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第六章:そのお仕事、お引き受けいたします(11)
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二度寝する気にもなれず、イリヤはクライブの腕からするっと逃げ出した。
失われたぬくもりにむなしさを感じつつも、今日はこれからが正念場である。
クライブとの関係を続けていくためにも、そしてマリアンヌを守るためにも、一世一代の大芝居を打つ。
背中にまとわりつくクライブの視線が気になりつつも、それに甘えてはいけないと自分に言い聞かせる。
扉つづきの自室で一人になって、ぽふっとソファに身体を預けた。
一人になって先ほどのやりとりを思い出すと、心臓が速くなる。
「求婚……」
あのクライブが求婚すると言った。そう言ったのだ、間違いなく。イリヤの聞き間違いではない。それに好きとも言ったような気がする。
「あっ……」
勢いまかせに口から出てきた言葉。もしかして、あれは間違いだったのではと思えてくる。
だけど、嬉しさと恥ずかしさを誤魔化すためには、あれしか言葉が思い浮かばなかった。
もしかして、もしかしなくても、彼に心を奪われている――
一緒にいたい。この関係を続けていきたい。そう思うことが、きっとクライブを好きだという気持ちなのだ。
認めてしまうと、一気に羞恥に包まれる。自分の未熟さと愚かさが露呈したような気分にすらなる。
この複雑な感情はなんなのか。わからない。
次第に外が明るくなり始め、イリヤはサマンサを呼んだ。
今日は聖女として白いドレスを身につける必要がある。その上に白のローブを羽織るのだ。聖女といえば、白らしい。
毒婦、悪女と噂されたイリヤから見れば、無垢なイメージの強い白は縁遠い色でもある。
朝食用に簡素なドレスに着替え、マリアンヌの部屋に寄ってから食堂へと向かう。
お披露目の儀には、マリアンヌを抱いて参加したいと、イリヤは告げていた。
本来の聖女はマリアンヌである。彼女を連れていくことで、少しでも偽物という罪悪感から逃れたかったのかもしれない。
「おはよう、マリー」
「ま、ま~」
「おはようございます、奥様」
「おはよう、ナナカ。今日はマリアンヌもうんと可愛くしてね」
ファクト家の使用人たちも、イリヤが聖女であったという話は知っている。
クライブが選んだ女性が実は聖女であったという話で、使用人一同、盛り上がったらしい。こっそりとサマンサが教えてくれた。
そうやって喜びを伝えられるたびに、イリヤの心は黒く染められていった。
だけど、先ほどのクライブがそれを取り払う。イリヤが偽物の聖女であるのは、国を守るため。これは必要な嘘。
そしてマリアンヌが成長し、彼女が聖女としてその責務を全うできるだけの力を身に付け、本人がそれを望んだときに、マリアンヌを聖女として発表すればいいのだ。
イリヤはそれまでのつなぎ。
「まんまんまんま~」
マリアンヌの母親になって、そろそろ半年が経とうとしている。まだ半年だけれど、マリアンヌからしたら彼女の人生の半分近くは、イリヤが母親として寄り添っているのだ。
「おはようございます」
「ぱ、ぱ、ぱ、ぱ~」
「おはよう。マリアンヌは今日もご機嫌だな」
眼鏡をかけていて、前髪をすっきりと後ろになでつけているクライブは、いつもと変わらない。
マリアンヌの離乳食も進んでいて、今では自分で掴んで食べようとする。そうやって彼女が食べやすい物を、料理長のジムが考えて用意してくれるのだ。
「んまんま」
失われたぬくもりにむなしさを感じつつも、今日はこれからが正念場である。
クライブとの関係を続けていくためにも、そしてマリアンヌを守るためにも、一世一代の大芝居を打つ。
背中にまとわりつくクライブの視線が気になりつつも、それに甘えてはいけないと自分に言い聞かせる。
扉つづきの自室で一人になって、ぽふっとソファに身体を預けた。
一人になって先ほどのやりとりを思い出すと、心臓が速くなる。
「求婚……」
あのクライブが求婚すると言った。そう言ったのだ、間違いなく。イリヤの聞き間違いではない。それに好きとも言ったような気がする。
「あっ……」
勢いまかせに口から出てきた言葉。もしかして、あれは間違いだったのではと思えてくる。
だけど、嬉しさと恥ずかしさを誤魔化すためには、あれしか言葉が思い浮かばなかった。
もしかして、もしかしなくても、彼に心を奪われている――
一緒にいたい。この関係を続けていきたい。そう思うことが、きっとクライブを好きだという気持ちなのだ。
認めてしまうと、一気に羞恥に包まれる。自分の未熟さと愚かさが露呈したような気分にすらなる。
この複雑な感情はなんなのか。わからない。
次第に外が明るくなり始め、イリヤはサマンサを呼んだ。
今日は聖女として白いドレスを身につける必要がある。その上に白のローブを羽織るのだ。聖女といえば、白らしい。
毒婦、悪女と噂されたイリヤから見れば、無垢なイメージの強い白は縁遠い色でもある。
朝食用に簡素なドレスに着替え、マリアンヌの部屋に寄ってから食堂へと向かう。
お披露目の儀には、マリアンヌを抱いて参加したいと、イリヤは告げていた。
本来の聖女はマリアンヌである。彼女を連れていくことで、少しでも偽物という罪悪感から逃れたかったのかもしれない。
「おはよう、マリー」
「ま、ま~」
「おはようございます、奥様」
「おはよう、ナナカ。今日はマリアンヌもうんと可愛くしてね」
ファクト家の使用人たちも、イリヤが聖女であったという話は知っている。
クライブが選んだ女性が実は聖女であったという話で、使用人一同、盛り上がったらしい。こっそりとサマンサが教えてくれた。
そうやって喜びを伝えられるたびに、イリヤの心は黒く染められていった。
だけど、先ほどのクライブがそれを取り払う。イリヤが偽物の聖女であるのは、国を守るため。これは必要な嘘。
そしてマリアンヌが成長し、彼女が聖女としてその責務を全うできるだけの力を身に付け、本人がそれを望んだときに、マリアンヌを聖女として発表すればいいのだ。
イリヤはそれまでのつなぎ。
「まんまんまんま~」
マリアンヌの母親になって、そろそろ半年が経とうとしている。まだ半年だけれど、マリアンヌからしたら彼女の人生の半分近くは、イリヤが母親として寄り添っているのだ。
「おはようございます」
「ぱ、ぱ、ぱ、ぱ~」
「おはよう。マリアンヌは今日もご機嫌だな」
眼鏡をかけていて、前髪をすっきりと後ろになでつけているクライブは、いつもと変わらない。
マリアンヌの離乳食も進んでいて、今では自分で掴んで食べようとする。そうやって彼女が食べやすい物を、料理長のジムが考えて用意してくれるのだ。
「んまんま」
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