉が出るとは思わなかった。むしろ、その奇跡にすがりたいのだろう。
ただ、イリヤとしてもマリアンヌと離れることに不安はあった。一緒にいるのが許されるのであれば、一緒にいたい。
「クライブ様がお許しくださるなら、マリアンヌを連れて魔物討伐へ同行します。ですが、できればマリアンヌの世話をしてくれる者も一人つけていただけると……」
イリヤが聖女としての振る舞いを求められるのであれば、マリアンヌの世話ばかりしているわけにもいかないだろう。
「ああ。それなら心配するな。オレも同行するからな」
ぎょっとしたのはイリヤだけではなかった。神官長も魔法使いたちも、目をまんまるくして、さらに口をあんぐりと開けてクライブを見つめる。
「しかし、クライブ様にはお仕事が……エーヴァルト様がお困りになるのでは?」
「オレだって部下の育成にも励んでいるつもりだ。オレの仕事は補佐官たちに任せる。彼らだって、今は何が重要かを判断する力はあるからな」
「では、決まりですね」
神官長はパチンと手をたたいた。それはもう、物事が進んで嬉しくてたまらないとでも言うかのように。
「聖女イリヤ様が、魔物討伐へ同行する。ですが、お子様がいらっしゃるということで、母子を離ればなれにするのはかわいそうだと。だからお子様のマリアンヌ様と夫である閣下も同行する。そんな流れでいきましょう」
そのような台本で、周囲は納得できるのだろうか。それがイリヤには少々不安なところもあった。
「そうと決まれば、先にお披露目の儀ですね」
「お披露目の儀、ですか?」
イリヤが声をあげると「そうです」と神官長は目尻を下げる。これはもう、嬉しくてたまらないといった様子にも見える。
一人の魔法使いが声をあげる。すると、他の二人もうんうんと頷く。
「魔物討伐の同行ですか? まぁ、それくらいならできるかと思います。私も魔法は使えますので」
イリヤはチラリと横目でクライブの様子をうかがった。彼が文句を言い出すような、そんな気がしたからだ。
そんなクライブは眼鏡の下の目を鋭く細くしている。
「クライブ様?」
イリヤが呼ぶと、彼はくいっと眼鏡を押し上げる。
「イリヤを魔物討伐に同行させるというのであれば、マリアンヌを連れていってはどうだろうか?」
「クライブ様!」
マリアンヌは赤ん坊である。やっと高速ハイハイで動き、最近ではつかまり立ちができるようになった。つまり、一人では歩けないのだ。そんなマリアンヌを危険な魔物討伐へ連れていくと提案するとは、いったい彼は何を考えているのか。
「マリアンヌはイリヤに懐いている。イリヤが何日もマリアンヌと離れると、マリアンヌの世話をしている者にも迷惑がかかるし、もしかしたらまた、マリアンヌの世話を投げ出すかも知れない。むしろ、マリアンヌが暴れる……かもしれない」
なるほどと、目の前の彼らは一斉に頷いた。
マリアンヌが召喚されたばかりの頃を思い出しているのだろう。そのときのマリアンヌは酷かったと聞いているし、それがイリヤが王城にやってきた理由でもある。
「それに……ああ見えてもマリアンヌは聖女様だ。もしかしたら、何かこう、奇跡が起こるかもしれない」
まさかクライブの口から奇跡という言葉が出るとは思わなかった。むしろ、その奇跡にすがりたいのだろう。
ただ、イリヤとしてもマリアンヌと離れることに不安はあった。一緒にいるのが許されるのであれば、一緒にいたい。
「クライブ様がお許しくださるなら、マリアンヌを連れて魔物討伐へ同行します。ですが、できればマリアンヌの世話をしてくれる者も一人つけていただけると……」
イリヤが聖女としての振る舞いを求められるのであれば、マリアンヌの世話ばかりしているわけにもいかないだろう。
「ああ。それなら心配するな。オレも同行するからな」
ぎょっとしたのはイリヤだけではなかった。神官長も魔法使いたちも、目をまんまるくして、さらに口をあんぐりと開けてクライブを見つめる。
「しかし、クライブ様にはお仕事が……エーヴァルト様がお困りになるのでは?」
「オレだって部下の育成にも励んでいるつもりだ。オレの仕事は補佐官たちに任せる。彼らだって、今は何が重要かを判断する力はあるからな」
「では、決まりですね」
神官長はパチンと手をたたいた。それはもう、物事が進んで嬉しくてたまらないとでも言うかのように。
「聖女イリヤ様が、魔物討伐へ同行する。ですが、お子様がいらっしゃるということで、母子を離ればなれにするのはかわいそうだと。だからお子様のマリアンヌ様と夫である閣下も同行する。そんな流れでいきましょう」
そのような台本で、周囲は納得できるのだろうか。それがイリヤには少々不安なところもあった。
「そうと決まれば、先にお披露目の儀ですね」
「お披露目の儀、ですか?」
イリヤが声をあげると「そうです」と神官長は目尻を下げる。これはもう、嬉しくてたまらないといった様子にも見える。
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