装甲航空母艦信濃 南東の海へといざ参らん

トラック泊地

再展開

1944年2月17日
トラック泊地での激しい空襲と米軍50.9任務群との遠距離砲戦を
辛うじて切り抜けた信濃と第四水雷戦隊長良、五月雨、時雨、白露、野分は
舞風の犠牲によって得た時間を活かし、全速力で西方へ離脱した
信濃の艦橋に立つ阿部俊雄大佐は
機関室が奇跡的に発揮した32ノットの速力に感謝しつつ
トラック泊地の炎と煙を背に艦隊を率いた
2月18日未明、艦隊はパラオに到着した。パラオの環礁は穏やかな海に囲まれ
戦闘の傷跡を癒す一時的な避難所となった
信濃の巨大な船体が港に滑り込むと
甲板の水兵たちが疲れ切った顔でパラオの緑豊かな島々を見上げた。

阿部は艦橋で副長の山田義雄中佐に言った。

「トラックは半壊だ　ここで態勢を立て直しトラックに再展開しようと考える」

山田が頷き、報告した。

「艦載機は零戦14機、彗星14機が残っています。
　護衛艦も損傷は軽微です。補給と整備を急げば
　一回程度は再出撃可能です　ただし、全滅覚悟ですが」

信濃の飛行甲板では、藤田健太郎少佐が搭乗員たちに補給と点検を急がせていた
零戦の翼には弾痕が残り、彗星の機体も傷だらけだったが
整備員たちの手で急速に戦闘準備が進められた
第四水雷戦隊の長良では、北村昌幸大佐が各艦の状況を確認し、野分の編入を正式化して陣形を整えた。


2月20日、トラック空襲から3日後
パラオは連合艦隊の集結地として活気づいた
信濃の到着に続き内地から大日本帝国海軍の主力が続々と集まった

連合艦隊第一戦隊所属　大和型戦艦一番艦大和　二番艦武蔵
高雄型重巡洋艦四番艦摩耶が駆逐艦島風、早霜、雪風、山雲に
護衛されてパラオに入港
また第一航空戦隊の翔鶴型航空母艦一番艦翔鶴　二番艦瑞鶴
新型装甲空母大鳳、第三航空戦隊の軽空母瑞鳳、千歳、千代田、
利根型航巡筑摩、軽巡矢矧、第61駆逐隊初月、若月
第10駆逐隊秋雲、風雲、朝雲も到着し
パラオの泊地は帝国海軍の精鋭で埋め尽くされた
信濃の巨大なシルエットが大和、武蔵と並び、壮観な光景を作り出した。

連合艦隊司令部は、トラック泊地の復旧と南洋戦線維持のため
大規模な作戦を立案した。パラオに集結した艦隊は
陸軍の輸送船団――輸送船14隻に復旧資材、陸戦隊、補給物資を満載――を護衛し
トラック泊地に再展開する任務を帯びた
阿部は艦橋で司令部からの命令を受け、山田に言った。

「トラックを放棄すれば、南洋の防衛線が崩れる
　この艦隊で輸送船団を守り抜く。」

山田が頷き、海図を広げた。

「敵の空母機動部隊が近海に潜んでいます
　護衛は厳重にしなければなりません。」


パラオでの準備は急ピッチで進められた
信濃の甲板では内地から運ばれてきた搭乗員と新たな機体が配属され
零戦と彗星の整備が完了　搭乗員たちが藤田の指示のもとで最終点検を行った
大和と武蔵の46センチ主砲が空を睨み
翔鶴と瑞鶴の艦載機も被弾のない基地航空隊の機体と交換された
大鳳の装甲甲板は信濃に匹敵する防御力を誇り
輸送船団の船長たちも、艦隊の規模に安心感を抱きつつ、敵襲の危険に身構えた。

2月21日、艦隊の全体会議が艦隊旗艦大和の艦内で開かれた
連合艦隊司令官が各艦長に訓示し、阿部も信濃を代表して出席した。司令官が声を張り上げた。

「諸君、トラック空襲で我々は痛手を負った
　だが、帝国の命運はこの艦隊にかかっている
　輸送船団をトラックに届けるのだ。敵の空母を叩き、帝国の旗を守れ！」

会議後、阿部は翔鶴の艦長と情報交換を行い
敵空母「エセックス」の損傷を確認した。

「エセックスはまだ動ける。次の戦いで仕留めねばならん。」

翔鶴の艦長が頷き、応えた。

「信濃と大鳳の防御力があれば、敵艦隊を圧倒できる。」


2月22日未明、艦隊はパラオを出港した
大和、武蔵が輸送船団の輪形陣の前方に位置し
信濃は艦隊前方4kmで護衛の駆逐艦二隻を伴ってレーダーピケット艦
翔鶴、瑞鶴、大鳳、輸送艦が中心でエアカバーを展開
第三航空戦隊の軽空母が側面を固め　駆逐艦と巡洋艦が外周を警戒した
信濃の21号対空電探が常時監視を行い
瑞鶴艦攻隊が索敵に出動した。艦隊は20ノットの速力を維持し
トラック泊地を目指した。阿部は艦橋で海図を見つめ、山田に言った。

「敵の偵察機が来るはずだ。電探と航空隊の目を離すな。」

山田が無線で各艦に指示を出し、艦隊の陣形を強化した。

航海初日は平穏だったが、2月23日、瑞鳳の艦載機が敵偵察機を捕捉し
零戦が迎撃に向かった。敵機は高高度で逃げ切り
艦隊の位置が露見した可能性が高まった。阿部は藤田に命じた。

「索敵を倍にしろ。敵空母が動く前に位置を掴め。」

その夜、艦隊は夜間航行を続け、対潜警戒を強化した
長良の北村昌幸大佐が信濃に無線で報告した。

「異常なし。護衛艦は陣形を維持しています。」

阿部が応えた。

「頼むぞ。トラックまで一歩も引かん。」

2月24日、艦隊はトラック泊地に接近した
空襲で破壊された施設の残骸が海に漂い、香取の座礁した船体が浅瀬に横たわっていた
信濃の甲板から見えるトラックの島々は焼け焦げた痕跡を残していたが
陸戦隊の到着を待つ兵士たちが岸壁に集まっていた
輸送船団は慎重に泊地に入り、復旧資材と補給物資を降ろし始めた
大和と武蔵は泊地の外周に錨を下ろし、翔鶴と瑞鶴が甲板上に乗せていた
新型の彗星一二型甲や零戦五二型甲、天山一二型が基地に陸上げされた

阿部は艦橋から作業を見守り、山田に言った。

「これでトラックは持ち直す。だが、敵は再び来るぞ。」

山田が頷き、応えた。

「はい。信濃は次の戦いに備えます。」

信濃の飛行甲板では、藤田が搭乗員たちに訓示を行った。

「トラックを守り抜いたのは俺たちだ
　次は敵空母を海底に沈める！」

搭乗員たちが一斉に声を上げ、士気が高まった
艦隊はトラック泊地を拠点に再編成を開始し
南洋戦線での反攻準備を進めた
信濃、大和、武蔵を中核とする艦隊は、帝国海軍の希望として、戦争の嵐に立ち向かう準備を整えた