装甲航空母艦信濃      南東の海へといざ参らん

みにみ

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チューク沖海戦

連合艦隊出撃ス

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1944年3月4日、トラック泊地は帝国海軍の精鋭で埋め尽くされていた
2月のトラック空襲から半月、連合艦隊はパラオでの再編を経て
各地から主力艦を集結させ、トラックを南洋の要衝として再構築していた
信濃、大和、武蔵を筆頭に、空母翔鶴、瑞鶴、大鳳
軽空母瑞鳳、千代田、千歳、そして多数の巡洋艦と駆逐艦が泊地に集まった
艦隊の目的は、ソロモン諸島、特にラバウル方面での優勢を確保し
米軍の太平洋進攻を阻止することだった
信濃の艦橋に立つ阿部俊雄大佐は、泊地の壮観な艦艇群を見下ろし副長の山田義雄中佐に言った

「これだけの艦が揃えば、敵も容易には動けん。だが、油断はできんぞ。」

山田が頷き、応えた。

「連合艦隊司令部は
 敵の次の攻撃を警戒しています。トラックが標的になる可能性が高い。」

信濃の飛行甲板では藤田健太郎少佐が
搭乗員たちに訓示を行い零戦と彗星の整備を急がせていた。

一方、米軍はハワイで大規模な艦隊を編成し
トラック沖での決戦を企図していた
空母エセックス、ヨークタウン、ホーネットを含む第58任務部隊は
戦艦アイオワ、ニュージャージー、重巡洋艦、駆逐艦を伴い
トラック泊地の壊滅を目指していた
司令官マーク・ミッチャー中将は、作戦会議で参謀たちに語った。

「トラックは日本海軍の中枢だ
 あの大型空母――通信傍受によれば信濃を沈め
 泊地を潰せば、太平洋の主導権は我々のものになる。」

米艦隊はハワイの工廠で対空火力の強化を進め
総力戦に備えた。両軍は互いの動きを牽制しながら、決戦の時を待っていた。

日本側では、連合艦隊司令部が戦艦武蔵に座乗し作戦を練っていた
古賀峯一連合艦隊司令長官は高性能化する敵航空機への対処法として
艦隊を三つの部隊に分け、柔軟な運用を計画した
機動部隊の前方に突出し敵部隊の攻撃を吸収
敵水上艦隊との遭遇時には砲撃戦を行う前衛部隊は
大和、武蔵の第一戦隊 金剛、榛名の第三戦隊 重巡愛宕、摩耶、鳥海、摩耶の第四戦隊
熊野、鈴谷、利根、筑摩の第七戦隊 軽空母瑞鳳、千代田、千歳の三航戦
軽巡能代と第二水雷戦隊島風、長波、朝霜、岸波、沖波、藤波、浜波、玉波
信濃(独立航空戦隊)

本隊甲部隊は敵艦隊への攻撃を行う主部隊で
空母翔鶴、瑞鶴、大鳳の一航戦 重巡妙高、羽黒の第五戦隊
軽巡矢矧と第十戦隊(霜月、朝雲、磯風、浦風、初月、若月、秋月)で編成

本隊乙部隊は、軽空母隼鷹、飛鷹、龍鳳の二航戦
戦艦長門、重巡最上
駆逐艦満潮、野分、山雲、時雨、五月雨、白露、秋霜、早霜、浜風で構成された

なお、第四水雷戦隊は戦隊としては参加せず
時雨、五月雨、白露、野分が個別に本隊乙部隊に編入され
訓練中に敵潜水艦の雷撃を受け本土に回航された軽巡長良は
今回の作戦に参加しなかった
この大艦隊を持ってしても米海軍の圧倒的な兵力の前では拮抗がギリギリだった



トラック泊地の各艦は、出撃に備えて整備と補給を急いだ
信濃の飛行甲板では補給された零戦28機
格納庫では彗星18機、天山20機が点検を終え
いつでも発進可能な状態にあった。阿部は艦橋で作戦を確認し、藤田に命じた。

「敵の空母が鍵だ。索敵を怠らず、先制攻撃の機会を掴め。」

藤田が頷き、搭乗員たちに訓示を行った。

「トラックの仇を討つ。敵空母を沈めるぞ!」

大和と武蔵の46センチ主砲は整備を終え砲口を空に向けている
翔鶴、瑞鶴、大鳳の艦載機は零戦、彗星、天山を揃え甲板状には直掩の零戦4機が置かれている
連合艦隊司令部は敵艦隊の規模を想定し
アウトレンジからの航空戦で主導権を握ることを優先した
武蔵の作戦室で、司令官が各艦長に語った。

「敵は空母を中心に動く 航空戦で叩き、ソロモンの防衛線を固めるのだ。」

阿部は信濃の役割を再確認し、前衛部隊の盾としての役割を決意した。



3月9日トラック泊地の夜明けは薄い雲に覆われていた
午前6時、黎明哨戒に出ていたトラック基地航空隊の天山艦上攻撃機が
敵艦隊を発見した。隊長機のパイロットが無線で打電した。

「送 トラック基地天山80度線担当機より報告
 敵艦隊見ユ。方位80度、距離約300キロ 空母4、戦艦3 巡洋艦、駆逐艦多数」

しかし、直後に天山は敵戦闘機の攻撃を受け
通信が途絶えた。未帰還の報が信濃の通信室に届き、緊張が走った。阿部が山田に命じた。

「敵が動いた。司令部に急報しろ。」

武蔵に座乗する連合艦隊司令部は
6時48分、第1種警戒体制を発令
トラック泊地全体に空襲警戒が敷かれ各艦に出撃準備が命じられた
信濃の甲板では、藤田が搭乗員たちに叫んだ。

「零戦、彗星、準備急げ!敵が来るぞ!」

トラック基地航空隊の一式陸上攻撃機部隊が緊急発進し、広範囲の偵察を開始した。

7時40分 敵艦隊を発見した天山艦攻と同じく東方80度線を担当していた一式陸攻が
敵戦闘機の攻撃を受けたことを示す「セ連送」(我敵戦闘機ノ攻撃ヲ受ク)を打電し
そのまま未帰還となった。連合艦隊司令部は敵艦隊の接近を確信し
7時50分、「あ号作戦改」を発令
トラック在留の全艦艇と全航空機に対し、即時出撃を命じた。司令官が武蔵の艦橋で叫んだ。

「全艦、出撃せよ!帝国の命運はこの戦いにかかっている!」

トラック泊地は、航空機のエンジン音とボイラーからの排煙で一気に活気づいた
信濃の機関室では、佐藤健次少佐がタービンを始動させ 機関出力を上げる



8時30分、トラック泊地から艦隊が出撃を開始した
前衛部隊の大和と武蔵は、46センチ主砲を構え、堂々とした姿で泊地を離れた
高速戦艦 金剛、榛名の第三戦隊が続き 重巡愛宕、摩耶、鳥海、摩耶の第四戦隊
熊野、鈴谷、利根、筑摩の第七戦隊が左右を固めた
軽空母瑞鳳、千代田、千歳の第三航空戦隊は艦載機を準備しつつ艦隊の中心へ
軽巡能代と第二水雷戦隊(島風、長波、朝霜、岸波、沖波、藤波、浜波、玉波)が
外周を警戒し、敵潜水艦や航空機の襲撃に備えた。

信濃は前衛部隊の中心から少し前
三航戦の前を進んだ。阿部は艦橋で海図を確認し、藤田に命じた。

「天山を索敵に出せ。敵空母の位置を早急に掴むんだ。」

信濃の飛行甲板から天山4機、三航戦から8機が発進し
広範囲の索敵を開始。長10センチ高角砲と25ミリ機銃が対空戦闘に備えた。

本隊甲部隊の翔鶴、瑞鶴、大鳳は、空母機動戦の主力として前衛部隊の後方に位置
第一航空戦隊の艦載機は、零戦、彗星、天山を揃え敵空母への先制攻撃を企図した
重巡妙高、羽黒の第五戦隊
軽巡矢矧と第十戦隊(霜月、朝雲、磯風、浦風、初月、若月、秋月)が護衛を固めた

本隊乙部隊の軽空母隼鷹、飛鷹、龍鳳は、戦艦長門、重巡最上
駆逐艦満潮、野分、山雲、時雨、五月雨、白露
秋霜、早霜、浜風とともに、予備戦力として甲部隊の側方を進んだ



艦隊がトラック泊地を離れると
海は穏やかながらも不穏な空気に包まれた 信濃の艦橋で、阿部は水平線を見つめる

「敵は総力戦を挑んでくる。ソロモンを守るため、トラック沖で叩く。」

山田が無線で各艦に連絡し、陣形を維持した
大和の艦橋では、司令官が全艦に訓示を放送した。

「諸君、帝国海軍の誇りを胸に戦え
 トラック沖で敵を殲滅し、祖国の未来を守る!」

艦隊の水兵たちが敬礼し、士気が高まった
信濃の甲板では、藤田が搭乗員たちに最後の言葉をかけた。

「俺たちの翼で敵を沈める。トラックの仇を討つぞ!」

艦隊は編隊を組み、トラック沖の海域へ進んだ
3月9日の朝、トラック沖海戦の火蓋が切られようとしていた。
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