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砕かれた真珠
偽りの訓練
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昭和十七年十二月四日。
冷たい冬の風が吹き荒れる中、横須賀港は異様な静けさに包まれていた。
富永恭二陸軍航空本部長の狂気じみた計画、真珠湾攻撃を実行するため、
秘密裏に編成された特務艦隊は、人目を忍ぶように補給を済ませていた。
港には、戦艦「長門」「陸奥」の巨大な艦影が静かに停泊し、
その傍らには「翔鶴」「瑞鶴」といった主力空母、そして軽空母や駆逐艦が並んでいた。
彼らは、日本の命運を賭けた、極秘の作戦のため、今まさに旅立とうとしていた。
陸海軍の好戦派指揮官たちが密かに集まる作戦会議室では、
富永が最後の指示を下していた。
「この作戦の成否は、奇襲にかかっている。通信は厳に慎み、
敵に一切の情報を与えるな。我々の目的は、
米国の戦意を完全に叩き潰すことにある。
諸君らの奮闘に、帝国の命運がかかっている!」
富永の声は、高揚感と、どこか勝利への確信に満ちていた。
彼の言葉に、集まった指揮官たちの顔には、決意と高揚が入り混じった表情が浮かんでいた。
艦隊は、夜陰に紛れて横須賀を出港した。
公式には、この出撃は「慣熟訓練」と称され、
連合艦隊司令部にもそのように伝えられていた。
訓練海域は、通常の演習で用いられる伊豆諸島方面とされていた。
「演習艦隊、予定通り出港しました!」
横須賀鎮守府の司令官は、何事もないかのように連合艦隊司令部に報告した。
その声には、一切の異常を感じさせるものはなかった。
富永らの最高機密作戦は、このようにして、厳重な情報統制の下に実行されようとしていた。
艦隊は、まず伊豆諸島方面へと針路を取った。
日中、艦隊は通常の訓練航行を行うかのように振る舞い、周囲の目を欺いた。
しかし、太陽が水平線に沈み、あたりが漆黒の闇に包まれると、
艦隊の本当の目的地が明らかになった。
「針路、南東へ変更!全艦、無線封止!」
旗艦「翔鶴」の艦橋で、富永が号令を下した。
その声には、緊張と覚悟が入り混じっていた。
指令を受けた各艦は、瞬時に針路を変更し、太平洋の広大な闇の中へと消えていった。
電波の発信は一切禁じられ、艦隊は文字通り「沈黙の艦隊」と化した。
彼らは、一度たりとも立ち止まることなく、ただひたすらにハワイ沖を目指した。
その進路は、まさにアメリカの心臓部を狙うものだった。
艦内では、将兵たちが、
今回の作戦が単なる「慣熟訓練」ではないことを薄々感づいていた。
慣熟訓練なら重油を満載し弾火薬や砲雷を満載することはない
しかし、彼らは誰も口にすることはなかった。
ただ、与えられた任務を黙々とこなし、来るべき決戦に向けて
静かに闘志を燃やしていた。彼らの目には、祖国のため
そして散っていった仲間たちのために、必ずや勝利を掴み取るという決意が宿っていた。
艦隊が出港して数日後、連合艦隊司令部では、異変が起き始めていた。
予定されていた演習艦隊からの定期報告が、途絶え始めたのだ。
「演習艦隊からの無線が、昨夜から途絶しています」
通信参謀の報告に、連合艦隊司令長官の顔には、戸惑いの色が浮かんだ。
通常、慣熟訓練中に無線が途絶えることは、まずありえない。
「何かあったのか?悪天候か?」
司令長官は首を傾げた。しかし、その日の天候は、
伊豆諸島方面において荒れる予報は出ていなかった。
「直ちに捜索隊を発艦させろ!演習海域を中心に、徹底的に捜索を行うのだ!」
司令長官は、即座に索敵機の発進を命じた。
横須賀基地から捜索の一式陸攻九機が発進
しかし、索敵機が伊豆諸島方面の遠州海域をいくら捜索しても、
日本の艦艇は一隻も見つからなかった。広大な海には、ただ波の音だけが響いていた。
「司令長官、遠州海域には、それらしき艦影は一切見当たりません…!」
無線から届く報告に、司令長官の顔は青ざめた。
艦隊が、まるで海に消えたかのように見当たらない。これは、尋常な事態ではなかった。
この異常事態は、当然のように海軍省の高倉義人の耳にも入った。
彼の執務室には、連合艦隊からの緊急報告が届けられていた。
「演習艦隊が、連絡を絶ち、所在不明…?そんな馬鹿な話があるか」
高倉は、報告書を読みながら、深い疑念を抱いた。
彼は、富永恭二の危険な思想と、彼が企んでいるであろう無謀な作戦の可能性を
常に頭の片隅に置いていたからだ。
「まさか…富永陸軍航空本部長の例の計画…?」
高倉の脳裏に、先日行われた御前会議での富永の激しい言葉が蘇った。
「再度作戦を展開し、ソロモンに潜む敵空母を徹底的に攻撃すべきである」
「海軍が守りに入るなら、陸軍が日本の未来を切り開く」
……そして、彼の最後の言葉。「今度こそ、徹底的に叩き潰し、講和へと持ち込むのだ!」
富永が密かに、真珠湾攻撃を計画しているという漠然とした不安が
高倉の心をよぎった。開戦時、彼自身が尽力し、辛うじて回避させたはずの
あの真珠湾攻撃。もし、あの狂気じみた作戦が
今、本当に実行されようとしているとしたら
それは、日本にとって破滅への道以外の何物でもない。
しかし、高倉は、「流石にそれはありえない」と自らに言い聞かせた。
「いや、そんな無謀なことを、あの富永陸軍航空本部長とて
そう簡単にはできないはずだ。天皇陛下や陸海軍大臣に隠れて、
これほど大規模な艦隊を動かすなど、不可能に近い…」
高倉は、そう信じようとした。陸海軍の最高首脳陣が、
大元帥である今上陛下に隠れて、これほど大規模な作戦を独断で決行するなど、
組織の論理から考えても、ありえないことだと。
そして、たとえ富永がその計画を企てたとしても、
それに賛同する海軍の将官がいるはずがない、と。
高倉は、自らの理性と、日本の軍組織の常識を信じようとした。
しかし、彼の心の中には、拭い去れない不安が渦巻いていた。
富永の異常なまでの行動力と、彼が持つ軍部内の隠れた影響力
そして何よりも、彼の「精神論」に傾倒する狂気じみた信念。
それらが、彼の理性を蝕み、最悪のシナリオを想像させた。
彼は、すぐさま連合艦隊司令部に連絡を取り、
艦隊の行方について厳重な調査を求めた。
しかし、司令部からの報告は、依然として「所在不明」のままだった。
その頃、日本の特務艦隊は、太平洋の闇を切り裂き、
ただひたすらに東へと進んでいた。彼らが残した航跡は、
すぐに荒波に消され、その存在を隠し続けた。
艦隊の将兵たちは、故郷から遠く離れた海で、来るべき戦闘に備え、
最終的な準備を進めていた。各艦の通信室では、無線封止が徹底され、
一切の電波が発信されることはなかった。
彼らは、外界から完全に隔絶された中で、ただひたすら目標へと向かっていた。
高倉の懸念は、現実のものとなろうとしていた。富永の狂気が、
日本の運命の歯車を、ついに不可逆な方向へと動かし始めていたのだ。
彼らは、知らず知らずのうちに、アメリカに決定的な恨みの炎を燃え上がらせる、
新たな真珠湾攻撃へと向かっていた。それは、日本の国家存亡を賭けた、
あまりにも危険な賭けだった。そして、この作戦の失敗が、
日本にどれほどの絶望をもたらすことになるのかを、
この時、知る由もなかった。日本の未来は、
今、富永の手に握られ、暗闇の中へと突き進もうとしていた。
冷たい冬の風が吹き荒れる中、横須賀港は異様な静けさに包まれていた。
富永恭二陸軍航空本部長の狂気じみた計画、真珠湾攻撃を実行するため、
秘密裏に編成された特務艦隊は、人目を忍ぶように補給を済ませていた。
港には、戦艦「長門」「陸奥」の巨大な艦影が静かに停泊し、
その傍らには「翔鶴」「瑞鶴」といった主力空母、そして軽空母や駆逐艦が並んでいた。
彼らは、日本の命運を賭けた、極秘の作戦のため、今まさに旅立とうとしていた。
陸海軍の好戦派指揮官たちが密かに集まる作戦会議室では、
富永が最後の指示を下していた。
「この作戦の成否は、奇襲にかかっている。通信は厳に慎み、
敵に一切の情報を与えるな。我々の目的は、
米国の戦意を完全に叩き潰すことにある。
諸君らの奮闘に、帝国の命運がかかっている!」
富永の声は、高揚感と、どこか勝利への確信に満ちていた。
彼の言葉に、集まった指揮官たちの顔には、決意と高揚が入り混じった表情が浮かんでいた。
艦隊は、夜陰に紛れて横須賀を出港した。
公式には、この出撃は「慣熟訓練」と称され、
連合艦隊司令部にもそのように伝えられていた。
訓練海域は、通常の演習で用いられる伊豆諸島方面とされていた。
「演習艦隊、予定通り出港しました!」
横須賀鎮守府の司令官は、何事もないかのように連合艦隊司令部に報告した。
その声には、一切の異常を感じさせるものはなかった。
富永らの最高機密作戦は、このようにして、厳重な情報統制の下に実行されようとしていた。
艦隊は、まず伊豆諸島方面へと針路を取った。
日中、艦隊は通常の訓練航行を行うかのように振る舞い、周囲の目を欺いた。
しかし、太陽が水平線に沈み、あたりが漆黒の闇に包まれると、
艦隊の本当の目的地が明らかになった。
「針路、南東へ変更!全艦、無線封止!」
旗艦「翔鶴」の艦橋で、富永が号令を下した。
その声には、緊張と覚悟が入り混じっていた。
指令を受けた各艦は、瞬時に針路を変更し、太平洋の広大な闇の中へと消えていった。
電波の発信は一切禁じられ、艦隊は文字通り「沈黙の艦隊」と化した。
彼らは、一度たりとも立ち止まることなく、ただひたすらにハワイ沖を目指した。
その進路は、まさにアメリカの心臓部を狙うものだった。
艦内では、将兵たちが、
今回の作戦が単なる「慣熟訓練」ではないことを薄々感づいていた。
慣熟訓練なら重油を満載し弾火薬や砲雷を満載することはない
しかし、彼らは誰も口にすることはなかった。
ただ、与えられた任務を黙々とこなし、来るべき決戦に向けて
静かに闘志を燃やしていた。彼らの目には、祖国のため
そして散っていった仲間たちのために、必ずや勝利を掴み取るという決意が宿っていた。
艦隊が出港して数日後、連合艦隊司令部では、異変が起き始めていた。
予定されていた演習艦隊からの定期報告が、途絶え始めたのだ。
「演習艦隊からの無線が、昨夜から途絶しています」
通信参謀の報告に、連合艦隊司令長官の顔には、戸惑いの色が浮かんだ。
通常、慣熟訓練中に無線が途絶えることは、まずありえない。
「何かあったのか?悪天候か?」
司令長官は首を傾げた。しかし、その日の天候は、
伊豆諸島方面において荒れる予報は出ていなかった。
「直ちに捜索隊を発艦させろ!演習海域を中心に、徹底的に捜索を行うのだ!」
司令長官は、即座に索敵機の発進を命じた。
横須賀基地から捜索の一式陸攻九機が発進
しかし、索敵機が伊豆諸島方面の遠州海域をいくら捜索しても、
日本の艦艇は一隻も見つからなかった。広大な海には、ただ波の音だけが響いていた。
「司令長官、遠州海域には、それらしき艦影は一切見当たりません…!」
無線から届く報告に、司令長官の顔は青ざめた。
艦隊が、まるで海に消えたかのように見当たらない。これは、尋常な事態ではなかった。
この異常事態は、当然のように海軍省の高倉義人の耳にも入った。
彼の執務室には、連合艦隊からの緊急報告が届けられていた。
「演習艦隊が、連絡を絶ち、所在不明…?そんな馬鹿な話があるか」
高倉は、報告書を読みながら、深い疑念を抱いた。
彼は、富永恭二の危険な思想と、彼が企んでいるであろう無謀な作戦の可能性を
常に頭の片隅に置いていたからだ。
「まさか…富永陸軍航空本部長の例の計画…?」
高倉の脳裏に、先日行われた御前会議での富永の激しい言葉が蘇った。
「再度作戦を展開し、ソロモンに潜む敵空母を徹底的に攻撃すべきである」
「海軍が守りに入るなら、陸軍が日本の未来を切り開く」
……そして、彼の最後の言葉。「今度こそ、徹底的に叩き潰し、講和へと持ち込むのだ!」
富永が密かに、真珠湾攻撃を計画しているという漠然とした不安が
高倉の心をよぎった。開戦時、彼自身が尽力し、辛うじて回避させたはずの
あの真珠湾攻撃。もし、あの狂気じみた作戦が
今、本当に実行されようとしているとしたら
それは、日本にとって破滅への道以外の何物でもない。
しかし、高倉は、「流石にそれはありえない」と自らに言い聞かせた。
「いや、そんな無謀なことを、あの富永陸軍航空本部長とて
そう簡単にはできないはずだ。天皇陛下や陸海軍大臣に隠れて、
これほど大規模な艦隊を動かすなど、不可能に近い…」
高倉は、そう信じようとした。陸海軍の最高首脳陣が、
大元帥である今上陛下に隠れて、これほど大規模な作戦を独断で決行するなど、
組織の論理から考えても、ありえないことだと。
そして、たとえ富永がその計画を企てたとしても、
それに賛同する海軍の将官がいるはずがない、と。
高倉は、自らの理性と、日本の軍組織の常識を信じようとした。
しかし、彼の心の中には、拭い去れない不安が渦巻いていた。
富永の異常なまでの行動力と、彼が持つ軍部内の隠れた影響力
そして何よりも、彼の「精神論」に傾倒する狂気じみた信念。
それらが、彼の理性を蝕み、最悪のシナリオを想像させた。
彼は、すぐさま連合艦隊司令部に連絡を取り、
艦隊の行方について厳重な調査を求めた。
しかし、司令部からの報告は、依然として「所在不明」のままだった。
その頃、日本の特務艦隊は、太平洋の闇を切り裂き、
ただひたすらに東へと進んでいた。彼らが残した航跡は、
すぐに荒波に消され、その存在を隠し続けた。
艦隊の将兵たちは、故郷から遠く離れた海で、来るべき戦闘に備え、
最終的な準備を進めていた。各艦の通信室では、無線封止が徹底され、
一切の電波が発信されることはなかった。
彼らは、外界から完全に隔絶された中で、ただひたすら目標へと向かっていた。
高倉の懸念は、現実のものとなろうとしていた。富永の狂気が、
日本の運命の歯車を、ついに不可逆な方向へと動かし始めていたのだ。
彼らは、知らず知らずのうちに、アメリカに決定的な恨みの炎を燃え上がらせる、
新たな真珠湾攻撃へと向かっていた。それは、日本の国家存亡を賭けた、
あまりにも危険な賭けだった。そして、この作戦の失敗が、
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