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米軍への痛撃
乙演習作戦発動
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1944年4月上旬。呉軍港から離れた、山中の古い迎賓館。
日本海軍の正規の会議からは隔離されたその場所で
ジョージ・O・パターソン提督と黒田宗治郎少将は
独立遊撃艦隊の最初の実戦計画を練っていた。
テーブルには、米海軍の補給ルートと哨戒パターンを示す
詳細な海図が広げられていた。ランプの光が、二人の顔に鋭い陰影を落としている。
「提督、米軍の動向は、概ね予測通りです」
黒田少将が口火を切った。
「米軍は、貴方の裏切りを『プロパガンダの敗北』として処理しようとしています。
しかし、その裏では、ハリソン提督の『掃討部隊』が動いている。我々には、時間がない」
パターソンは、米軍の補給ルートを指差した。
ターゲットは、エニウェトク環礁への大規模な物資輸送船団だ。
「この船団を叩く。それが、我々の最初の証明となる」
パターソンは断言した。
「ただし、目的は殲滅ではない。混乱と恐怖を与えること、
そして我々の合理的な力を、米軍上層部に認めさせることだ」
黒田は、ペンを海図上に走らせた。
「我々が最も優位性を発揮できるのは、やはり夜間です。
米軍は夜戦を軽視しており、夜間の護衛艦艇は、目視と旧式のレーダーに頼っている。
この船団の護衛は、重巡二隻、駆逐艦四隻。充分な練度だが、貴方の艦隊の敵ではない」
「正確には、アラバマとサウスダコタの射撃管制システムの敵ではない」
パターソンは修正した。
「この作戦の目標は、三つ。第一に、アラバマとサウスダコタの
レーダー誘導夜間射撃が、いかに一方的な破壊力を持つかを証明すること。
第二に、米軍の補給能力に打撃を与え、太平洋戦線全体の戦略を遅延させること。
第三に、非戦闘員(補給船団の乗員)の命は、不必要に奪わないこと。
我々は大義のために動いている。無差別に殺戮を行う狂人ではない」
黒田少将は、三番目の目標に深い感銘を受けた。
パターソンは、敵に回ってもなお、人道的な合理性を貫こうとしていた。
「作戦名は、『乙演習作戦』としましょう」
黒田少将が提案した。
「ナチスドイツが英本土への通商破壊に使った『ライン演習作戦』に倣い
我々も米軍の通商を破壊し、その戦略を混乱させる」
パターソンは、わずかに眉をひそめた。
「ライン演習作戦…ドイツ側の実質敗北ではなかったか?
戦艦ビスマルクは沈み、通商破壊という戦略的目標は達成されなかった」
黒田は笑みを浮かべた。その笑みには、諦念と知的な皮肉が混じっていた。
「いったん置いておきましょう、提督。我々の軍令部の提督たちは、
『ビスマルクの精神』や『英雄的な出撃』という響きが好きでね。
彼らには、我々が『大義』のために動いているのではなく
『英雄的な行動』を取っているのだと思わせておく方が、独立性を保ちやすいのです」
パターソンは、日本の指導者たちの精神主義に合わせた黒田の政治的な配慮を理解した。
黒田もまた、非合理な体制を生き抜くための、合理的な戦略を持っていたのだ。
「よろしい。乙演習作戦だ。ただし、我々の目標は
ライン演習の失敗を繰り返さないこと。我々は、勝つ。そして、生還する」
作戦会議後、パターソン提督は、主力艦である
戦艦アラバマの艦橋と射撃管制室を訪れた。この艦こそが、作戦の成否を握る心臓部だった。
アラバマの艦長と、元米軍の射撃管制士官たちは、極度の緊張の中にあった。
彼らは、自らが元祖の艦艇で、元同僚を撃たなければならないという、二重の重圧に晒されていた。
射撃管制室。パターソンは、最新鋭のレーダー表示盤の前に立った。
「諸君」
パターソンの声は、静かだが、鋼のように硬質だった。
「貴官たちが、故郷から逃れてまで私に付いてきた理由を思い出せ。
それは、無駄死にを避け、合理的な勝利を追求するためだ」
彼は、一人の若い射撃管制士官に尋ねた。
「士官。貴官が夜戦で最も恐れるものは何か?」
士官は汗を拭い、緊張して答えた。
「…敵艦の予期せぬ接近と、夜闇の中での目視による見失いです、提督」
「違う」パターソンは静かに否定した。
「貴官が最も恐れるべきは、このレーダーシステムへの不信だ。
我々の優位性は、この装置がもたらす完璧な情報にある」
パターソンは、壁に貼られたチャートを指さした。
そこには、米海軍の夜間射撃術のノウハウが示されていた。
「米海軍の夜戦は、いまだに『視覚』と『度胸』に依存している。
彼らは、遠距離でのレーダー捕捉後も
接近して目視による最終確認を試みる。それが彼らの非合理的な弱点だ」
「貴官たちがすべきことは、視覚を完全に切り捨てることだ。
貴官たちは、目ではなく、数値を信仰せよ。レーダーが示す距離
方位、速力を絶対的な真実として受け入れ、射撃管制機にインプットするのだ」
パターソンは、士官の肩に手を置いた。
「我々は、彼らが貴官たちの姿を目視で捉える前に、彼らを海の底へ沈める。
貴官たちは、彼らにとって、『透明な敵』となるのだ。これは、度胸ではない。科学だ」
士官の顔に、徐々に迷いが消え、確信の光が灯った。
彼らは、アラバマの主砲を、理性という名の指令に基づいて発射する
冷徹な執行者となることを理解した。
作戦の成功には、夜戦主力艦を護衛する駆逐艦隊の存在が不可欠だった。
特に、ライアン中佐が艦長を務める
駆逐艦オブライエンは、駆逐隊を指揮し艦隊の耳と目となる役割を担っていた。
オブライエンの艦橋で、ライアンは、彼に忠誠を誓う元米軍の士官たちと向き合っていた。
「オブライエンの諸君。我々が
元同僚の艦隊を攻撃することは、倫理的に最も困難な試練だ」
ライアンは正直に語った。
「だが、提督の『大義』は、無駄に死ぬ運命から彼らを救うことにある。
彼らが、ハルゼーの『全滅覚悟』の命令に従い続ければ
彼らは確実に死ぬ。我々が彼らを撃破し、補給船団を機能不全に追い込むことで
米軍の作戦全体を停止させ、結果的に戦線の消耗を遅らせることができる」
ある若い航海士が、震える声で尋ねた。
「中佐。もし、サフォードや、我々と共に訓練した艦艇と遭遇したら、我々は…」
サフォードは、裏切りを拒否し、東へ離脱した駆逐艦だ。
ライアンは、目を閉じた。
「提督は、サフォードとの戦闘を厳しく禁じている。
彼らは、提督の大義を共有しなかったが、彼らは我々の敵ではない。
もし遭遇すれば、我々は交戦を避け
彼らに通報する機会を与える。我々は、非戦闘的な裏切りを貫く」
ライアンは、艦隊の士官たちに、非情な任務と高潔な大義の間の繊細なバランスを求めていた。
彼らは、敵を撃沈するが、それは戦略的な合理性に基づいており、
個人的な憎悪ではないことを理解しなければならなかった。
「我々は、彼らに恐怖を与える。科学と合理性の恐怖だ。
それが、彼らを動かし、そして最終的に、この非合理な戦争を終わらせるための鍵となる」
1944年4月中旬。月もない、濃い闇に包まれた深夜。
独立遊撃艦隊の主力が、呉軍港から静かに、「乙演習作戦」のために出航した。
龍鶴(ヘラクレス)は、日本の技術者たちによる改修作業を続けるため、温存された。
パターソン提督は、戦艦アラバマを旗艦とし、指揮権を掌握。
隣には、黒田少将が軽巡洋艦 鬼怒に乗って随伴する。
艦隊の構成は、まさに「闇夜の切り札」だった。
主力: 戦艦アラバマ、サウスダコタ
先鋒・索敵: 重巡ボルチモア、オールバニ
護衛: 駆逐艦オブライエン(ライアン中佐)、駆逐艦浦波、敷波、天霧 他計10隻
アラバマの艦橋で、パターソンは、静かに艦隊の針路を確認した。
「全艦、通信静粛。レーダーは低電力運用。
我々の存在を、最後の瞬間まで、彼らに悟らせるな」
夜戦主力艦隊は、波を蹴立てる音さえも抑え込むように
静かに、そして迅速に南へ進んだ。艦隊の乗組員たちは、一人の例外もなく
裏切り者としてではなく
大義を持つ合理的な戦士として、最初の任務に臨む緊張感に満たされていた。
彼らは、米軍が想定するいかなる戦術とも異なる、純粋な科学と合理性に基づいた
無慈悲な夜の狩りを始めるべく、闇の海へと消えていった。
彼らの行動は、太平洋の戦況図に、「ジョージ・O・パターソン」という名前を
裏切り者であると同時に、最も恐るべき戦術家として、再び刻み込むことになるのだ。
日本海軍の正規の会議からは隔離されたその場所で
ジョージ・O・パターソン提督と黒田宗治郎少将は
独立遊撃艦隊の最初の実戦計画を練っていた。
テーブルには、米海軍の補給ルートと哨戒パターンを示す
詳細な海図が広げられていた。ランプの光が、二人の顔に鋭い陰影を落としている。
「提督、米軍の動向は、概ね予測通りです」
黒田少将が口火を切った。
「米軍は、貴方の裏切りを『プロパガンダの敗北』として処理しようとしています。
しかし、その裏では、ハリソン提督の『掃討部隊』が動いている。我々には、時間がない」
パターソンは、米軍の補給ルートを指差した。
ターゲットは、エニウェトク環礁への大規模な物資輸送船団だ。
「この船団を叩く。それが、我々の最初の証明となる」
パターソンは断言した。
「ただし、目的は殲滅ではない。混乱と恐怖を与えること、
そして我々の合理的な力を、米軍上層部に認めさせることだ」
黒田は、ペンを海図上に走らせた。
「我々が最も優位性を発揮できるのは、やはり夜間です。
米軍は夜戦を軽視しており、夜間の護衛艦艇は、目視と旧式のレーダーに頼っている。
この船団の護衛は、重巡二隻、駆逐艦四隻。充分な練度だが、貴方の艦隊の敵ではない」
「正確には、アラバマとサウスダコタの射撃管制システムの敵ではない」
パターソンは修正した。
「この作戦の目標は、三つ。第一に、アラバマとサウスダコタの
レーダー誘導夜間射撃が、いかに一方的な破壊力を持つかを証明すること。
第二に、米軍の補給能力に打撃を与え、太平洋戦線全体の戦略を遅延させること。
第三に、非戦闘員(補給船団の乗員)の命は、不必要に奪わないこと。
我々は大義のために動いている。無差別に殺戮を行う狂人ではない」
黒田少将は、三番目の目標に深い感銘を受けた。
パターソンは、敵に回ってもなお、人道的な合理性を貫こうとしていた。
「作戦名は、『乙演習作戦』としましょう」
黒田少将が提案した。
「ナチスドイツが英本土への通商破壊に使った『ライン演習作戦』に倣い
我々も米軍の通商を破壊し、その戦略を混乱させる」
パターソンは、わずかに眉をひそめた。
「ライン演習作戦…ドイツ側の実質敗北ではなかったか?
戦艦ビスマルクは沈み、通商破壊という戦略的目標は達成されなかった」
黒田は笑みを浮かべた。その笑みには、諦念と知的な皮肉が混じっていた。
「いったん置いておきましょう、提督。我々の軍令部の提督たちは、
『ビスマルクの精神』や『英雄的な出撃』という響きが好きでね。
彼らには、我々が『大義』のために動いているのではなく
『英雄的な行動』を取っているのだと思わせておく方が、独立性を保ちやすいのです」
パターソンは、日本の指導者たちの精神主義に合わせた黒田の政治的な配慮を理解した。
黒田もまた、非合理な体制を生き抜くための、合理的な戦略を持っていたのだ。
「よろしい。乙演習作戦だ。ただし、我々の目標は
ライン演習の失敗を繰り返さないこと。我々は、勝つ。そして、生還する」
作戦会議後、パターソン提督は、主力艦である
戦艦アラバマの艦橋と射撃管制室を訪れた。この艦こそが、作戦の成否を握る心臓部だった。
アラバマの艦長と、元米軍の射撃管制士官たちは、極度の緊張の中にあった。
彼らは、自らが元祖の艦艇で、元同僚を撃たなければならないという、二重の重圧に晒されていた。
射撃管制室。パターソンは、最新鋭のレーダー表示盤の前に立った。
「諸君」
パターソンの声は、静かだが、鋼のように硬質だった。
「貴官たちが、故郷から逃れてまで私に付いてきた理由を思い出せ。
それは、無駄死にを避け、合理的な勝利を追求するためだ」
彼は、一人の若い射撃管制士官に尋ねた。
「士官。貴官が夜戦で最も恐れるものは何か?」
士官は汗を拭い、緊張して答えた。
「…敵艦の予期せぬ接近と、夜闇の中での目視による見失いです、提督」
「違う」パターソンは静かに否定した。
「貴官が最も恐れるべきは、このレーダーシステムへの不信だ。
我々の優位性は、この装置がもたらす完璧な情報にある」
パターソンは、壁に貼られたチャートを指さした。
そこには、米海軍の夜間射撃術のノウハウが示されていた。
「米海軍の夜戦は、いまだに『視覚』と『度胸』に依存している。
彼らは、遠距離でのレーダー捕捉後も
接近して目視による最終確認を試みる。それが彼らの非合理的な弱点だ」
「貴官たちがすべきことは、視覚を完全に切り捨てることだ。
貴官たちは、目ではなく、数値を信仰せよ。レーダーが示す距離
方位、速力を絶対的な真実として受け入れ、射撃管制機にインプットするのだ」
パターソンは、士官の肩に手を置いた。
「我々は、彼らが貴官たちの姿を目視で捉える前に、彼らを海の底へ沈める。
貴官たちは、彼らにとって、『透明な敵』となるのだ。これは、度胸ではない。科学だ」
士官の顔に、徐々に迷いが消え、確信の光が灯った。
彼らは、アラバマの主砲を、理性という名の指令に基づいて発射する
冷徹な執行者となることを理解した。
作戦の成功には、夜戦主力艦を護衛する駆逐艦隊の存在が不可欠だった。
特に、ライアン中佐が艦長を務める
駆逐艦オブライエンは、駆逐隊を指揮し艦隊の耳と目となる役割を担っていた。
オブライエンの艦橋で、ライアンは、彼に忠誠を誓う元米軍の士官たちと向き合っていた。
「オブライエンの諸君。我々が
元同僚の艦隊を攻撃することは、倫理的に最も困難な試練だ」
ライアンは正直に語った。
「だが、提督の『大義』は、無駄に死ぬ運命から彼らを救うことにある。
彼らが、ハルゼーの『全滅覚悟』の命令に従い続ければ
彼らは確実に死ぬ。我々が彼らを撃破し、補給船団を機能不全に追い込むことで
米軍の作戦全体を停止させ、結果的に戦線の消耗を遅らせることができる」
ある若い航海士が、震える声で尋ねた。
「中佐。もし、サフォードや、我々と共に訓練した艦艇と遭遇したら、我々は…」
サフォードは、裏切りを拒否し、東へ離脱した駆逐艦だ。
ライアンは、目を閉じた。
「提督は、サフォードとの戦闘を厳しく禁じている。
彼らは、提督の大義を共有しなかったが、彼らは我々の敵ではない。
もし遭遇すれば、我々は交戦を避け
彼らに通報する機会を与える。我々は、非戦闘的な裏切りを貫く」
ライアンは、艦隊の士官たちに、非情な任務と高潔な大義の間の繊細なバランスを求めていた。
彼らは、敵を撃沈するが、それは戦略的な合理性に基づいており、
個人的な憎悪ではないことを理解しなければならなかった。
「我々は、彼らに恐怖を与える。科学と合理性の恐怖だ。
それが、彼らを動かし、そして最終的に、この非合理な戦争を終わらせるための鍵となる」
1944年4月中旬。月もない、濃い闇に包まれた深夜。
独立遊撃艦隊の主力が、呉軍港から静かに、「乙演習作戦」のために出航した。
龍鶴(ヘラクレス)は、日本の技術者たちによる改修作業を続けるため、温存された。
パターソン提督は、戦艦アラバマを旗艦とし、指揮権を掌握。
隣には、黒田少将が軽巡洋艦 鬼怒に乗って随伴する。
艦隊の構成は、まさに「闇夜の切り札」だった。
主力: 戦艦アラバマ、サウスダコタ
先鋒・索敵: 重巡ボルチモア、オールバニ
護衛: 駆逐艦オブライエン(ライアン中佐)、駆逐艦浦波、敷波、天霧 他計10隻
アラバマの艦橋で、パターソンは、静かに艦隊の針路を確認した。
「全艦、通信静粛。レーダーは低電力運用。
我々の存在を、最後の瞬間まで、彼らに悟らせるな」
夜戦主力艦隊は、波を蹴立てる音さえも抑え込むように
静かに、そして迅速に南へ進んだ。艦隊の乗組員たちは、一人の例外もなく
裏切り者としてではなく
大義を持つ合理的な戦士として、最初の任務に臨む緊張感に満たされていた。
彼らは、米軍が想定するいかなる戦術とも異なる、純粋な科学と合理性に基づいた
無慈悲な夜の狩りを始めるべく、闇の海へと消えていった。
彼らの行動は、太平洋の戦況図に、「ジョージ・O・パターソン」という名前を
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