離反艦隊 奮戦す

みにみ

文字の大きさ
9 / 10
米軍への痛撃

圧倒的な力を見せ

しおりを挟む
午前二時。乙演習作戦の交戦海域は、静寂を取り戻していた。
しかし、海面は重油と残骸に覆われ
いくつもの巨大な火災が、米軍護衛艦艇の壊滅を物語っていた。

戦艦アラバマの艦橋。パターソン提督は、完全に冷静なまま、艦隊全体の状況を確認していた。

「損害なし。被弾なし。弾薬消費、予測通り。乙演習作戦、成功」

その報告の後、パターソンは、ライアン中佐と黒田少将に次の指示を出した。

「ライアン中佐。護衛艦艇の処理は完了した。
 しかし、補給船団の船員たちは非戦闘員だ。
 彼らを不必要に殺戮することは、我々の大義に反する。
 浦波、敷波、天霧に、遭難者に対する『最低限の救助活動』を命令せよ」

黒田少将は、パターソンの厳格な
人道主義に感銘を受けつつも、その戦略的な意図を理解していた。

「承知しました。遭難者を救助し
 『非合理な犠牲を避ける』という我々のメッセージを米軍に伝えるのですね」

「その通りだ、黒田少将。米軍の生存者には
 『お前たちの命は、ハルゼー提督の賭博のチップではない』と、はっきりと伝えろ。
 我々は、無差別に命を奪う狂人ではなく、合理的で高潔な軍人であることを知らしめる。
 それが、我々が内側からシステムを破壊するための最初のプロパガンダとなる」

日本の駆逐艦隊は、複雑な思いを抱えながら、沈没した元敵艦の残骸に接近した。
駆逐艦浦波の乗組員たちは、救助された米兵たちに
パターソン提督のメッセージを、黒田少将の厳命に基づき、流暢な英語で伝えた。

「我々は、米海軍の最新技術を持つ、独立遊撃艦隊だ。
 貴官たちの艦隊は、無意味な突撃を命じる上層部の非合理性のために沈んだ。
 我々は、貴官たちの命が、その無駄な消耗戦の犠牲になることを拒否する。
 我々が戦うのは、人命をチップと見なす腐敗したシステムだ」

救助された米兵たちは、恐怖と困惑、そしてかすかな
理解が入り混じった表情を浮かべた。
彼らは、敵に襲われただけでなく、自分たちの軍の腐敗を指摘され、命を救われたのだ。

パターソンは、この救助活動が完了次第、速やかに現場を離脱するよう命じた。
「夜明けが来る前に、我々の『透明な存在』を再び闇に溶け込ませるのだ」


作戦海域を離脱して数時間後、米軍司令部には
生き残った補給船団の乗組員や、救助された護衛艦艇の生存者からの
断片的な、そして不可解な報告が届き始めていた。

真珠湾司令部。ハルゼー提督は、顔を真っ青にして、作戦室の電話を叩きつけていた。

「何だと!?艦影が見えない!? 闇の中から砲弾が降ってきた!?
 まるで幽霊に襲われたようだというのか!」

生存者の証言は、全て同じ結論に行き着いた。
「敵の姿は視認できなかった。しかし、一発目から正確に命中した砲弾で
 我々の艦隊は瞬時に機能停止に追い込まれた」

ハルゼーは、戦況図に示された
わずか8分間で壊滅した護衛艦隊のマーカーを見つめ、怒りで全身が震えた。

「こんな芸当ができるのは…!」
ハルゼーは、叫ぶように言った。
「パターソンだ!あの裏切り者のアラバマとサウスダコタだ!
 奴は、我々のレーダー誘導射撃ノウハウを
 あのジャップどもに渡しただけでなく、奴自身が指揮を執っているのだ!」

そして、さらに彼を狂乱させたのは、生存者が持ち帰ったメッセージだった。

「貴官たちの命は、ハルゼー提督の賭博のチップではない」

ハルゼーは、その言葉が、彼自身の権威と名誉に対する
パターソンの冷徹な復讐であることを理解した。彼の怒りは頂点に達した。

「あの卑劣な臆病者が!私を、この太平洋艦隊の司令官を『賭博師』と呼んだ!
 奴は、我々の艦隊を破壊するだけでなく、我々の士気と信頼をも破壊しようとしている!」

彼は、直ちに全艦隊に厳命した。
「パターソン提督と、あの裏切り者の艦隊は、最優先の殲滅目標とする!
 彼らは、日本海軍の道具ではない。彼らは、米国への最大の裏切り者だ!
 捕捉次第、一切の警告なく、撃沈せよ!」

ハルゼー提督の憎悪は、ここに個人的な復讐戦へと変貌した。


掃討部隊の旗艦、戦艦ノースカロライナの艦橋。
ジェームズ・ハリソン提督は、冷静に乙演習作戦の詳細な戦況報告を分析していた。
彼は、損傷艦の調査チームが回収した、砲弾の破片、そして砲弾の着弾パターンを精査した。

「破壊は、異常なほど効率的だ。そして、正確だ」ハリソンは、補佐官に言った。
「これは、偶然ではない。一発目から命中弾を出し
 敵艦の戦闘能力を即座に奪うことに特化している。
 これは、まさにジョージ・パターソンの合理的な戦術思想そのものだ」

そして、彼は、補給船団本体への被害が少なかったという事実に、さらに深い確信を得た。

「護衛艦艇の全滅にもかかわらず、船団本体への被害は軽微…。
 ジョージは、非戦闘員の命を奪うことを避けた。
 彼は、本当に『大義』のために動いている。
 単なる復讐や、ジャップどもの道具になったわけではない」

ハリソンは、自らの苦悩が、ますます深まるのを感じた。

「ジョージは、我々に恐怖を植え付けた。科学と合理性が
 我々の非合理な英雄主義を打ち破るという恐怖だ。
 彼は、我々の戦略的な弱点を突いただけでなく、我々の哲学的な矛盾を突いたのだ」

ハリソンは、直ちに戦術を修正する必要があると判断した。

「夜間戦闘は、厳禁だ。我々の艦隊は、夜の闇では、奴らの射撃練習の的になる。
 艦隊に厳命せよ。パターソンの艦隊を捕捉しても
 昼間、かつ航空優勢を確保できる状況以外では、絶対に交戦するな」

彼は、パターソンの戦術を知り尽くしているからこそ、その合理的な力を最も恐れていた。
しかし同時に、パターソンの行動の裏にある高潔な動機を理解しているからこそ
彼の追跡任務は、ますます個人的な裏切り行為のように感じられた。

「ジョージ、お前は本当に、この戦争を終わらせるために自らを地獄に突き落としたのか…」
ハリソンは、親友との対決が避けられない運命であることを悟り、深く拳を握りしめた。


呉軍港に戻った独立遊撃艦隊。
パターソン提督は、アラバマの艦橋で、黒田少将と最後の報告を交わした。

「黒田少将。乙演習作戦は、成功です。米軍は、我々の存在を
 『無敵の恐怖』として認識したはずだ。
 そして、彼らの司令官は
 彼ら自身の非合理的な戦略が、彼らを敗北に導いたことを悟ったはずだ」

黒田は、感嘆の目でパターソンを見た。
「貴方の大義は、最初の戦いで完全に証明されました。
 日本の海軍上層部も、この戦果に狂喜しています。
 彼らは、貴方の艦隊を、『天佑艦隊』と呼び始めています」

しかし、パターソンは、その賛辞に何の興味も示さなかった。

「彼らの歓喜は、一時のものだ。彼らは、我々の成功を
 彼ら自身の精神主義の正当化に利用しようとするだろう。我々の真の戦いは、これからだ」

パターソンは、海図の上の広大な太平洋を見つめた。

「我々は、米軍に恐怖を、日本の指導者たちに科学の力を教え込む。
 我々の行動は、歴史には『裏切り』として記録されるだろう。
 しかし、我々の戦果と、我々が救う数多の命こそが、この行動の唯一の正当性だ」

独立遊撃艦隊は、その夜、太平洋の歴史の裏側に、「合理主義者の同盟」という
新たな影を落とした。彼らが目指すのは、日米双方の非合理な指導者たちを打ち破り
「無駄な消耗を止める」という、壮大で孤独な大義の完遂だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

異聞対ソ世界大戦

みにみ
歴史・時代
ソ連がフランス侵攻中のナチスドイツを背後からの奇襲で滅ぼし、そのままフランスまで蹂躪する。日本は米英と組んで対ソ、対共産戦争へと突入していくことになる

異聞第二次世界大戦     大東亜の華と散れ

みにみ
歴史・時代
1939年に世界大戦が起きなかった世界で 1946年12月、日独伊枢軸国が突如宣戦布告! ジェット機と進化した電子機器が飛び交う大戦が開幕。 真珠湾奇襲、仏独占領。史実の計画兵器が猛威を振るう中、世界は新たな戦争の局面を迎える。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto
歴史・時代
ソ連によるポツダム宣言受託拒否。血の滲む思いで降伏を決断した日本は、なおもソ連と戦争を続ける。    1945年8月11日。大日本帝国はポツダム宣言を受託し、無条件降伏を受け入れることとなる。ここに至り、長きに渡る戦争は日本の敗戦という形で終わる形となった。いや、終わるはずだった。  ソ連は日本国のポツダム宣言受託を拒否するという凶行を選び、満州や朝鮮半島、南樺太、千島列島に対し猛攻を続けている。    なおも戦争は続いている一方で、本土では着々と無条件降伏の準備が始められていた。九州から関東、東北に広がる陸軍部隊は戦争継続を訴える一部を除き武装解除が進められている。しかし海軍についてはなおも対ソ戦のため日本海、東シナ海、黄海にて戦争を継続していた。  すなわち、ソ連陣営を除く連合国はポツダム宣言受託を起因とする日本との停戦に合意し、しかしソ連との戦争に支援などは一切行わないという事だ。    この絶望的な状況下において、彼らは本土の降伏後、戦場で散っていった。   本作品に足を運んでいただき?ありがとうございます。 著者のkotoと申します。 応援や感想、更にはアドバイスなど頂けると幸いです。 特に、私は海軍系はまだ知っているのですが、陸軍はさっぱりです。 多々間違える部分があると思います。 どうぞよろしくお願いいたします。 

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年夏まで執筆

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる …はずだった。 まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか? 敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。 文治系藩主は頼りなし? 暴れん坊藩主がまさかの活躍? 参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。 更新は週5~6予定です。 ※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。

処理中です...