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241話 - 想定外
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アンの体への寄生……
本当はしたくなかった。
僕はアンともこれから一緒に過ごしたかった。
でもアンの今世最後のお願いは叶えてあげたいと思ったんだ。
僕はアンに「1」という意味がある名前を付けた。
だから1番幸せな今、寄生して欲しいという僕がつけた名前に応えたいという気持ちが伝わってきたんだ。
最後の最後まで抗いたかった。
でも、その気持ちを感じ取ってしまった瞬間、寄生を心に決めた。
だってアンは最後まで、僕の気持ちに応えてくれたんだ。
だから僕がその気持ちに応えない訳にはいかなかった……。
別れはとても悲しかった。
でも、だからこそ、前を向いて精一杯アンの体を大切にしようと思う。
アンにはダンジョン外ではこの体は使えないということは伝えてある。
僕は外に出る必要があることも。
ただ、それを伝えるまでもなく、そんなことは本人が一番知っていた。
本当は体や心の調子を確かめてからなるべく早く外に出るつもりだった。
体にしっかり馴染む必要は無かったんだ。
正直他の体なら馴染む意味はあまりないと言っていい。
実際自分が暮らす体は別の体になるんだから。
でも予定を変更する。
僕がアンの体で出来ることを分析して僕の体に刻みこもうと思う。
これが僕がやろうと思っていることの1つだ。
でも、それには1つ問題があるんだ。
本来の予定では、何かトラブルがあれば一旦スライムに寄生して外の様子を見てこようと思っていた。
ただ、そうするとこのアンの体はどうなるんだろう……。
やっぱり消えてしまうんだろうか……。
ワカメやカニの時は実体があったから体は残っていた。
でも、僕の魂が抜けた僕だったものはもう息を吹き返すことは無かった。
だから確実性を考えるとアンの体を使う限り外にでることができない。
アンの体は疑似生命体。
僕が抜けた瞬間消えてしまう線がきっと濃厚だ。
だから僕はこれから長期間ダンジョン生活になる。
スライムになって外には出ない。
エデンの様子を家族に見て来てもらったり、
今の王都の様子を教えてもらったりすることが必要になりそうだ。
目覚めたらこれからの具体的な予定を立てて行こう。
そういえば、僕の魂が吸い込まれて行って意識が暗転する前。
ソフィア様の声が聞こえた気がした。
きっとあの優しい神様のことだ。
何か手助けをしてくれようと考えているんだと思う。
アンが生まれ変わる事を信じて、僕もソフィア様の助けに精一杯なりたいと思うんだ。
だから同時並行して、ダンジョンの改造をしようと思う。
これが僕がアンの体で目標にしていることの2つだ。
何故僕の中でこれほどの考えがまとまっているか……。
それは僕の意識だけが覚醒して結構時間が経っているからだ。
体が全く動かないし魔力の操作も不可能。
夢を見て居るような感じだ……。
だからこの時間にアンとの別れを整理したり今後の事を色々考えたりしていた。
体感、この状態が丸2日くらい続いている気がする。
疑似生命体への寄生は、僕の魂を受け入れる為に体側の準備が必要だったのかもしれない……。
そして、今回の寄生は今までのどの体への寄生の感覚とも異なった。
普段は寄生の際、寄生先に体を侵入させるという過程が必要になる。
ただ、不思議なことにアンの体に寄生しようと思った時、魂が勝手に吸い込まれて行ったんだ。
アンに導かれ、包まれてる感じがした。
体を侵入させる必要すらなく、アンが僕の魂を受け入れてくれたんだと思う。
受け入れてくれたというより、どちらかというと完全に向こうから体を渡された感覚だ。
その後、ありがとう、また会いたいという気持ちと共にアンの意識は僕と交代するように消えて行った……。
違った部分はそれだけではない。
カニの時は意識がほぼ途切れなかった。
スライムの時は一瞬途切れた気がした。
でも少しの時間で僕は目を覚ましたらしい。
今回は明確に意識が暗転したんだ。
眠りについたような感覚だ。
そして、その後考える能力だけが戻ったという感じだ。
一体どれくらいの時間がかかったのだろうか。
きっと僕の意識が目覚めるまでにも時間を要したはずだ。
みんな心配しているだろうか……
ただ、この可能性は考えていた。
一応僕の寄生に時間がかかった時の対応は伝えてはある。
進化や寄生は明確にどれくらいの時間がかかるとは想像ができないからね。
1人を100階層の家に残し皆は好きに行動してもらっていいと言っている。
……それからまた1日程時間が経っただろうか。
体と魂が整合していく感じがしてきた。
そろそろ体の感覚が……
目が開けそうだ……
ん……
パチッ
まぶしい……どこだここ……
灯りが見えてきた。
100階層の家の中?
室内に運んでくれたのかな?
それにしても目が霞む……。
視界の構成って結構魔物によって違うんだよ。
カニの時に至っては複眼だったしなぁ。
「…………食……です………てください……グス」
耳が聞こえてきた……。
エステルの声……?
「…………パパ」
『パパぁ……お話してよぉ~!えーん』
なんでクラムとエステルは泣いてるんだ?
クラマもすごい暗い声してる気がする……
「クロムは生きておる。それだけでも良かったのじゃ……。きっとまた元のように話してくれるのじゃ……」
え!?
生きてるよっ!?
元のようにってどゆこと!?
とりあえず、みんな居るのね。
待っててくれたのかな?
でも、なんだ?
このどんよりしたお通夜みたいな雰囲気……
僕、寄生には時間かかるかもって言ってたはずだけど……
ピョンピョンピョンピョン。
ぺちょ。
んあ?なんだこの感覚……
冷たくて柔らかいものが僕に触れてる?
まだこの体の感覚がよくわからないな……
でもそろそろ魔力がうごきそう。
念話……できるか?
その前に視覚を……ピントを魔力で……
ん、体に慣れないな。
ちょっと視界を得るためにスキルを意識して使おう。
統合前のスキルの名前なんだっけ……
えっと、”視空間認知”……
お、徐々にピントが……
『……ん。……え?きみ、だれ?』
なんだ、この緑色のスライム……
このフワフワした尖ってるのが僕の、元アンの鼻かな?
僕の鼻の上に緑色のスライムが乗っかってるんだけど……。
おばあちゃんが先に連れてきてきてくれたのかな?
でも、おばあちゃんの作ったスライム水色なんだけど……
「ダメですよクロムさん。アンくんは眠ってるんです……」
ヒョイッ。
あ、変なスライムがエステルに抱きかかえられた。
ん?
僕が知らず知らずなんかしたの?
それにアンは僕とお別れを言って……
って、え!?
今クロムさんって言ってスライム抱きかかえた!?
僕こっちだけど!?
『みんな、聞こえる……?僕、こっちなんだけど……』
ガタンッ!!
『パパあ~!!』
「くろむさあああああああん!!」
なんだなんだッ!?
・
・
・
エステルとクラムが泣き止むまでに30分程の時間がかかった。
この間に僕は体の感覚が徐々にはっきりしてきた。
ただ、今までと体の構成が全く違うので無理に動かすのはやめよう。
ゆっくりゆっくり。
元アンの体だから丁寧に扱おう。
スライムの時のように動かしちゃダメだ。
僕の能力でどこか怪我してしまったりしたら目も当てられない。
しばらくは寝たまま過ごすことにしようかな。
『えっと……何から話せばいいのかな。とりあえず、あの後、僕がどういう感じになったのか教えてくれない?』
「エステルとクラムは落ち着くのに時間がかかりそうじゃの。我から話すのじゃ」
『助かるよ、おばあちゃん』
[寄生当日:回想]
『ずっとアンは僕の家族だッ!”寄生”っ!』
バタッ……
「パパ!アン!」
「クロムさんっ!アンくんッ!」
僕が寄生を意識した瞬間アンの体は倒れ、僕のスライムの体も動かなくなったようだ。
それから何時間その場で待っても応答が無く意識も戻らなかった、と……
「クロムさんもアンくんも全然目を覚ましません……どうなったのでしょうか……」
「……うん。でもどっちからも魔力を感じる。ちゃんと生きてる」
「大丈夫じゃ。スライムの時も数時間は動かなかったのじゃ。時間がかかるのじゃろうて」
『ワカメのときもじかんかかったよ~?おうちでまってよ~?』
「そうなのですか……。聞いては居ましたが不安です。とりあえず2人の体をお家に運んであげましょ?」
「……ぼくがアンの体を運ぶ。ママはパパお願い」
ただ、前に僕の寄生を目の前で見たクラムとおばあちゃんは冷静だった。
エステルとクラマを慰め、皆で僕の体を家まで運んできた、と。
なるほど、そこまでは理解した。
ってかその時点でクラムは冷静だったんだよな?
僕の寄生の雰囲気知ってるよな?
なんでそんなに泣いてるんだ?
[現在]
「で、それから1週間程目が覚めなくてのぉ……」
『マジ!?そんなに時間経ってるの!?』
「うむ……。で、ここからが問題なのじゃ……。皆お主が戻ってくるのを片時も離れず待っておったのじゃが……」
『う。うん……。問題……?』
[寄生から1週間後]
……パチッ。
ぷるるん。
「……クロムさん?皆さ~んっ!クロムさんが起きましたッ!」
「おお、そうか。長かったのぉ……。でもようやく寄生が終わったんじゃの?」
『パパ~ッ!』ピューンッ
「……目が覚めてよかった」
…………
「……のぉ?なぜスライムの方が動いておるのじゃ?動くならフェンリルの方のはずじゃが……」
ピョン、ピョン。
『ねぇ、パパ~?おきたの~?』
「クロム、さん……?お返事、してください?」
ピョン、ピョン。
「……その子、パパより魔力が小さい」
「まさか、失敗……」
『パパ~!ふええぇぇぇ~ん』
[現在]
…………。
「姿はクロムなんじゃ。言葉も認識しているようで言うことも聞く……。ただ、そのスライムと会話までは出来んかった。クロムなような、違うような……。それがなんともハッキリせんでのぉ……」
『でもパパとおなじまりょくなんだよ~?パパよりちっちゃいけど~』
「……うん。それにずっとアンの体は動かなかった」
「ひっく……ひっく……」
クラムが落ち着いたようだね。
それにしても、うーん。
あの緑色のスライムって僕の体だったんだ。
この世界にきてから鏡見る習慣なんかないからほとんど自分の体見てないんだよな。
急に判別できなかったよ……。
それにまさか起きたら目の前に僕じゃない僕が乗ってるなんて想像してないし……。
「で、更にそこから4週間程その状態が変わらんかったんじゃ……。考えれば考える程、寄生が失敗したという色が濃厚になってのぉ……。正直皆絶望しておったぞ……」
『はっ!?4週間っ!?ってことは合計1か月程、僕は眠ってたの!?』
「……うん。僕とばぁばが交代でご飯を取りに帰ってた。ねぇねとママはずっと泣いてたから……」
全く僕の状況が把握できなかったから片時も目を離せなかったらしい。
食事も食べようとせず、ろくに睡眠もとらずずっと僕の様子を見て居た、と。
それを心配したおばあちゃんが皆をなだめ、食事や睡眠をとらせた。
そのうちクラマもそれに協力して交代で必要な物を取りに帰っていた、か……。
そういえばみんなやつれてしまってる気がする……。
申し訳ない事をしたな。
『みんなずっとそばに居てくれたんだね、ありがとう』
「うむ。それはもちろんなのじゃ。ただ、その間もずっとスライムに話しかけていたのじゃが……。スライムの方は見ての通りじゃ」
ピョンピョン。
……スライムは周りをチラチラみながらのんびり跳ねている。
たまに置いてある食事を食べたり、止まったり。
ほんとに気ままに動いてるだけって感じだ……。
『とりあえず話をまとめると……
ずっと僕もアンも目を覚まさなかった。
1週間後突然、先にスライムの体が動き出した。
でも寄生先のはずのアンの体は動かない。
動き出したスライムは体もそのまま。
僕と感じる魔力の雰囲気も同じ。
でもかなり魔力が小さくて話せなくなってしまった、と。
更にアンの方の体も生きている。
だから寄生に失敗してしまって僕が意思を喪失して、更に弱体化したと思った……
そんな感じ?』
「そうですうう!ふえぇぇん」バフッ
おお、すげぇ。
エステルに横っ腹に飛びつかれても微動だにしないじゃん……。
この体でっかいなぁ。
それに、よく周りを見渡すと、抱きついてきたエステルやみんなの姿が凄く小さく感じる……。
家や家具もとても小さく感じるなぁ。
うつ伏せでも目線が前よりかなり高いもん。
50cmから5mボディーだもんなぁ。
いや、そうじゃなくて。
確かに。
このシチュエーションだと、絶対そう思っちゃうよな……。
まさかこんな状況になってたとは……。
想像しうることは皆に伝えておいて心配ないようにしてたはずなのになぁ……。
さすがに想定外だらけだぞ……。
『みんな、心配かけたね。ごめん。アンとは、きっとまた会おうねってキチンとお別れをしたよ。この体は僕が受け継いだんだ。だからちゃんと寄生は成功してる。安心して?』
「……よかった」
『よかったぁ!!パパ~』バフォッ
クラムが毛に埋まっちゃったじゃん……
「ふぅ……。問題なさそうならなによりじゃ。一息つけるのぉ」
『うん、みんなありがとう。僕はもう大丈夫だから、リラックスして?』
みんな僕の体から全然離れない。
ものすごく心配をかけちゃったな。
一旦落ち着くまで好きにしてもらおう。
「それはよかったのじゃが……。のぉクロム?」
『うん。だよね……』チラッ
とりあえず、僕の体の把握は後回しだな。
先にやることが出来たみたいだ……。
『初めまして?ところで、スライムの君は、どちらさま?』
ピョン、ピョン……
ぷるるん。
チラッ。
「……?」
本当はしたくなかった。
僕はアンともこれから一緒に過ごしたかった。
でもアンの今世最後のお願いは叶えてあげたいと思ったんだ。
僕はアンに「1」という意味がある名前を付けた。
だから1番幸せな今、寄生して欲しいという僕がつけた名前に応えたいという気持ちが伝わってきたんだ。
最後の最後まで抗いたかった。
でも、その気持ちを感じ取ってしまった瞬間、寄生を心に決めた。
だってアンは最後まで、僕の気持ちに応えてくれたんだ。
だから僕がその気持ちに応えない訳にはいかなかった……。
別れはとても悲しかった。
でも、だからこそ、前を向いて精一杯アンの体を大切にしようと思う。
アンにはダンジョン外ではこの体は使えないということは伝えてある。
僕は外に出る必要があることも。
ただ、それを伝えるまでもなく、そんなことは本人が一番知っていた。
本当は体や心の調子を確かめてからなるべく早く外に出るつもりだった。
体にしっかり馴染む必要は無かったんだ。
正直他の体なら馴染む意味はあまりないと言っていい。
実際自分が暮らす体は別の体になるんだから。
でも予定を変更する。
僕がアンの体で出来ることを分析して僕の体に刻みこもうと思う。
これが僕がやろうと思っていることの1つだ。
でも、それには1つ問題があるんだ。
本来の予定では、何かトラブルがあれば一旦スライムに寄生して外の様子を見てこようと思っていた。
ただ、そうするとこのアンの体はどうなるんだろう……。
やっぱり消えてしまうんだろうか……。
ワカメやカニの時は実体があったから体は残っていた。
でも、僕の魂が抜けた僕だったものはもう息を吹き返すことは無かった。
だから確実性を考えるとアンの体を使う限り外にでることができない。
アンの体は疑似生命体。
僕が抜けた瞬間消えてしまう線がきっと濃厚だ。
だから僕はこれから長期間ダンジョン生活になる。
スライムになって外には出ない。
エデンの様子を家族に見て来てもらったり、
今の王都の様子を教えてもらったりすることが必要になりそうだ。
目覚めたらこれからの具体的な予定を立てて行こう。
そういえば、僕の魂が吸い込まれて行って意識が暗転する前。
ソフィア様の声が聞こえた気がした。
きっとあの優しい神様のことだ。
何か手助けをしてくれようと考えているんだと思う。
アンが生まれ変わる事を信じて、僕もソフィア様の助けに精一杯なりたいと思うんだ。
だから同時並行して、ダンジョンの改造をしようと思う。
これが僕がアンの体で目標にしていることの2つだ。
何故僕の中でこれほどの考えがまとまっているか……。
それは僕の意識だけが覚醒して結構時間が経っているからだ。
体が全く動かないし魔力の操作も不可能。
夢を見て居るような感じだ……。
だからこの時間にアンとの別れを整理したり今後の事を色々考えたりしていた。
体感、この状態が丸2日くらい続いている気がする。
疑似生命体への寄生は、僕の魂を受け入れる為に体側の準備が必要だったのかもしれない……。
そして、今回の寄生は今までのどの体への寄生の感覚とも異なった。
普段は寄生の際、寄生先に体を侵入させるという過程が必要になる。
ただ、不思議なことにアンの体に寄生しようと思った時、魂が勝手に吸い込まれて行ったんだ。
アンに導かれ、包まれてる感じがした。
体を侵入させる必要すらなく、アンが僕の魂を受け入れてくれたんだと思う。
受け入れてくれたというより、どちらかというと完全に向こうから体を渡された感覚だ。
その後、ありがとう、また会いたいという気持ちと共にアンの意識は僕と交代するように消えて行った……。
違った部分はそれだけではない。
カニの時は意識がほぼ途切れなかった。
スライムの時は一瞬途切れた気がした。
でも少しの時間で僕は目を覚ましたらしい。
今回は明確に意識が暗転したんだ。
眠りについたような感覚だ。
そして、その後考える能力だけが戻ったという感じだ。
一体どれくらいの時間がかかったのだろうか。
きっと僕の意識が目覚めるまでにも時間を要したはずだ。
みんな心配しているだろうか……
ただ、この可能性は考えていた。
一応僕の寄生に時間がかかった時の対応は伝えてはある。
進化や寄生は明確にどれくらいの時間がかかるとは想像ができないからね。
1人を100階層の家に残し皆は好きに行動してもらっていいと言っている。
……それからまた1日程時間が経っただろうか。
体と魂が整合していく感じがしてきた。
そろそろ体の感覚が……
目が開けそうだ……
ん……
パチッ
まぶしい……どこだここ……
灯りが見えてきた。
100階層の家の中?
室内に運んでくれたのかな?
それにしても目が霞む……。
視界の構成って結構魔物によって違うんだよ。
カニの時に至っては複眼だったしなぁ。
「…………食……です………てください……グス」
耳が聞こえてきた……。
エステルの声……?
「…………パパ」
『パパぁ……お話してよぉ~!えーん』
なんでクラムとエステルは泣いてるんだ?
クラマもすごい暗い声してる気がする……
「クロムは生きておる。それだけでも良かったのじゃ……。きっとまた元のように話してくれるのじゃ……」
え!?
生きてるよっ!?
元のようにってどゆこと!?
とりあえず、みんな居るのね。
待っててくれたのかな?
でも、なんだ?
このどんよりしたお通夜みたいな雰囲気……
僕、寄生には時間かかるかもって言ってたはずだけど……
ピョンピョンピョンピョン。
ぺちょ。
んあ?なんだこの感覚……
冷たくて柔らかいものが僕に触れてる?
まだこの体の感覚がよくわからないな……
でもそろそろ魔力がうごきそう。
念話……できるか?
その前に視覚を……ピントを魔力で……
ん、体に慣れないな。
ちょっと視界を得るためにスキルを意識して使おう。
統合前のスキルの名前なんだっけ……
えっと、”視空間認知”……
お、徐々にピントが……
『……ん。……え?きみ、だれ?』
なんだ、この緑色のスライム……
このフワフワした尖ってるのが僕の、元アンの鼻かな?
僕の鼻の上に緑色のスライムが乗っかってるんだけど……。
おばあちゃんが先に連れてきてきてくれたのかな?
でも、おばあちゃんの作ったスライム水色なんだけど……
「ダメですよクロムさん。アンくんは眠ってるんです……」
ヒョイッ。
あ、変なスライムがエステルに抱きかかえられた。
ん?
僕が知らず知らずなんかしたの?
それにアンは僕とお別れを言って……
って、え!?
今クロムさんって言ってスライム抱きかかえた!?
僕こっちだけど!?
『みんな、聞こえる……?僕、こっちなんだけど……』
ガタンッ!!
『パパあ~!!』
「くろむさあああああああん!!」
なんだなんだッ!?
・
・
・
エステルとクラムが泣き止むまでに30分程の時間がかかった。
この間に僕は体の感覚が徐々にはっきりしてきた。
ただ、今までと体の構成が全く違うので無理に動かすのはやめよう。
ゆっくりゆっくり。
元アンの体だから丁寧に扱おう。
スライムの時のように動かしちゃダメだ。
僕の能力でどこか怪我してしまったりしたら目も当てられない。
しばらくは寝たまま過ごすことにしようかな。
『えっと……何から話せばいいのかな。とりあえず、あの後、僕がどういう感じになったのか教えてくれない?』
「エステルとクラムは落ち着くのに時間がかかりそうじゃの。我から話すのじゃ」
『助かるよ、おばあちゃん』
[寄生当日:回想]
『ずっとアンは僕の家族だッ!”寄生”っ!』
バタッ……
「パパ!アン!」
「クロムさんっ!アンくんッ!」
僕が寄生を意識した瞬間アンの体は倒れ、僕のスライムの体も動かなくなったようだ。
それから何時間その場で待っても応答が無く意識も戻らなかった、と……
「クロムさんもアンくんも全然目を覚ましません……どうなったのでしょうか……」
「……うん。でもどっちからも魔力を感じる。ちゃんと生きてる」
「大丈夫じゃ。スライムの時も数時間は動かなかったのじゃ。時間がかかるのじゃろうて」
『ワカメのときもじかんかかったよ~?おうちでまってよ~?』
「そうなのですか……。聞いては居ましたが不安です。とりあえず2人の体をお家に運んであげましょ?」
「……ぼくがアンの体を運ぶ。ママはパパお願い」
ただ、前に僕の寄生を目の前で見たクラムとおばあちゃんは冷静だった。
エステルとクラマを慰め、皆で僕の体を家まで運んできた、と。
なるほど、そこまでは理解した。
ってかその時点でクラムは冷静だったんだよな?
僕の寄生の雰囲気知ってるよな?
なんでそんなに泣いてるんだ?
[現在]
「で、それから1週間程目が覚めなくてのぉ……」
『マジ!?そんなに時間経ってるの!?』
「うむ……。で、ここからが問題なのじゃ……。皆お主が戻ってくるのを片時も離れず待っておったのじゃが……」
『う。うん……。問題……?』
[寄生から1週間後]
……パチッ。
ぷるるん。
「……クロムさん?皆さ~んっ!クロムさんが起きましたッ!」
「おお、そうか。長かったのぉ……。でもようやく寄生が終わったんじゃの?」
『パパ~ッ!』ピューンッ
「……目が覚めてよかった」
…………
「……のぉ?なぜスライムの方が動いておるのじゃ?動くならフェンリルの方のはずじゃが……」
ピョン、ピョン。
『ねぇ、パパ~?おきたの~?』
「クロム、さん……?お返事、してください?」
ピョン、ピョン。
「……その子、パパより魔力が小さい」
「まさか、失敗……」
『パパ~!ふええぇぇぇ~ん』
[現在]
…………。
「姿はクロムなんじゃ。言葉も認識しているようで言うことも聞く……。ただ、そのスライムと会話までは出来んかった。クロムなような、違うような……。それがなんともハッキリせんでのぉ……」
『でもパパとおなじまりょくなんだよ~?パパよりちっちゃいけど~』
「……うん。それにずっとアンの体は動かなかった」
「ひっく……ひっく……」
クラムが落ち着いたようだね。
それにしても、うーん。
あの緑色のスライムって僕の体だったんだ。
この世界にきてから鏡見る習慣なんかないからほとんど自分の体見てないんだよな。
急に判別できなかったよ……。
それにまさか起きたら目の前に僕じゃない僕が乗ってるなんて想像してないし……。
「で、更にそこから4週間程その状態が変わらんかったんじゃ……。考えれば考える程、寄生が失敗したという色が濃厚になってのぉ……。正直皆絶望しておったぞ……」
『はっ!?4週間っ!?ってことは合計1か月程、僕は眠ってたの!?』
「……うん。僕とばぁばが交代でご飯を取りに帰ってた。ねぇねとママはずっと泣いてたから……」
全く僕の状況が把握できなかったから片時も目を離せなかったらしい。
食事も食べようとせず、ろくに睡眠もとらずずっと僕の様子を見て居た、と。
それを心配したおばあちゃんが皆をなだめ、食事や睡眠をとらせた。
そのうちクラマもそれに協力して交代で必要な物を取りに帰っていた、か……。
そういえばみんなやつれてしまってる気がする……。
申し訳ない事をしたな。
『みんなずっとそばに居てくれたんだね、ありがとう』
「うむ。それはもちろんなのじゃ。ただ、その間もずっとスライムに話しかけていたのじゃが……。スライムの方は見ての通りじゃ」
ピョンピョン。
……スライムは周りをチラチラみながらのんびり跳ねている。
たまに置いてある食事を食べたり、止まったり。
ほんとに気ままに動いてるだけって感じだ……。
『とりあえず話をまとめると……
ずっと僕もアンも目を覚まさなかった。
1週間後突然、先にスライムの体が動き出した。
でも寄生先のはずのアンの体は動かない。
動き出したスライムは体もそのまま。
僕と感じる魔力の雰囲気も同じ。
でもかなり魔力が小さくて話せなくなってしまった、と。
更にアンの方の体も生きている。
だから寄生に失敗してしまって僕が意思を喪失して、更に弱体化したと思った……
そんな感じ?』
「そうですうう!ふえぇぇん」バフッ
おお、すげぇ。
エステルに横っ腹に飛びつかれても微動だにしないじゃん……。
この体でっかいなぁ。
それに、よく周りを見渡すと、抱きついてきたエステルやみんなの姿が凄く小さく感じる……。
家や家具もとても小さく感じるなぁ。
うつ伏せでも目線が前よりかなり高いもん。
50cmから5mボディーだもんなぁ。
いや、そうじゃなくて。
確かに。
このシチュエーションだと、絶対そう思っちゃうよな……。
まさかこんな状況になってたとは……。
想像しうることは皆に伝えておいて心配ないようにしてたはずなのになぁ……。
さすがに想定外だらけだぞ……。
『みんな、心配かけたね。ごめん。アンとは、きっとまた会おうねってキチンとお別れをしたよ。この体は僕が受け継いだんだ。だからちゃんと寄生は成功してる。安心して?』
「……よかった」
『よかったぁ!!パパ~』バフォッ
クラムが毛に埋まっちゃったじゃん……
「ふぅ……。問題なさそうならなによりじゃ。一息つけるのぉ」
『うん、みんなありがとう。僕はもう大丈夫だから、リラックスして?』
みんな僕の体から全然離れない。
ものすごく心配をかけちゃったな。
一旦落ち着くまで好きにしてもらおう。
「それはよかったのじゃが……。のぉクロム?」
『うん。だよね……』チラッ
とりあえず、僕の体の把握は後回しだな。
先にやることが出来たみたいだ……。
『初めまして?ところで、スライムの君は、どちらさま?』
ピョン、ピョン……
ぷるるん。
チラッ。
「……?」
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