63 / 88
第六章:そのお仕事、お引き受けいたします(7)
しおりを挟む
「とりあえずは、現状把握のために魔物討伐に同行するとか。そういったところがいいのでは?」
一人の魔法使いが声をあげる。すると、他の二人もうんうんと頷く。
「魔物討伐の同行ですか? まぁ、それくらいならできるかと思います。私も魔法は使えますので」
イリヤはチラリと横目でクライブの様子をうかがった。彼が文句を言い出すような、そんな気がしたからだ。
そんなクライブは眼鏡の下の目を鋭く細くしている。
「クライブ様?」
イリヤが呼ぶと、彼はくいっと眼鏡を押し上げる。
「イリヤを魔物討伐に同行させるというのであれば、マリアンヌを連れていってはどうだろうか?」
「クライブ様!」
マリアンヌは赤ん坊である。やっと高速ハイハイで動き、最近ではつかまり立ちができるようになった。つまり、一人では歩けないのだ。そんなマリアンヌを危険な魔物討伐へ連れていくと提案するとは、いったい彼は何を考えているのか。
「マリアンヌはイリヤに懐いている。イリヤが何日もマリアンヌと離れると、マリアンヌの世話をしている者にも迷惑がかかるし、もしかしたらまた、マリアンヌの世話を投げ出すかも知れない。むしろ、マリアンヌが暴れる……かもしれない」
なるほどと、目の前の彼らは一斉に頷いた。
マリアンヌが召喚されたばかりの頃を思い出しているのだろう。そのときのマリアンヌは酷かったと聞いているし、それがイリヤが王城にやってきた理由でもある。
「それに……ああ見えてもマリアンヌは聖女様だ。もしかしたら、何かこう、奇跡が起こるかもしれない」
まさかクライブの口から奇跡という言葉が出るとは思わなかった。むしろ、その奇跡にすがりたいのだろう。
ただ、イリヤとしてもマリアンヌと離れることに不安はあった。一緒にいるのが許されるのであれば、一緒にいたい。
「クライブ様がお許しくださるなら、マリアンヌを連れて魔物討伐へ同行します。ですが、できればマリアンヌの世話をしてくれる者も一人つけていただけると……」
イリヤが聖女としての振る舞いを求められるのであれば、マリアンヌの世話ばかりしているわけにもいかないだろう。
「ああ。それなら心配するな。オレも同行するからな」
ぎょっとしたのはイリヤだけではなかった。神官長も魔法使いたちも、目をまんまるくして、さらに口をあんぐりと開けてクライブを見つめる。
「しかし、クライブ様にはお仕事が……エーヴァルト様がお困りになるのでは?」
「オレだって部下の育成にも励んでいるつもりだ。オレの仕事は補佐官たちに任せる。彼らだって、今は何が重要かを判断する力はあるからな」
「では、決まりですね」
神官長はパチンと手をたたいた。それはもう、物事が進んで嬉しくてたまらないとでも言うかのように。
「聖女イリヤ様が、魔物討伐へ同行する。ですが、お子様がいらっしゃるということで、母子を離ればなれにするのはかわいそうだと。だからお子様のマリアンヌ様と夫である閣下も同行する。そんな流れでいきましょう」
そのような台本で、周囲は納得できるのだろうか。それがイリヤには少々不安なところもあった。
「そうと決まれば、先にお披露目の儀ですね」
「お披露目の儀、ですか?」
イリヤが声をあげると「そうです」と神官長は目尻を下げる。これはもう、嬉しくてたまらないといった様子にも見える。
一人の魔法使いが声をあげる。すると、他の二人もうんうんと頷く。
「魔物討伐の同行ですか? まぁ、それくらいならできるかと思います。私も魔法は使えますので」
イリヤはチラリと横目でクライブの様子をうかがった。彼が文句を言い出すような、そんな気がしたからだ。
そんなクライブは眼鏡の下の目を鋭く細くしている。
「クライブ様?」
イリヤが呼ぶと、彼はくいっと眼鏡を押し上げる。
「イリヤを魔物討伐に同行させるというのであれば、マリアンヌを連れていってはどうだろうか?」
「クライブ様!」
マリアンヌは赤ん坊である。やっと高速ハイハイで動き、最近ではつかまり立ちができるようになった。つまり、一人では歩けないのだ。そんなマリアンヌを危険な魔物討伐へ連れていくと提案するとは、いったい彼は何を考えているのか。
「マリアンヌはイリヤに懐いている。イリヤが何日もマリアンヌと離れると、マリアンヌの世話をしている者にも迷惑がかかるし、もしかしたらまた、マリアンヌの世話を投げ出すかも知れない。むしろ、マリアンヌが暴れる……かもしれない」
なるほどと、目の前の彼らは一斉に頷いた。
マリアンヌが召喚されたばかりの頃を思い出しているのだろう。そのときのマリアンヌは酷かったと聞いているし、それがイリヤが王城にやってきた理由でもある。
「それに……ああ見えてもマリアンヌは聖女様だ。もしかしたら、何かこう、奇跡が起こるかもしれない」
まさかクライブの口から奇跡という言葉が出るとは思わなかった。むしろ、その奇跡にすがりたいのだろう。
ただ、イリヤとしてもマリアンヌと離れることに不安はあった。一緒にいるのが許されるのであれば、一緒にいたい。
「クライブ様がお許しくださるなら、マリアンヌを連れて魔物討伐へ同行します。ですが、できればマリアンヌの世話をしてくれる者も一人つけていただけると……」
イリヤが聖女としての振る舞いを求められるのであれば、マリアンヌの世話ばかりしているわけにもいかないだろう。
「ああ。それなら心配するな。オレも同行するからな」
ぎょっとしたのはイリヤだけではなかった。神官長も魔法使いたちも、目をまんまるくして、さらに口をあんぐりと開けてクライブを見つめる。
「しかし、クライブ様にはお仕事が……エーヴァルト様がお困りになるのでは?」
「オレだって部下の育成にも励んでいるつもりだ。オレの仕事は補佐官たちに任せる。彼らだって、今は何が重要かを判断する力はあるからな」
「では、決まりですね」
神官長はパチンと手をたたいた。それはもう、物事が進んで嬉しくてたまらないとでも言うかのように。
「聖女イリヤ様が、魔物討伐へ同行する。ですが、お子様がいらっしゃるということで、母子を離ればなれにするのはかわいそうだと。だからお子様のマリアンヌ様と夫である閣下も同行する。そんな流れでいきましょう」
そのような台本で、周囲は納得できるのだろうか。それがイリヤには少々不安なところもあった。
「そうと決まれば、先にお披露目の儀ですね」
「お披露目の儀、ですか?」
イリヤが声をあげると「そうです」と神官長は目尻を下げる。これはもう、嬉しくてたまらないといった様子にも見える。
393
あなたにおすすめの小説
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】そうは聖女が許さない〜魔女だと追放された伝説の聖女、神獣フェンリルとスローライフを送りたい……けど【聖水チート】で世界を浄化する〜
阿納あざみ
ファンタジー
光輝くの玉座に座るのは、嘘で塗り固められた偽りの救世主。
辺境の地に追いやられたのは、『国崩しの魔女』の烙印を押された、本物の奇跡。
滅びゆく王国に召喚されたのは、二人の女子高生。
一人は、そのカリスマ性で人々を魅了するクラスの女王。
もう一人は、その影で虐げられてきた私。
偽りの救世主は、巧みな嘘で王国の実権を掌握すると、私に宿る“本当の力”を恐れるがゆえに大罪を着せ、瘴気の魔獣が跋扈する禁忌の地――辺境へと追放した。
だが、全てを失った絶望の地でこそ、物語は真の幕を開けるのだった。
△▼△▼△▼△▼△
女性HOTランキング5位ありがとうございます!
巻き込まれ召喚された賢者は追放メンツでパーティー組んで旅をする。
彩世幻夜
ファンタジー
2019年ファンタジー小説大賞 190位!
読者の皆様、ありがとうございました!
婚約破棄され家から追放された悪役令嬢が実は優秀な槍斧使いだったり。
実力不足と勇者パーティーを追放された魔物使いだったり。
鑑定で無職判定され村を追放された村人の少年が優秀な剣士だったり。
巻き込まれ召喚され捨てられたヒカルはそんな追放メンツとひょんな事からパーティー組み、チート街道まっしぐら。まずはお約束通りざまあを目指しましょう!
※4/30(火) 本編完結。
※6/7(金) 外伝完結。
※9/1(日)番外編 完結
小説大賞参加中
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる