異聞対ソ世界大戦

みにみ

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予期せぬ独ソ戦

日米英同盟

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ナチス・ドイツの指導部が崩壊した1940年6月。
ヨーロッパ大陸は、突然の「力の真空」状態に陥った。
ドイツ軍の主力がフランス戦線で英仏軍と激戦を繰り広げている最中に
東から襲来したソ連軍は、組織的な抵抗を受けることなく、旧ドイツ領土を迅速に掌握した。

ソ連の最高指導者ヨシフ・スターリンは
この「奇襲の成功」を、世界革命を実現する歴史的な好機と捉えた。
彼は、ドイツの工業力と兵站網を自国のものとし
さらに西へと進むことを命じた。彼の論理は冷徹だった。

「資本主義と帝国主義の残骸は、鉄の槌で叩き潰さねばならない。
 ドイツを『解放』した今、次はフランス、そしてブリテンだ。
 ヨーロッパのプロレタリアートを救え!」

ドイツ軍の残党、フランス軍、そしてイギリス海外派遣軍(BEF)は
ドイツ領内で挟撃される形となり、甚大な損害を被った。
特に、イギリス軍のダンケルク撤退は、ソ連軍の機甲部隊が
沿岸部を迅速に封鎖したため、史実のようには成功しなかった。
英仏軍の将兵数十万が捕虜となり、連合国の地上戦力はヨーロッパ大陸からほぼ一掃された。


ソ連軍がフランス領内に入ると、その進撃はもはや誰にも止められなかった。

ドイツ軍による占領よりも遥かに速く
ソ連軍のT-34の群れがパリに到達した。フランス政府はトゥール
次いでボルドーへと逃れようとしたが、ソ連軍の追撃は苛烈を極め
最終的に指導者の一部はアフリカ植民地への脱出を余儀なくされた。

ナチスの支配も厳しかったが、ソ連による支配はイデオロギーに基づく
徹底的なものであった。旧ドイツ領、ポーランド、そしてフランスを含む全占領地で
ソ連の秘密警察(NKVD)による
地主、聖職者、資本家、そして反共産主義者の大規模な粛清が始まった。
「人民の敵」と見なされた人々は即座に処刑されるか、東方の強制収容所へと送られた。

1940年10月までに、ソ連は北大西洋岸から東欧全土にわたる巨大な勢力圏を確立した。
各国は「人民民主主義」を掲げる傀儡政権に置き換えられ
ソ連の軍事・経済・イデオロギー的支配下に置かれた。
この新しい勢力圏は、外部から「ソビエト・ヨーロッパ」と恐れをもって呼ばれた。

この結果、ヨーロッパ大陸でソ連の支配を免れたのは、以下の地域に限定された。

イギリス本土: 海峡を挟んだ「最後の砦」

イベリア半島: スペイン、ポルトガル。

イタリア南部・バルカン半島の一部。

ソ連は、占領したフランスやドイツの巨大な造船所、製鉄所
そして航空機工場を掌握し、その生産能力を自国の軍備増強のために利用し始めた。
ソ連の軍事力は、一夜にして大陸全体の力を吸収し、世界的規模の脅威へと変貌した。


世界は、ソビエト・ヨーロッパの誕生により、二つの明確な陣営へと引き裂かれた。

イギリス:孤立無援の要塞

ウィンストン・チャーチル首相は
フランスの敗北とソ連の出現という二重の危機に直面していた。

「我々は、かつてナチスと呼んだ悪夢よりも、さらに巨大で
 さらに冷徹な悪夢に直面している。それは共産主義の全体主義だ。
 我々は決して屈しない。だが、この島国一国で
 全ヨーロッパ大陸の力を動員したソ連と戦うことは不可能だ。」

イギリスは、ソ連による本土侵攻*「シーライオン作戦(対ソ版)」が
時間の問題であることを知っていた。頼れるのは、伝統の英国海軍(Royal Navy)と
アメリカからの物資支援(レンドリース)だけだったが
この時点ではアメリカの参戦はまだ遠かった。

日本:最大の仮想敵国の出現

極東の日本もまた、深刻な危機に直面していた。

三国同盟の瓦解: 同盟国であったドイツの突然の崩壊により
日独伊三国同盟は無意味となった。

従来の日本の最大の仮想敵国はソ連であり
陸軍は満州国境での対ソ戦に備えていた。しかし、そのソ連が
ヨーロッパ大陸全体を掌握し、世界最強の陸軍国として君臨した現実は
日本の指導層にとって想像を絶する事態だった。

「南進論」の消滅: オランダ領東インド(インドネシア)などの資源獲得を目指す
「南進論」は、ソ連がアジアに目を向けた途端に影を潜めた。
満州国境の安全保障こそが、日本の最優先課題となった。

日本陸軍参謀本部では、ソ連がシベリア鉄道を経由して
極東の兵力を増強し、満州への侵攻をいつ仕掛けてくるかという危機感に常に晒されていた。


ソ連という共通の、しかもあまりにも巨大な敵の出現は
長らく対立してきた日本、アメリカ、イギリスという三極の関係を劇的に変化させた。


フランクリン・D・ルーズベルト大統領は、孤立主義の世論に抗いつつも
ソ連の急速な拡張は世界の民主主義と自由の終焉を意味すると確信していた。

戦略的必要性: アメリカ本土から遠く離れたユーラシア大陸において
ソ連のアジアへの南下を防ぐためには、現地で対峙できる強力な「盾」が必要だった。

日本の価値: 日本は満州国境という最前線をソ連と共有しており
その陸軍力は、ソ連のアジアでの拡大を遅らせる上で不可欠な存在だった。

取引の成立: 従来の対日強硬策(石油・鉄鋼禁輸)は
ソ連を利する行為でしかない。ルーズベルトは、日本への
禁輸措置の解除と最新兵器の供与を交換条件に、日本を対ソ同盟に引き込むことを決意した。


日本の指導層、特に東條英機(陸軍)と山本五十六(海軍)は
このアメリカからの提案を「国運を賭けた最後のチャンス」*と捉えた。

陸軍の論理: 対ソ戦は、従来の精神論や軽装備では勝てない。
米国の圧倒的な技術と物量(M4シャーマン、B-25など)の供与を受け入れ
一刻も早く軍を近代化しなければ、満州は数ヶ月で失われる。

海軍の論理: 日米が開戦すれば、太平洋で泥沼の消耗戦に陥る。
ソ連がヨーロッパの海軍力を吸収し、世界の海洋に乗り出してくる前に
米英と手を組み、世界の海を守る側につくべきだ。


1940年10月。極秘裏に、日米英三国の代表者が
カナダの僻地で会談を持った。
会談で締結されたおおまかな内容は以下の通り

対ソ共同防衛: ソ連の侵略に対して、相互に軍事援助を行う。

日本の役割:日本は、満州国境と朝鮮半島を防衛し
ソ連のアジアへの拡大を阻止する最前線の役割を担う。
このため、アメリカは日本への資源供給を無制限とし
最新の陸上兵器と航空機(B-25、M4シャーマンなど)を供与する。

米英の役割:米英は、生産力と海洋戦力をもって全世界の兵站を担い
最終的にイギリスを拠点としたヨーロッパ反攻作戦を計画する。

太平洋の安定: 日米両国は太平洋での相互不可侵を約束し
海軍力を協調して運用することで、ソ連の海洋進出に備える。

この秘密裏に締結された協定は、「太平洋・大西洋防衛同盟(PADA)」
または単に「大同盟」と呼ばれ、世界の新しい戦いの枠組みを決定づけた。

1940年10月末、日米英の大同盟は静かに発足した。

それは、第二次世界大戦の主要な参加国が、歴史の必然性を無視して
敵味方を入れ替えた瞬間だった。従来の敵同士が手を結び
人類史上最も巨大な共産主義国家という「単一の脅威」に立ち向かう
新しい世界大戦の幕が切って落とされたのだ。

極東の日本は、かつての仮想敵国からの援助を受け入れ
満州国境という極寒の戦場で、欧州全土を飲み込んだソ連の鉄の槌に
その運命を賭けて対峙することになるのである。
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