異聞対ソ世界大戦

みにみ

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予期せぬ独ソ戦

日本国内の発達

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1940年11月、極秘裡に締結された日米英の「大同盟」に基づき
アメリカからの最初のレンドリース物資が、横浜、神戸
そして釜山を経由して続々と日本国内、そして満州へと流入し始めた。
埠頭には、それまで日本軍が主力としていた戦車とは比較にならない
重装甲で大口径砲を搭載したM4シャーマン中戦車の姿があった。

しかし、この異質な兵器の導入は、軍の全容認を得たわけではなかった。
陸軍内部、特に皇道派の流れを汲む一部の将校や
伝統的な日本精神を重んじる士官たちからは、激しい「傀儡ではないか」との批判が噴出した。

「大東亜の盟主たる日本が、今さら白人国家の残飯に頼るなど
 国威を損なう行為である!米英の援助『毒入りの飴』であり
 満州防衛の後に必ずその代償を求められる!」

彼らの主張は、国民精神と軍の自立性を盾にした、ある種の正論であった。
この反対意見を抑え込んだのは、他でもない「ノモンハンの生き証人」たちであった。


1939年のノモンハン事件でソ連軍と交戦し
その火力と物量の差を痛感していた辻政信ら関東軍の経験者は、この批判を一蹴した。

「諸君、我々が対峙しようとしているのは
 欧州全土の工業力を手に入れたソビエト連邦だ。
 ノモンハンで我々が八九式や九七式で苦戦したBT-7(軽戦車)は
 今や彼らにとって旧式の範疇だ!」

彼らは、ソ連が実戦配備を進めているT-34(傾斜装甲と76mm砲)や
KV-1(重装甲と大火力)といった新型戦車の性能諸元を示し、その破壊力の大きさを強調した。

「T-34の装甲は、我々が持つ47ミリ対戦車砲では、ほとんど貫徹不可能だ。
 自前の技術開発を待つ時間は、スターリンは与えてくれない。
 満州を落とされれば、日本は孤立し
 世界における居場所どころか、国家の存続すら危うくなる!」

現実的な危機意識が、観念論を凌駕した。陸軍指導部は
「満州防衛という国体の維持こそが最優先」との大義を掲げ
東條英機陸相の強力な指導力の下で、レンドリース兵器の導入は既定路線として強行された。


レンドリース兵器の流入は、日本陸軍の構造を根本から変えることになった。


技術的衝撃:陸軍の機甲部隊は、米国製のM4シャーマンの溶接構造
重装甲、そして強力な75mm砲に衝撃を受けた。
これは、日本の戦車工学が周回遅れであることを痛感させるものだった。

緊急再編:既存の戦車師団から優秀な兵員を選抜し
急ピッチでM4シャーマンの運用訓練が開始された。日本の指導部は、
「兵器の近代化」だけでなく、米軍式の「機甲戦術」そのものの
習得が不可欠であると判断。マニュアルの翻訳と実地訓練に全力を注いだ。


対地支援の要:日本の自国製航空機は、優れた格闘性能を持つ反面
対弾性能に劣るため、ソ連の対空砲火が激しい対地攻撃には不向きとされていた。

B-25の価値:米国供与のB-25ミッチェルやA-20ハボックは
その頑丈さと搭載量から、極東におけるソ連戦車や補給線を叩くための
「対地攻撃の主軸」として配備された。
陸軍航空隊のパイロットは、これらの機体の運用を優先的に習得し始めた。


外部からの援助を受け入れつつも、日本は将来的な軍の自立を見据え
独自の機甲戦力の保持に向けた秘密裏の動きを始めた。
狙いは、ソ連の猛攻で崩壊したドイツが開発していた最先端の技術である。


日本は中立国スウェーデンに対し、高初速75mm砲(ボフォース製高角砲)の
技術提供を打診し、これに成功した。

目的:この技術は、M4シャーマンの75mm砲弾と同等
あるいはそれ以上の貫徹力を持つ国産砲の開発を可能にし
将来的に独自の戦車に搭載することを目的としていた。
この砲は、ソ連のT-34に対する日本の答えとなるはずだった。


ナチス・ドイツの突然の崩壊は、優秀な技術者たちを路頭に迷わせた。
日本は、大同盟の一員として、イギリスとアメリカの協力を取り付け
ソ連の支配下に入る前に脱出した元ドイツ軍のトップレベルの
兵器設計者や冶金学者を極秘裏に招集した。

新型戦車の技術移転: これらの技術者が持ち込んだ技術情報は
当時のソ連のT-34やKV-1を凌駕するものであった。

仮称V号戦車(パンター原型): 強力な長砲身75mm砲と傾斜装甲を持つ
この中戦車の設計思想は、日本の次世代戦車の基盤となる。

仮称VI号II型戦車(キングタイガー原型): 105mm級の長砲身砲と
分厚い装甲を持つこの重戦車の概念は、日本の技術では
困難であった超重装甲と大火力のノウハウを日本にもたらした。

日本陸軍は、これらの技術を基に、独自の重戦車開発計画を立ち上げた。
これは、米国の供与兵器が主力の座を占める間の「将来の国産兵器」として位置づけられた。
彼らの目標は、ソ連と対等に渡り合える「日独融合の国産機甲戦力」を確立することだった。


1941年春。満州国境は、雪解けとともに緊張の度合いを増していた。

ソ連軍は、ヨーロッパでの勢力拡大を一時的に緩め
極東への兵力と物資の輸送をシベリア鉄道経由で強化し始めていた。
満州国境には、T-34の先行生産部隊が確認され
日本軍の指揮官たちは、開戦が間近であることを悟った。

日本は、米英からのレンドリースで武装した「急造」機甲師団を最前線に配置。
彼らの任務は、ノモンハンで味わった屈辱を繰り返さず
ソ連の鉄の波を、この満州の地で食い止めることであった。

彼らが持つM4シャーマンの車体には、日の丸と星条旗が並んで描かれ
「大同盟」の象徴となっていた。
極東における「対ソ世界大戦」の幕は、まさに開かれようとしていた。
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