装甲航空母艦信濃      南東の海へといざ参らん

みにみ

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トラック泊地

只今の速力32kt

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正午を過ぎたトラック泊地は、第三次・第四次空襲の傷跡を残しながらも
信濃と残存艦艇が水路を抜けて一時的に離脱を果たしていた
信濃の艦橋に立つ阿部俊雄大佐は、炎と煙に包まれた泊地を背に
攻撃隊の帰還を待っていた
彗星20機、一式陸攻16機、零戦二二型20機が米軍空母機動部隊に攻撃を仕掛けた結果が
戦局の行方を左右する。午後1時頃、遠くの空に機影が現れ、無線から藤田健太郎少佐の声が響いた。

「信濃、攻撃隊帰還 着艦許可求む」

「着艦を許可する 着艦せよ」

着艦した藤田に阿部が即座に聞いた

「状況はどうだ?敵にどれだけ損傷を与えた?」

甲板に降り立つ彗星と零戦は傷だらけで、陸攻の数は明らかに減っていた
藤田が艦橋に上がり、疲れ切った顔で報告した。

「エセックスに魚雷3本命中、戦艦インディアナに陸攻1機の体当たりで艦橋破壊
 敵空母は航行不能に近い状態、戦艦も大破です
 ですが こちらも陸攻9機、彗星6機、零戦8機を失いました。」

阿部の表情は複雑だった。春雨、香取の犠牲に加え、航空隊の大きな損失は重くのしかかったが
敵空母と戦艦に深刻な打撃を与えた事実は、戦略上の大きな成果だった。彼は藤田の肩を叩き、言った。

「よくやった。敵に一矢報いたぞ」

そして整備長にすぐに伝える

「機体の修理と燃料補給 予備機の試運転を急げ」

「はっ」

「通信員!いるか」

「はい!」

「トラック基地航空隊へ 母艦搭乗員経験のあるものは直ちに離陸
 我が信濃に着艦されたし これより我が艦はサイパンまで一時離脱する
 貴重な搭乗員は離脱させるのが先決と考えん オクレ」

「はっ」

阿部は頷き、次の行動を検討した。

「このままトラックに留まるのは危険だ。一度北方に移動し、態勢を立て直す。」


午後2時、信濃は第四水雷戦隊、応急編入の野分
そして損傷を負った舞風とともに北方へ向けて進み始めた
香取は座礁し、戦闘能力を失っていたため、トラック泊地に残された
信濃の甲板では、帰還した零戦14機と彗星14機が補給を受け
トラックから飛来した基地航空隊の零戦五二型9機も燃料と弾薬を補充していた
海は穏やかで、風向きも北進に有利だった。阿部は艦橋で海図を広げ、山田に言った。

「敵の空襲が続いている以上、トラックは標的だ
 パラオに向かって再編成する。」

山田が頷き、無線で各艦に指示を出した。

「全艦、速力25ノットで西進。信濃を中心に輪形陣を維持」

艦隊は一糸乱れぬ動きで進み始めたが、その平穏は長く続かなかった。

午後3時頃 基地から通信が入る

「トラック発 トラック南方40km 敵戦艦を有す部隊見ゆ
 速力30節で西進中 警戒されたし」

急いで零戦五二型を発艦させると
8分後 敵艦隊見ゆとの電報が入る

巨大な艦影が確認された 信濃はいまだ知る由もないが
米軍の50.9任務群
戦艦アイオワ、ニュージャージー 巡洋艦2隻、駆逐艦4隻が
信濃ら残存艦艇を追撃してきたのだ
航空部隊の仕留め損ないは砲撃部隊ということか

「全艦、最大速力で離脱しろ!流石の信濃も戦艦の砲戦には耐えられん!」

信濃の機関室では、佐藤健次少佐が艦本式タービンを
初めて過負荷状態に切り替えた。

「全罐最大圧力!信濃の命運がかかってる!」

機関員たちが汗と油にまみれながらバルブを操作し
信濃のスクリューが回転数を増やして巨大な艦体が白波を立て始める
波と風向きが味方し、信濃は設計上の限界30ノットを超える32ノットの速力を奇跡的に発揮した
護衛艦も全速で続き、艦隊は一気に北へ逃げ始めた

「只今の我が艦の速力32kt 32kt 繰り返す 我が艦は32ノットを発揮中」

艦内放送が流れて乗組員の士気が上がる


しかし、米軍戦艦の40センチ砲の射程は長くそして艦自体の速力も高く
午後3時15分、遠くから砲撃が始まった
アイオワの主砲が火を噴き、巨大な水柱が信濃の後方で上がった。阿部が叫んだ。

「回避運動を続けろ!直撃を食らうな!」

長良の北村昌幸大佐が無線で報告した。

「敵の砲弾、命中弾なし 全弾近弾 だが、距離が縮まってる!」

その時、損傷で速力が落ちていた舞風が、単艦で反転する動きを見せた。前部砲塔を失い、煙突に不発弾を受けた舞風は、速力15ノットしか出せなかった。舞風が発光信号を送る

「我舞風 単艦反転 時間ヲ稼ガントス 艦隊ハソノママ離脱サレタシ」

阿部が反論した。

「舞風戻れ!無駄死にだ!」

だが舞風の佐々木艦長は艦橋から手を振って反転していく
阿部の双眼鏡ではこう言ったように見えた

「春雨の分まで、敵を足止めします。信濃を頼む!」


舞風は単艦で敵艦隊に向かい、艦尾の残った12.7cm砲を撃ち続けた
アイオワとニュージャージーの40センチ砲が舞風に集中するが
巨大な戦艦砲はなかなか小柄な舞風に当たらない

キュッキュッキュッと砲弾が
海面近くを飛んで風を切る音が聞こえる

「中々当たらんもんじゃのう なぁ砲雷長」

「こちら水雷科 雷撃射程に入りました」

「よし ばら撒け そして次弾装填急げ」

一射目の魚雷を放ち終わった時
初の命中弾が艦首を吹き飛ばした。続いて二発目が機関室を直撃し
爆発で艦体が二つに裂けた。黒煙と炎が舞風を包み、甲板の水兵が海に投げ出される
三発目、四発目が艦中央を貫き
舞風は轟音とともに海面下に沈んだ。佐々木の最後の声が響いた。

「帝国万歳…」

その犠牲が、貴重な時間を稼いだ。


舞風が殿として敵を引きつける間
信濃とトラック基地から航空隊が再び動き出した
信濃の零戦6機と彗星4機、基地航空隊の零戦10機、天山6機が急遽発進し
敵艦隊への妨害攻撃を仕掛けた

「かかれ!朝敵滅殺!」

零戦が低空からアイオワとニュージャージーに機銃掃射を浴びせ
彗星が六十番爆弾を投下して敵の対空砲を牽制した
基地航空隊の零戦も駆逐艦に攻撃を仕掛け、敵艦隊の陣形を乱した
この妨害で、米軍戦艦の砲撃精度が落ち
信濃と護衛艦への命中弾は避けられた
だが、航空隊も対空砲火に晒され、基地航空隊の零戦3機と信濃の彗星2機が墜落した。



午後4時、信濃と護衛艦は最大速力を維持し
敵艦隊との距離を広げていった。舞風の犠牲と航空隊の妨害が功を奏し
米軍の50.9任務群は追撃を諦めた。アイオワの艦橋では、司令官が苛立ちを隠せずに呟いた。

「逃げられたか…あの空母、速すぎる。」

信濃の艦橋で、阿部は遠くの空を見上げ、舞風の最期を思い出した。

「佐々木、よくやった。春雨、香取、そして舞風…お前たちの分まで戦う。」

山田が報告した。

「敵艦隊、追撃を停止。離脱に成功しました。」

信濃の速力は32ノットを維持し
第四水雷戦隊と野分も同速度で続いた。艦隊は北方へ進み、トラック泊地の炎を背に新たな戦場を目指した。

甲板では、藤田が疲れ切った搭乗員たちに声をかけていた。

「まだ終わっちゃいない 俺たちの戦場で死神が首に鎌かけながら待ってる」

信濃の巨大な船体は、波を切り裂きながら進み続けた
舞風の犠牲がもたらした時間は 信濃に次の戦いの準備を整える機会をもたらした
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