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第六章:そのお仕事、お引き受けいたします(6)
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「クライブ様……。私たちのことを、皆様にお伝えしていなかったのですか?」
婚姻関係にあることを、ここにいる者たちにはとっくに言っていると思ったのだ。
「ああ。必要に応じて言えばいいと思っていたからな」
つまり、今まではその情報は不要だったということだ。クライブにとって、結婚していようがいまいが、大した問題ではないらしい。
ド派手な結婚式を挙げたわけではないから、知らない者は知らないだろう。
イリヤだって家族には報告したが、サブル侯爵には伝えていない。むしろ、伝える必要もないとすら思っている。
マーベル子爵は噂好きなところがあるから、あそこから広まるかと思ったが、そうでもなかった。その辺はきちっと母親が手綱を握っているに違いない。
「ですが、イリヤ嬢が閣下と婚姻関係にあったほうが、こちらとしては都合はいいです。聖女様とお近づきになりたいと思う者はたくさんいますからね。もちろん、婚姻関係を迫ってくる者もいるでしょう。もしかしたら、強引に求める者もいるかもしれない」
強引に求めてきた人をイリヤは知っているが、それをはね除けるだけの力があると自負している。
ちらりと隣のクライブに視線を向けると、彼は顔色一つ変えずに神官長の話を真剣に聞いていた。今の話に心当たりはないようだ。
「本来であれば、聖女様は神殿での保護となります。ですが、イリヤ嬢は閣下と結婚されているとのことなので、閣下に聖女様の身柄をお任せしたいと思うのですが、それはよろしいですよね?」
「もちろんだ」
つまり、イリヤにすれば何も変わらない。今までと同じようにクライブの屋敷で過ごす。
「では、聖女様の今後の生活については安心ですね」
安心も何も、だから今までとなんら変わりはないのだ。
「……むしろ、ここからがご相談したいことなのですが」
前のめりになった神官長は、声色を低くした。そうすると、他の魔法使いたちも顔を近づけて、まるでひそひそ話をするかのように頭を寄せている。
逆にイリヤは引いた。それでも神官長は言葉を続ける。
「聖女様に求められるのは、瘴気を祓うことです。つまり、魔物をこの世界から消し去ること」
それは理想論だ。魔物をすべて消し去るのは難しい。しかし、時空が歪み、瘴気が発生することで魔物の数がぐっと増える。まるでそこから湧き出てくるかのように。
「その、瘴気っていうのは、もう発生しているのですか?」
イリヤが尋ねると、神官長は「はい」と答える。
「一年半ほど前には、時空の歪みが確認されたのですが……そこから瘴気がもわもわっと漂い始めたのが一か月ほど前。時空がゆがんだときから、徐々に魔物の数は増えてはいたのですが、瘴気が確認されてからはぐっと増えました」
だからこのタイミングでの聖女召喚の儀を、誰もが望んだというわけだ。初めて瘴気が確認された時期に。
「早かれ遅かれ、聖女様にはその瘴気の発生源に足を運んでもらう必要があります」
「ですが、ご存知の通り。私には聖なる力がありません」
「それが問題なんですよね」
う~んと唸って、神官長は腕を組む。とりあえずその場しのぎの誤魔化しはできた。聖女が現れたという事実は人々に希望をもたらすだろう。しかし、その次に求められるのは聖女としての役目だ。それが瘴気を祓い、魔物を蹴散らすこと。
婚姻関係にあることを、ここにいる者たちにはとっくに言っていると思ったのだ。
「ああ。必要に応じて言えばいいと思っていたからな」
つまり、今まではその情報は不要だったということだ。クライブにとって、結婚していようがいまいが、大した問題ではないらしい。
ド派手な結婚式を挙げたわけではないから、知らない者は知らないだろう。
イリヤだって家族には報告したが、サブル侯爵には伝えていない。むしろ、伝える必要もないとすら思っている。
マーベル子爵は噂好きなところがあるから、あそこから広まるかと思ったが、そうでもなかった。その辺はきちっと母親が手綱を握っているに違いない。
「ですが、イリヤ嬢が閣下と婚姻関係にあったほうが、こちらとしては都合はいいです。聖女様とお近づきになりたいと思う者はたくさんいますからね。もちろん、婚姻関係を迫ってくる者もいるでしょう。もしかしたら、強引に求める者もいるかもしれない」
強引に求めてきた人をイリヤは知っているが、それをはね除けるだけの力があると自負している。
ちらりと隣のクライブに視線を向けると、彼は顔色一つ変えずに神官長の話を真剣に聞いていた。今の話に心当たりはないようだ。
「本来であれば、聖女様は神殿での保護となります。ですが、イリヤ嬢は閣下と結婚されているとのことなので、閣下に聖女様の身柄をお任せしたいと思うのですが、それはよろしいですよね?」
「もちろんだ」
つまり、イリヤにすれば何も変わらない。今までと同じようにクライブの屋敷で過ごす。
「では、聖女様の今後の生活については安心ですね」
安心も何も、だから今までとなんら変わりはないのだ。
「……むしろ、ここからがご相談したいことなのですが」
前のめりになった神官長は、声色を低くした。そうすると、他の魔法使いたちも顔を近づけて、まるでひそひそ話をするかのように頭を寄せている。
逆にイリヤは引いた。それでも神官長は言葉を続ける。
「聖女様に求められるのは、瘴気を祓うことです。つまり、魔物をこの世界から消し去ること」
それは理想論だ。魔物をすべて消し去るのは難しい。しかし、時空が歪み、瘴気が発生することで魔物の数がぐっと増える。まるでそこから湧き出てくるかのように。
「その、瘴気っていうのは、もう発生しているのですか?」
イリヤが尋ねると、神官長は「はい」と答える。
「一年半ほど前には、時空の歪みが確認されたのですが……そこから瘴気がもわもわっと漂い始めたのが一か月ほど前。時空がゆがんだときから、徐々に魔物の数は増えてはいたのですが、瘴気が確認されてからはぐっと増えました」
だからこのタイミングでの聖女召喚の儀を、誰もが望んだというわけだ。初めて瘴気が確認された時期に。
「早かれ遅かれ、聖女様にはその瘴気の発生源に足を運んでもらう必要があります」
「ですが、ご存知の通り。私には聖なる力がありません」
「それが問題なんですよね」
う~んと唸って、神官長は腕を組む。とりあえずその場しのぎの誤魔化しはできた。聖女が現れたという事実は人々に希望をもたらすだろう。しかし、その次に求められるのは聖女としての役目だ。それが瘴気を祓い、魔物を蹴散らすこと。
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