4 / 57
1:大好きなお姉さまが婚約破棄されました(3)
しおりを挟む
はっとしてセシリアは目を覚ます。
寝苦しかったのか、背中にはびっしりと汗をかいていて、夜着が素肌にはりついて気持ち悪い。ゆっくりと身体を起こした。
部屋はまだ薄暗い。
昨日は、姉エレノアの学園の卒業パーティーに家族として参加していた。
卒業パーティーは卒業生の家族であれば誰でも参加できる。共に新しい門出を祝うといった趣旨からだ。
しかしその場で、エレノアは王太子ジェラルドから婚約解消を突きつけられた。むしろ一方的な言い分だから、あれでは婚約破棄ではないのだろうか。
それを目にした瞬間、セシリアには膨大な記憶が流れ込んできた。それは、この世界が『こどいや』の世界だという記憶だった。
しかしセシリアという人間に変化はなかった。誰のものかわからない記憶が知識として増えただけで。
ただそれによってちょっとだけ大人になったような、そんな気分にもなった。
(国王陛下は、卒業パーティーの場でジェラルド様が婚約破棄をお姉様に告げるだなんて、知らなかった……。だからお姉様との婚約解消を渋ったのだったわ……)
王家側としてはケアード公爵家との縁を続けたい。ジェラルドの勝手な暴走によりその縁がなくなってしまえば、この国にどれだけ不利益もたらされるかを、国王は一国の主らしく理解していた。
(そしてジェラルド様の隣にいたのが聖女イライザ……今のところ、まだ聖女ではないようだけれど。それよりもジェラルド様の瞳と同じ色のドレスを着ていたわね……)
昨夜のパーティーを思い出しても不快極まりない。
(昨日のお父様の様子からみても、怒り心頭という顔をしていた。そういえば、お父様も婚約解消の手続きを渋るんだったわ)
膨大な記憶と、セシリアとしての記憶が混在する。
(お姉様が処刑されるところまでが、物語の前半。後半は、イライザとジェラルド様が愛を確かめ合いながら、結ばれて結婚というお話だった……)
両手で顔を覆う。大好きなエレノアが処刑だれるだなんて、セシリアには信じられない。
(いつの誰の記憶かわからないけれど……このままではお姉様が禁忌魔法に手を出した挙げ句、処刑されてしまう。そうなれば、我が公爵家は取り潰し……いえ、それよりもお姉様が処刑だなんて……)
想像しただけでも目頭が熱くなる。
昨日だって「帰りたい」と言ったセシリアの手をやさしく握りしめ、一緒に馬車に乗り込んだのだ。
緊張した空間から抜け出せてほっとしたのと、馬車の揺れが心地よくてうとうととしていたら、エレノアはセシリアに向かって天使のように微笑んだのだ。
『セシリア。眠かったら眠ってしまってもいいわよ。着いたら、お父様が部屋まで連れていってくれるはずだから』
琥珀色の目を細くしてそう言ったエレノアは、セシリアの頭をゆっくりとなでてくれた。それに甘えて、セシリアは姉に寄りかかるようにして目を閉じた。
そこからの記憶が曖昧なのは、きっと馬車で眠ってしまったからだ。そのまま父親が部屋まで運んでくれて、使用人の手によって着替えさせられ、今までぐっすりと眠り込んでいたようだ。
さて、ここからが問題である。
セシリアは、きっと唇を固く結んで顔を上げる。
よくわからない記憶によれば、エレノアは禁忌とされている暗黒魔法に手を出したうえに処刑されてしまう。描写はなかったが、間違いなくケアード公爵家は取り潰しとなるだろう。
(きっかけは、お父様が婚約解消を渋ったから……。それに、国王陛下も王妃様も、お姉様のことを気に入ってくださっているから、婚約を解消したくなかったのよね。だからお姉さまもジェラルド様をあきらめきれなかったのだわ……いえ、むしろプライド? てことは、さっさと婚約解消させてしまえばいいのだわ。問題は、お父様をどうやって説得するか……)
一家路頭なんてたまったものではない。間違いなく父親だってなんらかの罪に問われるはずだ。エレノア処刑後のケアード公爵家のことなんて、小説には書いてなかった。どうでもいい内容と判断されたのだろう。
だからその後、ケアード公爵家の人々がどうなったのかだなんてまったくわからない。だが、いいことではないのだけは確か。
セシリアは家族が大好きだ。外務大臣を務めている父に、おっとりとしている母。そして六年間、学園で勉学に励み、立派な王太子妃になろうと努力してきた姉。
この家族を守りたい。
ベッドから下りたセシリアは、水差しからグラスに水を注ぎ、一気に飲み干した。
(ぷはっ……。絶対にお姉様の処刑を阻止しなければ!)
そこまで決意したものの、もう一度眠気が襲ってきた。きっと今はまだ、真夜中なのだろう。七歳のセシリアの身体は睡眠を欲している。
身体の渇きが潤ったところで、もう一度ベッドに潜り込んだ。
(とにかくお父様には、お姉様とジェラルド様の婚約解消の手続きを滞りなくすすめるように言わないと……)
そんなことを考えているうちに、眠りに落ちた。
寝苦しかったのか、背中にはびっしりと汗をかいていて、夜着が素肌にはりついて気持ち悪い。ゆっくりと身体を起こした。
部屋はまだ薄暗い。
昨日は、姉エレノアの学園の卒業パーティーに家族として参加していた。
卒業パーティーは卒業生の家族であれば誰でも参加できる。共に新しい門出を祝うといった趣旨からだ。
しかしその場で、エレノアは王太子ジェラルドから婚約解消を突きつけられた。むしろ一方的な言い分だから、あれでは婚約破棄ではないのだろうか。
それを目にした瞬間、セシリアには膨大な記憶が流れ込んできた。それは、この世界が『こどいや』の世界だという記憶だった。
しかしセシリアという人間に変化はなかった。誰のものかわからない記憶が知識として増えただけで。
ただそれによってちょっとだけ大人になったような、そんな気分にもなった。
(国王陛下は、卒業パーティーの場でジェラルド様が婚約破棄をお姉様に告げるだなんて、知らなかった……。だからお姉様との婚約解消を渋ったのだったわ……)
王家側としてはケアード公爵家との縁を続けたい。ジェラルドの勝手な暴走によりその縁がなくなってしまえば、この国にどれだけ不利益もたらされるかを、国王は一国の主らしく理解していた。
(そしてジェラルド様の隣にいたのが聖女イライザ……今のところ、まだ聖女ではないようだけれど。それよりもジェラルド様の瞳と同じ色のドレスを着ていたわね……)
昨夜のパーティーを思い出しても不快極まりない。
(昨日のお父様の様子からみても、怒り心頭という顔をしていた。そういえば、お父様も婚約解消の手続きを渋るんだったわ)
膨大な記憶と、セシリアとしての記憶が混在する。
(お姉様が処刑されるところまでが、物語の前半。後半は、イライザとジェラルド様が愛を確かめ合いながら、結ばれて結婚というお話だった……)
両手で顔を覆う。大好きなエレノアが処刑だれるだなんて、セシリアには信じられない。
(いつの誰の記憶かわからないけれど……このままではお姉様が禁忌魔法に手を出した挙げ句、処刑されてしまう。そうなれば、我が公爵家は取り潰し……いえ、それよりもお姉様が処刑だなんて……)
想像しただけでも目頭が熱くなる。
昨日だって「帰りたい」と言ったセシリアの手をやさしく握りしめ、一緒に馬車に乗り込んだのだ。
緊張した空間から抜け出せてほっとしたのと、馬車の揺れが心地よくてうとうととしていたら、エレノアはセシリアに向かって天使のように微笑んだのだ。
『セシリア。眠かったら眠ってしまってもいいわよ。着いたら、お父様が部屋まで連れていってくれるはずだから』
琥珀色の目を細くしてそう言ったエレノアは、セシリアの頭をゆっくりとなでてくれた。それに甘えて、セシリアは姉に寄りかかるようにして目を閉じた。
そこからの記憶が曖昧なのは、きっと馬車で眠ってしまったからだ。そのまま父親が部屋まで運んでくれて、使用人の手によって着替えさせられ、今までぐっすりと眠り込んでいたようだ。
さて、ここからが問題である。
セシリアは、きっと唇を固く結んで顔を上げる。
よくわからない記憶によれば、エレノアは禁忌とされている暗黒魔法に手を出したうえに処刑されてしまう。描写はなかったが、間違いなくケアード公爵家は取り潰しとなるだろう。
(きっかけは、お父様が婚約解消を渋ったから……。それに、国王陛下も王妃様も、お姉様のことを気に入ってくださっているから、婚約を解消したくなかったのよね。だからお姉さまもジェラルド様をあきらめきれなかったのだわ……いえ、むしろプライド? てことは、さっさと婚約解消させてしまえばいいのだわ。問題は、お父様をどうやって説得するか……)
一家路頭なんてたまったものではない。間違いなく父親だってなんらかの罪に問われるはずだ。エレノア処刑後のケアード公爵家のことなんて、小説には書いてなかった。どうでもいい内容と判断されたのだろう。
だからその後、ケアード公爵家の人々がどうなったのかだなんてまったくわからない。だが、いいことではないのだけは確か。
セシリアは家族が大好きだ。外務大臣を務めている父に、おっとりとしている母。そして六年間、学園で勉学に励み、立派な王太子妃になろうと努力してきた姉。
この家族を守りたい。
ベッドから下りたセシリアは、水差しからグラスに水を注ぎ、一気に飲み干した。
(ぷはっ……。絶対にお姉様の処刑を阻止しなければ!)
そこまで決意したものの、もう一度眠気が襲ってきた。きっと今はまだ、真夜中なのだろう。七歳のセシリアの身体は睡眠を欲している。
身体の渇きが潤ったところで、もう一度ベッドに潜り込んだ。
(とにかくお父様には、お姉様とジェラルド様の婚約解消の手続きを滞りなくすすめるように言わないと……)
そんなことを考えているうちに、眠りに落ちた。
860
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」
魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。
――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。
「ここ……どこ?」
現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。
救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。
「ほら、食え」
「……いいの?」
焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。
行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。
旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―
愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。
彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。
魔法は使えない。
体は不器用で、成長も人より遅い。
前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。
けれどこの世界には、
見守り支えてくれる両親と、
あたたかい食卓があった。
泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、
彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。
これは、
最強でもチートでもない主人公が、
家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す
生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。
……の、予定です。
毎日更新できるように執筆がんばります!
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる